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ル・スペクトル・デュ・ストリーム




私は奇妙な配信を見ている。




動画は淡々と流れる。




そう……淡々と……




明らかな異常を映しながらも、何事も無いように。






場所は、広い倉庫だ――




画面中央に大きな存在が映っている。




それは……




傷だらけの巨大な異形――




何故、こんなにも傷だらけなのだ?と疑問が沸く。




何故なら、そこに映る異形は大抵の存在には傷一つもつけられなさそうな風貌と威厳がある。




はっきり言おう。




こいつは、この世界に来てはいけないタイプの何かだ――




災害級の異形――




大きな角が四本生えている。そこには鎖が巻き付けられていて、その鎖は天井に括り付けられている。




長く太い斑模様の尻尾が数本うねうねと自由に動き回っている。




顔が巨大な狼の顔の骨の様で肉が無い。




その代わり、何やら文字が刻まれている包帯が巻いてある。




肉体に関しては、ゴリラやオランウータンを十倍のサイズ感にした雰囲気の様だ。




節々に骨が突き出て鎧の様になっている。




極めつけは、体の周囲を火炎の粉塵が時折現れて、少爆発起こし消えていく……




……




恐らく、魔術が使えるか……もしくは、そもそも”体に火炎の属性が宿っている”のだろう。




こんな存在が映る動画が出回って良いのか……?




そんな存在が括られているのに暴れもせず、ただじっと座って骨の顔の中から遠くを見ている。




まるで、人間とはかけ離れたその異形は、見ている私達に対して、今から起こる事をしっかり見ておけと許容してくれているみたいだ……




異常すぎる――




これが、動画の前半。




尻尾や属性以外は、動きもせず、ただただ10分が過ぎていく、静かでありながら、とても気味の悪い動画――





――





都心の喫茶店で、私はその動画の流れるパソコンから目を離し、目の前に座っている幽明 灯に問うた。





「なー、幽明。一体これなんなんだ?」




「今、バズってんの。再生回数50万回。コメント5000件。大半はAI動画と思ってんだけどね」




「へー、みんな怖い動画好きだよね。AI動画も最近人気だし。でも……これはガチだね。今日呼び出したのはこれの話?」




「そそ。ちょっとね……二人だけと、これに関して話したいっと思ってね」




幽明と二人。それは私と命ちゃんだ。




命ちゃんは隣に座っているが、見せられた動画をじっと目を細くして凝視し、一言も話さなかった……




しかし、動画を見ていた際、時折呼吸が荒くなっていた。




その時は、目をすぐにでも離したいという雰囲気でもあった。




この動画じゃ無理も無い……




しかし……異形を見る命ちゃんの瞳は少し冷酷で、アニメの話をしている時とは別人だ。




何故か私は、この子の、その目つきに対しても少し恐怖を感じていた……





「これって……誰が撮ってるんですかね?」




命ちゃんがようやく口を開いた。




「そうだね、種明かしは動画の後半だよ。二人共心してご覧あれ」




幽明はホラーショーのMCの様に、私達を動画の後半へいざなう――






私と命ちゃんは、幽明のパソコンから流れる動画を再び見始めた。




すると……




カメラが突然動き出す――




カメラは異形にどんどん近づいていく……




しかし、異形は無反応だ。




ただ、傷が痛むのか呼吸が荒い気もする。




そして……




異形の間近までカメラは寄った。




……




撮影者は怖くないのか?




視点が下がる。




そこには……




バケツがある――




中には金属の様な物がいくつか混ざっている。




そして視点は、異形の四方にリズム良く移動する。バケツは四か所にある。




中には、同じように金属もあれば、塩の様な物もあるし、なにやら丸まった異形のオブジェの様な物まである。




そこで、私は気づいた――




バケツの下に、円形の魔法陣の様な物がある。




ヒノと呪いの館へ行った時、そこで見つけた本に書いてあった魔法陣に少し似ている。




今はあの本は私が持っているのだが……





そして、カメラは異形から離れだした――




異形を映すのは止めて、倉庫の端にある意外な物を映した。




古いチャーチオルガンだ……




その前に、パイプ椅子が二つある。




それらをまとめて映す場所に、カメラは固定された。




……




何が始まる……?




