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第1章(7)

 杉村が、早苗をじっと見つめ

ながら、懐かしそうに言った。


杉村「久しぶりだね。

もう結婚したの?」


 早苗は、杉村を大きなすこし潤んだ

黒目で睨みながら答えた。


早苗「してるわけないでしょ。

よく平気でそんなことが

訊けるわね」


杉村「だって、一方的に返事を

よこさなくなったのは、

君のほうだろう」


早苗「私が知らなかったとでも、

思ってるの」


杉村「え、何のことだよ」


早苗「しらばっくれて」


杉村「何を、しらばくれって

いるというんだよ」


早苗「私に隠れて女とデイトしてた

じゃないの」


杉村「俺が女とデイトしていた?

だれと?」


早苗「髪を赤く染めて、ピンクの

キャミソールを着たハデな女よ」


杉村「え、いつのことだよ」


早苗「ちょうど2年前の夏よ。

前の日にデートした時に、

『将来、結婚するのは、君以外

に考えられない』といったくせに。

その次の日に、そのキャミソール

女とホテルの前の喫茶店で楽しそうに

話していたじゃない。

男なんてみんな嘘つきよ。

父だって、若い女と浮気して、

家に帰ってこないし」


 早苗が、杉村に向かって

泣き声で興奮して叫んだので、

周りに居る全員が、驚いて

二人に注目した。


池田「お前たち付き合っていたのか。

知らなかったな。

それは、オスギが悪いぞ」


ゆり「このひと、オスギっていうの。

まるで、オカマみたいね。

タワシみたいな顔もそっくり」


杉村「俺はオカマでもタワシでもない。

失礼なことを言うな」


池田「おい、俺の嫁に向かって、

そんな口のきき方はないだろう」


杉村「お前の嫁なら口のきき方を

教えておけよ」


池田「俺が何かゆりに言ってみろ。

3日間は口をきかないから」


杉村「それは結構なことじゃないか。

3日といわず、3ヶ月ぐらい

黙らしておいたらどうだ」


ゆり「結婚式で(別れの歌)なんか

歌って。

ジョークだなんて言っていた

けど、本当はマジだったんじゃないの。

オカマが嫉妬して」


早苗「やめてよ。

この人がオカマでないことは、

はっきりしてるんだから。

あのハデなキャミソール女と

結婚したのね?」


杉村「俺は、まだ独身だよ。

そうか、思い出した。

朱美のことをいっているんだな」


早苗「そう、確か朱美という女よ。

あなたの携帯の送受信記録をみたら、

その女とたくさんメールの

やり取りをしてたじゃないの」


杉村「俺の携帯を見たのか」


早苗「あなたがキャミソール女と

どんなメールを交換しているのか

調べたのよ」


杉村「どうして、女って奴は、

他人ひとの携帯を覗き見る

のかな。

まったく、モラルセンスが

ないんだから」


 いままで、黙っていた村田が

わが意を得たりとばかり、

突然しゃべりだした。


村田「その通り、女は平気で

他人ひとのメールを見たり、

日記や手帳を見たり、パソコン

の検索記録を調べたり、財布の

中身を調査したりする。

それで気に入らないと、洋服や下着は

床に投げる、布団は庭におっぽり出す。

靴は、外に投げ捨てる。

ゴルフバッグは、放り出す。

おまけに、チェーンをかけて、

夫を家から閉め出す。

やりたい放題だ。

モラルのかけらもない」


 全員が、村田の意味ありげな弁論に

一瞬静かになったが、すぐに

高橋の妻の信子が反論した。


信子「あら、女にはモラルが

ないですって。

男はどうなのよ。

毎晩、酒を飲んで夜遅くかえる。

休日には、ゴルフにいく。

ゴルフがない時は、なにもせずに

家でゴロゴロしているか、

競馬かパチンコに行って金を

すってくる。

子供の面倒はみない。

家事は手伝わない。

何か頼むと怒ってふくれる。

口を開けば、上司の悪口を言う。

どこにモラルのかけらがあるのよ」


高橋「なんだよ、俺に対する

あてつけか。

こんなところで言うなよ」


信子「なによ。外ではかっこばかり

つけて。

聖人君子みたいな顔をして」


健二「二人とも止めろよ。

みっともナイキなんちゃって」


早苗「ちょっと待ってください。

いまは、キャミソール女の話を

しているところなんですから。

よけいなことは言わないでください。

朱美って誰なの?」


杉村「俺と同じ卓球部に居た宮本

を知っているだろう。

(らっきょ)みたいな頭の形をして

いるやつさ。

あいつに誘われて一度駅前の

キャバクラに飲みに行ったことが

あるんだ。

らっきょが惚れているホステスがいて、

それが朱美なんだ」


早苗「あなたが、そのホステスを

らっきょから奪ったわけ」


杉村「そんなわけないだろう。

どうやら、らっきょが朱美に

つきまとって、ストーカー

