24 オオアゴケラ
アスファルトが切れた部分に立つ。崩れてから年月が経過しているようで、雑草が冬枯れした跡が残っている。向こう側のアスファルトまで、十メートルほどだろうか。
「オオアゴケラにやられて隊員が重傷を負ったのがここだ」
「あいつらは足音に反応して獲物に向かってくるんです。ただ、基本的に地中から足下まで来て一気に襲いかかりますから、タイムラグはあります。やられた隊員も、一番最後ですからね」
「だったらどうすればいいんだ」
「全員一気に走り抜けていくのが一番手っ取り早いでしょう」
「はあ? 走り抜けろだと。オケラを踏んづけたらどうすんだよ」
ミヤギがあきれたように目を丸くした。
「大丈夫。オオアゴケラの生息場所は地中三十センチ付近なんです。そこから土をかき分けて飛び出しますから。その間に走り抜けていれば、奴らは追いつかないはずです」
「『はず』なんだろ。そんな不確実な方法だったら、俺は納得しねえぞ」
「ミヤギ、だったら電気自動車の中で待ってるか。そうなれば報酬はない。他はどうだ」
「あたしは行くよ」
サコタだ。
「マミヤとマカベは」
「行く」間髪置かず頷いた。
「残るのはあんただけだ。たとえ電気自動車の中で待っていても、何が起きるか保障できないぞ。それでもいいか」
ミヤギが睨付けるように私たちを見回し呟いた。「俺も行く」
「だったら全員切れ目に並べ、俺が合図するから一斉に走り抜けるぞ」
全員横並びになって、橋山を見つめる。
「行けっ」
叫ぶと同時に枯れた雑草の上に降り立ち、走った。自分の動きがスローモーションのように感じられ、もどかしい。
アスファルトへたどり着く手前だった。不意に足を取られ、立て直す余裕もなく倒れてしまった。クーラーの肩紐が外れて、地面に転がる。雑草に引っかかったのだ。
起き上がろうとしたときだ。土を盛り上げながら、何かが自分へ向かってくるのが雑草の間から見えた。
オオアゴケラだ。私を襲う気だ。
慌てて起き上がり、クーラーを両手で抱えて走り出す。すでに他の連中はアスファルトへよじ登ろうとしている最中だった。
一呼吸遅れてアスファルトへたどり着く。クーラーを投げ出すようにして置き、よじ登ろうとした。
不意に右足が重くなった。構わず必死で這い上がる。左膝がアスファルトに乗るが、右足が上がらない。渾身の力を込め、両手と左足で這うように進む。
右足もアスファルトに乗った。だが、そこから右足ががっちり固定されて動かない。何かに裾を引っ張られていた。右足を見る。
アスファルトの縁に虫がいた。体長が五十センチほどあり、全身オレンジ色に近い赤色だった。コオロギのような体型で、前脚は太く、先端が平たく突起状になっていた。
左右から延びた乳白色の二本の牙が、ズボンの裾をがっちりと挟んでいる。
茶色で大きな目は、表情もなく自分を見つめている。口元から伸びた触覚が、上下左右に揺れていた。
シュウ、シュウ。
背中の短い翅を震わせ、音を出していた。威嚇なのか、それとも興奮しているのか。
こいつは俺を引き込もうとしているんだ。両手と左脚を踏ん張って前に進もうとするが、右足は動かない。むしろ引っ張られていく。
踏ん張っているはずなのに、体が後方にずれていく。明らかに虫の方が力強い。
「ううっ……」
頭が真っ白で、呻き声しか出てこない。全身に鳥肌が立つ。