そして、黒いローブを来た人物がカメラをのぞき込む。




一瞬映る人の顔。




見えずらい……




しかし……




その人間は黒いローブを着て、フードを深くかぶりながらも椅子に座った。




ローブはコスプレというよりは、中世から残っているホンモノみたいな質感だ。ところどころ灰色に傷んでいる。




そして、その人物のフードから、ちらっと絹の様に滑らかな金髪が出てくる……




「え……」




命ちゃんが、まさかと言う声をあげる。




私も一瞬予感が走る。




そんなはずがない、彼女は今、行方不明なんだ……




世間を騒がせた憧れの存在。




……




……




次の瞬間――




その人物は、フードをおもむろに外し出した。




……




――




「あっ!!!」




私と命ちゃんは、ほぼ同時に声をあげる。




その人物は、二年程前にオタク界隈に絶大な人気を博して突然行方となったアイドル。




――流図トドリ――




「やっぱトドリじゃん!!!!!!」




「ほんとです!!!トドリです!!!!!」




流図トドリとは、爆発的な身体能力で人外なダンスをこなし、伸びが良く混じりっ気の無い可憐な歌声が人気だったアイドルだ。




主に、アニソンでヒットしたのだが、声質の良さから、超人気アニメのヒロイン格の声優も務めたりもしていた。




その演技は、辛口の批評家や第一線で活躍する、アニメに興味の無さそうな俳優陣も満場一致で絶賛する程だった。




見た目は、キラキラとスポットライトで映えやすい、煌めく金髪で、本人曰く地毛らしい。




大胆にもその髪をオールバックにしている。彼女のトレードマークだ。




女の子のファンが多いのはそれが原因の一部でもある。




それに金色の瞳。




私の廃れた黄金の瞳とは違う金色。人々を魅了する輝かしい金色。




穢れを知らない白い肌と、大きいのだが無駄の無い、少し切れ長の優しい眼、薄いピンクの唇。




それらのパーツのおかげで大胆な彼女にも、少女のあどけなさが残っている。




その中性的であり、アニメのキャラの様な風浪と声、憎めない素直で思いやりのある性格の感じから、




”オタク全員に愛される女”とネットで言われるまでにもなった。




彼女のミームは沢山あるが、全て楽しい時に使われるような物ばかりで、それがみんなに愛されている証拠でもある。





「はぁはぁトドリ……はぁ可愛いすぎます……神過ぎます」




さっきとは違う意味で呼吸が荒くなってしまっているよ命ちゃん。





命ちゃんの反応を見れば、どれだけオタクに人気だったのかも簡単に想像が付くだろう。




女の子でもこれだ。男に関してはファンで結成された、巨大なトドリ親衛隊の派閥が50を超えるらしい。





その派閥の小競り合いが社会問題にもなったぐらいだ。





私だって、トドリのアニメ作品は全部見たし、リップだって彼女の真似をしたやつを今でも使っている。




でも、よく考えろ。




そんな彼女が、何故こんなとこにいるんだ……




――




とうとう、トドリが喋り出した。




「やっほー!みんな。久しぶりだね?元気してたかい?あーしは超忙しかったよ!」




昔のトドリと変わらない……




「それでね、早速だけどみんなに二つ謝らないといけない事があるんだ……」





「聞いてくれるかな……?聞いて欲しいな……」





「……うんうん。聞こえるよ、みんなの声。心で聞こえる。私の信じたみんなならYESと言ってくれてるね。ホントに大好きだよ、みんな」




「……」




トドリは目を瞑り、とても優しい顔をした。




「じゃあ……言うね」




「一つ……。突然いなくなって本当にごめんなさい。私を生きる希望と思ってくれてたファンの子までいるのに、本当に失礼な事だったよね……心の底からごめんね。私も何度も泣いたよ」





「でもね、信じて欲しい事があるんだ。逃げた訳じゃないんだよ」




トドリはそう断言し、眼に強い意志を宿らせる。




「私はファンのみんなを救うため、あの決断をとらざるを得なかった……」




救う?……どういう意味だ?




