11 再び橋山
昏睡状態の久斗、それに祐美恵を見る。
一瞬頭が真っ白になったが、徐々に事態を飲み込み始める。
「もしもし、聞こえていますか」
妙に明るい声が響いた。
「お前……」
「だいたいの事情はご理解いただきましたかね」
「わかるわけないだろ。久斗に何をした」
「順を追ってお話ししましょう。私、久斗君の通っている学校の名簿を入手しましてね。〈蛹化現象予防コンサルタント〉として保護者の方に営業をかけたんですよ。
おかげさまで口コミで奥さんの耳にも入って、私のセミナーを受けていただくようになったわけです。
奥さんには私が開発したカビ菌の繁殖を抑えるイオン発生装置を購入していただきました。恐らく久斗君の部屋に取り付けられていると思いますよ」
部屋の中を見回す。隅に小さなドーム型の機械があったので、コンセントを引き抜く。
「カビ菌を抑えるなんて、正直嘘っぱちなんですけどね。奥さんへご提供したモデルは更に仕掛けがありまして、盗聴器と高濃度のカビ菌が仕込まれていたんですよ。五日前の深夜、カビ菌がぱっと室内へばらまかれたんですわ。
当然空気清浄機が作動して全部屋外へ排出されているんですけど、出し切るまでに時間がかかるわけです。その間、久斗君はたっぷり菌を吸ってしまったんですね」
「お前、なんてことをしたんだ……」
「憎いですか。まあ当然でしょうねえ。私には子供がいませんが、身内にそんなまねする奴がいたら、ただじゃおきません。絶対犯人をなぶり殺しにして、山へ埋めてやりますよ。
ただね、冷静に考えてくださいよ。私を殺したって久斗君が元に戻るわけじゃない。
久斗君を治療するのに必要な物、それは同時に私が欲しい物なんです。そして松木さん、あなたはそれを施設から取り出せる術を持っている。私はそれを安全な場所まで運び、精製する施設を手配できる。
ここはプラグマティックに思考して、私と手を組みませんか」
「断る」
通話を切り、携帯を祐美恵に返す。
「橋山が仕掛けたんだ。あの機械の中に高濃度のカビ菌が仕込まれていた」