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第1章(8)&第2章

杉村「それは、朱美があの近くに

住んでいたからさ。

まさか、朱美の部屋に行くわけには

行かないだろう」


早苗「信じられないわ」


杉村「ずっと黙っていたけれど、

君だって、結構、男とメールして

いたじゃないか。

女っていうのは、自分はいろいろな

男とメールをしているくせに、

彼氏が他の女とメールしていると、

やきもちを妬くんだから」


早苗「あー、私の携帯を覗いたのね」


杉村「ほら、自分が覗いたことは、

棚上げにして、そう言うだろう。

俺は、君が他の男とメールして

いても、やきもちなんかは妬かな

かったからな」


早苗「私は、あなたにやきもちを

妬かれるようなことは、一切して

いなかったのだから、当たり前でしょ」


杉村「へー、そうかな。

君のメール『男の人は、甘くした

ほうがお好みでしょうか。それとも

辛くしたほうが喜ばれるでしょうか』

男からの返事『お酒でも飲みながら、

お互いの好みに合わせて、砂糖で

甘くしたり、しょうゆで辛くしたり

しながら、二人の夜を楽しく過ごし

ましょう』

さぞや楽しかったでしょうよ」


早苗「あれは、ただ、料理教室の

先生にスキヤキの味付けを訊いた

だけよ。

秋になったらあなたの部屋で、

一緒にスキヤキを食べようって

約束したじゃないの。

だから、おいしいスキヤキを

食べてもらおうと料理の勉強を

していたのよ・・・

それなのに携帯を覗いて誤解して。

やきもち妬かないなんて言ってる

けど、あの頃ぷんぷんして、

私にあたっていたじゃないの。

だから、あのキャミソール女が

原因だと思って悩んでいたのよ。

それなのに、あなたってモラル

のかけらもないのね。

さいてい」


ゆり「どっちもどっちだわよ。

だいたい、メールって、他人に

見られることを予想して書いている

わけじゃないから、誤解され

やすいのよ。

いま、夫婦喧嘩の半分は携帯

メールが原因なのを知ってる?」


池田「メールは読まれてもいいように

気をつけることにするよ」


ゆり「私をごまかそうと思ったって

そうはいかないわよ。

よく覚えておいてね」


 ゆりが、池田を睨みつけたので、

 池田は、すばやく矛先をかわした。


池田「ところで、らっきょが住んで

いるのは、この近くじゃなかったかな。

よんでオスギの話が本当かどうか、

らっきょに確かめたら、早苗だって

納得するだろう」


早苗「あなたが困るんじゃないの」


杉村「俺はもちろん大丈夫さ。

たしか、あいつ最近出来ちゃった

結婚したっていう噂なんだ。

結婚式はやっていないから、

誰もまだ、どんな嫁さんか見て

いないらしいんだけど。

そうだな、いい機会だから

よんでみようか」


杉村は、携帯でしばらく話して

いたが、携帯を閉じると、仲間に

向かって言った。


杉村「ちょうど病院から帰ってきた

ところだけど、みんながそんなに

集まっているなら、嫁さんを紹介

がてら来るってさ。

山田の逆玉ぎゃくたま奥さんにも

会いたいからって」


ゆり「できちゃった結婚の相手と

一緒にしないで欲しいわ」


池田「結婚前にやることやって

たんだから同じじゃないか。

違うのは、妊娠しちゃったか

どうかだろう」


ゆり「まったく底なしのドアホと

結婚しちゃったわ」


 健二が、退屈して両親に

向かって言った。


健二「もうスニーカー貰ったん

だから、帰ろうよ。

二人とも、腹がすいてるんじゃ

ナイキなんちゃって」



高橋「もう少しここで見ていよう。

村田さんの奥さんが、家から出て

きて、ゴルフしたらもう家に入れ

ないわよって怒ったら、あの

ゴルフクラブは要らなく

なるんだから、そしたら貰って

帰ろう。

あれは、結構いいクラブだぞ」


信子「あなたって、私以上に

しっかりしているわね。

見直したわ」


 村田が、必死になってチェーンを

はずそうと努力している。

ドアを指一本通るくらいに狭く開けて

人差し指を隙間に差し込んで、

チェーンを上に持ち上げて、

ホールダーからはずそうとするが、

はずれない。


村田「高橋さん、ボールペンをお持ち

ではないですか」


高橋「持っていますよ」


村田「ちょっと貸していた

いただけませんか」


高橋は、背広のポケットから

ボールペンを取り出して、

村田に渡した。

村田は、ボールペンを使って

チェーンを引き上げようと

するがなかなかうまくいかない。


第2章


さっきから、少し離れたところで

この様子を静かに観察していた熟年の

すらっとした長身の紳士が玄関に

近づいてきた。

夜とはいえ、まだクソ暑いさなかに、

黒い背広に黒いシャツ、

グレーのネクタイをつけて、

白髪の頭に黒っぽいハンチングを

かぶっている。

背広の胸元からのぞいている

ハンカチも黒で統一されていて、

いかにも、品のいい知識人の

ようにみえる。


黒服の紳士「みなさん、何かお困り

のようですね?」


田中「村田さんの奥さんがチェーン

をかけたまま、寝ちゃったので、

村田さんが家に入れないんですよ」


黒服の紳士「呼んでも、電話しても

起きないのですか」


好子「一旦寝たら絶対に朝まで

起きないんですって」


黒服の紳士「こんなに大騒ぎしている

のにですか。

信じられないな」


高橋「村田さん、本当に中に

奥さんがいるのですか」


村田「・・・・・」


好子「いらっしゃることは

間違いないわよ。

家に入るのを、私たちが見ていた

んですから」


高橋「でも、その後、村田さんが、

外に出ている間に出かけたかも知れ

ないじゃないですか」


田中「びっこをひいてたんですよ」


黒服の紳士「いや、家に居らっしゃる

ことは間違いないでしょう。

家の中からチェーンがかかって

いますから。

家の外からチェーンをかけるのは

不可能ですよ」


好子「あたりまえよ。

私は、近所のことは、

どんなささいなことでも、

何一つ見逃しませんもの」


黒服の紳士は、内ポケットから

黒革の手帳をとりだすと、

きちょめんな字で記入した。

(村田、妻、一旦寝ると

どんなことがあっても、

朝まで起きない? 要確認)