「訳わかんないよね……いきなり救うなんて。おこがましいって自分でも思ってるよ。脈略無いし意味不明だよね」




「でもさ、みんなならホントはわかってくれてるんじゃないかとも思っているんだ」




「皆からのファンレターを読んでてそう思ったんだよ。みんなは私に救いを求めている。それも、すごく」




「LIVEでもこの話した事あるから、なんとなく気づいてる人もいると思うけど……」




「現代ってホントに苦しい事多いんだよね……」




「何に対しても、苦しみがつきまとって、背負わされて、少しの報酬で誤魔化されてるんだ」




「ファンのみんなが沢山声援をくれる度、その裏にある苦しみが私にはずっと見えてたんだ」




「だから、私が背負うんだって、ずっとパフォーマンスしてた」





「でもある時ね、悩みに悩んだ挙句、最上の解決法を思いついたんだ……」





最上の解決?現代の当たり前の苦しみから逃れる解決をトドリが作れるとでも言っているのか?





「それは……今ここでは言えないけど……君達を救うのはこれしかない」





「私は自己中だから私にはファンのみんなしか見えてない。救おうとしてるのも、みんなだけなんだ。性格やばいよね。全員なんて大それた事は私には出来ないから……」




「でも、君達の事は救えるかもしれない。変わらない日々、絶えない苦しみ、自分がどこへ向かっているのかわからずに、すり減る毎日。簡単に社会に踏みつけられるちっぽけな存在……そんなの……そんなの……クソッくらえだ」




「みんなにそんな苦しみをずっと味わって欲しくない。私のライブの時みたいに今が


最高なんだって目を輝かせ続けながら、光に進んでいって欲しい」




言ってる事は、分かる。




前半の異形さえなければ、今私は歓喜しているだろう。




「だから私は……」




「君達の為だけの、小さな新しい世界を作る。そこには心の綺麗なみんなだけが行ける。自由な生をみんなで生き直そう。君達は踏みつけられてばっかりでいい存在なんかじゃない」




