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第3章(5)&エピローグ

刑事「これは簡単な問題ですよ。ワトスン君」


巡査「プレッシャーをかけないでくださいよ。

村田は、外出していたし・・・・・」


刑事「固定観念を持つからいけないのだよ。

もっと柔軟に考えなくては・・・。

捜査が行き詰った場合には、原点に返ってもう一度

すべてを疑ってかかるのが、問題解決の要諦なのだよ。

ワトスン君」


巡査「といいますと」


刑事「村田は実際に外出していたのだろうか」


巡査「でも田中夫妻が、外出したのを実際に見ていますよ」


刑事「その通り。ただ、田中夫妻は村田が逃げ出した後、

奥さんがチェーンをかけるのを見ていない。

ということは、村田は、一旦外出したと見せかけて、

田中夫妻がいなくなったところで、また戻ったとも

考えられる」


巡査「でもなぜ、戻らなければならなかったのですかね」


刑事「考えられるのは、逃走準備と証拠隠滅だよ。

逃走用にスニーカーを持ち出す。

証拠隠滅のために自分の血染めのハンカチと凶器である

ゴルフクラブを持ち出した」


巡査「なるほど。では、村田がそれを持ち出した後、

どうしてチェーンがかけられたんですかね。

村田が、外からかけたんでしょうか」


刑事「・・・・だから、その時点では、奥さんはまだ

死んでいなかったと考えられる。

奥さんは、息も絶え絶えだった。

村田が、一旦帰って、証拠を持ち出して家の外に出ると

もう戻って来れないように、必死になってチェーンを

かけたんだ。そして、力尽きて死んでしまった」


巡査「田中夫妻が、その後、村田が『ドアを開けろ』と

叫んでいるのを目撃していますが」


刑事「きっと重大な証拠を家の中に置き忘れたに違いない。

ドアの隙間から、血染めの衣類が玄関のタタキに捨てられて

いるを君も見ただろう」


巡査「たしかに見ました」


 刑事が、さっきから頭を横に振って話を拒絶している

村田を睨みつけて怒鳴った。


刑事「村田。証拠はあがっているぞ。

すべて吐いてしまえ。気持ちがすっきりするぞ」


村田「ハンカチもくつもゴルフクラブもあいつが

放り投げたんですよ」


刑事「死人がどうして放り投げることができるんだよ」


村田「だから、あいつは死んでなんかいないんですよ。

最初からそう言ってるじゃないですか」


刑事「生きているなら、どうして姿をあらわさないんだ」


村田「あそこでタコ焼きを食べているのが、彩夏ですよ」


 村田が指で示すと、そこにいる全員が、群集にまぎれて

タコ焼を食べている彩夏のほうを見た。


好子「あら、ほんとう。奥さんだわ」


田中「まさか、幽霊じゃないだろうな」


好子「だから認知症だっていわれるのよ」


刑事「あれれ、奥さん生きてるの」


レポーター「大スクープです。死んでいると思われた奥さんが

生きていることが判明しました。またまた、警察の大失態です。

これから、さっそく奥さんをインタビューしたいと思います」


 レポーターとカメラマンが彩夏に向かって殺到した。

 彩夏は身を翻して家の中に駆け込むが、室内を物色していた

 黒服の紳士と鉢合わせした。

 

彩夏「キャー」


 彩夏が玄関から飛び出してくると巡査に向かって

叫んだ。


彩夏「ドロボー、おまわりさん、捕まえて」


 巡査が家の中に入っていった。


巡査「お前は、最近このあたりで空き巣を繰り返している

ルパンもどきだな。逮捕する」


黒服の紳士「こんな若造の青二才に捕まるなど・・・

おれも年をとったものだ」


 巡査は、黒服の紳士に手錠をかけると家の外に連れ出した。

 

 ドロボーが立派な身なりの紳士なのに驚いて、野次馬から

 (オー)というどよめきがおこった。

 

