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空の詩集



私は空が好きだ。





そんな事を、廃マンションの屋上で、柵に背をもたれさせながら、一人ぼんやり晴れた空を見上げながら考えていた。





「最近色んな事、あったなー……」





私は流れる雲を目で追いながら回想する。




ヒノと出会う少し前の、異形霊媒を始めた頃からを……




よく考えてみたら、嘘みたいな事ばっかで、あまり実感が無い。




異形を倒したり、能力を使ったり、女の子と付き合ったり、友達が出来たと思ったらその子がUFOに攫われたり、本当に現実か疑いたくなるような事ばかりだった。





しかし、確かに全て現実だった――




その地続きである今でさえ、食べてるチョコ菓子の甘みが、幼少期に食べたチョコの甘みと完全に一致するのだから、同じ私であると言う証明だ。




難しく考えてる様で考えていない。





私は間の抜けた声を出した。





「平和だなー……今日は」





そういえば久しぶりに、私が異形霊媒になるきっかけを作ってくれた。女の探偵さんとこの前久々に電話話した。




きっかけって言うのは、早い話、異形に襲われかけて、その人が助けてくれたのだ。




その時に、同時に能力も現れて、初めて異形も倒した……





まぁ、それはいいとして、何を話したかというと……




悩み相談が主で、自分はどうしたらいいか?どう進めばいい?どう選べばいいか?




と、漠然とした質問をした。




いわゆる、人生相談だ。





その時、探偵さんはこう答えた――





物事には原因の無い物は存在しえない。何も無い所から現象が起こりはしない。




そうであるなら、あなたが生まれた事も、勿論意味があっての事となる。




だから、しっかり自分には意味があるから、成さないといけない事があるって意識してるならそれでいい。直感に従えばいい。




と、教えてくれた。





正直、すこし難しかった……





でも、私なりに、なんとなく分かるから。それでいい。





こう言う事は、考え過ぎず、考えなさすぎずが丁度良い。





それと、その探偵さんがお勧めの詩集があるからと教えてくれた。




その人も一枚かんでいるらしい。




宣伝みたいで、少し面白かったが、お悩み相談をしてくれたので、私も一部買わせてもらう事にした。




それが、今、手元にある――





チョコ菓子を食べ終わったら読もう!





私はまだ空を見ている。




もくもくっと巨大な立体感のある雲。




遅い様で、目を離すと、すぐに流れていく。




私は街並みに目をやる――




無数の住宅。入り組んだ道路。その上を走る小さな車。




山並みも見える。山の中腹まで、家が建っている。




恐らく、お金持ちの家だろう。




何故、お金持ちは高い所に住みたがるのだろう?




