17 ミーティング(1)
橋山の電話を待つ日々が続いた。正直仕事なんて手につかなかったが、下手に休んで周囲に不審がられるのもまずい。一旦北海道へ戻り、通常通り仕事をした。橋山から電話があったのは翌週になってからだった。
「今日の仕事は終わりましたか」
「それより結果はどうなんだ」
「予定が決まりましたよ。決行は二週間後の水曜日。打ち合わせや訓練も必要ですから、その前後一週間は、休みを取っていただきたい」
「わかった」
私は久斗の療養を兼ねて、長期の旅行に行きたい旨を申し出た。二週間という期間に上司は難色を示したが、最終的には了承してくれた。
橋山とは新宿で待ち合わせをした。車に乗せられ目隠しをさせられる。時間の感覚さえ忘れてしまう状況の中、車に揺られ続け、ようやく目を開けた時、周囲は雪に包まれていた。
「ここはどこよ」
「それを言ったら目隠しして連れてきた意味がないでしょ」周囲を見回す祐美恵に、橋山が笑いながら答える。「さあ、降りてください」
新宿とは寒さのレベルが違った。私は北海道で慣れてものの、厚着をしてこなかったのでかなり寒い。祐美恵も腕を組み、体を震わせている。
「お二人にはここで銃の取り扱いを学んでもらいます。それに他のメンバーもいますので、顔合わせと細かい打ち合わせもここでやります」
目の前に木造作りの平屋の家が建っていた。小洒落た外観はいかにも別荘といった印象だが、築年数が古いようで、かなりくすんで見えた。橋山は中へ入っていく。私たちも後へ続く。
屋内は暖房がかなり効いていてた。寒さで強ばった筋肉がほぐれていく。リビングへ行くと、三人の男女がいた。一人はノーネクタイのスーツを着た大柄のスキンヘッドで、ソファに寝そべりタバコを吸っている。
テレビに映し出されているバラエティー番組を笑いもせず見ていた。表情に乏しい顔で私たちを見た後、再びテレビに視線を戻す。
もう一人は背が低く、ベージュの作業着を着ていた。童顔でメガネをかけ、私たちを見ることもなく、熱心に雑誌を読んでいる。
最後の一人は女でまだ若い。腕と足を組んで、半ば睨むような目つきで私たちを見つめていた。髪の毛は短く切り、肩幅が広かった。室内が暖かいとはいえ、半袖のシャツを着ているのは、男並みに太い腕を見せつけるためなのか。
「さあみんな注目してくれ。今回のプロジェクトメンバーが揃った。まずは自己紹介からだ」
「ミヤギだ」
スキンヘッドが一言発言し、再び沈黙する。
童顔が雑誌から顔を上げ、きょろきょろ辺りを見回す。
「フルタです。よろしく」
「サコタよ」
間髪を置かず女が発言した。
「マミヤです」
私はとっさに偽名を言った。
「マミヤの妻です」
「あんたさあ」サコタが馬鹿にしたような苦笑いをする。「〈マミヤの妻〉だなんて言いにくいじゃん。どうせ偽名なんだから、別の名前にしてよ」
「そうだな、旦那がマミヤなら、あんたはマカベにしといたらいい」
橋山の提案に、祐美恵は戸惑いながらも頷いた。
「ところで、結局あんたも半島へ行くことになったの」
「ああ……。この舞台を統括する人間が必要だからな」
「ふうん。結局行く奴がいなくてあんたに押しつけられたって訳ね」
「そんな話はどうだっていい」
いらついた顔でぶっきらぼうな声を上げたが、明らかに目の奥が不安げに揺れていた。サコタは薄笑いを浮かべた。