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ある意味恐ろしい彼女

作者: 霧野ミコト

いつも通りに学校を終えて家に帰る。


今日も一日本当に頑張った。


小難しい理屈をこねるばかりの物理。


マニアックでほとんど、それこそ受験にさえ役立たない事ばかりの日本史。


大学で習うような小難しい原則をつらつらと言う数学。


普段使わないような難漢字を覚えさせる現文。


古典文学を延々と読ませ続ける古文。


そして、なぜか泥沼の離婚調停の事を解説する政経。


きっと、今この教師はそのただなかにいるんだろう。


と、それはいいとして、本当に今日一日良く頑張った。


僕は、心の中で自分自身に賛美の声をあげる。


よく、無事に生きて来れたことに。


たとえば、物理のときは、理屈ばかりをこねて、つまらないので、寝てたらあてられたので、


「そんな小難しい理屈をこねたって、恋人は出来ませんよ。こんなところで恋人の出来ない憂さを晴らす暇があったら合コンの一つにでも行ったらどうですか」


そう答えた。


まぁ、その後思いっきり怒鳴られたけど。


でも、周りは爆笑していた。


まぁ、事実をありのままに言っただけだけど。


人は図星をつかれると、そうなってしまうんだろう。


本当に難儀な存在だ。


と、それはいいとして、家に着いた。


怪しいストーカーにつけられたり、異世界に飛ばされたり、天使に『パパ』なんて呼ばれる事もなく、無事に。


まぁ、そんな経験してみたいとは思うけど。


だって、一度きりの人生だし、楽しめるだけ楽しみたいし。


というか、あんな美人に囲まれた生活は普通に羨ましいじゃないか。


うんうん。


パラダイスだね、パラダイス。


「ただいま」


そんなボケた事を考えつつ家の中に入る。


けれど、反応はない。


買い物にでも行ったのだろう。


あの人は年甲斐もなく外に出歩くのが好きだし。


僕は、たいして気にする事なく、階段を上り、自分の部屋のドアに手をかける。


しかし、その瞬間なぜか違和感を感じた。


なんとなくだけど、人の気配を感じるのだ。


もしかすると、あの人だろうか?


自分の息子の部屋で、いかがわしい系の本の探索をしているのかもしれない。


そう言えば、そう言う事をするのが夢だとか言ってたし。


見つけ出した本を息子の机の上にどんと置くのが。


まぁ、とは言っても、言っておくけど、僕の部屋にはそういう系の本は一冊としてない。


そんな物必要ないし。


むしろ、皆大人になり結婚すれば、必然的に見る機会が出来るわけだから変に背伸びする必要はない。


……なんか、この言い方だとやけに生々しい気がするな。


まぁ、いいか。


事実だし。


僕は、そう切って捨てるとドアノブをひねり、部屋の中に入る。


けれど、そこにはあの人の姿はなかった。


どこを見てもいなかった。


その代わり、そこにいたのは僕と同い年の少女だった。


凛とした表情をした、将来かなりの美人になると思われる少女だ。


いや、むしろ今だって、かなりの美人だ。


まさしく、絵になるタイプの少女だ。


そんな少女が僕の部屋にいた。


しかも、ご丁寧に僕のベッドにちょこんと座って。


さらに、なぜか、だぼだぼのブラウス一丁で。


いや、今更か。


疑問に思うのは間違いだ。


彼女だから、仕方ない。


そう、僕は彼女の事を知っている。


それこそ、かなり前から。


そして、こうして部屋で会う事なんか何度もあった。


まぁ、こんないかがわしさ満点の様相ではないけど。


彼女は濡れそぼった瞳で僕の事をじっと見つめる。


そして、いじらしげに左の人差し指で髪を弄び、そっと視線をそらす。


あたかも、僕を誘うように。


よくよく見てみれば、シャツのボタンが第二ボタンまであけられている。


おかげさまで、胸元がちらりと見える。


まさしく、見えそうで見えない、そんな感じを演出している。


チラリズムを最高に演出している。


まさしく、若く、止まる事を知らない高校生なら、飢えた猛獣のごとく飛びつくだろう。


そして、がっついただろう。


それこそが、普通の男の反応であり、女性の顔を立てる一番の方法である。


僕は、足を進める。


彼女はその途端に体を一瞬振るわせたが、すぐになりを潜めると僕の事をじっと見る。


その瞳は相変わらず濡れそぼっており、どこか期待に満ち溢れている。


僕はどんどん歩を進める、そして彼女の目の前で止ま……らない。


そのまま通り過ぎて、机にカバンを置き、いすに腰掛ける。


確かに、ここで襲い掛かるのは普通の反応だろう。


だけど、言わせてもらおう。


そんな後が怖い事できるわけがない。


このまま押し倒したら、その後どうなる?


