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  作者: 青嶋幻
32/35

32 ミヤギ

 明るい場所にいるのはミヤギだけだった。サコタと橋山の姿がない。

 あいつらはどこへ行ったんだ。嫌な予感がしたので、走るのをやめ、ミヤギを観察した。


 ミヤギの表情は異様に険しかった。虫を警戒しているというより、何かに怒っている風だ。銃は水平に構えている。こちらの方が暗いので、私たちの姿はまだ見えないらしい。私たちは用心のため、ガードレール沿いに移動した。


「おおい、こっちへこい」


 ガードレールの向こうから橋山の声が聞こえてきた。ささやくような声だ。


「でも……」


 フルタがミナミゴキブリモドキにかじられたのを思い出し、躊躇する。


「でもじゃない。そんなところへ突っ立っていられると、目立ってしょうがないんだ。ミヤギに撃ち殺されるぞ」


「どうして」


「ともかく中へ入れ。一人は奥を見てゴキブリの警戒をしてくれ」


 私たちはガードレールの内側へ入り、祐美恵が森に銃口を向け、ゴキブリの警戒を始めた。


「どういうわけなんだ」


「奴の首筋をよく見てみろ」


 道路とガードレールの間からそっと覗いてみる。ミヤギが暗がりへ入ってきていた。

 銃は水平に保ったままで、上は完全に無視している。

 首筋から背中に掛けて、赤黒い血が流れているのが目に入った。


「後ろから襲われたんだ。動脈まで行かなかったらしいが、それでもかなり出血している」


「フルタのバチが当たったのか」


「それだけなら奴の不運だが、あの野郎、俺たちを道連れにしようとしているんだ」


「おらあっ、どこに隠れているんだ。こんなに血が流れているんだ。早く俺を殺さないと、アリが襲ってくるぞ」


 ミヤギは銃を構えながら、ニタニタ笑みを浮かべている。傷は深いらしく、足下にまで血がしたたり落ちていた。


「おまえ、弾は入っているか?」


「あと一発だ」


「奴を撃て。俺は空なんだ。今弾を込めたら、音で気づかれる」


「そんなのできるわけないだろ。あいつと相対して先に引き金を引ける自信なんかないよ」


「ガードレールの隙間から撃てばいい」


「それで致命傷を与えられればいいけどな。殺せなかったら居場所がばれてやられるぞ」


 ミヤギがこちらを見た。にやけた笑みがいっそう大きくなり、銃口を向けてくる。

 反射的に頭を下げた。


「声がしたな。そこ、何人いるんだ」


 発砲音が響く。頭上のガードレールに弾が当たり、金属のぶつかり合う音が耳を貫いた。


 恐怖で、痺れたように体が震えてくる。


「早く撃てったら」


「そんなことしたら先に俺が撃たれるよ」


「俺に貸せ」


 橋山が私の銃を奪い取るように持った。そのときだ。


「おおい、早く出てこいよお。でないと全員撃ち殺してやるぞ」


 声が間近に迫ってきたかと思うと、おもむろにミヤギの顔が頭上に現われた。にやけた目をしていた。


 銃口が自分に向いている。

 恐怖で体が硬直した。

 逃げることはできない。


 バンッ。


 サイレンサーからこもった音が響く。

 いつの間にか目をつぶっていた。痛みはない。


 恐る恐る目を開けた。目の前に、目を見開いたままのミヤギが、ガードレールに体を投げ出すように覆い被さっていた。手をだらんと伸ばしている。


「遅いぞ。あと少しで殺されるところだった」


 橋山がガードレールを乗り越えていく。足が震えて力が入らなかったが、ここが危険なのを思い出す。私もガードレールをよじ登るようにして越え、アスファルトへ転がるようにして着地した。


「人を殺すなんて契約にはない」


 怒気を含んだ声とは裏腹に、サコタが呆然とした目で私たちを見つめていた。銃を構えているが、その佇まいに力強さがなかった。


「そんな悠長なことなんか言ってられるか。あの時点で殺さなかったらお前もただじゃ済まなかったはずだ」


「確かにそうだ。だから殺した」


 橋山も、ようやくサコタの様子がおかしいのに気づいた。


「お前、人を殺すのは初めてだったか」


「ああ。なにせ自衛隊崩れだからな」


 サコタは思い出したように笑みを浮かべた。ぎこちなく、顔面が痙攣しているようにしか見えなかった。


「今回はこれ以上追求しない。だがな、今後何かあったらすぐに行動しろ。もちろん俺は例外だがな」


 橋山が私と祐美恵を見て、久々に嫌らしく笑った。怒りたいところだが、全身の震えが収まらず、立ち上がることさえままならない。


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