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  作者: 青嶋幻
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15 ルビコン河を渡る(1)

翌日の日曜日の午前、私と祐美恵は都内にあるマンションを訪れていた。ドアが開き、四角い顔で細い目をした男が、相変わらず口元だけの笑みで私たちを迎えた。


「お待ちしていました」


 橋山はリビングへ案内し、ソファへ座るよう促した。


「早速ですが、例の物を見せていただけますか」


 私は硬い表情で、黙ってUSBメモリを差し出す。横にいる祐美恵は害虫でも見るかのように、嫌悪に満ちた視線を送っている。橋山はそんな私たちなど一向に気にする様子はなく、受け取ったUSBメモリをパソコンに装着した。


「ほう、こいつはすごいですね」


 橋山が感嘆するのも無理はなかった。この〈第四次D半島調査報告書〉には、これまで公表されていなかった隊員の装備、詳細なルート、襲撃場所等の詳細が記載されていたからだ。


 D半島の汚染はカビだけでなかった。蛹化が問題になった同時期から、雨が降った付近で付近で大型甲虫の発見が相次いで報告されていた。しかも中には肉食で人を襲う虫もいた。


 このため、各国政府は降雨場所とその周辺を隔離する政策を行った。住民たちは閉じ込められ、出るには厳重な検疫を行わなければならなかった。その間にも多数の住民が甲虫に襲われた。


 日本で赤色の雨が降ったのは、D半島の先端だ。日本政府は半島の根元から先を隔離地域として指定し、境界の山林を刈り取り、高さ三十メートルの巨大なコンクリート塀を設置した。


 当時D半島には四十万人の人々が住んでいたが、脱出できたのは三十九万人だった。およそ一万人もの人々が取り残され、死亡あるいは行方不明となっている。


 これまで政府は四回D半島へ調査隊を派遣していた。これはその四回目の調査報告書だ。一般にはもっと簡単なものしか公表されていない。ルートや装備など、詳細を公開すれば、まねをして上陸する輩が出てくるのを懸念しているからだ。


 D半島には現在、未知の生物が生息しており、政府はすべて把握できていない。しかも、一部は人間を襲うので、きわめて危険だった。実際、第四次D半島調査隊は、自衛隊を中心としたメンバーで構成されていたが、二名の死者を出していた。


 橋山は一時間かけて報告書を読んだ。その様子を私たちはじっと見つめていた。やがて橋山が顔を上げ、大きく息を吐いた。


「装備は確保できるでしょう。ただ問題は誰がここへ行くかですね」


「私たちが行く」


 私の言葉に祐美恵が頷く。すでに覚悟はできていた。



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