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顕現少女ミコトの禊奇譚




「ねぇ、ノウコ。どう思う?」


私(花岡 命)は昨日、幽明さんに見せてもらった動画を、女執事のノウコに見せて

意見を聞いてみた。


幽明さんは誰にも秘密にして欲しいと言ったが、ノウコは高校一年生の頃から私に仕えて、長年苦境を共に乗り越えてきた間柄だ。隠しごとなんて、する必要が無い。


ノウコは現在26歳で、私が丁度、彼女が花岡家に仕えだした年齢の高校一年生となった。


幽明さんの意図はわかっている。


あのヒノと言う人物に秘密にして欲しいだけ。


私が追加の戦力となる人材に話す事はむしろ喜ぶと思う。


何も知らないフリして、全く計算高い人だわ……


ノウコは私を乗せた高級車を運転しながら、あの奇妙な動画を見て私に言う。


「この異形共は払うべきかと。ミコト様に負担がなければですが」


「そうね……そんな簡単にいくかしら」


車の窓から綺麗な海が見える。現在、田舎町の海岸線を走っている。


海からの反射が少し眩しい……


「そうですね……一筋縄ではいかない可能性がある気もします」


「どいつが?」


私はノウコと二人の時には少し態度が大きくなる。というより素の自分が出る。


好きなアイドルであれ、友達であれ、なんであれ、”私達”の場所を穢す者に対してはあまり容赦は感じない。気なんて使わない……


それは私がそういう思想なのではなく、この土地に生まれて、この土地を守る奇跡の力を授かった者としての責任で、広い意味での自然との約束なのだ。


一番優先するべきは、土地とそこに住む存在達の守護。


穢させやしない――


ヒノさんも、ドミノさんもいい人だ。これからも友達でありたい。しかし……状況が変われば……


それが本音だ――


「私が思うに、一番厄介なのは円環ミレアかと」

ノウコが言う。


「へー、何故?」


私は車の窓を開け、生暖かい風を浴びて、そのまま大きく吸い込む。


「こいつは底がしれません。感情に屈強な私ですら、一瞬で少し魅了されました」


「わかるわ。性的にでしょ?」


「はい……恥ずかしながら」


「あなたが悪い訳じゃない、何故ならあいつは原始的本能を幾分か操れる可能性があるみたいだからね」


「何故、それをお判りに?」


「何故って……私も自己のなら操れるもの。私って切り替え早いでしょ?」


「確かに……そういう事でしたか。ミコト様、合点がいきました」


「何の?」


ノウコは話しながらも、正確に高速球の様なスピードで海岸線を運転する。


「少々推しアニメの変わりが激しいかと……」


「ふふふ そんな事思っていたの?」


「えぇ、ミコト様が私に勧めた後、私が観賞し、アニメの感想を言うのですが、いつもあまり興味がなさそうなので……」


「ごめんね。でもそれは本能とかじゃなくない?」


「出過ぎた発言でした」


「いいの。では、私が動画の誰を一番厄介と思っているか当ててみて」


「それでは……同じく円環ミレアですか?」


「いいえ……」


「答えはね……」


「あの、チャーチオルガンよ」


「はい?」


車は、海岸線から街中に入る。街中と言ってもほぼ住宅は無く廃墟ばかりだ。


しかし、この土地は、もうそろそろ再開発が進んで、リゾート地になるらしい。


今回の依頼は、大手企業がそれにちなんで、場所についた厄介な存在を払って欲しいと言ってきたのだ。


「ノウコ、そんな間の抜けた顔をしないで、美人が台無しよ」


ノウコは十歳も年下の、私の言葉に頬を赤くする。


ノウコは私を色んな意味で溺愛しているのだ。だからすぐに反応する。


偏愛ともいうぐらいに……


だから、ノウコの前で、私を傷つけるのだけは本当によした方がいい――


「みっともない顔を見せて申し訳ありません。ですが、ミコト様が愉快なジョークを仰られましたので」


車は、廃校や、シャッターの閉まった昭和の商店などを、どんどん通り過ぎる。道が狭くなってきた。かろうじて通れる道路と雑草ばかり。


「ジョーク?」


「はい。チャーチオルガンが一番危ないと」


「うん。そうよ間違いないわ。それが一番正しい答えだわ」


「はぁ」


「勿論、あれは戦闘なんてしないし意思もないけど……一番先に潰すべきよ」


「何故ですか?」


「あれは、楽器では無く、召喚機だからね」


「召喚機?」


「えぇ、幽明さんが錬金術と言っていたのだけれど、それで確信したわ」


「流図トドリと円環ミレアは、あの巨大な異形で実験したのね」


「実験?」


そろそろ到着するだろう。良い暇潰しの話題になった。


「異界の強大な存在を、この場所(世界)で、元居た世界そのままの能力やサイズにスケール変換できるかと言う実験よ」


「無知なワタクシめに、詳しくご教授してくださいませ、ミコト様」


「いいわ、でもあなたは無知なんかじゃないわよ」


ノウコの顔が赤い。きっとドキドキしているのだわ。可愛らしい人。


こういうアニメのラブコメみたいなやり取りを、もう6年は続けているわね……


「違う世界の常識を、こちらに無理矢理は持っては来れ無いの。論理が破綻してしまうじゃない?召喚や転移の際は、その世界の共通ルールに従って、存在のデータみたいな物は変換されるわ」


