普通のごく普通の青春
高校3年目。
この年になると大学受験やら就活やらで色々と忙しくなる。
つい1年前までは馬鹿してへらへらしていたというのに。
時が経つのは早いものだ。
あと3年くらいは先延ばしにしたい。就活も受験もめんどくさい。かといって、ニートになるわけにもいかないわけで。
まあ、実は普通に大学にいくとすでに決めてあるから問題はない。
問題は受かるかどうかなのだが。
俺の頭で入るにはなかなかレベルの高い大学だから入れるか心配。3年間、ろくに勉強もせずに毎日部活に明け暮れていた日々だったからなぁ。
ちなみに所属していた部活はテニス部。軟式ではなく硬式のほうの。
中学時代にもテニスをやっていたし、高校で他に入りたい部活もなかったから入った。
高校になるとなかなかどうして。レベルが1段階ほどあがる。結構充実した。
しかし、充実と言えば他に充実したいこともあったわけで、それは、まあ、つまるところ。
恋愛をしたことがない。
年齢=彼女いない暦のこの俺。
お前なら作ろうと思えばいつでも作れるだろう。と友達に言われたことはあるのだけれども、いまいち自分の顔に自信が持てない。
それに、女子を目の前にすると無駄に緊張して頭の中が真っ白になる。まるで白銀の雪景色のごとく真っ白になる。
そんな脳内雪景色を作り出してしまう性格(?)のせいで俺は今までまともに女の子と話したことがない。せっかく話しかけられてもそっけない態度で接してしまう。こないだなんかも
「おはよう!!!」
「ん」
「んもう!!岸田君は冷たいなぁ!!」
「ん。ごめん」
「・・・え、と・・・じゃあ!またね!」
といった感じだ。ちなみに今日の朝。俺が教室に入った時にクラスの活発な女の子から挨拶された。
正直、まあ嬉しかったのだけど、やっぱり緊張してしまい自滅した。
この調子じゃ彼女どころか友達も作れないのではないだろうか。
軽く心配になる。
ちなみに岸田君とは俺の名前。
さて、今なぜ急に女の子の話を始めたかというと、別に部活の話から発展したわけではなく、もともとこの話をしようと思っていたのだ。
そう、なんかよくわからんが明日、別のクラスの女子と動物園?かなにかに行くらしい。
話があったのは放課後のこと。
隣のクラスの中学の頃からの親友、荻原がやってきた。
「おーい岸田ー!いるかー!」
「目の前にいるじゃねえか。耳がキンキンするから黙れ」
「おお、すまねえ。えっと・・・お前誰だっけ」
「つっこまねえからな」
「ええ~なんだよノリワリいなぁ!」
「どうでもいいだろ。てかなんだよ急に」
荻原はいつもこの調子だ。大して面白くもないギャグをしょっちゅう放つような奴で、しかも毎回新しいギャグを披露してくる。一体どこからそんなにアイデアが湧き出てくるのかと聞いてみたところ
「台所」
荻原は台所でアイデアを生産していた。
とにかく何がいいたいかというと、煩い。
「どうでもいいとは酷いな!これでも俺は毎日風呂場でギャグを生産しているというのに!」
「台所じゃなかったのかよ」
「あ・・・・。まあいいじゃねえか!気にすんなよ!」
「別に気にしてねえよ。で、いい加減用件話せよ。もうめんどくせえよこのやり取り」
「うんそうだな!俺もそう思ってた。さすが岸田だ!」
なぜだろう。
ほめられたのにあまり嬉しくない。
「で、そうそう、用件ね。はいはい。まったく、そんなあせんなって~急がなくたって俺は帰らないぜ?」
「なら俺が帰ろう。じゃあな」
「のわー!!ちょちょちょ!!ゴメン!嘘だって!冗談!マジで帰んなよ!」
制服を引っ張りながら言われても。というか伸びる。
「あーわかったよ。てか俺も冗談だっつの」
「なんだよ冗談かよ。まあわかってたけどな!」
「そうだよな。わかってたよな。じゃあな」
「あああああ!!!だから待って!!!」
みたいなやり取りを5分ほど続けた後
「明日俺のクラスの桜井さんとお前のクラスの赤坂さんとで動物園行くから」
「ふーん」
「で。お前もそのうちに含まれてるから」
「・・・え?」
「じゃあ!そういうことだから!どうせ明日暇だろ!お前部活もう引退してるし!じゃあ朝の8時にお前んちに迎えに行くから!じゃあな!!!」
それだけ言うと荻原は走り去っていった。
アイツはいつも断られたくないときは用件だけを言い、相手の答えを一切聞かずにさっさと帰ってしまう奴だ。
NOは受け付けないらしい。なかなかマイペース。悪く言えば自己中。
でもそういうところも含めてあいつのことは嫌いになれない。
それくらいで嫌っていたら今頃親友なんてやっていないだろう。