 市長が、レポーターからマイクをすばやく奪い取るとカメラの

 前で演説を始めた。


市長「エー、最近この高級住宅地で空き巣に頻々《ひんぴん》と

入られるという被害が続いており、警察は何をやっているのだと

大変なお叱りを受けておりました。

そこで、市長でありますこの村上は、さきほども申しましたが

予防的防犯に力を入れなければならないと、この地域への警官

によるパトロールの強化を指示しておりました。

しかるに、早速このような成果が出ましたことについて、

私の政策が間違っていなかったと確信を深めた次第でございます。

引き続き有権者の皆様の財産と安全を確保すべく最大限の努力を

進めてまいりたいと思っております。

さらに・・・・」


 レポーターが市長からすばやくマイクを取り返した。


レポーター「その辺で結構です。どうも有り難うございました」


 市長は、野次馬に手を振りながら待たせてあった黒塗りの車に

 乗り込むと去っていった。


レポーター「次に、殺人犯の汚名を着せられそうになった村田さん

にお聞きしてみましょう。

村田さん、危うく殺人犯にされそうになったわけですが」


村田「私は、はじめから潔白を申し立てています。

目撃者が見たとおりをそのまま伝えたつもりでも、

その裏には、計り知れないほどの事実誤認があるのです。

人間の主観、思い込みというものは、いかに不正確であるか。

そしてその思い込みからいかに事実がゆがめられて

伝えられていくか。

客観的事実を確認することなく、主観だけで判断することの

危険性をこれほど明らかにした事案はありません。

私はこんかい身をもって体験いたしました。

このような誤認逮捕は絶対にあってはならないことです。

私は、まだ、このように手錠をはめられたままなのですから」


 巡査は、あわてて村田の手から手錠をはずした。


レポーター「それでは、つぎに殺人の被害者とされた彩夏さんの

話を聞いてみたいと思います」


彩夏「なんで、こんなに大騒ぎしているのか見当も付かないわ。

でも、亭主が殺人容疑で逮捕されたのは自業自得じごうじとくよ。

私の心を切り裂いたんだから。

全部しゃべってやるわ。

こいつの携帯を見たら、綾乃という女と・・・・」


 村田は、彩夏の口を押さえてそのまま引きずって家の中に

 入っていった。


彩夏「殺されるー」

 