「はい」


「だから、どんな魔王の様な存在でも、全く底が見えない常識外れとはならないの」


「えぇ……」


「でも、あの召喚機や、高度な転移魔法を使うと、それが最大限考慮されて、他の世界に移動できる」


「それは――」


「そう、もう気づいわね。あれで、もし何かを呼び出したり、既存の異形をパワーアップさせたら……ね」



「それには、勿論膨大なエネルギーがいるけど。巨大な儀式とかかな」


「そういうことですか……では、あの傷だらけで災害級の異形は……?」


「恐らく、成功したわねパワーアップ。めんどくさいわ」


そうこう、話をしている間に、目的地に到着した。


ノウコは人の気配が無い廃病院の駐車場に車を停める。


「ですが、一つ疑問があります」


「完成体となった、あの異形を、あの二人は管理できるのですか?」


「ふっ いやーね。それこそジョークでしょ?」


「え?」


「出来ない事をしそうな二人に見えた?」


「いえ……」


「あれはあの二人の中では単なる始まりの余興よ。前菜が意外と美味しかったて感じ」


「その前菜でも、私達は太刀打ちできるかわからないけど」


私達は車から降りる。ノウコは手をとってエスコートしてくれた。


「ミコト様……しかし……私はあなたが負けるイメージが湧きません……」


「嬉しい。褒めてくれてるのね」


「あなた様を褒めない日はありません」


「ふふ キザなセリフ」


また顔が赤くなった。最後にとどめをさしてみようかな……


「ちなみにさっき言った私達と言うのは、純粋にあなたと私だけの話ね」


「……?」


「体に降ろす存在や、使役する妖魔はノーカウントって事」


「そういう意味ですか。少し安心しました」


「やはり、ミコト様に敵う相手などおりません」


「……んーどうかな。でも、油断したら三体とあの一つの前では、一瞬で終わるかもね……余裕は無いわよ?気をつけてね」


「失礼しました。全力で推して参ります」


「ノウコにはね、私が大人になるまで生きて待ってて欲しいの」


これは聞くだろう。


「え……えええ……はい?……そそ……それはどういう意味でございますか?」


効果200%ね。弱点属性みたいだわ。


「文字通りよ。だから"今回も”私の事ちゃんと守ってねて事よ。ノウコ」


私はノウコの頬に軽くスキンシップのキスをする。


ノウコの表情が変わった――


恐らくリミッターが外れたわね。


能力を最大限使うには、代償か、精神の高ぶりなのよね。


「命に賭けても、あなたを守り抜きます」


「ふー頼もしい」


私とノウコは、何をするべきか既に熟知したように、なんぴとも足を踏み入れてはいけない廃病院にスタスタと入る。


この廃病院の広さをざっくり説明すると、五階建てと、なかなか巨大な病院だ。


北棟と南棟それを繋ぐ中央廊下、その下に中庭がある。


考えなくてもノウコが頭の中に完璧に地図を読み込んでるからいいのだけれど……


何事も、一応はあるからね……


私とノウコは陽さえも届かない、暗がりの廊下を歩く――


私達はまずは南棟から調べる事にした。


外に面しているガラスは、ほぼすべて割れている。床が抜けている所もある。


少し危険ね……


病室になるべく入らないでおこう、衛生的に良くないからね。ノウコに無理をさせてもいけない。


