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第2章(3)

 黒服の紳士、村田、田中夫妻が

台所のドアと1階の窓ガラスの

戸締りを調査して、玄関のところ

まで戻ってきた。


 黒服の紳士「村田さん、

感心しましたよ。

台所のドアにも、錠が下りていました。

ただ、ポリバケツの下にカギが隠して

あるのが、すぐ分かりましたがね。

たぶん、カギを落とした場合の用心

なのでしょうが。

プロからはすぐ見破られてしまいますよ。

でも、玄関と同様にチェーンがかかって

いたのは、さすがでしたよ。

窓も、全ての窓がきちっと戸締りされて

いましたし、カーテンが閉められて

外からは覗けないようになっていました。

隙がありませんね。

ただ、カギがかかっていればいいという

わけではありません。

窓ガラスを壊して、空き巣に入るケース

が最近多くなってきています。

それを防ぐには、ガラスに防犯シートを

貼っておく必要があるのです。

村田さんの家は、貼ってありますか」


村田「家では、まだ貼っていません。

早速貼るようにしましょう」


黒服の紳士「田中さんの家はどうですか」


好子「あなた、うちはどうなの」


田中「俺は貼っていないよ」


好子「能天気だから、してるわけ

ないわね」


田中「自分じゃ、窓にカギをかけずに

出かけるくせに。

俺のことばかり言うなよ」


高橋「今の話を聞いている限り、

窓ガラスを壊さない限り、家に

入る方法はないということですか」


村田「窓ガラスを勝手に壊して

もらったら困りますよ。

ローンもまだたっぷり残って

いるのですから。

そんなことより、ただ妻を起こせば

いいだけの話ですから」


好子「問題は、奥さんが起きて

くるかどうかよ。

ただ、寝ているだけだったら

何の問題もないと思うんだけど。

心配してるのは、もう起きられない

状況になっているんじゃないか

ということよ」


田中「そうだ。一刻も早く、

家に入って助けださなければ

手遅れになるかもしれない」


村田「なにをそんなに

大げさに考えているんです。

たいしたことじゃありませんよ」


好子「窓ガラスを壊さないで

家に入る方法はないんですか」


黒服の紳士「専門家を見くびって

もらってはこまりますよ。

いや、実はね。専門家から見れば

チェーンなんてはずすのは、

おちゃのこさいさいなんですよ」


 黒服の紳士は、おもむろに黒服の

内側から、先が釣り針のように

曲がった針金を取り出した。

  

