表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 青嶋幻
14/35

14 潜行

            

「なんだよ。今日は休みじゃなかったのか」 


 寒い中、喫煙所でコートを着込んでタバコを吸っていた塩見が声をかけてきた。午後二時過ぎだが、雪こそ降っていないものの、ひどく寒かった。


「そのつもりだったんだけど、息子の体調が良くなったんで帰ってきたんだ。溜っている書類を処理しようと思ってさ」


「ふうん。せっかく休んだんだから、ぎりぎりの飛行機に乗れば良かったのに」


「十一時の千歳着で、安い便があったんだ。俺みたいに何度も行ったり来たりすると、飛行機代もバカにならないからな。少しでも節約しないと」


「そうか。俺なんか別れた嫁さんのところにいる息子へ会いに、半年に一度東京へ行くぐらいだもんな」


 軽く手を振って別れた。塩見の姿が見えなくなってから、大きく息を吐く。どうやら納得してくれたらしい。

 私は通用口でチェックを受け、エレベーターで五階へ行った。ここには各医師専用の机が並んでいる。

 私は上司に挨拶した後、自分の机に座り、パソコンを起動させる。パスワードを入力し、メールをチェックしながら周囲を伺った。


 誰も自分を気にかけている者がいないのを確認して、センターのサーバーにアクセスする。再びパスワード入力画面が表示され、自分にあてがわれた番号を入力、エンターを押した。


 いくつかのファイルが表示された。その中から、〈第四次D半島調査報告書〉を開いた。百ページ近くある。もう一度周囲を見回し、誰も注目していないのを確認しながら、ポケットからUSBメモリを取り出す。


 心臓が激しく鼓動し始めた。手が震えて、コネクタへ装着するのに苦労した。再び周囲を確認しながら、ファイル保存させた。保存終了まで、ほんの十数秒だったが、ひどく長い時間に思えた。


 定時まで仕事をしてセンターを出る。センターサーバー内に収められている資料は、原則持ち出し禁止だった。ばれたら処分を受ける。

 私はルビコン河を渡ってしまったんだ。

 緊張で、体の芯が痺れるような感覚を味わいながら、マンションへ戻った。

 自分のパソコンに資料を表示させ、じっくりと読み込んでいく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