とまあこういうことで、俺は明日隣のクラスの桜井?さんと同じクラスの赤坂さんと動物園に行かなければならないらしい。
赤坂さんは同じクラスではあるがあまり話したことはない。というかむしろ話したことはない。
赤坂さんの放つ独特なオーラが俺を近づかせてはくれないのだ。
赤坂さんは100点満点で言うところのまさに満点の100点の顔立ち。
それに加えてクールなキャラで成績も優秀。さらには運動までもできてしまうパーフェクトガール。
そんなこともあってかクラスの男子からはもちろん、同学年の3年生から1年生の思春期な男の子からは絶大な支持を受けている。
告白された数はいざしれず。
しかしいままで赤坂さんは誰とも付き合ったことがないらしい。
結構意外だった。
赤坂さんのことだしイケメンからも告白されている回数は多いはずなのだが、それでも告白をOKしたことはないらしい。
小学校から赤坂さんを知っている奴に話を聞くと
「ああ、赤坂ね~あいつ彼氏作ったことねえんだわ。意外だよなぁ。告白されまくってるのに毎回ごめんなさいなんだよなぁ。あ。そういえばよ、中学までは断る時ただごめんなさいだけ言って振ってたらしいのに高校入ってからは好きな人がいるのでって断り方に変わってるんだぜ!?ってことはあれだよな、高校で好きな人できちゃったってことだよな!赤坂の好きな奴ってだれだ!?かなり気になるぜ・・・ウッシッシ」
どうやら好きな人がいるらしい。
まあ好きな人がいることを知ったところでどうってこともないのだけれども。
ただあれだ。うん。
俺も少し赤坂さんに憧れていた面もあったわけだし、ショックでないかといわれてみればそれはショック。
どのくらいショックかというとまずPCを地面にたたきつけてマッチで家に火をつけ一気に燃やして発狂してうひょひょひょいするくらいのレベルだから全然大丈夫。
そこまでショックじゃない。
実はそれを知ったときベッドの中で三日三晩枕をぬらしていたことなんて口が裂けてもいえないのだけども。
赤坂さんについて知っていることはこのくらい。
桜井さんのことはよく知ないが、しょっちゅう赤坂さんに引っ付いている。
時には赤坂さんにのっかかり、時には赤坂さんと腕を組んだり。
まったく、なにがしたいんだか(羨ましい限りでございます)
赤坂さんと大の仲良しだということしか知らない。
あと荻原の思い人だということくらいしかしらない。
うん。
この二つがわかれば結構なことがわかる。
まず、今回の動物園。
明らかに桜井さんを狙いにいってる。
桜井さんは100点満点中87点くらいで結構可愛い。
赤坂さんが美人なら桜井さんは可愛いタイプ。
赤坂さんと違い全然クールじゃない。
いつも煩いと評判の桜井さん。
正直苦手の部類だけどあの人に対してはなぜかまったく緊張しない。
こないだも話しかけられても
「おっはよーそこの知らない人!!!」
「え・・・あ。うん。ういっす」
ほらね。
完璧でしょう!
うん。
まあだめだってことはわかってたんだけどさ。
それでも人間は背伸びをしたがるんだよ。
よくわからないことをぶつぶつと脳内でつぶやきながら校門をくぐる。
なぜ脳内でぶつぶつ言っていたかというと単純に言葉にだしてしゃべると変人になってしまうから。
「おや!?これはこれは!キー君じゃないか!」
テンションマックスでアゲポヨダッシュで飛んできたのは先ほど脳内説明した桜井さん。
「あ、ども。てかキー君ってなんだよ」
「キー君はキー君だよ!岸田のキー君!ほら!マー君みたいでしょ!」
「うん。よくわからない」
「ところでキー君!キー君も明日動物園行くんだよね!」
そうだった。
すっかり動物園の存在を忘れてしまうところだった。
なんていわない。
せっかく赤坂さんと学校以外であうことができる最大のビッグチャンスなのだ。
忘れるわけがない。
さっきまでは強がっていかにも動物園にいくのがめんどくさいような態度を取っていた俺だが、実は結構楽しみにしている。
でもそれを知られたくない。
難しい年頃。
「ん、ああ、そうだな」
あえてそっけなく。
「う~キー君そっけないぞ☆まったく!中学校からの付き合いだって言うのに!」
「いや嘘だよね。俺桜井さんと会ったの高校からだしそれに会話したのも今回でまだ3回目」
「へぇ!!そうなんだ!キー君数えてくれてんの!もう!照れ屋さんなんだからぁ!」
数えるも何もまだ数えるほどしか会話していないのにこんなになれなれしくしてこないだろう普通はという意味をこめて言った「3回目」だったのに見事にスルーされた。
「ところでキー君は明日動物園に行くのかい?」