 そこに、駅前の交番に勤務する

制服を着た巡査が、自転車で通り

かかった。

そして、人が集まっているのを見て

信子に話しかけた。


巡査「どうしたんですか」


信子「村田さんが、家に入れない

んです。奥様が、ドアにチェーン

をかけたまま眠ってしまったん

ですって」


巡査「最近、空き巣や子供への

虐待や夫婦間の殺傷事件が多いので

パトロールしているのですが、

さっそく調べてみましょう」


 巡査は、自転車を置くと、玄関に

向かって歩いていった。


 黒服の紳士が、チェーンにはりがねの

フックをかけて引き上げていると、

巡査が後ろから覗き込んだ。


巡査「なにをしているのですか」


 黒服の紳士は、後ろを振り向いて

声の主が巡査と分かると、仰天して、

すばやく針金を隠して言った。


黒服の紳士「村田さんに、チェーン

をはずして欲しいと頼まれたので、

いろいろ努力しているんですが、

ド素人なものですから出来そうに

ありません」


巡査「村田さんは、どなたですか」


村田「私ですが」


巡査「どういういきさつなのか

説明してもらえませんか」


村田「私は、6時過ぎに一旦家に

帰ったのですが、妻が今日は食事を

用意していないと言うものですから、

ソバ屋で食事をして帰ってくると、

玄関にチェーンがかかっていたんです。

ドアが開けられず、家に入れないもの

ですからドアの隙間から

『開けてくれ』と妻に頼んでた

だけなんです」


田中「うちは、村田さんの隣の

家なんですが、村田さんが会社

から帰られるとすぐに、奥さんが

叫ぶ声が聞こえたものですから、

夫婦喧嘩なら仲裁しようと

思いまして、玄関まで来たん

です」


好子「奥様が、しきりに

ドスケベとか変態とか色キチガイ

とか叫んでいましたので、まあ、

村田さんが浮気して、奥様が

怒っているのかなと思いました。

私も亭主の浮気で泣かされたこと

があるので、すぐにぴんときたん

です」


田中「誤解だといってるだろう。

お前もしつこいな」


好子「それじゃ、ここで全部

ばらしもいいの」


巡査「お二人のことはさておいて、

ここで起こったことだけに限定して

話していただけませんか」


田中「ここに来てみたら、村田さんが

出かけるところでした」


好子「そしたら、奥様が村田さんを

追いかけて出てきたんです。

それが、片方の足が倍くらいに赤く

膨らんで、びっこをひきひき、やっと

歩けるような状態で出てきたんですよ」


田中「額からは、血がどくどく

と噴出していて、顔中もう真っ赤

でした。

私は、ひどい交通事故にあった

被害者を見たこともありますが、

それより数倍は悲惨な感じでしたよ」


好子「そして奥様が叫んだんですよ。

『あなたに身も心もずたずたに切り

裂かれたわ。もう死んで化けて

出てやる』って、あれこそ、最後の

断末魔というんじゃないでしょうか」


村田「そんなに大げさに言わないで

くださいよ。何も知らないくせに」


田中「でも、その後、村田さんは、

脱兎のごとく逃げだしたじゃ

ありませんか。

たいしたことじゃないなら、

なぜ逃げ出したりしたんですか」


村田「彩夏が怒っていて、

怖かったからですよ」


巡査「村田さん、浮気がばれて、

奥さんに何をしたんですか」


村田「なにもしてませんよ」


巡査「あなたの顔にすごいミミズ腫れ

があって、顔中血だらけだし、

ワイシャツの胸にも返り血を浴びた

ような血痕がついているじゃありませんか」


村田「顔の傷は、妻とは関係ありません。

ワイシャツが赤いのは、紅しょうがの

汁がこぼれたんです」


巡査「そんな、みえすいた嘘をついて、

警察をだませると思っているんですか」


村田「だって、本当だから仕方ない

じゃないですか」


巡査「ここに証人がいるんですよ。

奥さんが、二倍に膨れ上がった

足をひきずりながら出てきて、顔中を

血だらけにしながら、『あなたに

切り裂かれた』って、悲鳴を上げ

ながら助けを呼んでいたと証言

されているんですから」


村田「私は、さっきから何も

してませんと言ってるじゃ

ないですか。

すべて、あいつが勝手に自分で

やったことなんですよ」


巡査「それじゃなんですか。

自分で包丁かナイフを使って、

自分の顔を切り裂いたとでも

いいたいわけですか」


村田「それは、私には

何故だかわかりませんよ」


巡査「足の怪我も自分でやった

というのですか」


村田「多分そうですよ。

だって、私はないもしていないん

ですから」


田中「村田さんは、奥さんが寝てる

といいましたが、あんな状態で

寝ていられるわけがないんじゃ

ないですか。

すこしおかしいですよ」


好子「それに、電話をかけても

でてこないんですよ。

きっと、暴行を受けたあと、

チェーンをかけて、村田さんが

入ってこれないようにして、

その後、気を失って倒れたんじゃ

ないでしょうか。

だって、こんなに皆が騒いで

いるのに出てこないというのは、

どう考えてもおかしいですよ」


田中「おいおい、勝手な推測を

するなよ。

もしかしたら、死んでいる

かもしれないんだぞ」


高橋「ほら、あそこにゴルフ

バッグが置いてあるでしょう。

訊いたら、ゴルフの練習を

するつもりで出してあると

言われたんですよ」


信子「へんはへんね。

こんなに暗くなって、道路で

練習するなんて」


好子「あのゴルフクラブで

足をぶったり、顔をたたいたり

したのかもしれませんよ」


田中「そして、犯人は証拠を

隠滅しようとして、外に持ち出した」


高橋「クラブが凶器じゃ、貰うのは

むりかな」


村田「皆さん、いいかげんな

ことを言わないでください。

それじゃ、まるで私が彩夏を

殺した殺人犯みたいじゃ

ありませんか」


巡査「なに、妻を殺したことを

認めるのか」


村田「あなた方は彩夏のことを

知らないんだ。私が彩夏を殺す

前に、彩夏が私を殺していますよ」


巡査「恐ろしいほど大胆な発言だな。

夫婦で殺し合いをして、双方が

体中血だらけになっている。

どちらが生き残るか。

まさにサバイバルゲームだ。

こんな、すごい事件ははじめてだ」


田中「あれ、今まで気が付かなかった

けどここに血がついたハンカチ

が落ちてますよ」


巡査「それは、証拠物件ですから

触らないようにしてください。

ヤヤヤ、玄関の前の黒いシミは、

血痕のようにみえるな。

皆さん、少し下がって、

血痕を踏まないようにして

ください」


 巡査が、玄関前から皆を道路まで

さがらせた。


巡査「いま、殺人担当の刑事と

鑑識と救急車を呼びますから」


 巡査は、ポケットから携帯を

取り出すとどこかに電話をかけた。


巡査「・・・町三丁目二十六番地

なんですが。殺人事件発生です。

大至急、担当刑事と鑑識をよこして

ください。

それから、救急車もお願いします」


村田「そんなに大げさにしないで

くださいよ。

たいしたことではありませんよ。

単なる夫婦喧嘩ですから」


巡査「動機は、夫婦喧嘩のもつれ

ということは、認めるわけだな」


村田「もう一度電話して、

早く開けろといいますよ。

それで、一件落着ですから」


 村田は、ポケットから携帯電話を

取り出すと、家に電話をかけた。

家から、呼び出しの電子音が外まで

漏れてくるが誰もでない。


巡査「出てこないじゃないか。

単なる怪我ぐらいだったら、電話に

でられるはずだろう。

また、重症でも、大声で助けを呼ぶ

ことは、できるはずだ。

まったく反応がないということは、

死亡しているとしか考えられな」


村田「確かにおかしいな。

なぜ、電話に出ないんだろう」


田中「あれだけ大量の血が出て

いたら出血多量の可能性が

ありますよ」


巡査「人体の血液の三分の一が

失血すると死ぬんです。

逃亡しないように、手錠を

かけるからね」


 巡査が、村田の両手に手錠を

かけた。


続く
























 









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