12 壊滅
リビングに行って空気清浄機のコントロールパネルをチェックする。五日前の久斗の部屋。午前二時、0.001PPMだった数値が突然120PPMへ跳ね上がっていた。高濃度の状態は十分続いたが、強制排気が働いて二十分後には正常へ戻っていた。
120PPMはD半島の降雨圏内と同じ濃度だ。ここではおよそ八割の住民の安否が不明だった。そのほとんどが意識を失って〈蛹化〉していると言われている。
憤りが体内を暴れ回り、壁に拳を打ち付けた。壁がへこみ、痺れるまで続いた。疲れ果て振り返ると、死人のように蒼白な顔をした祐美恵が、呆然と立ち尽くしていた。
「あたしが……悪かったの」
お前のせいじゃない。悪いのは橋山で、警告をしなかった俺も悪いんだ。そう答えて抱きかかえれば良かったのかもしれない。
でも、私は答えられなかった。そんな余裕など、どこにも残っていなかった。
言葉なく祐美恵を見つめるだけだった。
「みんな……私のせいよ。そうなんだわ」
腫れぼったい目から再び涙が溢れてきた。口が力なく開き、嘔吐するように嗚咽が吐き出されていく。
「違う、お前が悪いんじゃない」
もう遅かった。私の反応の遅れで、祐美恵は自分が悪いと認識してしまった。
「お願いよお……。久斗を助けてよお」
泣きじゃくり、酔っ払ったようにろれつの回らない声で呟く。
再び携帯が鳴る。祐美恵の目に憤怒の炎が宿った。橋山だ。
「一体どうしてうちの息子にあんことを……。え? 助けられるって」
まずい、私は祐美恵から携帯を奪い取ろうとした。
「やめてっ」
携帯を持つ手を耳から引きはがそうとするが、両手を使って抵抗する。思いの外強い力だ。思わず、よろけるようにして倒れ込んだ。とっさに自分が下になるように体勢を変える。
下にはテレビ台。避けようと体をずらそうとしたが、鈍い音と共に側頭部へ衝撃が走った。一瞬目の前が真っ白になり、気づいたときには床へ横たわっていた。
ずきずきと痛む頭と軽い吐き気を抱えながらも起き上がる。祐美恵はいなかった。
痛む頭を抱えながらキッチンへ行くと、奥にあるトイレから明かりが漏れていた。
「開けろっ」
ドアは鍵がかかっていた。体当たりして打ち破りたかったが、一歩足を踏み出すたび、頭が割れるほどの痛みが突き刺す。とても衝撃に耐えられない。
しばらくして鍵が解除される音がした。ドアが開き、祐美恵が出てくる。
目がギラギラ輝いていた。
「あいつから全部聞いたわ。久斗を助けられるんですってね」