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参話 紅き力


 現在、何故か俺は真夏の真っ昼間っから、非常識な存在と鬼ごっこをしています。


 「はぁ、はぁ、ヤバイ、少し疲れてきた…………あ、そうだ、お守り!」


 今更だが、やっとさっき貰ったお守りの事を思い出した。

 走りながら懐からお守りを取り出して、言われた通りに念じた。

 すると、お守りは一瞬震えると、下から灰になって崩れていった。


 「え!?こ、これで良いんだよな!!?ああ、もう!早く、早く助けてくれぇー!!」


 まだまだ鬼ごっこは続きそうだ。

 はたして、俺は助けが来るまで逃げられるだろうか?

 不安は全く尽きなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ガタッ、と音をたてて、亜志麻さんが椅子から立ち上がった。

 その顔は、さっきまでの呑気な顔とは違い、強ばっている。

 いつも椅子に座って呑気にうたた寝しているのに、珍しい。

 何かあったのだろうか?


 「亜志麻さん、どうしたんですか?」

 「菫、大変や!雛咲山から、さっき雹君に渡したお守りから反応が来たんや!」

 「っ!!」

 「お、おい、菫!?待ちぃ!」


 亜志麻さんの言葉を聞いた瞬間に、私は部屋を飛び出した。

 亜志麻さんの声や、すれちがった同僚から困惑の声が聞こえたけど、全部無視して支部から出る。

 私は民家の屋根に飛び乗り、全力で雛咲山に向かって走り出した。

 走っている最中、雹さんの笑顔が頭に浮かんだ。


 (雹さんは私を、彼からしたら異形の私を躊躇いも無く受け入れて笑いかけてくれた)


 少しの恐怖も、嫌悪も、侮蔑も、邪念も抱くこと無く。

 その心に抱いていたのは、心配と純粋な興味、少しの驚愕だけだった。

 今まで私は、怪異に関係の無い人物とは関わりを持とうとはしてこなかった。

 恐れていたのだ、否定される事を。

 どうせ壊れるなら、そんな関係は持たなくても良い。

 そう考えて、今までを過ごしていた。

 だけど、成り行きでだけど、私の正体を知っても、雹さんは受け入れてくれた。

 今まで関わろうとしてこなかった分、とっても嬉しかった。

 雹さんに会えたから、これからは普通の人達とも関わっていこうかと思えた。

 昨日知り合ったばかりだけど、雹さんは私を変えてくれた大事な人なんだ。

 あんな良い人を、雹さんを失う訳にはいかない!


 (待ってて、雹さん!)


 山に着いた、後は雹さんと鬼蜘蛛を探すだけ。

 また走り出そうとすると、山の裏の方から、大きな音が聴こえてきた。

 私は直ぐに走りだし、山の裏側に回り込む。

 少し進むと、雹さんと鬼蜘蛛の姿が見えた。

 私はまだ生きていた事にほっとして、雹さんに声をかけた。


 「雹さん!」


 その声に気づいたのか、雹さんがこちらを向いた瞬間。

 雹さんから勢いよく血が噴き出し、雹さんがこちらに吹き飛んできた。

 私は咄嗟に雹さんを受け止めて、雹さんを見下ろす。

 雹さんは既に息をしていなかった。

 手足は絶対に曲がってはいけない方向に曲がっており、あの女の子の様な綺麗な顔はボロボロで、眼の光りは消えていた。

 胴体に至っては、真ん中に大きな穴が空き、ほぼ原型を留めていない。


 「あ、ああ、ああぁぁぁぁ!!!」


 私が遅かったから、私が安心して声をかけたから。

 間に合わなかった事に、凄まじい後悔の念に襲われる。

 眼からは涙が滴り、手を強く握ってしまう。


 だけど、いつまでもそうしては居られない。

 私は雹さんの身体を近くの木に寄りかからせ、こちらに近づいてきた鬼蜘蛛の前に勢いよく飛び出る。


 「ぎしゃぁぁぁっっ!?」

 「許さない、絶対に。許さない許さない許さない許さない許さない許さない、絶対に許さない!!!仇を、私がお前を殺してやる!」


 私は鬼蜘蛛を睨みつけ、今の想いの全てをぶつける。

 私一人で鬼蜘蛛を倒せるとは思わない。

 だけど、今はそんな事は関係無い!


