表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

夜の散歩


シャワーの湯が、白い肩を叩く。


髪は真っ白だ。濡れると白さが深くなる。


束になった毛先が、首筋をなぞり、鎖骨の上でゆっくり揺れる。


湯気の中で、その白は光そのものみたいに薄く透ける。




肌も白い。


水滴が腕を伝い、肘で溜まり、落ちる。


その一連の動きは清潔になっていく儀式みたいに見える。




私は目を上げる。


鏡の中、金色の瞳が静かに光った。


熱のない蜂蜜。廃れた黄金。そんな感じだ




シャワーを止める。


音が消えた瞬間、世界が冷える。




浴室を出る。


タオルで肌を押さえる。こすらない。


白い髪を指で梳くと、水が煌めき細い糸になって落ちた。




手際よく、下着を着けて


洗濯したての真っ黒なセーラー服を清めた体にすっぽり嵌める


黒は白をより際立たせる。


白い私を、もっと白くするための道具でお気に入りだ。


私は汚れや不純が苦手だ




襟を整え、黒いリボンを結ぶ。


指先の動きは迷わない。




洗面台に、報酬で買ったばかりの新しい化粧品を並べる。


密閉された新品の匂い。


まだ誰にも穢されてない私だけの物質。




下地を薄く伸ばす。


白さは消えない。むしろ“均されて”際立つ。


眉を一本だけ足し、顔に静かな意志を置く。




ビューラーの金具が冷たい。


まつげを挟み、ゆっくり持ち上げる。


ほんの少し、顔が乙女になる。




マスカラの黒が、目元に影を作る。


その影の奥で、金色の瞳がいっそう澄む。


夜に灯りみたいだ。




最後にリップ。


キャップを外す音が、やけに綺麗に響く。


色を唇に滑らせ、口を軽く結んで馴染ませる。




鏡の中の私は、清潔で、冷たく、完成している。


真っ黒なセーラー服の上で、真っ白な髪が揺れた。




私って、ちょっとかわいいんじゃない?


そう思うと、少し気分が上がるし、出掛けるのも楽しくなる。


女の子なんだからそう思ったってなんの罪も無いだろ?これは女の子みんなの権利だ。




そして、家を後にし夜の街へ出た。







外に出た瞬間、夜の空気が頬を撫でる。冷たいのに、どこか甘い。


マンションの外灯は均一で、影まで規格品みたいに真っすぐだった。




歩く。


白い髪が風に触れるたび、石鹸の香りが立つ。




少しお腹が減っている


丁度ファーストフードの看板が見えてきた


遠くからでも分かる光。




自動ドアが開く。


乾いた暖気が、顔に当たる。油とソースの匂いがする。


この匂いだけは、どこの街の店でも同じだ。




店内はがらんとしていた。


カウンターの向こうの店員が、こなれた感じで笑う。


注文して、受け取って、席に座る。


食べる前に、ぼんやり窓ガラスから見える外の虚ろな感じを眺る


心が少し落ち着いた




ハンバーガーの包み紙を開けて一口かじる。


味と言うより、これを食べる安心感を求めてるのかもしれない


まだ私は普通だと言う確認。皆と同じ物に愛着を感じる事で得られる、同調安心。




再度、外を見る。


ガラスに私の顔が薄く映って、その向こうにニュータウンの夜がある。


無数の家庭から発せられるイルミネーションは


どこかで生活が営まれている安心感がある


これを感じて人のまともな生活をイメージすると、いつでも正気になれる




私は紙コップを握って、ストローを噛んだ。


甘い炭酸が口に溢れる。


うん、美味しい。


口の中が爽やかになる




スマホでSNSを見る。


全て自分には関係ないので、どうでも良いと感じるが、だらだら見てしまう。


無関心と言うよりは、人は他の情報に左右されるより、目の前の自分の人生を歩まなければならないと思うから


何もできないのに思い煩んだり、何の得も無いのに喜びたくないってのもある





私はジュースの最後の一口を飲んで、ハンバーガーの包み紙を畳んだ。


ゴミ箱に捨てるから同じなんだが、終わりの一息の様な感じだ




外へ出る。


夜はまた冷たく、静かだ。




マンションに併設する人工的な広場が見えてくる


意味ありげなオブジェが立っている。


何を表しているのか分からない曲線。


説明板もない。




隣には遊具。


滑り台の金属が街灯を反射して、冷たい光を出している。




私はポケットの中のスマホを指で撫でた。


通知が来る気配はない。


「今日はもう帰ろうかな......」


せっかくシャワーまで浴びたけど




私は歩きながら、ふと思った。


何も起きないことを祈りながら、


どこかで何かが起きてほしいと思ってしまってる。


日常にも非日常にもどちらに居たいわけでも無いのだ。


自分が何を求めてるか分からない。


周りの様に、世間が良いとする事を無心で追い求めるのもいいかもしれない


きっと楽だ。


考えて悩む必要もないし、それなりに評価されて生活も楽になるんだろう.....


でも、一回の人生がそれでいいのかと迷ってしまう


迷ったまま時間だけが過ぎてしまう




やっぱり、今日は帰ろう。


帰ったら、何か適当なアニメでも見て、すぐに寝よう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