 ドアが閉まる前に彩夏が叫んだが、誰も取り合わなかった。


レポーター「では、証言をした田中夫妻に伺ってみましょう。

田中さんは、どうしてあのような証言をなされたんですか」


好子「私たちは、単に見たままの事実を言っただけですよ。

殺人事件と言い出したのは、刑事さんなんですよ。

それに、こっちは認知症で自分がなに言ってるんだかも

分からないんですから」


 好子が、田中の背中を押しながら自分の家に戻っていった。


レポーター「では、殺人を演出した刑事さん」


刑事「確かに、奥さんは死んではいなかった。しかし、

村田の顔に引っかかれた傷と胸に赤い血痕があることは事実だ。

奥さんも、びっこを引いているし、顔中が血だらけだ。

あの二人は、説明責任を果たしていない。

まあ、俺は殺人課の刑事だから、殺人がなければ出番はないが。

俺を呼んだのは、この巡査だから、あとは、この巡査に聞いてくれ」


レポーター「まあ、うまく逃げるわね」


刑事「あんたも、悪いこと言わないからお笑い芸人のご亭主と

うまくやりなさい。そうでないと、いつ殺人事件がおこっても、

おかしくはないぞ」


レポーター「余計なお世話よ。勝手に殺人事件を創作して。

このスットコドッコイ(カメラマンに)ここはカットして

おいてくださいね」


 刑事と鑑識官が前席に乗り込み、巡査が黒服の紳士と

 後席に乗り込むとパトカーは去っていった。


 野次馬がすこしづつ散り始めた。

 たこ焼き屋も店じまいを始めた。


レポーター「それでは、この事件を見ていた一般の方に

聞いてみましょう。この事件をどうごらんになりましたか」


高橋「なにか、損したような。得したような」


信子「まだ、ゴルフクラブにこだわっているの。

諦めなさい。

スニーカーは、確かにくれるって言ってたわよね」


健二「返すことないんじゃナイキなんちゃって」


 高橋夫妻は、自宅に帰っていった。


レポーター「あなたは?」


ゆり「まったくの猿芝居、茶番、ドタバタ喜劇、

あの刑事本当の刑事なのかしら。

それとも、あなたドッキリカメラじゃないの」


レポーター「そんなことありませんよ。

ただ、うちの宿六にやらせばよかったかも。

あいつ、いま仕事がないから」


ゆり「でも、亭主に浮気したらどうなるか、

言ってやれたのはよかったわ」


池田「養子はつらいよ」


ゆり「さあ行くわよ。じゃあ、また会いましょう女王様」


 歩き始めたゆりの後を池田が追いかけていった。


レポーター「あなたのご意見は?」


朱美「亭主を甘やかしたらダメっていうことよ。

甘やかしたらすぐに図に乗って浮気を始めるんだから。

金は与えない。

その日の行動は、必ず2時間おきに報告させる。

携帯電話は毎日必ず私のチェックを受ける。

夜は徹底的に奉仕させて、余分な精力を持たせない。

ちょっとでも違反したら、ムチでお仕置きをする。

こんなところね。

(らっきょに)ちゃんと聞いたろうな」


らっきょ「言っとくけど、毎日のお勤めはもうそろそろ

限界だぜ」


朱美「甘ったれるんじゃないよ。

毎日にんにく食わしているだろう」


 朱美が背中で泣き出した赤ん坊をあやしながら、らっきょを

 引きずっていった。


清水「早苗、お父さん、今から帰ってお母さんに謝ってくるよ。

でも、お母さん許してくれるかな」


早苗「心から反省してあやまれば許してくれると思うわ。

強がっているけど、なんとなく寂しそうだし、本当は

陰で泣いているんだと思うわ。

時々目が真っ赤になっているもの。

お父さんが謝ってくるのをじっと待っているのよ」


清水「ありがとう。じゃあ、行ってくる」


早苗「がんばってね」


 清水が駆け出していった。


レポーター「あなた方はまだ結婚していないの?」


杉村「結婚しそうになったことはあったけど、

なにか行き違っちゃて」


早苗「わたし、ずっと誤解していたみたい」


杉村「あの時、結婚するのは君しかいないと言った

気持ちはまだ変わってないんだ」


早苗「でも、ここにいたご夫婦を見ていると、

みんな喧嘩ばかりしているから・・・・

なんか、結婚に不安を感じちゃうわ」


杉村「そりゃ、人間二人集まれば誰だって喧嘩するのさ。

親子だって。

兄弟だって。

親友同士だって。

恋人同士だって。

夫婦だって、みんな喧嘩するのさ。

人間に自我がある以上、むしろ喧嘩しない

ほうが多分おかしいんだ」


早苗「そうかしら、喧嘩したら別れること

にならない」


杉村「だから、問題はその喧嘩が仲直りできる

ものでなくてはならないんだ。

喧嘩の中にもルールがある。

徹底的に相手をやっつけない。

喧嘩にも思いやりが必要なんだ。

そのルールさえ守れば、喧嘩だって長い夫婦

生活のスパイスになると思うんだ。

