平日と台本
話を了承した葵はその日を呆然としながら過ごした。
昼休みになっても呆然としている葵の姿に葵の友人達は一様に不思議そうな顔をした。
また、放課後になっても席を立とうとしない葵を見たクラスメイトは、皆しばらく注視していたくらいだ。
葵の友人達はとりあえず今日の部活の予定を取りやめ、葵をゲームセンターへ連れ出した。
それでも、葵はレースゲームでランキング上位を叩きだしながらも心ここに有らずで、より一層友人達は頭を悩ませた。
そんな日々が3日経った頃、葵のもとに1冊の本が届いた。
そう、ドラマの台本である。
ちなみに、台本はまだ追加されるらしい。
これにより現実味が増したのか、葵は半ばあきらめつつも妹の夕日とともに台本を読み始めた。
とりあえずは、適正を見るために監督や脚本、演出等のスタッフの前で披露という予定である。
それまでに台本や演技を覚える必要があった。
「葵、お前なんか最近呆けたり、疲れてそうになったり何があったんだ?」
昼休み、昼食を友人達と取っているとその中の1人、瀬山 久が葵に質問してきた。
もちろんテレビドラマの役者の練習だとは言えない。
「あ~、えっと。まぁ、気にするな。」
としか、ごまかせない自分の演技力は未熟の一言に限るだろう。
やはり友人達は疑惑の眼差しを向けながら、ひとまずは引き下がる。
その日の会話もそぞろくなり、頭の中は台本のことで占められていた。
台本をおさらいしよう。
俺が演じる基本的な役と演出時間、ストーリーを説明すると、中学校を舞台とした学園ドラマで、夕日演じる三島 愛役の姉、三島 華役を演じる。
だいたい第4話のシーン6に4分、シーン7に30秒、第6話のシーン11に1分、シーン13に3分、第9話のシーン12から15までの8分、そして最終話となる第12話のラストシーンに3分というところが出演時間である。
また、セリフがない出演時間を数えると3シーン増える。
基本的なストーリーとしては、姉妹仲がもつれておりながらも妹つまり三島 愛を大切に思っている姉の三島 華はある日、愛とその友人の相談話を盗み聞いてしまう。その相談話とは最近愛にストーカーが出来たというものだった。
華は愛をストーカーから護るため、愛に変装しストーカーを呼び出す作戦を決行する。
しかし、ストーカーは愛ではないことを知ると、持っていた刃物で刺してしまう。
刺された華はしばらく昏睡状態となり、ラストは目覚めて仲の良い姉妹に戻る。
といった話である。
セリフがあるシーンは愛との会話シーンと独り言のシーン、ストーカーとの会話シーンで、
セリフがないシーンは基本的に愛を見ているシーンや病院で昏睡状態になっているシーンである。
という具合に重要なキャラを演じることになる。
これはちょい役どころではない。むしろ、プロの女優を起用するべきだ。
「お兄ちゃんなら大丈夫!できるよー。」と、妹はニコニコしながら言うのだが、当の本人にとっては不安で仕方がない。
あと3日。
そう差し迫った葵は妹の部屋を訪れた。
「夕日、ドラマの練習頼めないか?」
そう、プロ街道を進む妹にアドバイスを求めるためである。
「いいよ!じゃあ、この会話のシーンやってみようか。」
「助かる。そういえば、夕日は第1話からなんだろ?」
「当り前だよー。一応これでも主演ですから!」
「じゃあ、第1話からの練習も大事なんだろ?すまんな。」
「大丈夫!もうだいたい覚えたから。それにお父さんも言ってたでしょ?お兄ちゃん受からないと私まで降ろされる可能性あるんだからね。協力も惜しまないよ!」
そういえば、父さんがそんなことも言っていたな。
それにしても不思議な話である。いちいち主演を交代なんてクランクインも遅くなったり不都合しか生じない気がするのだが……。
「ね?一緒にガンバロー。」
妹の励ましを受け、さっそく演技を始めることになった。
とりあえず、受かればいいんだ。受かれば。
こうして、3日間妹のスパルタ特訓が始まった。
やはり、展開が早いなぁ……。
もう少し友人との絡みを増やしたい。