この仕事は簡単な話だわ。


ここに潜む五体の強力な異形を排除するだけ……


「ノウコ、何体いる?」


「三体ですかね」


ふんふん。じゃあ二体は、通常時のノウコより上の可能性があるって事ね。


「ノウコは今日、どの幽体降ろすの?」


「場所的には……そうですね……ギリオドですかね」


ギリオドか……まー妥当ね。


では私は……



「ミコト様!!!!」


ノウコは喉が潰れんばかりに叫んだ――


そしてノウコは廊下の先から、前を歩く私に投げられてきた、大きな患者のベッドを

腰につけてる、日本刀の居合で吹き飛ばす。


居合の風圧だけで簡単に逆方向にベッドは吹っ飛ぶ。


といっても、ほぼ刀は出してない。目に見えないスピードで鞘から出し斬撃を繰り出し、鞘に閉まっている。


周りから見れば、鞘を一度も抜かず持ってるだけに見える。


しかしその威力は凄まじいもので、ベッドは粉々になりながら吹き飛んでいる。私の前の廊下は五メートル程、左右上下何処も全て鋭い斬撃の跡だらけだ。


「ありがと。ノウコ。でもそんな焦らなくていいからね」


「失礼しました。無作法な戦い方でした」


「奴はどうしましょう?ミコト様」


奴というのは、私にベッドを飛ばした張本人で、この廊下の最奥にいる大きな腕だけの異形だ。


恐らくそれは仮の姿で本体の形では無いが。


しかし、それはもうどうでも良い……


もう存在しないのだから。この世には――


「先程のやつ追いかけますか?」


「もういないわ。探索が面倒だからウロバミを既に放っていたの。恐らく、既に奴はウロバミに飲み込まれて冥府に直行中ね」


「ウロバミですか……やつも運が無い」


「相手の心配をするの?優しいのね」


「いえ、あれには少しトラウマがありまして……」


「意外と近くで見ると、可愛いわよ」


「思い出すと、少し吐き気が……」


本当に気分が悪そうね……


「で、あと四体ね」


「ええ……いや、三体から雰囲気は変わっていませんが……」


「ふーん」




さて、今の一連の騒ぎで、他の異形達は私達を認識しただろう。


逃げられる前に閉じ込めましょうか……


「界守朱円。聞こえますか?」

私は宙に向かい名を呼ぶ。


「界守を呼ぶのですか?逃げ道を作るのですね」


「逆よ」


「……ん?……そうですか」


「朱ーちゃん」


「はーいお嬢様」


目の前に、座敷童の様な存在がふっと浮かぶ。


赤い着物で、髪型がおかっぱ。


この子の顔はあまり見えない。いつも口だけにーっと笑っているのがわかる。


何故なら顔中お札だらけだから。この札は私意外には外せない……緊急時以外は外してはいけない……


「もう、界守。一発で出てきてよ、急な時困るでしょ?」


「朱ーちゃんて呼んでくれなきゃやだ」


「甘えんぼさんね界守は。じゃあ朱ーちゃん。この建物に結界を張って、何も出さない様にして」


「はーい」


「素直ね。いい子よ」


「ミコト様ー、へんなやついたからもってこようか?」


私はノウコを見る。


ノウコはその視線で理解する。自分の番だと。


察しの良い所が好きだ。


「お願い。朱ーちゃん」


「はーい」


返事の後すぐだった――


透明な何かに掴まれた異形が、物凄い勢いでこちらに向かってくる。


