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夏祭り

はっきり言って、演技は悪くなかった。

普段母や妹の出演番組はある程度見ているため、それなりに見る目はあると思っている。

その目からしてもそこそこの演技ができてるのだから、失敗ではないだろう。


あれほど練習したおかげかその演技に男らしさは出ていない。

むしろ貞淑(ていしゅく)な女性が表現されていると思う。


妹も客観的に見て「大丈夫。」だと葵を安心させるように微笑(ほほえ)んだ。



そして、エンディングのスタッフロールに「片瀬 葵」の文字を見て、夕日ははしゃいでいた。






そんなこんなで、兄妹で出演番組を鑑賞した翌日以降から夏休みにもかかわらず部活に参加した。


声あてが終わると、買ってきた3000枚のDVDにデータを焼き始め、それと同時並行して出展の為の準備を始めた。


葵はそういえばと思い、部員達にどこで出展するのかを聞いた。


「「「コミックマーケットだ!」」」


答えが返ってきたのはコミックマーケットなるイベントで、どうやら同人作品等を大規模出展するイベントらしい。


3年生達が3年の夏を盛大な思い出にしたいとして、出展手続きをしていたものの、自身の身から出たさびによってお勉強の夏となり、そのお鉢が1年に回ってきたらしい。


そんなんでいいのかよ3年生。


「葵、お前売り子も頼むぞ。」


そう言ってまたさりげなく仕事を頼んできたのは久だった。


「え?搬入だけじゃないの?」

「売り子の1人に女子を起用したかったんだが、香山先輩は3年生で頼み辛かったんだ……。」

「いや、なんでそれで俺になるんだよ。」

「それはだな……。」


と言って、近くの紙袋を手につかみ、がさがさと中身を取り出した。


「これを着てもらいたいからだ。」


と、差し出されたのは、西洋の給仕服(きゅうじふく)つまりはメイド服なるものだった。


それを見て片手で久に押しやると葵は「がんばってね、久。」と無理矢理事態の解決を図った。


「いやいや無理無理。この中で一番似合いそうなのは葵だろ。」

「だからって、俺にそんなもん着せるな!」

「大丈夫だ!基本参加する女性は皆こんなもんだ。」


ひらひらとメイド服を片手に、誤った情報を葵に植え付ける久。

もちろんそれでも葵は納得しない。


「だから俺は男だっていってるだろ!!」

「グラフィック担当の瀬山 久が命ずる。このメイド服を着て売り子をしろ!」

「だが、断る。」


結局、部員達の「入部したのに全く来ない罰ゲームだと思え。」との一言で葵はしぶしぶメイド服を着て売り子をする破目(はめ)になった。






8月に入り、そろそろお盆となった頃、葵達パソコン部はビックサイトに集結していた。


そう、コミックマーケット出展日である。


搬入のために集まった葵達はパソコン部OBが運んでくれた荷物を下ろす作業から始まった。


早朝から既にたくさんの人が並んでおり、同じく出展サークルの人たちも荷物の搬入を行っていた。



そんな中、葵達は目立っていた。

正確に言うと、葵が目立っていた。


「なんで、メイド服で集合なんだよ。ふざけるな。」


葵だけ既にメイド服なのである。

亜麻(あま)色のロングヘアーのウイッグに、葵が念のためにもってきた変装用赤フレームメガネ、

そして、紺色と白色の対比が似合うメイド服である。


これにはきちんと訳があって、コスプレ用の部屋が設けられているのだが、

性別が男な葵が女装をして男性用更衣室から出た場合、一悶着(ひともんちゃく)起こりそうだったからである。

それほど、葵は不自然じゃなかった。

いや、むしろ女性役としてドラマに出演している時点で、既に葵の女装は完璧だった。


これを見た部員も最初は言葉を一つも発せないほど硬直(こうちゃく)したほどである。

まさか、ノリで勧めたメイド服がここまで似合っているとは(つゆ)ほども思っていなかっただろう。


そんな訳で、葵は今日一日ずっとメイド服である。

一応、休憩時間も与えられているが、その間もこの姿で過ごさないといけないため葵は既に始まってもいないのにはやくも(うつ)モードである。


そんな姿を見て部員達は腹を抱えて笑い、葵にしこたま足蹴(あしげ)にされるのだった。







「あのー。写真いいですか?」


一般参加入場開始から2時間、カメラと荷物を抱えながらこのようなことを依頼する男性がたくさん出展ブースを訪れる。


部員達もそのほとんどがどこか見学に行っていおり、売り子は葵と久しかおらず、久は葵に会計等もまかせ、後ろで荷物整理を行っているためか頻繁(ひんぱん)に声をかけられている。


「お断りです。」

葵はにこやかにお断りし、内心はどす黒い感情が満たされていた。

ただ、言葉の節々(ふしぶし)からはすでに黒い感情が(あふ)れており、久もそろそろどうにか葵を休ませないとなとビクビクしていた。


そんな状態がしばらく続いたが、部員が2人帰ってきたので、しばらく出展ブースを任せ、葵と久は休憩に入った。


売り子交代を告げられた部員二人は「あらあら。楽しかったですか?」と猫撫で声で黒い笑みを浮かべた葵に詰問(きつもん)され、必死に謝ることになった。


ちなみに、晃が帰って来たのは終了時刻10分前で、休憩から戻ってきた葵は、さらに手に負えなくなっていたのは余談である。


さて、そんな訳で(つか)の間の休息を得られた葵は久とともに会場内をうろつくことにした。


ただ、途中途中でカメラ以下略の男に写真をねだられ、それを冷淡(れいたん)に返答しながらではあるが。



と、新しいエリアに入った所で、見たのはなにかのトークショウだった。

人が組みたてられたステージを見上げながら歓声をあげている。


「久、なにあれ?」

「ん?あれか?たぶんアニメかなにかの宣伝のイベントじゃないか?」

「アニメ?ということは、あのステージに立ってる人って声優?」

「そうだろうな。」


葵が興味を示し、トークショウを見始めたので久も隣で観覧することにした。


葵が興味を持った理由はもちろん次の仕事のことであった。


テレビアニメに声を吹き込む声優という職業。

くしくもそんな業界のオーディションを受けることになった葵にとって、声優とはどんな資質が必要なのかを生で見て、聞いて判断する格好のチャンスであった。


葵はそのイベントが終わるまでそのステージに立つ人達から目を()らさなかった。

今回も長くなりました。

そして、ちょっとネタが入ってます。


お寿司じゃありませんが。

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