この人は何を聞いていたんだろう。
というかもう知ってるだろう。
ついさっきその話してたじゃねえか。
「つっこまねえよ」
「もう!キー君のえっち~」
「わけがわからないよ」
桜井さんと話していると自分がなんの話をしていたのかを忘れる。
何の話をしてたんだっけ。
あれ?ちょっとまって今思い出すから。
必死に頭の中を検索する。
「よし!!わかったぞ。そうだ。桜井さんの下着の色についての話題だったんだ」
「え!!そうだったの!そうだったのか!!よしわかった!今日の私の下着の色はしましまパンツさ!!!ちなみにブラはー」
「ちょ、たんま。マジでたんま。ブラまで言わなくていい。俺はパンツの色だけ知れればそれで十分。最高さ」
「はっはっは!どういたしまして!感謝してくれよ!!!」
どうしてだろう。
桜井さんといると自分の性格が変わってしまったようになる。
女子と話せないだなんて嘘じゃねえか。
というワケで今日から性格が変わりました
【女子と話すと緊張する男子】→【女子のパンツの色を聞く男子】
「ぱんぱかぱーん!!おめでとう!!!レベルアップしたね!!」
ぱちぱちぱちとあざとく手をたたきながら大口を開けてレベルアップ通告をしてくれる桜井さん。
レベルアップどころかむしろ下がった気がするのは俺だけなのだろうか。
「気のせいさ!!キー君は変態の称号を手に入れた!!」
「やったね!!すっげー嬉しくない!」
こんな感じで桜井さんは誰とでも昔からの友人のようにしゃべれてしまうという能力をもっている。
と思う。
現に女子の前では緊張してしまう俺でもこんなにしゃべれてるんだし。
「さてキー君!話を戻すけどさ!明日キー君も行くんだよね!」
「え?うん、まあ」
てか荻原から聞いてるだろ。
いちいち確認したくなる気持ちはわかるけどさ。
「そっかー、キー君もくるのか~キー君はぶっちゃけ必要ないんだけどな~」
キャハ☆と笑いながら心にグサッとくることをさらっと言われてパリーンと俺の中で何かが壊れた。
つまりショック。
「う、うるせえよ!俺だってそんないくつもりとかないしめんどくせえし」ごにょごにょ
「うへへぇ!冗談だってばぁ!!そんな落ち込まないでって!!本当キー君は可愛いなぁ!」
冗談だった。
冗談でも傷つくことはあるんだよ。傷ついたよ。
そして可愛いといわれても全然嬉しくない。
「よし、桜井さん、後でドーナツおごってあげよう!」
「あれれ?どうしたのかな!?キー君がいきなりそんなこと言い出すなんて。桜井さんびっくりさ!」
「存分に驚いていてください」
「うん!そうさせてもらおう!あっはっは!」
豪快に笑い飛ばす桜井さん。
桜井さんに笑顔をプラスすると120点にアップする。
ワオ。
「あ、そうだ!私この後用事があったんだ!すまんねキー君!そういうわけだから私はここでおさらばさせてもらうよ!またね!!」
「びゅーん」と効果音を自分で言いながら両手を大きく広げて去っていった。
ちなみに、本当に桜井さんのおかげか何か知らないけどこの日から女子に対してそんなに緊張しなくなっていた。
あの人は超能力でももっているのだろうか。
朝6時
チャイム音で目が覚める。
「おー!岸田!!ぐっどもーにん!!」
「何がぐっどもーにんだよ。こっちは朝っぱらからチャイムに起こされて不機嫌だっつの」
8時に迎えにくるんじゃなかったのかよ。
2時間はええよ。
「マジか!なんてやつだチャイムのやろう!!岸田を無理やり起こすなんて!とんだ悪党だな!よしまかせろ岸田!そんなやつ!俺がぶっ飛ばしてやるぜ!!」
「おお~本当か。それはありがたいな。じゃあ自分の顔でもぶっ飛ばしとけ。俺は寝るからな」
「ちょちょちょまって!!!ゴメン!冗談だから!」
このパターン。
「あーもううっせえな。大体今日親いたらどうしてたんだよ」
「大丈夫!心配ないさ!お前はよくある主人公のパターンで一人暮らしだから!!!」
ごめん普通に家族いるわ。
一人暮らしじゃねえわ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「え!?何!?急にどうしたの黙り込んじゃって!?俺まずいこといったか!?」
「いや・・・なんかさ。お前と桜井さんって本当お似合いだと思うよ」
「岸田!!!!!」
「なんだよ、煩いなぁ」
ついでに抱きつくな。
気持ち悪い。
「いやぁ岸田ならわかってくれると思ったよ!要するにあれだろ!?お前は俺が桜井さんとつりあうほどの顔立ちをしていると気づいたってことだろ!?いやぁ~ばれちまったか~俺のイケメンさに!!」
