第2章(2)
田中「さっき、空き巣撲滅
キャンペーンをしてると言われて
ましたね。
具体的にはどんな活動をされている
のですか」
黒服の紳士「防犯活動ですね。
どの家にどんな錠がついているか。
いつも窓に鍵を閉めているか。
街灯の照明は適切か。
植え込みなど、空き巣が隠れ
やすい状況になっていないか。
犬がいないかどうか。
等を調べておくわけです」
田中「この玄関以外に家に入いる
方法がないのか調べらたらどうで
しょうか」
好子「能天気の割には、たまに
まともなことを言う時もあるのね」
黒服の紳士「そうですね。皆さんは、
空き巣が玄関や台所の
ドアを開けて訪問するように
思っておいでだが、それは
空き巣全体の4%にすぎません。
なんと空き巣の70%は、
窓から入っているのです。
その理由というのは、大部分が
窓のカギのかけ忘れなのです。
特に2階などは、ほとんど
かけていません。
なんという、不注意、無知、
蒙昧、怠惰、非常識、呆れる
ばかりです。
私は、そういう防犯意識の
なさに非常に腹が立つんです。
それで、啓蒙の意味をこめて、
このようなことをしているん
ですよ」
村田「確か、1階の窓には、
カギをかけたような記憶が
あります。
2階はどうかわかりませんが、
どうやって2階の窓から入る
のですか」
黒服の紳士「それは、ド素人
の考えで、電柱、庭木、雨どい
塀などを利用すれば簡単なの
ですよ。
でも、まず、1階の台所の
ドアと全ての窓を調べて
見ようじゃありませんか」
黒服の紳士を先頭に、村田、
田中夫妻が台所のほうに向かって
行った。
らっきょとその奥さんが到着した。
らっきょは、いかにも人が良さ
そうな顔をしている。
奥さんは、金髪にキャミソールを
きて、背中に赤ちゃんをおぶって
いる。
らっきょ「おー、オスギか!
ひさしぶり。
山田と早苗も一緒か。
懐かしいな。
こっちが山田の奥さんか」
ゆり「まだ、紹介もされて
いないのに失礼な人ね。
私は、(こっちじゃ)ありませんよ。
それに、この人は、養子でいまは
池田っていうんです。
らっきょの皮をむくと空っぽ
というけど本当ね」
らっきょ「すげえ奥さんだな。
さすが逆玉っていう感じだ。
挨拶の仕方も知らないんだ」
朱美「挨拶の仕方を知らないのは
おまえも同じだろう」
朱美が、手でらっきょの頭を小突いた。
朱美「私を皆さんに紹介するのが
先だろうが」
らっきょ「ごめんなさい。
こちらにいらっしゃいますのが、
嫁の朱美さんと、私の娘の万理
です」
朱美「自分の嫁を呼ぶのに
朱美さんなんておかしいだろうが。
朱美でいいんだよ」
朱美が、またらっきょの頭
を小突いた。
杉村「あれ、朱美さんじゃない
ですか。
なーんだ、ストーカーされて
困っていると言っていたけど、
結局、らっきょと結婚したん
ですか」
早苗「やっぱりあのキャミソール
女だわ」
朱美「こいつが、結婚してくれ
なければ死んでやるなんて言う
から、人助けのために結婚して
やったのよ」
ゆり「子供が出来ちゃったから
じゃないの」
朱美が、じろりとゆりを睨みつけた。
池田があわてて口をだした。
池田「すみません。
彼女は、わがまま一杯に育った
ものですから、思ったことを
そのまま口に出してしまうんです」
朱美「なんであんたが謝るのさ」
池田「私の妻ですから」
朱美「それが、逆玉の礼儀作法かい。
逆玉の夫婦道かい。逆玉の養子道かい。
逆玉の仁義かい」
池田「妻が言ったことは、夫の
私が言ったのと同じでことですから」
朱美「おい、らっきょ、
つめの垢でも貰って飲んどきな」
朱美が、らっきょの背中を小突いた。
杉村が早苗に向かって言った。
杉村「ほら、俺の言った通りだろう。
俺と朱美さんが、メールのやりとり
をしていたのは、ただ、らっきょの
ことで相談していただけなんだ」
早苗「そうなの」
早苗は、朱美に向かって確認を
求めた。
朱美「なんだい。
あたしが、オスギに送ったメール
のことで、もめていたのかい。
もう随分昔の話じゃないか。
私も、キャバクラに勤めていた
からね。
お客さんには、毎日30通ぐらい
ハートのマークを付けて送って
いたものさ。
そうすると、そのうち4,5人は、
寄ってくれるからね。
単なるダイレクトメールさ。
ところが、らっきょの奴は、
そのメールが自分だけに来た
ものと勘違いして、のぼせ
