表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 青嶋幻
27/35

27 クチブトオオハチ(2)

 あいつらは一体どれくらいの早さなんだ。空を飛んでいるんだから、人間が走っても追いつかれるに決まっている。


「橋山さん、あれを出してよ」


 フルタが叫ぶ。橋山が肩に掛けたサイドバックから何か取り出し、ピンを抜いた。


「催涙弾だ。目をつぶって息もしないで走り抜けろ」


 そう言うと同時に手に持った物を前方へ投げた。十メートルほど先で発煙し、道一杯に広がる。

言われたとおり、目をつぶり、息もせず、中へ入っていく。がむしゃらになって走る。


 トンボの糞で開いた穴に足を取られたら、最悪骨を折るだろう。そんな恐怖を抱きながらも、走り続けた。


 息を止めるのも、すぐに限界が来た。もういいだろうと思って目を開くが、強烈な刺激が目を襲った。たちまち涙が溢れていく。


「くっそぉっ」


 叫び、息を吸った。気道にも刺激を感じたが、構っていられない。走り続ける。


 刺激が弱まってきたので振り返る。白い煙が道全体を覆っていて、ハチの大群は確認できない。


 走り続けていると、橋山たちが休んでるのが見えた。私も立ち止まり、地べたに尻を付けた。涙で周りがぼやけていたが、痛みはかなり弱くなっていた。気道の痛みも和らぎ始めている。まともにガスを浴びずに済んだのだろう。


 遅れて祐美恵が来て、荒い息をしながら私の隣へ座った。最後にフルタが来た。


「はあ……。死ぬかと思ったよ」


 フルタは道路へ大の字になった。口には笑みが浮かんでいる。


「てめえ……」


 サコタが立ち上がり、ショットガンをフルタに向けた。憎しみに満ちた目で凝視し、全身から怒りが立ち上っている。


「な、なんなんだ。やめてくれよ」


「お前……全員を危険に危険にさらしたんだぞ。わかってるのか」


「だって、クチブトオオハチの巣を肉眼で見られるなんて、もうないだろうし……」


「だから俺たちを殺そうとしたのか、最低だな。サコタ、殺っちまえよ」


 ミヤギは爬虫類のように冷たい目をしていた。


「で、でも、催涙弾を使ったのは成功したでしょ。あれはノーザンテリトリーで起きた方法を参考にしたんだ。

 あれを使えばハチを殺すまでは行かないけど、一時期足止めさせられるんだ。その間に逃げとけば、対象を見失って、ハチの興奮も収まってくるんだ」


「そんなんで自慢なんか聞きたくねえ」


 サコタの銃がカチャリと音を立てた。

 チャンバーに弾が装填されたのだ。


「お願いだ、もう勝手なまねはしないからさあ。やめてくれよお」


「サコタ、やめておけ。仲間割れしている場合じゃないだろ」


 渋い顔をして橋山が止めに入った。


「早くやっちまえよ。なんなら、俺がやろうか」


 ミヤギも銃を構えた。


「二人ともよせったら。フルタ、謝れ」


「はい……。申し訳ありません。もう二度と勝手なまねはしません」


 サコタが大きく息を吐いて、弾を排出した。しかしミヤギはまだ構えたままだ。


「俺はマジだぜ」


「仲間割れは許さない」今度は橋山がミヤギに銃を向けた。「撃ったら俺も撃つぞ」


 ミヤギがフルタと橋山の双方を見た。


「ミヤギさん……頼みますよお」


「早く銃をおろせ」


「俺は一度殺すと言ったら必ず殺す主義なんだがな。まあいい」


 ミヤギが銃を下ろした。フルタがはあっと大きく息を吐き、橋山も銃を下ろした。


 不意にサコタがフルタへ近づき、きれいなフォームでローキックを繰り出す。


「ひぃっ」


 足の甲が顔面に直撃した。フルタが背中から飛んでいく。


「もう一回やったら、今度は絶対殺してやる」


 吐き捨てるようにサコタが言い、離れていった。ミヤギは無表情でその様子を見ていた。起き上がったフルタは涙目で、メガネのレンズがひび割れていた。当たった部分がみるみる赤くなり始め、鼻血がたれてきた。祐美恵がすぐにティッシュペーパーを差し出した。


「血は服に付けないで。臭いがついたらやっかいなんでしょ」


 フルタが礼を言って受け取った。


「さあ行きましょう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