「オーケイ。自惚れんのもそこまでにしとけよ。もうすぐ俺の右ストレートを食らわせてやるからな。まっとけ」
「はっはっは!今の俺に怖いものなどなグハァ!!」
つい殴ってしまった。
ミスった。ごめん。
「いってえええええ!!!何しやがる!!」
「だからミスったって」
「ミスで右ストレート飛ばす奴がどこにいるんだよ!ああもう!今日はせっかく桜井さんと出かけられるチャンスだというのに!!」
「そりゃ残念だったな。動物園デートが病院デートになりそうだぜ」
「洒落にならないこというなよ!」
未だに左の頬をさすりながら反論してくる。
さすがに哀れになってきたし無理やり起こされたときのいらいらは取れたのでストレス発散はここまでにしといてやろう。
結局、8時までだらだらして気づけば時計は9時を回っていた。
どういうことだってばよ。
「「ほんっとうにごめんなさい!!!!!!」」
「そうだぞ。もっと心をこめて!!!!」
「「まことに申し訳ございませんでした!!」」
「よし!キー君だけ許す!!」
「やった!」
「え、ええ!?なんで岸田だけ!?」
「荻原はなんかむかつくから!!」
ガーンといった効果音が今にも流れてきそうな顔で崩れ落ちる荻原。
全身で「ガーン」を表現してやがる。
「そんな!ひどいぜ桜井!!俺泣いちゃうよ!!」
「泣け!そして死ね!」
「あれ!?酷い!俺にだけきつくない!?本当にきつくない!?」
「知るかそんなもん!後でお昼おごってくれたら許すなんて思ってるだけで言葉に出してないけどもしおごってくれたら許す!!!!」
「お昼おごるので許してください!!!!」
「よし!!!許す!!!!」
「どうでもいいけど早く行こうよ」
赤坂さんの一言で締めくくられた。
しかし、本当にお似合いだなあの二人。
仲がよろしいことで。
「仲よろしくないよ!」
「ひどいな!!!」
その後、ぶらぶらと動物園を回った。
本当に適当にぶらついただけだったので何があったかは明確には覚えてない。
正直、動物を見てもそんなに楽しくない。
一つ印象的だったのが、荻原が赤坂さんに必死に話しかけていることだった。
荻原はたしか桜井のことが好きだったはずなのだが。
他にも印象に残ったといえば桜井さんが異様にくっついてきたこと。
ことあるごとに体を密着させてくる。
正直、嬉しいのだけど荻原の前だし、なんかこう、恥ずかしいし。
くっつかれるたびに離れたのだけど「またまたぁ!キー君ったらぁ!照れなくてもいいのよ!」とまたくっついてくる。後半はもういいやと諦めた。
しかし女の子って良い匂いするのな。
シャンプーとか、そういう匂い。ふわっとして暖かくて、安心できるというか。
だからあれだ。うん。
桜井さんのせいで記憶に残らなかった。
桜井さんを堪能しすぎて動物園どころじゃなかったというところが本音なのだけど、誰にも言わないでおこうと思う。
朝。
非常に眠たい。
平日。
月曜日。
1週間の始まり。
「ああ、だるいなぁ」
ぽつりと独り言をつぶやきながらベッドから起き上がる。
そういえば今日は宿題が出ていたはずなのだが、完全に忘れていた。
桜井さんのせいだ。
まったく。どうしてくれよう桜井さん。
朝読書の時間にやれば間に合うかな。いや、うちの担任はそういうところうるさいからなぁ。諦めるかな。
「おにいちゃーん。ご飯だよー」
1階からとてとてと階段を上りながら朝食を採れと妹がせかす。
「んーわかった。ちょっとまって」
急いで服を着替え、顔を洗い食卓へ向かう。
母さんと父さんはもう仕事に出かけているようだった。
「今日のご飯は力いれてみましたー!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ステーキ。
わぁ!ステーキだ!すてーき!(素敵)
うん。
あれだよね。普通朝ごはんでだすものじゃないよねこれって。
胃にもたれるだろう。朝はもっとこう、簡単なものがいいというか。ブレックファーストにふさわしいものをというか。
「何言ってるの!朝はしっかりと栄養をとらなきゃいけないんだよ~」
「いやもう俺これ以上は身長いらねえや」
「もう、それは190cmいってる人のセリフでしょ~おにいちゃんはまだ178cmじゃん」
「うん、いやそうだけどなんで知ってるの。細かいね」
「さらに言えば178.3cmだよね。でもこないだちょっと身長伸びたね!」
「怖い!妹が怖い!これがヤンデレという奴か!!」
「大丈夫だよおにいちゃん。おにいちゃんは誰にも渡さない・・・邪魔になる女は全員排除してあげるからね・・・」