みたいな事をしていたら

しいんだ。

それで、朱美から相談に

のって欲しいと頼まれた

のさ」


早苗「うそばっかり」


杉村「俺の携帯のメールを

見たんだろう。

それならなんでもないことが

分かったはずだ」



早苗「ホテルの前の喫茶店で、

密かに会いたいなんて書いて

あれば、いかがわしいデート

だってだれでも思うわよ」


 これまでの2人のやり取りを

聞いていて田中が妻の好子に

携帯について感想を述べた。


田中「おかあさん。

昔は携帯電話などなくて

よかったな。

便利なようで、人間関係が

だんだんおかしくなって

きているような感じがするな。

見知らぬ他人同士が、相手が

どんな人間かもわからずに

知りあったり、情報交換したり

物をやり取りしたり。

それも、他人の目に触れず、

秘密で行うことができるから、

誰が何をやっているのか、

外からはまったく分からない。

だから、詐欺や、援助交際なんかが

はびこるんだよ。

メールなんか秘密が守られていると

思って安心して、言いたい放題だ。

ところが、一旦それが表に出されると、

知らなければ知らないで、

それまでうまくいっていたものまで、

おかしなことになっちゃうんだよな」


好子「能天気なくせにえらそうなこと

を言わないでよ。

あなたなんか、私に隠れて浮気したり、

ラブレターなんか密かに送ったりしてた

じゃないの。

知らなければ、知らないでいいこと

というのは、私があんたの浮気に

気が付かなければ、私たちの関係が

万事うまくいったのにと言いたいわけ。

あなたは昔から自分に都合のいいこと

しか言わないのよ」


田中「おまえ、おれが友子さんへ出した

手紙を読んでいたのか」


好子「あんな下手くそなラブレターなんか

だれが読むものですか」


田中「読んでたんじゃないか。

どうも返事が来ないのでおかしいと

思っていたんだ。

おまえが、きた手紙を破って捨てて

いたんだろう」


好子「あの頃は、紙が不足して

いましたからね。

手紙を水につけて、字が消えたら

日干しにして、便所紙にしてましたよ。

あなただって、お世話になったことが

あるでしょう」


田中「え、あれがそうか。

たまにお尻にインクが付いたから

おかしいとは思っていたんだ。

おまえが、そんなにひどい奴だとは、

今の今まで知らなかった」


好子「どっちがひどい奴よ。

私は妻でしょう。

妻に内緒で他の女とラブレターの

やり取りなんかして。

よく、そんなことが平気で言えるわね。

村田さんの奥さんのように、顔を

かきむしらなかっただけでも

ありがたいと思いなさい」


村田「これは、妻にかきむしられたもの

ではありませんよ」


好子「では、だれに?」


村田「誰でもいいじゃありませんか。

あなたとは、関係ないことです」


好子「そうかしら、奥様がおかしな

ことになっていたら、関係がないじゃ

すまされませんよ」



早苗「ちょっと静かにしていただけ

ませんか。

いま、キャミソール女の話をしている

ところですから」


杉村「ただ、相談のメールのやりとり

をしていただけで、女ってどうして

やきもち焼くのかな」


早苗「普通のメールだったら、

なにも気にしないわよ。

なぜ普通のメールにハートマークを

三つも付けてあるのよ。

私には、二つしか付けて

こなかったくせに」


杉村「相手が二つ付けて送って

きたから、サービスで三つに

して送り返したんだよ。

君のメールには、一つしか付いて

いなかったから、二つ付けて

送ったんだよ。

もし、君が、三つ付けて送って

きていたら、四つ付けて送り

返していたさ。

俺って、昔からそういう

サービス精神があるんだよな」


早苗「じゃあ、相手が知らない人でも

十個のハートマークを付けて送って

きたら、十一個付けて送り返すのね」


杉村「そうだよ」


早苗「じゃあ、百個付けてきたら、

百一個送り返すのね」


杉村「そうだよ」


早苗「じゃあ、千個付けて送って

きたら、千一個付けて送り返すのね」


杉村「そうだよ」


ゆり「あんたたち、5歳の子供

だってもう少しまともな会話を

するわよ」


池田「要するに、そのホステス

とは、何もなかったんだろう」


杉村「あたりまえだ。さっきから

そう言ってるだろう。

ただ、らっきょがストーカー

するから、何とかそれを止め

させて欲しいと頼まれたんだ」


早苗「相談という名目で

会って、誘惑しようとして

いたのよ。

ストーカーの相談をするのに

なぜ、ホテルの前の喫茶店で

会わなきゃいけないのよ」


続く


































 
















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