1話の2
「ここは……」
「非公式野球部だよ」
だから、非公式野球部ってなんなんだ!
よく分からないうちに、部室らしき部屋に連れてこられたかと思えば、そのまま中に引き入れられる。
中にいたのは、四人の男子生徒。
赤ネクタイ――三年が一人、青ネクタイ――二年が三人。
オレと同じ緑ネクタイはいない。全員先輩だ。
先輩ばっかの部屋に連れてこられて……一体何が始まるんだ! オレ、焼きでも入れられるの!?
「おう、一宮。遅かったな」
ツンツン頭の二年生が、オレの手を掴んでいる人に声をかけた。この人、一宮先輩っていうのか。
一宮先輩はやれやれ顔で、オレを連れて部屋の奥に進む。
「お前は本当、先輩に対する敬意とか欠片もないなー。買い出し行ってきてやったのに、その態度はないだろ」
言われてみれば、一宮先輩はオレを掴んでいるのと反対の手に、コンビニ袋を持っている。いっぱいいっぱいで気づかなかった。
「罰ゲームなんだから、負ける方が悪い。大体、たかだか数ヶ月早く生まれたぐらいで何が違うってんだよ」
「それ、社会に出て言ったらアウトなやつなー」
「いざとなったら、実家継げばいいから大丈夫で~す。……つーか、そいつ誰?」
ようやくオレの話題になって、ちょっとドキッとする。
他の三人の視線もオレに集まってるし! 緊張する……!
「あ~、廊下で拾った」
オレは犬猫の類いか!
「うちの部に興味あったみたいだから、案内しようと思ってたな。一年の……そういや、名前聞いてなかったわ」
「あ、佐々木和真です。――って、いやいや! 誰ってのは、こっちが聞きたいんですけど!」
「オレは一宮政樹ね。この部の部長。オレも中学では野球部だったんだ」
「……その人、桜青出身だよ」
二年生の一人、眠そうにあくびしている長身の人が言った。
おうせい……おうせいって――――桜青か!?
「桜青中学って、強豪じゃないですか! あそこスゴイですよね! 全国大会でも名前見るぐらいですし! 試合には出てたんですか?」
「あー、まあ。レギュラーだったよ」
「……桜青キャッチャーの一宮って言ったら、三年前までは結構有名だったんだけどね。その人、もうキャッチャー止めちゃったから」
「そうなんですか? あ、もしかして怪我か何かで……」
「うーん、怪我といえば怪我かな」
一宮先輩、なんか暗い表情に……。これは聞いちゃいけないやつかな……。
そう思ったのに、ツンツン頭の人が「はんっ」と笑い飛ばす。
「何が怪我だよ。股間にボールが当たっただけだろ?」
「…………へ?」
股間……?
「“だけ”じゃないだろ!! 同じ男なら分かるだろ、その痛みがッ!!」
「だって、キャッチャーって急所カップ? っての付けるんだろ?」
「あれ付けてても痛いものなのッ!! 無いよりマシってだけで、痛みからは守ってくれないのッ!!」
「でも後遺症とか何もなかったって言ってたろ。なら、良いじゃねーか」
ツンツン頭の人があまりにケロッと言うから、一宮先輩は遂に意気消沈した。
「そうだけど、そうじゃないだろー……。あの激痛はトラウマもんだぞ……。少なくとも、オレはもう二度とキャッチャーはやりたくない……ッ!」
なんか思ってたより、しょうもない話だった……。
――まあ、痛いだろう気持ちは分かるけど。
※急所カップ=ファール○ップ、金○ップの事ですが、それらが商標なのか何か分からなかったので、今作では急所カップで統一します。