流図トドリは熱弁してたが、言い切ってから、ふと我に返る。




「ごめん、熱くなり過ぎちゃったね。てへへ。あーしらしくないかね。若干引いちゃう?でもね……そんな感じなんだ」




「意味があって、それを成すために消えて、今準備が整い出している……」




「一つはこれでおしまい」





「そして、もう一つ……」





「これは、どうかな……でも言うべきだね……もう、嘘はつきたくない」





「言うね」





「……」





「私は……人では無いよ。異形だ……」





私と命ちゃんはその言葉に衝撃を受けて固まった。




一気に自分達の常識が崩される様だった。




授業で先生が、最後の日に、今までのこの科目は嘘です、存在しません。とでも言うような感じだ。





あの憧れの存在が"人"では無かった……





「そんな……」




命ちゃんが大事な何かを失ったかの様な顔をする。





「言われてみれば、人間離れしてたもんね……」




私は冷静を装い、気にしてない自分を演じて、自分を保つ。





「異形ってのはさ、知らない人もいると思うから言うと、別世界の存在なんだ。


ニュースとかでたまにやるから、知ってるかもだけど……モンスターみたいなのだけでなく、君達に近い存在の異形もいるんだよ」





「でもさ、出来れば怖がらないで欲しいな……」




「私のパフォーマンスを見て、ファンになってくれて、その君達を私が心から愛してるのに、人も異形も関係あるかな?」




「だから私はね、人も異形も関係なく、ただ心の通じ合う綺麗な存在だけが自由に生きれる世界を作ろうとしているんだ」




理屈は通っているんだが……綺麗な存在と言う点に狂気を感じる。




確かに、心の綺麗な人というのはいるのだが、彼女の考え方や言い方からすると、少し違うニュアンスを感じる。




しかし、素晴らしき彼女の導きをただただ信じ、魅了された孤独な存在が膨大にいるような気がする。




何かを変えてしまいそうな動画だ……危うい。




幽明の眼もそんな風に言っている。




「ここで、少し仲間を紹介させて欲しい……堅い話が多かったから、今からはみんなリラックスして、お菓子でも食べて見てね。ちなみにあーしは異界でもアイドルに近い事をしてたよ」




仲間?





流図トドリの座っている、隣の椅子に、同じく黒いローブの人型の存在が座る。




トドリと同じぐらいの背丈。




その存在はフードをとり、カメラに向いた――




「こんにちはー、皆さーん。私は、円環ミレアでーす。よほほーい」




円環ミレア――




濃いピンクのロング髪に、オレンジのメッシュが入った女の子。



蒼白の肌で、頬に桃色のチークが浮かんでいる。



目鼻立ちは完璧に近く整っている。




目鼻立ちは完璧に近く整っている。




トドリと同じく人間では成せない顔の美しさだ。ちなみにヒノもその類だ。




淡いピンクの瞳には、何やら古代の文字がランダムに流れている。




強烈な個性だ。初っ端から引き込まれる。




命ちゃんも一言で釘付けになっている。オタク受けしそうな雰囲気だ。




トドリ顔負けの雰囲気の女の子だ、しかし初めて見た。





「トドリとは異界で同じグループだったの。アイドルというより秘密結社みたいな感じかなー。トドリったらかっこつけちゃって。えへへ」




「後、私はトドリの意見に大賛成の子だからねー!つまりはトドリとその愛するみんなの味方!しっくよろ!こんな世の中クソッくらえって感じー!うふふ。でも、トドリのファンのみんなは勿論大好きだからね。特別にちゅっ♡」