村田「あれ、あまり見かけない

方ですが、なにをメモしている

のですか」


黒服の紳士「いや、私はNPOである

(地域住民のための社会福祉互助会)の

スペシャリストなのですよ。

私たちの活動は、行き過ぎた

プライバシイの改善です。

たとえば、いま地域住民の

関係が希薄になっていて、

どんな家族が隣に住んでいるか

分からなくなっていますよね。

だから、ドメスティック 

バイオレンス、一般的にDVと

よばれてますが、夫が妻に暴力

をふるう。子供が暴れる。

妻が夫を殺して、バラバラにして

捨てる。

親が子供を虐待して餓死させる。

子供が親を殺して家に火をつける。

そして、事件が起こって始めて、

隣の家族がどのような関係だった

のか判るのです。

私たちの観点から言えば、

これは、個人情報が極度に

不足しているために

起こるのですよ。

私は、最近、この住宅地の担当に

任命されましたので、

どこにどのような家族が住まわれて

いるか、その方たちの家庭生活が

どのようなものか調べているのです。

しかし、それだけでは、お役に立て

ませんから、ついでに空き巣の撲滅

キャンペーンなどもしておりますが」


村田「個人情報の収集ですか。

どうも気になるな。

具体的には、どんな情報を集めて

いるのですか」


黒服の紳士「いろいろ注意深く

観察していますとね、その家の

家族構成とか夫婦や親子の関係

とかがよく判るのですよ。

たとえば、夫婦共稼ぎで、3時頃

に子供が帰ってくるまで昼間は

誰もいないとか」


信子「あれ、きっとうちの事だわ」


黒服の男「亭主が定年退職してから、

家にずっといるので、

妻がいらだって、朝から晩まで

ガミガミ言って、

それでも、亭主の面倒を見るのが

いやだと、娘夫婦の家に泊まりに

行って3日も帰って来ないとか。

亭主は、これ幸いとばかり、

夜は、居酒屋で時間をつぶして

いたりして。

それで、夜は誰もいないとか」


田中「なんだか、心当たりが

ありそうな話だな」


好子「あなた、私がいない間

居酒屋に通っているのじゃない

でしょうね」


黒服の紳士「専業主婦だが、姑と

折り合いが悪いので、毎日外出して

亭主が帰ってくる夕方まで帰って

こないとか。

その姑さんも、2階でいつも友達と

長電話しているので1階に誰が

きてもわからないとか」


信子「きっと木村さんのところよ」


黒服の紳士「その他、不良息子が

夜遅く帰ってきて家に忍び込む

とか。

娘が朝帰りするとかというのも

ありますね」


村田「そんな個人情報を収集する

のはプライバシイの侵害でよ」


黒服の紳士「待ってください。

われわれのNPOは少し違った

考えを持っているんですよ。

いいですか、昔は、向こう三軒

両隣といって、みんな知り合い

だったから、防犯やお年寄りの

介護や子供の世話でお互いに

助け合って暖かい地域社会を

作ってこられたのです」


好子「そうよ。昔は近所中みんな

知り合いだったもの。

お母さんに言われて、隣の

おばあさんのところに料理を

持って行ったりしてたわ。

作りすぎたからどうぞって」


信子「そうね。いまは隣にどんな

人が住んでいるかも分からなく

なっていますものね。

だから、助け合おうにも、何も

知らないから、お役に立てないし、

余計なことをすれば、かえって

迷惑だと思われそうで何も出来

ないし」


黒服の紳士「その通りです。

いまは、何でもプライバシイ

尊重です。

プライバシイ尊重ということは、

他人の情報を集めてはいけないと

いうことなんです。

その結果、それが行き過ぎれば、

自分以外の他人のことは

まったく分からなくなるという

ことなんですよ。

夫婦間でも親子間でもプライバシイ

が浸透してきています。

だから、みんなが、どんどん自分の

殻に閉じこもるようになる。

自分だけよければいいということで

他人に無関心になる。

その結果、他人に冷淡になるのです。

夫婦間や親子間の犯罪が増えてきた

のは、そういった個人主義が家族の

間まで浸透して、行き過ぎた結果

だとわれわれは分析しているの

ですよ」


田中「なるほど、もちろんある程度

のプライバシイは守られるべき

でしょうが、それが行き過ぎると

自分以外は、例えば、家族でも

まったく赤の他人になってしまう

というのは判りますね」


好子「そんな赤の他人に対してなら、

殺人だろうが、詐欺だろうが、

セクハラだろうが、いじめだろうが

やった人の良心は、それほど

痛みませんものね」


黒服の紳士「その通りです。

だから、夫婦間の犯罪にしても、

相手から自分の心が傷つけら

れたからという理由が多い

のです。

母親が子供を殺すのも、

再婚に子供が邪魔になったから

という理由などが典型です。

結局、自分中心で相手のことを

思いやるという感情が欠如して

きているのです。

プライバシイ、個人主義の

行き過ぎなんですよ」


高橋「説得力があるな」


黒服の紳士「判っていただけ

ましたか。

われわれは、行き過ぎた

プライバシイの尊重をすこし

戻そうと、この地域の個人

情報を集めているのですよ」


続く





























 
















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