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  作者: 青嶋幻
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4 面会日(1)

       

 A市に着いたのは夜中だった。車に乗って宿舎についたときには疲れ切ってそのまま眠り込んでしまった。朝、目覚まし時計に起こされる。食欲がなかったので、再び栄養ドリンクだけを飲み、疲れた引きずっていつものように車へ乗り込んだ。人気のない道を行き、センターへ到着する。


 私の担当は主に〈蛹〉の管理だった。重量、体温、外観など、あらかじめ定められた項目をチェックする。ほとんどがセンサーで計測した数値を確認すれば済むのだが、外観のチェックだけは肉眼で行うよう定められていた。センター内には八千六百人の患者が収容されており、そのうち千人が私の担当になっている。


 午前中は休みの間計測されたデータをチェックし、午後からは巡回が始まる。

 防護服へ着替えて隔離室前に行き、パスワード入力および、脳波のチェックで本人確認を行い、ようやく扉が開く。


 菌類の出入りを封じるため、まずは除菌室と呼ばれている部屋に入り、UV殺菌を行った後、二番目の扉が開く。

 ずらりと並んだ褐色の〈蛹〉が私を迎えた。専用のラックにより、上下二段、斜めになるよう固定されていた。すべて向かって右側に設置され、左側は窓と監視カメラが設置されている。


 隔離室専用のタブレットPCを手に取り、室内のカビ濃度をチェックする。0.0000PPM。完全除菌された空気を取り入れているので、外のほうがカビの濃度は濃い。

 それでもここへ入るのに防護服の着用を義務づけられているのは、不測の事態に備えるためだ。甲殻を隔てた患者の中には、高濃度のカビ菌を含んだ体液で満たされている。


 仮に事故があって甲殻が破壊され、わずかでも体液が流出したら、室内のカビ濃度は簡単に基準値を突破するだろう。防護服なしで体液を浴びたら、発病は免れない。


 最初の患者は〈篠崎実〉と表示されていた。発病してから二年たち、すでに手足は埋没している。薄くなりかけたその表情からは、なんの感情も読み取れなかった。


 一ラック単位でまず上から外観をチェックした後、モーターを操作してラックを持ち上げ、裏側を見ていく。色、艶、形状等チェック項目を確認し、次のラックへ移る。


 異状なし。タブレットにすべて入力し終わったのは午後四時を回っていた。この後すべてのデータをまとめて総合判断を行う。結論はすでに決まっているが、レポートを始め、いろいろ手順を踏まなければならないので、全部終えるのは六時近いだろう。


 職場環境は快適だった。ほとんど残業もないし、シビアな判断を強いられる場面もない。それでいて給料は一般的な勤務医の水準を上回っている。文句はないと言いたいところだが、不安感は拭えない。

 給与が高いのは危険手当が入っているからだ。


 なにしろ未知の病気で、患者たちがこの先どうなるのか、誰にもわからないのだ。B級ホラーでは〈蛹〉の甲殻を食い破り、化け物が飛び出してくる話が定番となっていた。

 まともな学者は一笑に付すが、百パーセントあり得ないとは言い切れない。


 さすがに私も化け物が出てくるとは思わないが、突然破裂して破片が防護服をうち破るのではないかと想像するときもある。


 落ち着いた日々が続いた後、木曜日が来た。この日は親族の面会日で、職員が一番緊張する日だった。しかも今回は私の担当する患者が対象だ。


 センターに収容されている八千六百人全員の面会を随時受けていたのでは、とても仕事が回らない。

 このため面会日は月に二度で予約制、人数が多い場合は抽選となっている。今回も上限になる百名分の患者の家族が到着する。私は早朝出勤して外観チェックを午前中に終え、午後からの面会者の到着に備えた。


 午後一時、大型バスが五台センターに到着した。百名分といってもその家族や友人は何人もいる。患者一名につき面会者三人までとなっており、最終的に面会者は二百名近くに上った。

 不測の事態を考慮して、警官が警備に来ている。頭のおかしい奴が蛹に危害を加えたら大惨事になるからだ。私は窓からバスの到着を確認し、出迎えをするため、建物の外へ出た。


「じろじろ見てんじゃねえ。俺がなんかしたってのかよ」


 いきなり怒鳴り声が聞こえてきた。バスの前で、禿げた老人が警官に絡んでいた。

 顔から脳天まで真っ赤に染まっている。やっぱりだ。心の中でそっとため息をつく。

 見学者リストにこのじいさんの名前を発見してから、トラブルが起きるのは予想していた。



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