まん丸の鉱石に体が一体化した空飛ぶエビの様な異形。


顔に関してはカラスに近く、少し禍々しい。


どんどん接近する。界守は加減を知らない。


鉱石が光りだした。


魔術か何かだな……


「いきます」


ノウコが緊張しながら居合を構える。


それをチラッと横目で見る。


スーツ姿で妖刀を持つのって、やっぱかっこいいわね。


アニメでそんなキャラ結構いるもんね。そういえばあのアニメ二期見たかしら……


私の目の前までそれが迫る、ブレスの様な物を吐こうとしてる。


ノウコはタイミングを計るのに慎重だ。


その時だった――


鈍い音と共に、異形が消え去る。


「ごめんなさい、ミコト様。こいつ潰れちゃった」


「朱ーちゃんいいのよ。助けてくれたんでしょ?」


「……うん」


「ありがとう。もう休んでいいわ。結界はもう少し張っておいてね」


「はーい。ばいばーい、ミコト様」


界守朱円はそう言ってふと消えた。


「すみません、ミコト様。界守に合わせられませんでした」


「いいのよ。自分のペースで頑張ってね。ノウコ」


きっと私のペースに合わせるのも大変なのだろう。


「後、三体ね」


「気配なら、二体では?」


「そうだったわね、鈍ったかしら」


年上を立てるのも大事なのよ。


おっと。ふーん。


へー。


面白い。


この状況で一体こちらに向かって来てるじゃない。腕に自信があるのかしら?


動く手間が省けたわ。


「来てますね、一体」


「そうね、全く動かなくていいから助かるわ。あたし体力無いからね」


「いつでもお申し付けください、何なりと対処しましょう」


「お姫様抱っこでもしてくれるの?」


顔が真っ赤じゃないのノウコ。


私なんかと出会わなければ、この美人さんは今頃、多数の男性に言い寄られてる気品ある聡明なご令嬢だったのにね。


出会ってしまったから、刀振り回して、遙に年下の女の子に魅入ってしまっている。


世の中不思議ね。


「……お望みとあればいつでも」


さすがに、その興奮した感じで抱っこされるの色んな意味で怖いわよノウコ。


いつかご褒美にね。


そして、異形は奥から、ガシャガシャと大きな音を立てて歩いて来る。


「あれま、大きいわね」


「そうですね、ミコト様。ロボットですね」


「うーんそうね。エイリアンか何かが乗ってるのかしら?」


「わかりませんね……ですが、銃のような武器を所持していますので、ギリオドを降ろしますね」


「ええ、任せるわ」


ギリオドはエネルギーの消費が激しいから、直前までノウコは体に降ろさなかったのね。


恐らく帰りの運転を心配しての事でしょう。ノウコらしい。


「ギリオドよ。ワレが代償により得た契約、果たす時が来たぞ。参れ。この身に稀なる奇跡を授けよ」


その言葉何回聞いてもかっこいいわね、ノウコ。今度使わせて貰うわ。


空間から声が聞こえる。


「この地守りし者よ、命の限り我が故郷守り尽くさんと願わん……」


ギリオドも真面目ね。


異形は直前まで迫る。


しかし攻撃する気配は無い。


その時だった――


「この地に住みたもうカタガタよ、我は遠ク暗い場所から来たモノ。降参する。見逃してホシイ」


流暢な日本語ね、この異形はかなり高度な世界から来たのね。恐らく別の銀河かな?