 「うぁぁぁぁぁっっっ!!!」


 私は大きな声で叫びながら、雹さんの仇にとびかかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ………………………ここは?

 気がついたら、山の中からこの真っ暗な場所に来ていた。

 そうだ、さっきまで、俺は山の中に居たんだ!

 そこで鬼蜘蛛に追いかけられて、助けに来てくれた菫さんが見えて……………死んだ。

 最後に視界に映ったのは、腹からつき抜けている短い毛の生えた鬼蜘蛛の脚だった。


 「はは、そうか。俺、死んじゃったのか…………じゃあ、ここは死後の世界とかなのか?」


 一回死んだと認識したからだろうか。

 混乱していた意識が落ち着いて、妙に冷静になれた。

 周りは全て真っ暗で、自分の姿すら見えない。

 そもそも、自分は死んだのにどうして意識があるんだろうか、これからどうしようかと考えていると、突然目の前に血の様な紅い色の、バスケットボール位の大きさの火の玉が現れた。

 突然の事に、俺は固まってしまう。

 そうしていると、頭の中に、直接声が聞こえてきた。

 地の底に響くような、低く重圧感のある重々しい声だ。

 状況的に、火の玉の声だと分かる。


 『汝、力を望むか?』

 「………え?」


 今、こいつは何と言った?


 「力を望むか、って。もう死んじまったのに、力があっても意味無いだろう」

 『否、汝は死して居らず。汝は生と死の境目に立っている』


 生と死の境目?要するに、まだ死にかけているだけで、生きてるって事か?


 『ここは選択の場。汝、力を望むか?是ならば、封印を解き放ち、人の生を捨て、新たな生を受けよ。否ならば、このまま死して、無へと朽ち果てるが良い』


 選択の場…………最後のチャンスか。

 後者は、絶対に無い。

 このまま死ぬなんて、受け入れられる訳が無い。

 前者は、臨むところだ。

 最後、菫さんが来てくれていた。

 恐らく、こうしている間も、菫さんは鬼蜘蛛と戦っているだろう。

 この前もやられていたんだ。

 今回は勝てるなんて、そんな無責任な事、言い切れる訳が無い。

 どのくらいの力を得られるのかは分からないが、少しは助けになる筈だ。

 だから、俺が選ぶのは………………。


 『今一度問おう。汝、力を望むか?』

 「答えは、是だ!」

 『………よかろう。ならば手にするが良い。汝の、封じられし力を!』


 その言葉と同時に、火の玉が一層強く燃え盛った。

 強い、焼く様な熱気が、襲ってきた。


 何をどうすれば良いのか、何故かなんとなく分かった。

 同時に、こいつが何なのかも、何故か大体理解出来た。

 俺は、熱気をもろともせず、手を火の玉の中心に突っ込み、握り締める。

 そうする事で、火の玉は俺を包み込む程に大きくなり、熱気も更に強まる。

 だが、俺はそれを全く意に解していなかった。


 『驚きすらしないのだな』


 また、頭の中に声が響く。


 「当然だろ、これは………お前は俺自身なんだから」

 『………ははっ、それもそうだな!』


 突如、声が俺と全く同じものに変わる。

 徐々に、身体の感覚が消えていくのが分かる。

 現実へと、戻るのだろう。


 『さあ、行こうぜ!菫さんが待ってる!』

 「ああ!」


 視界が血の様な紅い光に包まれ、身体の感覚が完全に消えた。

 次の瞬間、俺は現実に舞い戻った。



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