とりあえずその包丁を置こうか。
あと不適に微笑むのもやめてくれ。
「なんてうっそ~!そりゃあおにいちゃんのことは好きだけど流石に恋愛感情じゃないって。ちなみになんでこんなに身長について詳しく知っているかというと荻原さんに聞いたからでーす」
「ああ、なるほど。納得」
確かに毎日アイツと保健室前においてある身長測定するやつで身長計ってるしな。
「あ、もうこんな時間!部活行かなきゃ!」
「部活って、お前今日朝練か?」
「うん!急がないと!」
「へぇ。たいへんだな~ご苦労様です」
「おにいちゃんが引退しちゃったからなぁ~昔はよく一緒に朝練にいったっていうのにな~」ちらちら
「はいはい。いつまでも甘えてんな~さっさといけ。遅刻すんぞ」
「はーい!いってきます!」
妹は俺と同じ高校で2年生だ。
1つしか年齢が違わないし、昔からよく一緒に行動していた。
しかしまさか高校まで俺と同じところに入ってくるとは思わなかった。あいつならもっと良い所狙えたはずなのに。妹いわく「おにいちゃんの面倒を私が見なかったら誰が見るっていうのよ!」どこまでも兄思いの良い妹だ。
たまに「こいつやっぱりヤンデレじゃね」とか思うけど妹はそんなことないというしそんなことはないと思う。
そういえば最近俺のパンツがよくなくなる。泥棒だろうか。男の下着なんて盗んでも誰も喜ばないだろうに・・・。
他にもなぜか仲良くなった女子のメアドが携帯から削除されているのはなぜだろう。
挙句の果てには着信拒否までされていてこないだクラスの女子に泣かれた。
怪奇現象でも起きているのだろうか。
あ、そういえば昨日桜井さんと赤坂さんにメアドもらったんだっけ。
えっと・・・あれ。消えてる。メアド・・・。
しかも着信拒否設定にされてる電話番号が2つ増えてる。
・・・・・・・・・。
「おっはよー!!!キー君!!!昨日は楽しかったね!!!ところで昨日なんで電話に出てくれなかったのかなー!私悲しくて悲しく!寝れなかったんだよ!見てこのクマ!」
あさっぱらからテンションMAXな桜井さんであった。
「え、っとうん・・・ごめん、なんかよくわかんないけど多分桜井さんの電話番号着信拒否にされてる・・・」
「えー!?なんで!?私なんかしたっけ!?」
「いや、なにもしてないです、よくあるんだよ。仲良くなった女の子のメアドとか可愛い子のメアドとか電話番号とか消えてたり着信拒否になってたりすること」
「へえ!?なにそれ!驚きですな!!!そんな超常現象がおきているのですか!!!実に興味深いですな!!キー君の携帯呪われているんじゃない!?」
きゃっきゃとはしゃぐ桜井さん。
この人興味津々だなあ。
「あれ!?でももしかしてアレだったりする!?本当は私のこと嫌いでむかついたから着ッキョにしちゃったりしたパティーンですか!それだと私でしゃばっちゃったかな!?」
「いや、そんなことはないよ。桜井さん可愛いし楽しいし。むしろ嫌いになるほうが・・・」
「・・・・・か、かわいい・・・!!!きゃぁぁぁ!!!もう!!キー君ったら!!!お世辞が上手なんだから!!」
ベシっと背中を強くたたかれた。
痛いけどなんだろうこの気持ち。嫌じゃない。もしかして俺ってMなのか。
それに桜井さんの赤面可愛い。
「可愛い」
あ。つい言葉に・・・
「もう!!!やめてってば!!照れる!!!」
また背中に一発。
うん。嫌じゃない。
やはり俺はMに目覚めてしまったのかもしれない。
新たな扉を開いてしまいそうだ。
チャイムが鳴り、桜井さんはそそくさと自分のクラスへ戻っていく。
しかしなぜうちのクラスに来たのだろう。
あ、あれか。友達と喋りにきたのか。
・・・・桜井さん俺意外と喋ってないじゃん。
あ、そうか。俺が話しちゃったから桜井さん他の子と喋れなかったのか!なるほど。
一人で納得してみた。
「うおおお!!!昼休みきたあああ!!!!」
さっきまで机に突っ伏していた荻原が復活した。
こいつ昼になると急に元気になるんだよなぁ。
「おっす岸田!!!飯食おうぜ!!!」
「おう。どこで食うの」
「屋上?」
「おっけー」
めずらしく思われるかもしれないが、うちの高校は屋上立ち入り禁止じゃない。
いままで自殺とか起きたことないし。屋上で不良がタバコをプースカやることもない。
要するに平和ゆえに屋上の使用が許可される。
しかし屋上が使えるからといって屋上で昼ごはんを食べる生徒は少ない。
入学初期の1年生は初めてなのか、かなりの人数が屋上で昼食をとるのだけどしばらくすると屋上が使えるのが当たり前になりなれてきたのかいちいち屋上に上がってまで昼食をとるのがめんどくさくなり屋上を使用する生徒は減少する。