「どうする?ノウコ」


ノウコはトランス状態で天井を見ている。


あーもう聞こえないか。


ギリオドを降ろした場合、得る物が強すぎて、ノウコなら意思疎通が困難になっちゃうのよね。


「ごめんなさい、ロボットさん。ちょっと遅かったね。一応聞くけど何しにこの星に来たの?」


「オソイ?権利の交渉だ……」


どのみち、不合格です――


あれ、ノウコいない。


あーあ、天井に立ってるじゃん。


ノウコは異形の真上にいる――


異形は上を見た。


が、その時には勝負は終わっていた。


ノウコは天井に足をべったりとつけて、ほんの数秒で、その異形ロボットの機体に

1000発の居合を入れた。


ガシャーーーン!!!


ガラクタだけが、地面に落ちる。


「ふー、やっぱギリオドすごいわね」

私は素直に感心した。その戦い方はもはや芸術の域すら超えている。


「それにやっぱね、中に生命はいない。遠隔操作かなんかでしょう。一応このメモリーみたいなの踏んでおこっと」


私はぴょんとジャンプして、それを踏み潰した。


「ねぇ、ノウコ大丈夫」


ノウコは地面に跪き、顔が真っ青だ。


「大丈夫です。ミコト様。少し息を整えさせて下さい」


無理も無いわね、あの化物を体にいれたのだから。


ノウコは実際、超すごい。


いつだったか、ギリオドに勝利し、幽体の契約を自らの手で勝ち取ったのだ。


ある意味、私みたいな例外が居なければ最強格なのにね。


しかし、この世界も無数の世界も例外だらけなの。


「それより、二体消えたわね……おかしい」


「いえ、一体ですよ?残りは一体です」


「そうね」


今の奴が消えたと同時に、一番強い奴が消えた。


今回の本丸が。


界守は引っ込めたけど、彼女はまだ結界を張ってくれている。


それを、抜けたやつがいる。


ギリオドの戦闘を見た後に消えた感じだわ。


つまり、偵察する事が目的で、尚且つ、遠隔で界守の能力を上回るレベル。


「やっぱりね……」


「どうか、されましたか?ミコト様」


――幽明 灯さんね――


あの人も使役する力あるんだ。


ふーん。


もう、猫かぶってられないね。残念。



「最後の一体の場所は知っているから、もう行きましょうか?私が戦うわ。ノウコは休んで」


ノウコは少し俯いた。


最初から全部の異形の場所は知っていたのだけど。


幽明さんの奴だけが探りずらかったけど……恐らくフィルターみたいな魔術もかけてるのね。用意周到だ事。


でも、あまりに全て知っている素振りを見せたら、ノウコの実力を計れないからね。


でも、知らないフリした甲斐があった。


大体、ノウコの直近のレベルは分かったわ。それが今日の収穫ね。


もう少し、エネルギーをつけた方がいいかもね。


「至らないばかりで申し訳ございません、ミコト様。」


「いいのよ、あなたはずっと何年も私の味方をしてきてくれただけでも十分過ぎるわ。これからも隣にいて。それだけでもいいわ」


「はい、ミコト様。命尽きるまで」


「だめよ。いつか殿方と結婚しなさい」


「……」


「いやでございます」



「頑固ね。じゃあ、庭園へ向かうわよ」


「はい」


向かうと言っても、目と鼻の先だ。


なんなら異形も、もう見えている。


あの中央の大きな獣の石像だろう。


あんな、5メートル以上の巨大な頭が二つある獅子の石像が庭園に置かれるわけない。


ノウコはきょろきょろしてる。抜けてるところがちょっと可愛いわね。


「あ、ノウコ。私のやつ貸して。私オンリーで手早く片付けるから」


「鉾を使われるのですね。どうぞ、こちらを」


ノウコは背中に背負っていた皮の箱から、鉾を取り出し私に渡す。


それを見て私は思う。


これ作った人デザインのセンスすごいよねと。