そうすれば、喧嘩するほど仲がよいという

楽しい関係になれるだろう」


早苗「わたしたちも、そんな風になれるかしら」


杉村「われわれは、何かする前に考えすぎてしまうのが

欠点なんだ。

心配ばかりして、それで結婚に踏み切れない。

まず、最初にパーフェクトな相手を求めてしまう。

そんな相手なんかまずいないと考えたほうが良い」


早苗「私なんかとてもパーフェクトとはいえないわ。

もし、そう思われてたらとても恐くて結婚できないわ」


杉村「俺なんか、欠点だらけだからとても無理だ。

だから、お互いに60%ぐらいよければ、満足すべきなんだ。

あとの40%は結婚してからお互いに育てていけばいい。

子供がそうかもしれない。

家を持って努力するのがそうかもしれない。

それは、結婚する前にはだれにも判らないんだ」


早苗「たしかに、結婚する前にうまくいかない理由ばかり

考えても仕方がないわね」


レポーター「結婚する前はね、この男と結婚しても

うまくいくだろうか、立派な芸人になって稼ぐだろうか。

今は良くても、将来駄目になるんじゃないだろうか。

浮気ばかりするんじゃないだろうか。

デブになるんじゃないだろうか。

ハゲになるんじゃないだろうか。

頭の悪い子が生まれるんじゃないだろうか。

なんて、何百回も考えるのよ。

結婚寸前まで結婚しようか止めようか迷いに迷うの」


早苗「そしたらどうやって決心したの」


レポーター「だから、思い切って結婚式場を決めて、

招待状を出しちゃったの。

そうしたらもう後戻りが出来ないでしょう。

で目をつぶって結婚しても、はじめはいいの。

ああ、自分の選択は間違っていなかったと思う。

でもしばらくすると、そのうち相手の悪いところや

自分の考えや趣味が違うところが見えてくる。

でも、もって生まれた性格も育った環境も違った

同士が結婚するんだから、完全に意見が一致する

なんてありえないのよ。

だから、一旦結婚したら忍耐と寛容と

多少の我慢が必要なのよ」


早苗「妥協するということね」


レポーター「もちろん妥協すべきじゃないという人も居るわ。

でも、そういう人は、理想の相手を求めて生涯独身を通すか、

結婚離婚を何回も繰り返して、最後には、結局同じだったな

と思うんじゃないかしら。

でも、もちろんこれは極端な例よ。

あなた方だったら、絶対とはいえないけれど、多分うまくいくと

思うわ」


早苗「有難うございます。

合コンにもいろいろ参加したけど、この人以上の人には、

会えなかったんです。

だから、別れてもずっと後悔していたんだけど、こんな

ところでこんな風に会えるなんて運命的なものを

感じるわ」


杉村「俺も、君以外の人と結婚することはとても考えられなかった。

だから、ここでこんな風に話せるなんて、君と赤い糸で繋がっていた

としか考えられないよ」


 レポーターとカメラマンは、TV局のバンに乗って去っていった。


 そこには、もう杉村と早苗の二人しか残っていなかった。


早苗「この2年間、あなたのことばかり考えていたの。

結婚相手は君しかいないと言ってくれたときに、

なぜ、あなたの胸に率直に飛び込まなかったのかしらと

本当は心から愛していたのに。

わたしは、それほど愛していませんよ、

でも、あなたがそんなにいうなら、結婚してあげてもいいですよといった、

ポーズを何故とったのか、よく判らないの。

私って、本当に正直じゃないのね。

これからは、自分の心をありのままに表したいと思ってる。

それで、すこしは夫婦喧嘩してもお互いがうわべを取り繕って、

仮面をかぶっているよりも、もっとお互いが理解できるし、

それが、本当の夫婦じゃないかしら。

だって、ここに居た夫婦の方って、一見喧嘩しているように

みえるけれども、とても仲が良さそうなんですもの。

すこし変わった夫婦ばかりだったけれども、みんなすてきな

ご夫婦だったわ」


杉村「2年前にプロポーズした時の答えをまだ

貰ってないんだけれど、ここで、返事をもらえないだろうか」


早苗「もう言ってるじゃないの。あなたって本当にグズなんだから」


 月明かりの下で、早苗と杉村はしっかり抱き合うとキスをした。



エピローグ


 村田にとっては、散々な一日だった。


 だが、村田が彩夏に土下座してあやまると、彩夏も

 すぐに許してくれた。

 そして、美香のことを話すと、胸に抱いてやさしく甘やかしてくれた。


 今後は、裏の田中夫妻に悩まされることはないだろう。


                            了


 




























 

 

 









 



 










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