それでも数人は屋上で食べるのだけど。
そしてその中に含まれるのが俺達だ。
「おお~今日は風が強いわね!!」
「そうだな~」
「こんなに風が強いと屋上で飯を食いにきてる女の子のオパンツが拝めるかもしれんな!!!」
「恥を知れ」
「あ、そうだ。岸田」
卵焼きを口に放り込む荻原。
食べ物を口に入れたまま喋るな。行儀悪い。
「俺の好きな人知ってる?」
「ん?桜井さんじゃねえの」
「のーのーのー!残念でした!というかそれ高1のときな。2年前だろ」
「え、そうだっけ。俺てっきりずっと桜井さんのこと好きなのかと思ってた。昨日動物園に桜井さん誘った理由もそれだと・・・」
「違うんだな~。俺は新たなターゲットのために桜井を利用させてもらったまでよ!!!」
「と、いうと?」
「今俺がすきなのは赤坂さん!!!!」
なんとなく予想はついていたけどやっぱりそれか。
「赤坂さんってめっちゃ美人じゃね!?しかもクール!最高じゃん!もうなんていうかさぁ、こう!いじめられたいというか!!!」
「だまれ変態。まあ、美人だよな赤坂さん」
しかしなんだろうかの感覚。
別に荻原が誰を好きになろうと構わないのに、少しもやもやする。
言葉にできない。
「そんで、さ。だから協力して欲しいわけよ!!」
「協力って?」
「だーかーら!俺と赤坂さんをくっつけるための!!!」
「却下で」
即答。
めんどくさい。し、あとなんか・・・嫌だ。
「ええ!!ちょ、頼むってマジで!!桜井さんもお前が一緒ならやるっていってくれてるしさ!!この通り!!」
「そんな軽い土下座されてもなぁ」
「チッ!」
露骨に舌打ちされても困る。
「じゃあもういいや!いいよ!もういいよ!俺一人でやるから!もう誰にもたよらねえから!!!」
「ああ。是非そうしてくれ」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
帰り、本当に荻原は赤坂さんにアタックしていた。
「あっかさっかさーん!!!!!」
「何?」
「一緒に帰りませんか!!!」
「うん、いいよ。少しまっててね」
「おう!やった!まってる!!たとえ赤坂さんが俺を無視して先に帰ってしまおうとも俺はまってる!!!」
赤坂さんはくすっと微笑んで「ありがとう」といった。
なぜか少しもやもやした。
玄関に向かい靴を履いていると後ろからベシっと覚えのある感覚でたたかれた。
「あ、桜井さん」
「おっす!今帰りですかな?」
「うん」
「そっか~・・・じゃあ、私もご一緒しても、いいかなぁなんて、えへへ」
「ああ、うんいいよ。桜井さんなら大歓迎」
「やったぁ!!!じゃあちょっとまってて!私鞄とりに行ってくるから!」
すてててーと教室に戻る際に何もないところでこけていたが桜井さんは大丈夫だろうか。
スカートがめくれてパンツが若干見えたことについては黙っておこう。
しましまだった。
水色と白の。
パンツ。
「あれ?おにいちゃん?」
「あ、おまえか。どうしたんだ?部活は?」
なぜだろう・・・ものすごく危機を感じる。
とにかく今桜井さんが来たらいけない気がする。
アウトな気がする。
「今日は放課後はおやすみなんだ~だからおにいちゃん一緒に」
「キーくーん!!!おまたせー!」
きちゃった。
「むむ?そこにいるお嬢さんはどちらさま?」
「あ、ああ。こいつは俺の」
「おにいちゃんの妹です。年齢は17歳身長157cm体重46kg好きなものはおにいちゃん嫌いなものはおにいちゃんの敵or私の敵。ちなみに私の敵対象に入る人はおにいちゃんの敵とそれからおにいちゃんを横取りしようとする泥棒猫。おにいちゃんを汚染させようとする女などが私の敵対象に入ります。あなたは3年2組の桜井さんですね、先日はおにいちゃんと一緒に動物園に出かけたとか。おにいちゃんすごく楽しかったみたいで帰ってきてからもずっとニヤニヤしてたんですよ。本当。いつもならおにいちゃんの笑顔がみれるらなそれでいいやって思うんですけど今回のこれはいいやとは思えませんでした。まあ、ここまでいえばわかりますよね。これは忠告です。くれぐれも私の敵対象に入らないようお願いします。私は過去におにいちゃんに近づく泥棒猫を6名ほど暗に痛めつけてトラウマにさせているので。気をつけたほうがいいですよ。それと、今から私とおにいちゃんは一緒に帰るところなのですが、気を使っていただけるとありがたいですね」
淡々と一定のリズムで、一定のトーンでまるで説明書を読んでいるかのような口調で。
てかこいつ怖ええええええええ!!!!