やがって、私をつけ回すんだ。
もてない男は、これだから
始末におえないんだよね。
だから、オスギ相談したのさ。
ハートマークをつけたのは、
一種の癖なんだ」
早苗「なんか、誤解して
いたみたいね。
二年間も、怒ったり、
泣いたり、つらい思いを
してきたの。
あなたのメールさえ見な
ければよかったのに。
私ってバカみたいね」
杉村「おれも、諦めが
よすぎるんだよな。
君から返事が来なく
なって。
君のメールを見ていた
から、他にいい人が
できたのかなって」
早苗「あなたに、自分からは
出さなかったけれど、本当は、
メールもらいたかったの」
杉村「実は、あの後何通も
何通もメールを作成したんだけど、
結局送らなかったんだ」
早苗「また、メールがきたら
すぐに返事を出そうかと思って、
この2年間あなたからの
メールが来てないか、毎日
期待してチェックしてたのに」
らっきょ「俺なんか、返事が
来なくても、3ヶ月くらい
毎日メール送り続けたもんな」
朱美「お前はやりすぎなんだよ。
毎日長いメール送ってきて、
その後に10個もダブルハート
のマークを付けやがって。
うっとうしいたらありゃしない」
らっきょ「でも、結局は俺と
結婚したじゃないか。
そして、最近は、他の女と
話しただけでやきもち焼いて
るじゃん。
この前なんか、お袋から
メールがきたら、何も説明
する前に四の字固めに
決めてさ。
危うく足を折るところだった
んだから」
朱美「初めに、お袋の名前を
ちゃんと教えとかないのが悪い
んだよ。
それに、名前もひとみなんて、
58歳のババアの名前かよ」
らっきょ「お袋だって、
若い頃があったんだから、
ひとみだっていいじゃないか」
朱美「メールを打つときは、
母より、と書けばいいだろう。
それを、ひとみから愛をこめて、
なんて書くから誤解するんだよ」
池田「オスギも早苗もそうだけど、
若い奴が結婚しなくなった理由の
一つは、傷つきたくない症候群だな。
相手の女性が好きで好きでたまらない
のに、でも、アプローチして、
もし断られたりしたら、傷つくのが
いやで、結局、アプローチする前に
諦めてしまう。
それでも、寝床でもう七転八倒して、
もう決死の覚悟で、緊張して体を
ぶるぶる震わせながら、相手が
何の準備も出来ていないのに、
突然、わけのわからない告白を
一方的にするもんだから、女性が
驚いて一言も発しない前に、もう
諦めて、振られたと思って逃げて
しまう。
そして、その女性が今度は、ちゃんと
話してくれないか待ち構えているのに、
その後は、その女性の半径2キロ以内
には近づかない」
らっきょ「それから、もう一つの理由は
高学歴高収入のタカビ志向だな。
女は、自分の頭脳やご面相やスタイルに
お構いなしに上を狙いたがる。
結婚して楽をしようという打算以外の
なにものでもない」
ゆり「男だってそうじゃないの。
女の判断基準は、一に、美人かどうか、
二に、おっぱいがデカイかどうか。
三に、デブじゃないかどうかじゃないの。
その女性が、愛情深い人か、
気立てがいいか、家事がうまいか、
相手の気持ちを思いやる人かどうか
なんて二の次なんだから。
男は、なにか大切なことを
忘れているのよ」
らっきょ「あんたに言われたくないな。
女って、自分と正反対のことを平気で
いえるんだから驚くよ。
山田、お前この女のどこに惚れたんだ」
池田「美人でスタイルが良くておっぱいが
デカイところさ」
ゆり「だから、あなたのこと大好きなの。
だって、私のことよく判っている
んですもの。うれしいわ。
だから、頭スカスカのヘチマみたいだけど、
あなたで妥協したのよ」
朱美「そうね。結婚に妥協は必要だわ。
私みたいに、こんなにいい女だって、
こんなチンケイで諦めたんだから」
らっきょ「なんだよ。俺がアタック
してもアタックしてもだめだから、
もう諦めたといったら、待って、
まだ諦めないでといって、
俺に泣いて取りすがったじゃないか」
朱美「お前はおしゃべりなんだよ。
家に帰ったら、今日はムチで便所に
座れないくらいお尻を引っぱたいて
やるからね。
もっとも、お前にとっちゃ、それが、
快感なんだろうがね」
ゆり「まあ、下品で聞いていられ
ないわ」
朱美「あんたなんか、言葉で心臓を
ぶすぶす刺しているじゃないか。
肉体の傷は治るけど、心の傷は
治らないんだからね」