円環ミレアの淡いピンクの瞳両方ともの奥に数字がランダムで流れ出した……




それだけじゃない……




あ……




今のサブリミナルだ。




私は時々、窮地に陥った時などにスローモーションで目の前の現象を捉えるが、それが今反応した。




一瞬、映像が超高速の認識できない速さで、円環ミレアの際どい水着グラビアの映像に切り替わった。




「トドリとは幼馴染の絆があるから、今回は手伝っちゃうよー!!!」




……




なんか分からないが、無償にこの子が欲しくなる……危うい気持ちが沸く……いけないと思ってもそういう気持ちが沸いてしまう。




命ちゃんなんか、目が血走っている。それを見て私は少し我に帰れた。




幽明は静かに、座って音だけを聞いて目を閉じている。余裕を持ちながら、何かを熟考してる感じだ。




「はーい、ミレアーそこまで!あんた喋りすぎるからね!私の大切なファンとっちゃダメ」




「はいはーい!静かにしまーすのちゅっ♡」




ウインクした。




そして、再度サブリミナル。つぎはさっきよりグラビアが過激だ……




それに、大勢が儀式をしている様な絵面もあった……




また、瞳には数字がランダムで表示されている。




だめだ、前半の異形の動画とは違う意味で見てはいけない。




そして、トドリは急に真剣な顔になる――




「では、みんなそろそろ始めるね」




「みんな気になっていると思うけど。倉庫の中央の子だけど、あの子は、悪い子じゃないから心配しないで。大事な要素なんだ。私達と君達の味方でもあるよ」





沢山だと?……





やばい――





「今からあの子は私達が治療してあげるの」





トドリの表情がさらに変わる。言葉にすらできない、圧倒的な冷静な覚悟の雰囲気。




円環ミレアはそんな、トドリの手をとり、手の甲にキスをする、そしてカメラを横目で見て薄っすら笑う。





二人は席を立った――




流図トドリはオルガンに。




円環ミレアはその前に。





そして、トドリが無垢な白い指で鍵盤に優しく触れる。





音楽は始まった。





……




倉庫の静かで冷たい空間に、古いチャーチオルガンの軋んだ透明な音が弾む。





このメロディー……知らないな




「バダジェフスカの乙女の祈りですね」




無知な私の表情から察して、命ちゃんは当然かの様に曲の題名を教えてくれた。




なんとも恥ずかしいじゃないか……




幽明の口角が心なしか張っている。恐らく笑いを堪える筋肉を使っているんだろう。




なんて、被害妄想に浸りながらも、私はその音色に気持ちが吸い込まれていく。




心をほぐす様な甘美なメロディーがどんどん流れていく。




とても美しい曲だ……




円環ミレアはその音を聞きながら、オルガンの前で悦に浸り、目が何にも焦点が合わずに、指揮をとっている。




こんな狂気の状態でも原始的な美を感じさせ誘惑してくる、異常な存在。




指揮をとった指の軌道からはカラフルな音符や数字が空間に浮き出ている。




私は滅多に感じないぞくぞくする様な色気を感じた。




異形の美、特有の色気。




ヒノにもある。私はその深部まで関わってしまったが……




何も分からない子供や学生、孤独な存在が見るには洗脳に近い影響があるかもしれない……





その瞬間――





災害級に破滅的な雰囲気の巨大な異形のいる倉庫中央から轟音が響く。




その絶叫の遠吠えは、優雅な旋律を切り裂く。





「ウゴオオオオォォォォン!!!!!!グオオグオオン!!ウゴオオオォォォン!!!!」





バン!バン!ババババ!!!バチバチンバチンバチンバチ!!!!ジリリリリィ!!!!





もし近くで聞いてしまうと頭がおかしくなる程に、鼓膜を震わせるだろう絶叫と、空間を焼く雷鳴と炎の怒涛の響き。




しかしトドリは慈愛に満ちた表情で鍵盤を叩き続け、ミレアは狂おしいほどに艶やかな指先で、虚空に数字を踊らせる。




未知なる救済か?それともただの冷酷な破壊か?


画面越しでも伝わるその圧倒的な「力」に、私は言葉を失うしかなかった。





一体何が起こってるんだ……?




隣の命ちゃんを見る……




瞳には拒絶と不安があるのだが、無意識にオルガンのリズムに合わせて指を動かしている。




改めて、この動画はやばい――




「どうなってるのこれ……?幽明……」




「錬金術の一種だね、ただし金の錬成でも、不死の心の探求とかでも無いね。作ろうとしてるのは今は不明はわからない。強大な異形に、魔術と現実的素材を要素として何かを施しているっぽいね」