え!?え!?何!?何なの!?
ヤンデレなんかじゃないよ!とかいってたじゃん!
これだと思いっきりヤンデ・・・
「あっはっは!面白い妹さんだね!ところで妹さんもキー君と帰るんだ!そっか!2人っきりじゃないのは残念だけど妹さんならまあ、いっか!早く帰ろうよキー君!」
「・・・・・・・・・・え」
妹がぽかんとしている。
「まさか・・・ノーダメージだなんて・・・嘘でしょ・・・」
何かにショックを受けてるっぽいけどとりあえずスルーしといた。
触らぬ神に祟り無しってね。
「へえ!妹ちゃん小さい頃からキー君と一緒なんだ!!」
「はい、もうそれはそれはずっと。ずうううううっと一緒でした」
何か張り合っているように感じるなぁ。妹。
「お風呂のときも寝るときもご飯をたべるときもどんなときも!!!」
「ちょっとまて」
「そして・・・愛し合う私達はついに禁断の関係に・・・」
「ちょっとまて。だからちょっとまて」
「えええええ!!キー君妹ちゃんとそんな関係に・・・!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
もういいや。つっこむの面倒だし。疲れるし。
「はい、もうそれはそれは。おにいちゃんったら本当激しくて」ポッ
「ポッじゃねえよ!!!」
「それでそれで!?妹ちゃんはどうしたの!?」
「わ、私はやめてくださいっていったんですけど、おにいちゃんったら天井のシミでも数えとけって・・・そのうち終わるからって・・・キャッ」
よし。本当に知らないから。
なにもしないから。
「冗談だっておにいちゃん。そんなすねないで~」
「そうそう、私だって冗談だってわかってるからさキー君」
「・・・・・」
俺がバカみたいじゃねえか!!!!
しかもいつの間に仲良くなってんだよこいつら。
ついさっきまで妹も露骨に嫌な態度取ってたくせによ
「いやぁ、それにしても桜井さんは楽しい人ですね!私、桜井さんにならおにいちゃんを預けてもいい気がします!」
「もぉう!妹ちゃんったら!そ、その、私達はまだそんな関係じゃないし!」
「ええ~『まだ』ってことはこれから予定でもあるんですかぁ~?」
「も、もう!!やめてってば妹ちゃん!!」
「うふふ!桜井さん可愛い~!」
・・・・・・
ガールズトークに花を咲かせている模様。
それにしても桜井さんの誰とでも仲良くなっちゃうスキル半端ねえな。
あの妹ともここまで仲良くなるなんて・・・正直驚きが隠せない。
「あ、ここで終わりです」
「おー!ここがキー君の家かー!意外と私の家と近いんだね!!!」
「桜井さんはどこにすんでんの?」
「ん?私ー?私はここから5分くらいのところかな~近いよ~」
「へえ、そうなんだ。じゃあね」
「うん!まったねーキー君!妹ちゃん!!!」
はぁ、とため息。
このため息は疲れたときに出る奴じゃなくて普通にこう、なんか安心したときに出る奴というか。
なにより、妹とのいざこざがなくてよかった。
「おにいちゃん、桜井さんってすごく良い人だね!私、桜井さんなら本当にお兄ちゃんを渡してもいい気がするんだ!」
「ん?」
あれ?それって冗談じゃなかったの?
「私ね、実は前からいおうと思ってたんだけど・・・ブラコン・・・なんだ、極度の」
「まあ、しってたけど」
「それでね、あと俗に言う、ヤンデレ?みたいなんだよね・・・」
「うん、しってた」
「おにいちゃんのパンツ盗んだりおにいちゃんの携帯からメアド消したり着信拒否したり工作してたのもわたしなんだ・・・」
「うん、しりたくなかった」
「それで・・・他にもおにいちゃんの寝てる姿を1万枚ほど写真に収めたり、お兄ちゃんがお風呂に入ってるときとかも動画撮ったり・・・、おにいちゃんに手を出そうとする女の子を縛って体育館裏まで連れて行って暴力して二度とおにいちゃんに近づかせなくしたり・・・」
「うん。すっごくしりたくなかった」
今思うと、この妹は相当カオスな妹でした。
「でもね、桜井さんは言ってたんだ・・・そんなんじゃだめだって・・・そんなんじゃ、おにいちゃんは幸せになれないって!」
隣でお前らはなしてるの聞いてたけどそんな話してなかったじゃねえか!!!
