零話 事件
「おはよー!」
「おはよー!」
夏の日射しも強くなってきた、今日この頃。
教室の中からは、元気な挨拶が聞こえる。
この日もいつも通り、平和な日常が始まった…………筈だった。
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終業式が無事終わり、さっさと帰りの準備を整えて教室を出る。
「おーい、待てよ、雹!一緒に帰ろうぜー」
「ん?ああ、金か。分かった」
下駄箱で靴を履き替えていると、後ろから声をかけられた。
俺はそいつと並んで学校を出る。
こいつの名前は、澄野 金。
モデルにスカウトされた事もある程の、爽やか系のイケメンだ。
俺とは小学校の頃からの付き合いで、なんだかんだで今まで仲良くやっている。
「雹?聞いてるか?」
「聞いてる、聞いてる」
因みに俺の名前は、鬼斬 雹と言って、背が低く、痩せ型なのが悩みの男子中学生だ。
顔は俗に言う、女顔というやつらしい。
髪は長めだし肌も白いから、一見女にしか見えないだろう。
性格も暗くはないし、友達もそれなりに居る。
「それでさぁ、と、もう着いたか。俺こっちだから、じゃあな!」
「ああ、じゃあな」
金と別れて家に向かう。
いつも通りの平穏な、これといって何もない日常。
だが、俺はそれを心地よく感じていた。
俺の両親は、俺が幼い頃に失踪している。
一人になった俺は、親戚の叔父さんに引き取られた。
叔父さんは何か事情を知っている様だったが、話そうとはしないので、俺も聞かないようにしていた。
高校生になってからは叔父さんがとっておいてくれた家に一人暮らしをしていた。
叔父さんの家は近くなので、今もたまに会いに行っている。
家まであと十数分ぐらいまで来た時、ドカーン!!と、何かが壊れるような大きな音が聴こえた。
「なんだ、今の音?って、どわぁぁぁぁぁ!?」
音が聴こえた方を向いた途端塀が壊れて、ものすごい勢いで飛んできた何かに巻き込まれて吹き飛ばされた。
「………ぷはぁっ!はーっ、はーっ、はーっ、な、何だ、今の。何かが飛んできた様な………」
痛みを我慢しながら周りを見ると、周囲は瓦礫の山になっていて、隣に人が倒れていた。
倒れていたのは、俺と変わらないぐらいの歳だと思われる女の子だった。
その白い肌や黄金色の髪はさぞ綺麗なのだろうが、今は着ている巫女服?も、汚れや傷だらけになっている。
「この娘が飛んできたのか?それに………」
飛んできたと思われる少女は、確かに綺麗な顔立ちをしていたが、明らかに普通じゃ無い部分があった。
人間の耳が無く、獣の耳と尻尾があったのだ。
恐らくは狐だろうか?
時折ピクピクと動いていて、作り物だとは思えない。
(この娘は、一体……………)
その時、俺の耳に甲高い鳴き声の様なものが聴こえてきた。
俺は咄嗟に女の子を背負って、瓦礫に隠れる。
そいつは直ぐに現れた。
(なっ………!?)
声を出しそうになってしまうが、ギリギリ堪える。
そいつは蜘蛛だった。
ただし、人間よりも図体の大きい、鬼の様ないかつい顔をしていたが。
そいつは、少し辺りを見回すと、もと来た方向へと帰っていった。
「はぁ~、なんだったんだ、今の?」
疑問は尽きないが、一先ず治療を優先する事にして、女の子を背負ったまま、家に向かった。