多分、人じゃないけど。


散りばめられた、宝飾もこの世界の物では無い。


おっと、考えてる内に、あの異形動き出したわ。


「ノウコ下がっていて」


「はい、ミコト様。ご武運を」


石像の獅子は生き物となんら変わりない動きで、こちらの様子を伺う。


むしろ石であるのに、生物より柔軟だ。


私は鉾を一振りする。奴は少し焦点が変わった。


「ところでさー、ノウコ」


「はい」


「魔法少女スピカマインドの二期見た?」


「えぇまぁって、お嬢様!!!!!」


奴は私に、勢いよく噛みついて一瞬で決めようとしてきた。


しかし――


奴は正反対の方向に突っ込んでいる。


ノウコは息を呑んでる。


「そんな心配しなくていいよノウコ、あれ、幻術見てるから」


「さすがでございます」


「でさーOVAも見た?」


「はい。お風呂回のやつですよね」


石像の獅子は、嗅覚を頼りに立て直す。


話しながらも、私は奴を観察する。


へー、やるじゃん。見た目だけあって、やっぱライオンだね。


「そうそう。ノウコあれどう思った?」


ノウコは焦っている。石像の獅子が、私本体にとびかかる寸前だからだ。


「えっ!あ!え!際どい描写より、特別魔法のティンクルプリリズムの作画が最高でした!!!ってミコト様ーーー!!!」


このままいけば、あと5秒で私は冥府に行くだろう。


しかし――


「まさにそれだね」


「ティンクルーーーー!!!プリリズムーーー!!!」


その瞬間、地面の草がウジャウジャと伸び、奴を拘束し、石像の獣周辺に、ピンクの小さな球体が無数に現れ、連鎖的大爆発を起こした。


その際、無数のハートが奴の体を巻き込みだし、そのまま奴を吸収する様にしながら一つの小さなハートとなり、最後にはパリンと割れる様に消えた。


「キュートな愛は世界を照らすんだよ」

セリフまで、真似してしまった。


流石に引くかなノウコ?


いや、ノウコは涙を流している。


共感できる相手が傍にいるって素晴らしい。


「ミコト様。大変失礼ですが、本家を超える実写化をいきなり見せないでください!涙が止まりません!」


「もう大袈裟だなーノウコは」


「あなた様はやはり奇跡の方です」


「そうなんだけど、責任も奇跡的に多いわよ」


「ずっとお供させてください」


「頼むね、ノウコ」


「はい。ミコト様」


「ところで、もう、異形は全て無くなりましたがどうなさいますか?」


「勿論、帰りましょ。運転できそう?」


「はい、その体力は計算に入れております」


「そう、ではいきましょうか?」


「はい。ミコト様。それと報酬の件なんですが」


「なぁに?」


「リゾートが完成した場合、一等地に別荘を建てて譲渡するという後払いらしいのですが、本当にそれでよろしかったのですか?催促などは必要ございませんか?」


「ええ、必要無いわ。催促も別荘も。ノウコにあげるわ。いつかそこで、”全て忘れて家族と住みなさい”私がどうなるかわからないからね……これから」


「宿命は共に背負います。寂しい事は言わないで下さい……」


「なら、好きにしなさい。あなたにはそんな道もあるってだけよ」


「ミコト様……」


「ほら、しんみりしないで。帰りましょ」


「はい」


「あ、でも一つお願いがあるわ」


「何でしょう!!!」


「帰りに、焼き肉が食べたいわ、あなたと」


「ミコト様が焼き肉とは珍しい!!!成長期でございますね」


「そうかもね」


私達は廃病院を出て、車まで歩く。


私は天を見上げる。


私に守れるモノは全て守らして欲しいと、神様にお願いをした。


少し眩しい日差しに目を細めながら……


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