「だからね、私決めたんだ。おにいちゃんに幸せになってほしい、だから、もう桜井さんに手を出すのはやめる!」
「まって。他の女子は?」
「え?もちろん排除するけど?」
純真無垢な笑顔、マジまぶしいっす!!!
すっかり桜井さんに洗脳されてんじゃねえか!!!
「私、桜井様の言うことならなんでも聞いちゃう!」
「何があった!!本当何があったお前!!!」
「ふふふふふふふふふ」
「目を覚ませ!!!目を覚ませよ妹おおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
翌日、なんか荻原と赤坂さんが一緒にいた。
どうやら付き合った模様。
え?あれ?うん?
なして?なにがどうして?
「お!岸田くんじゃあないか!!!はっはっは!いやぁ!!人生は楽しいね!!!」
「・・・・・・・」
「お!そうだ!君にはまだいってなかったね!紹介しよう!僕のフィアンセ、赤坂さん!」
「も、もう、フィアンセって・・・私たちまだ婚約とかしてないし」てれてれ
「はっはっはー!何を言っているんだ赤坂さん!僕と君は、赤い糸で結ばれているのさ!もうだれも僕達をとめることはできない!!!たとえ婚約していなくとも!僕達は婚約者さ!!!」
いろいろと崩壊してる。
まずキャラも崩壊してるし言ってることもめちゃくちゃだ。
これが春が来たというやつうか。
遅めの春だな。
「まあつまりそういうことだから!じゃあまた!」
「うん、また後でね、荻原君」
「・・・・・・・・・・・・」
「ってことがあってさ」
帰り道。
つい今日の出来事を桜井さんに話していた。
誰かに聞いて欲しかった。なんでだろう。
「ああーそっかぁ、まあわかるよ。うん、赤ちゃんまえから荻原のこと好きそうだったしねぇ~」
赤ちゃんとは桜井さんのつけた赤坂さんのあだ名。
決して赤ん坊の方の赤ちゃんじゃないからあしからず。
「ふうん。そうだったんだ」
「そうだよ~でも荻原は最近になってから好きになり始めたって感じだよね!」
まあ、それまであなたのことが好きでしたからね。なんていわない。
「しかしこうなると、親友に先を越された感じがしますなぁ」
「うん、本当だよなぁ」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「ねえキー君」
「ん?」
「キー君って赤ちゃんのこと好きだったんだ?」
「・・・・・さあ、どうだろうね」
「隠し事はよくないぞー!まったく!これだからキー君は!あ、そうだ。もしよかったら私が慰めに行ってあげようか!?ご飯作りますよー」
「いや、いいよ。それに好きじゃないって」
「まったまたー。本当キー君は昔っから素直じゃないよね~」
「昔って、桜井さんにあったの高校にはいってかr!?」
ふに抱きしめられた。
ぬくもりを身近に、すごく身近に感じる。
桜井さんに、ハグされている。
いや、ハグというか。ハグと言っていいものなのか。
不意に、目から熱いものが流れ落ちる。
なめてみると、それはしょっぱかった。今の俺の気持ちのような。そんな味だった。
「いいこいいこ。うんうん、わかるよーキー君。よしよし」
「・・・・・・・」
「泣きたい時は泣いていいんですよ・・・しょっぱい水が全部からからになるまで泣いちゃっていいんですよ」
「・・・桜井さん・・・」
「ん?」
「俺、あれだわ。その、多分、最低だけど、いいかな」
「キー君が最低さんでも私はキー君の味方だよ」
「俺、赤坂さんが多分、好きだったんだ、と、思う」
うんうん、と桜井さんはただ頷いた。
「それで、さ。まあ、見事に失敗したわけだけどさ」
「見事に失敗したね」
「その、なんていうか、かなり都合の良い事言うけど、俺、桜井さんのこと好きかも」
「・・・・ふふふ!しってた!」
唇が湿っぽく、柔らかいものに触れる。
桜井さんの顔が近い。
「!?」
「んん・・・ぷはぁっ!!」
何が起こったのか。頭の中が真っ白。
こういうとき、どういう顔をすればいいのだろう。笑う?泣く?怒る?
桜井さんは、笑った。
「私も、キー君のこと好きだよ!」
「ああ。しってたよ」