なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか
みんなひどいのよ。と言われても、お前だってかなりひどいだろう
ふと、本から顔をあげると、
「うわ」
思わず声を出してしまった。
あいつが来た。
ピンク髪のあいつが。
半月前、真昼間の中庭で、婚約破棄をやらかしたかたわれが。
翌日、お相手は廃嫡されて領地の川番小屋へ送られたそうだが。
あいつもついでに送ってくれればよかったのに!
みんな素早く逃げ散って、中庭には誰も――
って、わたしいるじゃん!
慌てて立ち上がろうとしたら、あいつと目線があってしまった!
逃げたい。
でも、当人の目の前でわざとらしく逃げるのもなぁ……知らない仲でもないし。
あいつは獲物を見つけた猟犬のように、わたしのところへ小走りに駆け寄ると。
いきなりテーブルの反対側に腰を落とした。
「みんなひどいのよ」
「なにが」
「なにがって……みんな話しかけても慰めてくれないの」
「そりゃそうだろう」
「え」
「あのな。お前、自分が何をやったかわかってんのか?」
「だ、だって、それは彼が」
「だがな、あのバカはアレでも婚約者がいたわけだ。しかも侯爵家の御令嬢っていう。それは判るよな?」
「で、でも、愛がない政略結婚だって」
「じゃあ、言葉を変えよう。お前に婚約者がいたとするな」
「?」
「婚約者がいたとするんだ。想像だよ想像。もしもゲームだ」
「え、ええ。わかったわ」
「そんでだ。お前はそいつのことがぜんぜん好きじゃないとするな」
「好きじゃないの?」
「ああ、お前がいうところの政略で結ばれた婚約だな」
「わかった……」
「そんで、もっとかっちょいい男が現れる。そんでお前に思わせぶりな様子を見せるわけだ」
「そのひと、わたしのことが好きなの?」
「そういう風に見えるわけだ」
「見える?」
「人の心の中がわかんのかお前? 今、お前から離れてってる友人だと思ってた奴らが何を考えているか、とか」
「わからない……だって、わたしはあんな目にあったんだから慰められて当然――」
「あーそういうのは、いいから。とにかく、わからないだろ?」
「え、うん」
「で、お前は婚約者のことをぜんぜん愛していないわけだ。政略で結ばれた婚約だからな。で、かっちょいい男がフリーだ」
「で、でも、そのわたしには婚約者がいるんでしょう?」
「……そこでためらうんかお前」
「え。当然でしょう。だって婚約者がいるんだよ」
「だが、お前の理屈だと、政略で結ばれた愛がない婚約なら壊してもいいんだよな?」
「壊してなんて――」
「あーはいはい。彼がさびしそうで、彼の婚約者が冷たいから、彼にやさしくしたんだな」
「そうだよ。わかってくれるんだ! みんなわかって――」
「さてだ。お前は婚約者のことをぜんぜん愛してない。そこへ、かっちょいい男が甘やかしてくれるわけだ」
「……」
「お前さ。わからないんじゃなくて、わかりたくないんだろ?」
「ち、ちがう!」
「で、お前は婚約者から、そのかっちょいい男へ、ころっとなびく。だって、お前の理屈だと政略結婚は愛がないからな」
「わ、わたしそんなことしないもん!」
「お前はしなくても、お前がちょっかい出したあの男は、そうしたんだよ。少なくともそう見られている」
「ひ、ひどい!」
「あのなぁ。これはひどいとか、ひどくないの問題じゃぁないんだ。そう見られてるってことだ。お前は婚約者のある男に手を出して、婚約を破壊したってな」
「ち、ちがう。わ、わたしは真実の愛を――」
「なら、伯爵家を除籍されたあの男と結婚でもして、真実の愛をつらぬきゃいいじゃないか」
「で、でも、あの人、平民になっちゃったし」
「そりゃ、王家きもいりの婚約をぶちこわしたんだからな」
「で、でもそれは、あの人がわたしを嫉妬していじめたからで――」
「あのな。相手は政略で結ばれた婚約者同士。しかも、お前とアレだけ始終乳繰り合ってて交流もしていない。そんなやつにどうして嫉妬なんかするんだ」
「……」
「お前さ。政略結婚の相手が、浮気三昧しても、嫉妬するか?」
「え、それは、だって、婚約者なんだから他の人に目移りしてはいけないでしょう?」
「……お前、それは理解してんのかよ」
「ば、ばかにしないでよ。当然じゃない」
「お前との真実の愛で、平民になったあいつは、婚約者がいるのにお前に目移りしたんだよ。これはいいことなのか?」
「そ、それは……でも真実の愛だから!」
「お前さ、気づいてないのか? 婚約者なんだから他の人に目移りしてはいけない、と言いつつ、真実の愛があれば目移りしてもいいと言ってるんだぞ」
「そ、それは……真実の愛だから」
「ならさ、あいつが平民になったら、お前も真実の愛で、ついていけよ」
「で、でも平民の生活なんて」
「はぁぁ……いったいお前は何がしたいんだ? 真実の愛は全てが許される。まぁそれだけだったら立派だが、その結果には責任を負わないんだな」
「ひ、ひどい! そんな言い方……」
「まぁいいじゃないか。お前の両親はお前を愛してるから、あの平民とは結婚させなかった。感謝しろよ」
「感謝ってなんで!? あの人が汚いことして彼を平民になんかしなければ――」
「ふぅ……あの男は、お前のいうところの政略による結びつきを破った。そこに愛があろうとなかろうと、その結びつきによって見込める利益があったわけだ。それは判るな?」
「そんなの間違ってる! 愛でなくて利益で相手を選ぶなんて!」
「じゃあ、平民になったあの男と結婚しろよ。利益でなくて愛なんだろ?」
「ひどいわ! あんたなんかに話しかけるんじゃなかった!」
いっちまったか。
でもよ。あいつに話しかけられて、ちゃんと会話するのって、この学園でわたしだけなんだけどなぁ。
しかもこれと似た会話。今週になってから3度めだ。
やれやれ。
人の不幸を願うわけじゃないけどさ。
あいつ、次に何かやらかして、今度こそ退学になってくれないかなぁ。
と思ってたけど。
あいつがぱったり話しかけてこなくなったと思ったら、次の男にロックオンしてた。
今度は更に大物だった。
なんと王太子殿下!
やばいなー、と思ってたら。
まともな護衛に切り殺されてしまった……合掌。
でも……なんでわたしまで後味悪いかね!
たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。
最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。
少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、
評価や感想をいただけるととても励みになります。
別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




