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短編集

その宇宙は、無限の死骸で埋め尽くされている

作者: 紫陽花の鼬


          1



 はるか夜空に、私は手を広げて思うの。

 ああ、なんて美しい世界なのでしょう。と。




 無限に光る星々。恒星だらけの世界の中で、赤ちゃんが揺りかごで指をくわえ、心地よく眠っているかのような三日月の柔らかい輪郭。なんて透明な時間なのでしょう。と。



 光りの魔法に彩られた世界が動きを止め、ビルから、繁華街から、私の見えているすべての世界の時間が、光りという点と点になって停止して、瞬いて、手のひらの中で銀河をつくっている感覚がする。


 私は幸せだわ。

 だって、この世界だけは夜の主を決めないもの。すべてが無機物となり、思考を停止し、生き物の輪郭を消し、光りの輪郭だけを残し、私という異端の存在ごと世界を消している。そこにあるのは、ただ宇宙と共鳴する文明の星々の輝き。ロストワールド。






 だから、私は宇宙を見上げるの。

 飽きることなく、思考はまるでゼンマイ仕掛けのブリキ人形のよう。やがて止まるくせに、ゼンマイは回転することをやめない。空元気の早周りだってロボットは気づかない。


 機械の彼は人間なんか見ておらず、世界を見ているの。自分を産み落とした、腐れ落ちた卵の世界を。枯れた木々が並び、根元に犬猫の死骸が幹にそって並び、並木道はそれでも当たり前の日常の顔をやめずに通行人に『どうぞ』っていってる。そんな滑稽で、手遅れになった世界を。


 宇宙は壊れている。

 誰も信じないけど、私はそう信じている。


 この世界と一緒。あんなにも美しい世界に、誰も住んでいないわけがない。きっと宇宙には人間以外の生命物がいて、考えられないような先進的なテクノロジーを使って産業革命と蒸気機関車代わりの宇宙シップを動かして、宇宙の隅々まで大冒険して、開拓しつくしたに違いない。宇宙の隅々まで開拓しつくした紀元前の航海者たちは、宇宙をボロボロにした報いを受けて死んでしまった。


 だから、私たちが見ているこの大宇宙は可能性のある世界などではない。想像もつかないような何億光年という夜空のかなたまで死骸で埋め尽くされている。破壊された星々は無機質として輝き、大宇宙で争った戦場跡には、割れたクレーターや、無残になった理想世界の破片がコブシでわられたガラスのように散在している。


 私には見えているし、あなたにもきっと見えるはずだ。

 気づいていないことは、見えていないこと。だから気づけば宇宙の広がりが見えるはず。宇宙を観察するのに天体望遠鏡なんか必要はない。宇宙の広がりは人類の考察上の限り、無限に解釈が広がっているのだから。


 見ようと思ったら、すぐにでも火星のクレーターの上に転がる乾ききった爬虫類の死骸が見えるはずだし、土星のガスの下に何億年も前は生きた宇宙魚の死骸が落ちているのが見えるはずだ。



 不気味だと思えば、下を向きなさい。疑っているようなら、上に広がる美しい星々をよくよく見なさい。



 そして、私は。あなたが下を向いたその顔を見たら、今胸の中にある憂鬱がいくらか晴れるような気がする。



 増えた仲間に、私はせいいっぱいの笑顔を振りまくことにする。



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