きっと恐ろしい事になる。


婚約、結納、結婚なんて事が、まさしくスムーズに行われてしまう。


そんなの勘弁して欲しい。


僕はまだまだ若い。


誰が何と言おうと若い。


と言うか、こんなぴちぴちの高校生を捕まえておいて、若くないなんて言わせない。


いや、まぁ、ぴちぴちなんて言葉使ってる時点で、若者と言えない気がしないでもないけど気になんてしない。


気にしたら負けだ。


というか、そんな事はどうでもいい。


話しがいつの間にか摩り替わってるし。


まぁ、つまるところ、結婚なんてしたくないと言うことだ。


そういうわけなので、却下させてもらう。


「ねぇ、みぃちゃん」


そして、いすに座り、カバンの中身を入れ替えていると、不意にそう言って、袖を捕まれた。


もちろん、彼女だ。


いつの間にか、ベッドの上から立ち上がって僕の傍まで来ていた。


しかし、あえて言わせてもらおう。


これは、まさしく反則だ。


だぼだぼのブラウスから見え隠れするチラリズムたっぷりの胸元。


ブラウスの裾から伸びているすらりとした細く白い足。


僕の袖をブラウスの袖から申し訳程度に出した指で掴むとチョコチョコと引っ張る。


そして、止めと言わんばかりに相変わらず濡れそぼった瞳でする上目遣い。


しかも、甘ったるい声で、僕の事を呼ぶ。


完璧に犯罪だ!!


あ、ちなみに、みぃちゃんって言うのは、僕のことだ。


名前の命とから、一文字取ってそう呼んでいる。


まぁ、普段は普通に命と呼んでくるけど。


『みぃちゃん』なんて呼び方はこんなふうに僕を誘うときにしか使わない。


と、それはいいとして、本当にやばい。


これは、まさしく犯罪級だ。


下手したら陥落させられかねない。


「ねぇ?どうして、みぃちゃんは私の姿見て欲情しないの?」


それはさておき、ついに彼女が攻勢に出た。


彼女はそう言うと、太腿もじもじし始める。


ぐはぁ。


かなりの大打撃だ。


欲情なんて破廉恥な言葉さえ、気にならないぐらいの強烈な攻撃だ。


まさしく一撃必殺だ。


だけど、僕はそれに耐えた。


なんとか耐え切った。


そんな僕に、拍手をしてやりたい。


理性と言うくさりがちぎれそうになったが、必死になって繋ぎとめた。


そして、僕は心の中で大きく深呼吸すると


「ごめん、俺はワイシャツ属性じゃないんだ。むしろ、俺は猫耳メイドさん属性なのだ!!」


彼女の指を心持優しく振り払うと、堂々と右手をつきあげてそういった。


彼女が、その言葉を聞いて、固まった。


決まった……


僕は心の中でそう呟いた。


彼女は完全に引いたことだろう。


自分の好きだった男がオタクだったなんて知れば誰だって引く。


そして、一気に冷めてしまうだろう。


それこそ、百年の恋さえ鎮火してしまうこと間違いなしだ。


ちなみに、言っておくけど、実際、僕にそんな趣味はないから。


やっぱり普通が一番だし。


ここは嘘も方便と言う事で。


それに、彼女も目を覚ますにはちょうどいいころあいだ。


つり橋効果からも卒業だ。







彼女と初めてで会ったのは、小学生のときだった。


幼い頃からその美貌を発揮していた彼女ははぶにされていた。


女子からは嫉妬で、男子は子供じみた恋心で。


つまり、愛情の裏返しとやらだ。


その結果として彼女は可哀相なことに、苛められていたのだ。


そして、それを見ていられず、僕は助け出してしまったのだ。


いやぁ、あの頃は若かった。


本当に若かった。


波いる男子をちぎっては投げちぎっては投げ、屍の山を築いたものだ。


いや、それは冗談だけど。


本当の所は、誰にも分からないように、苛めてた奴に、ちょっとした嫌がらせをしただけだ。


シューズにぞうきんの絞り汁をかけてみたりとか。


机の上に菊の花をいけてみたりとか。


恥ずかしい過去を黒板に書いて見たりとかいろいろしたものだ。


そして、必ずその隣には


『苛めはやめろ。Byホワイトマスク』


などと書いたものだ。


いや、今更ながら、ホントに恥ずかしい。


よくしたものだ。


まぁ、だけど、その結果として、彼女を苛めるものはいなくなった。


めでたしめでたし。


……じゃなくて、まぁ、それが原因で彼女が付きまとい始めたのだ。


いや、我ながら情けない話しだけど、彼女にばれてしまったのだ。


ホント今でも悔いて悔いて仕方がない。


ばれるような事をしてしまった事が。


そして、それを感謝した彼女は、もう、それはそれは尽くす事で。


しかも、尽くしまくった彼女はそれだけで足りずに、今度は結婚すると言い出すし。


もう、本当に大変だった。


おまけに、彼女の両親は、それに反対するどころかあおりだすし。


もちろん、僕の両親は、あんな綺麗な子がここまで思ってくれているんだから、なんていって、認めてるし。


ホントどうにかして欲しいし。


まぁ、彼女の事は嫌いじゃないんだけどね。


でも、まぁ、心の準備とかそう言うのがあるわけでして。


本当に、勘弁して欲しいよ。


だいたい、感謝の気持ちで結婚とか持ち出されても困るし。


もう少し男心を分かって欲しいものだ。






ちなみに翌日、家に帰ると猫耳メイドの様相をした彼女がいた。


おまけに、部屋の中に入ると同時に


「おかえりにゃさいませ、ご主人様♪」


なんて事を言ってきた。


本当に頭が痛くなったよ、その時は。



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