34 罠(2)
私も祐美恵も銃口は下げたままだ。
「なんのつもりだ」
「お前ら、橋山をわざと襲わせたんだろ」
「何を言っているんだ。根拠でもあるのか」
「銃からゆっくり右手を離して、頭の帽子をあたしの前に投げな」
言われたとおり、ゆっくり迷彩柄のボールキャップを掴み、サコタの前に放り投げる。
サコタが目の前に落ちた帽子を踏みつぶす。
パリッという音が響いた。
足をどかす。
頭頂部の金具部分が割れて、電子部品が覗いていた。
「紫外線ライトだろ」サコタが私を見つめる。「クモ除けだ」
「ああ」
わずかに頷く。銃口に視線が行き、喉がからからに渇いていく
。
「お前らだけ妙な帽子を被っていると思ってさ、さっきから変だと思ったんだ。
クモの襲撃で全部わかったよ。ヤツメオオグログモは光を嫌う。クモは紫外線を放つお前たちを警戒して橋山を襲ったんだ。
お前ら、あらかじめこうなるに仕向けたんだろ。だから頭に紫外線ライトを付けて、クモには見えて、あたしや橋山には見えないようにしたんだ。当然このエリアにクモがいるのも知っていた」
祐美恵は大きくため息をついた。「ねえ、この人に説明してちょうだい」
私は頷き、話し始めた。
「あんた、本名は奥田って名字なんだろ」
サコタは目を剥き、顔を醜く歪めた。
「なんで知っているんだ……」
「きっかけは、このプランを橋山に提案したときから始まるんだ。
最初に私がレポートを持ち込んだとき、内容を修正して橋山に渡したんだよ。本当は調査隊員がここで一人死んでいたんだけど、ないことにしたんだ。アカトンビヤンマの糞でやられたのは、全部嘘さ。あいつをクモに殺させ、事故として偽装するつもりだったんだ。
でも、組織は独自に裏を取っていて、隊員の死因がヤツメオオグログモなのを突き止めていたんだ。
本当だったら処分されるところだったけど、私は〈蛹〉の専門家だった。単なる犯罪者の橋山より、よっぽど使える人材だと判断されたんだ。
橋山は組織にとって使い捨て可能な人材でしかなかった。より優秀な人材がいれば、乗り換えるのにやぶさかでなかったのさ。
橋山を飛び越して、トップからから直接連絡があったのさ。橋山の後釜になるか、処分を受け入れるか、どちらかにしろと迫られたんだ。選択肢はなかったよ」
「一つだけ、条件を出したわ」祐美恵がうっすらと笑っていた。「橋山をあたしたちの手で殺させてほしいと」
「組織は喜んでくれたよ。私たちが橋山の仕事を引き継げば、いずれにしろ彼を処分しなければならないし、私たちが殺人に荷担すれば、それだけ組織への依存度も高まるだろうからね」
「しかしお前ら……。しれっとした顔してよ。クモに襲わせるなんて、やることがえぐすぎるぞ」
「仕方なかったんだ。レポートを元に戻せば、橋山に疑問を持たれるかもしれなかったし」
「あいつはそれだけのことをしたの。当然の報いだわ」
力なく言い訳する私に対して、祐美恵は目をぎらつかせ、吐き捨てるように呟く。
「サコタさん、これから私たちが主導していく。私たちに協力しないとここから出られなくなるんだよ。銃をおろしてくれ」
サコタは抉るような強い目で、私と祐美恵を交互に見ていた。
「一つだけ聞く。あたしを陥れるつもりはないんだね」
「もちろんさ。クモの件を話さなかったのは悪かったが、先頭を歩く橋山が襲われるのは間違いなかった。
考えてみればわかるが、サコタさんを陥れる必要はないし、協力して貰わないと、私たちも危険だ」
サコタが私たちを見つめながら、ゆっくりと銃を下ろした。
「人でなしが」
吐き捨てるように呟くサコタに、祐美恵は冷たい笑みを浮かべていた。
「行こう」
私は呟き、歩き出す。