幽明は目を閉じて語る。





命ちゃんは羨望やら拒絶やら恐怖などを同時に纏った、複雑な表情をしている。




時間が過ぎるのが早い、気持ちが吸い込まれ過ぎた……曲はそろそろ終盤だろう……




絶叫も大分弱くなってきた……




流図トドリも、円環ミレアも、少し普通の表情に戻って来てる。




……




恐らく、フィナーレを引き終えた。




曲は最後に、小さな音を放ち、広い倉庫の無音にかき消される。




とうとう、曲は終わる――




そして――




流図トドリと円環ミレアはカメラの寸前まで近寄り、画面に笑顔で投げキッスする。




そこで、動画は終わった。





幽明は背筋を伸ばす。





「二人共お疲れ様。結構パンチ効いてただろ?」




「パンチも何も、狂気の塊じゃないか」




「はは そうだよね。現実な分、カルト映画も真っ青って感じだ」




「トドリ……好きだったのに……」


命ちゃんは私達の手前そうは言ったが、さっきの二人の演出が忘れられないという、羨望めいた眼もしている。




つまり、命ちゃんは、自分の心も含め何が真実か分からくなったと言う感じだ。




冷静なこの子が、こうなるんだ。50万人の視聴者の大半が心配だ。





「それで、何故私達にこれを?」


命ちゃんは気持ちをリセットする様に、首を一回ぐるりと回し、鋭い瞳で幽明に尋ねる。




幽明はその切り替えの良さに、見込んだ通りだと言う表情をした。





「協力してくれないかなってね……他の人には内密に」





「何の協力ですか?あれらの三人に何かするんですか?私が出来ると思っていらっしゃるんですか?」




「私の能力も何も知らないですよね?ただの女の子かもしれませんよ、幽明さん?」




この子は大人しいと思ったが、かなりはっきりとしているな。幽明に物怖じせず堂々と突っ込んでる。




しかし、幽明はその態度をまたもや気に入ったかのように小さく笑った。




「いやいや、そんな大それた話じゃないよ。ただの調査の軽いお手伝いをして欲しいなーって。二人とも親睦を深めたいし」




本当かな?戦闘必須の案件じゃない?




「命ちゃんの能力はね、少し分かるかな……私は霊体の様な幽界関連を視る能力に特化しているんだよ。君は恐らく、器の様な役割をできるね」




「……はい」




「ごめんね勝手に詮索なんかして。たまにシャーマンやイタコの人と話すんだ、その人達の肉体のエネルギーの流れを細かく視たりするんだけどね、君のその器……かなり特異……」




「幽明さん、それ以上は大丈夫です」


命ちゃんは幽明を途中で遮った。




どうしたんだろう?




「ホントごめんね、つい……私もそういうオタクだから喋り過ぎちゃった。悪い癖だ」




「大丈夫です」




「手伝うのは嫌?」


幽明は、少しあざとく、すがるように顔を突き出し命ちゃんに迫る。


手なんかも合わせたりしてる。




「いえ、それはいいですよ。私も立場上、放って置くのは許されませんし」




案外あっさりOKだ……立場上?許されない?ってなんだろう。




「シスイはどう?」




あーちょっと嫌だな……ただでさえ、魔族から追われてるし、また厄介な敵が増えるのは……




本当に正直言うと、今は貯えた報酬で平和に友達と遊んでいたい……




そんな気持ちが伝わったのだろうが、幽明はどうしても私に手伝って欲しいのか


命ちゃんの時より、引こうとする雰囲気を見せない。




私にも、手を合わせ、ウインクして舌までペロっと出した。




「お願い!シスイ!」




可愛いじゃないか……




普段、理知的な幽明がそれするのずるいよ。




「……」




「ううん……やっぱいきなり、こんなの言われるの難しいよね……」




「でも大丈夫だよ。無理はダメだ。友達達は危険にさらせない。やっぱり私一人でするよ」




そういって、微かに笑うが、その裏にすこーし寂しさを滲ませてきてる。




もはや、それをされたら、断れないよ。




恩人であり、友人にそれをされて断る選択肢は私には選べないんだよ。




しょうがないか……




「まぁいいよ……友達だしね」




「ホント!!二人に話してよかった」




切り替えはや!!!!!!




幽明はとびっきりの笑顔を私と命ちゃんに見せる。




私達は、顔を見合わせた。




お互いの心が少し、通じた気がした。




二人で少し笑う。




めんどくさいけど、この笑顔の為にひと肌脱ぐかという気持ちで……




「この件様子伺っておくから、何かあったらまた連絡するね。他の人には決して内密に」




「ヒノにも言っちゃダメなの?なんで?」




「それも秘密。お願い信じてちょーだい。全部上手くいかせるから」




今日は信じてが多い……




あぁ、先が思いやられてきたよ……




最後に私は、コメント欄を見た。




固定のコメントに1万いいねがついてる……




それは――




(もう一回、みんな集まろうぜ)




あぁ……




時間があまり無いかもしれない……



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