考える事に意味は無い事がつらつら浮かぶ。




こんな私で、将来やっていけるのか、すこし心配になる気持ちが沸いた……




風が吹く――




私の真っ黒なセーラー服がそよそよとなびく。




私の真っ白な肌に、涼しくも温かくも無い、ただの気体の流れが通過する。




匂いだけは、少し……街って感じがする。





私は訳も無く深呼吸した――





吸える空気があるし、吸える自分がいるのだから、どうでもいいや。





と、ざっくりとした結論で、悩んでも仕方の無い事は終わらした。





詩集読むか……





綺麗な装丁だ。





表紙のイラストも、奥が深そうでありながら、現代の若者でも


とっつきやすい雰囲気だ。





私はパラパラとページをめくる。





ふーん……




中には、50作品程の詩とその挿絵。





作者は全部ばらばらで、挿絵も恐らくそうだろう。写実からシュール、水彩、イラスト、何でもあれだ。




値段の割に、完成度高いな。




あまり、こういうのは読む方では無いが、結構面白いじゃないかと思えてもきた。




どの作品も感性が全くバラバラでありながらも、どことなく共通点を感じさせる。




うまく説明できないんだが……





何かをとても大切にしようとしているんだ。その何かが説明しづらい――





その多数の詩の中ででも、気になった二つがある。




ヒノがここに来るまで、もう少し時間があるので、心の中で読んでみようと思う。




二つとも空に関する詩だ――




一つは自由を求める空の話――




もう一つは繋がりを求める空の話――




私は目を開けて読みながらも、心で詩に入り込んでイメージをしてみた。






まずは、「空」と言うタイトルの詩だ――






---------------------------------------------------








空は真っ青で、どこにも境界がない。




上も下もない、ただ空間がそこに広がっている。




雲は薄く、青い風でなぞったように裂け、光をまとって揺れていた。




この世界は僕と空以外には、他に何も存在しないかのようだ。




そこを、もう一つの体で突き抜けていく。




金属の翼、燃えるような音。




機体は、けたたましく透明を突き破る。




エンジンは、うねる。




リズムを刻む、低くて重い、鼓動のような轟音。




それはもう“音”ではない。




空をねじ伏せる“意思”だ。




機体と言う、生命の意思。




地平線が見えた。




そこは、ただの境界じゃなかった。




青と橙が、じんわりと交わり、完全に溶け合う。




光の帯のように、空と地を繋いでいる。




夕焼け……




あの光は、優しい終わりだ、どこまでも遠く感じる終わり。




今この一瞬。




僕はただ黙って、見つめていた。




スピードの中にいると、過去も未来も、どうでもよくなってくる。




空に包まれていること、




煌めく光の粒子を突き抜けていること。




ただそれだけが、真実だった。




風が機体を叩くたびに、僕の心臓も震えた。




怖くてじゃない。




ただ、湧き上がるんだ。




僕は、このすべての中で確かに存在しているという実感が。




涙。




僕は、まだ帰らない。




まだ、青が深い、




まだ、風がやまない。




まだ、、、




--------------------------------------------------------




……




この作品に関しては、私はとても共感できる。




何からも離れた場所で、ただ一人、今を感じる。




逃避かもだけれども、ポジティブで自由を求めた逃避だ。




私というか、誰しもがこのパイロット?の様に、孤独に対して安らぎや生の実感を求める瞬間があるのではないかと思う……





では、次に行こう――





次は、ちょっとメロ過ぎて、読んでるこっちが恥ずかしくなるんだけど……




純粋な愛の表現と言う点では気に入っている。




愛とは一体何なのだろう?と思う時がある。




真の答えは一つしか無いだろうが、それをどう解釈するかは人の数だけあると思ったりする。





私の意見では、愛とは厄介なモノだと思う――




そうなってしまう程に幸せでもあるが――





とりあえず、次の詩を読んでみる。




タイトルは「この空にあなたを想って」だ――





-----------------------------------------------------




「この空にあなたを想って」




○○くんへ



この手紙を読んでいるあなたは、どんな表情をしてるのかな。


笑ってる? 驚いてる? それとも、ちょっと困ってる?


それでも、私は本当にどうしても、


あの夜の事をあなたに伝えたかった。


夜、校舎の階段を昇って、


誰もいない屋上に着いた瞬間、風がふわりと吹いて、


空が近くて、ひらけていて、


まるで宇宙がすぐそこにあるみたいだったね。


星が降ってきそうって、あなたが言ったよね。


あなたと並んで座って、黙って空を見てたときね……


何も起きてないのに、心だけがどんどん膨らんでいって、


その時、私は人生で初めて奇妙な感覚になったんだよ?


あなたの周りの時間が止まるような――


瞬きすら遅くて――


その瞬間から全ての風景が輝き出して――


私の心の中は、何かを手に入れたような……もう、ひとりじゃない……満たされている――


そんな感覚になったんだ。


そして、こう思ったの……


"ずっと私だけの隣にいて欲しい"


ただそれだけの気持ちだけど、胸がすごく痛くて……


あなたの声――


あなたの笑い方――


指先の動き、髪の揺れ方――


そのどれもが、


頭の中で、何度も再生されてしまうんだよ。


おかしくなっちゃったのかな?


あなたが頭からずっと離れないんだよ?


星よりも小さなきっかけで――


私はあなたを好きになって――


星よりも大きな気持ちが――


今の私を作っています――


好きです。


言葉じゃ、全部言えないくらい。


大好きです。


今すぐあなたに会って抱きしめたいぐらい……


変だよね……こんなの。 ふふ


もしあなたが、この気持ちを少しでも受け取ってくれて、


いつかまた、あの屋上で、同じ空を見られたらいいなって思います。


二人一緒に、心通わせてあの景色を見るのなら、


どこかの世界のお姫様も羨むと思います。


私の世界に奇跡があるとしたら……それは……


恥ずかしいので今は、やめておきます……


星は、願いを叶えるって言うけど、


私は今、この言葉にすべての願いを込めます。


好きです――


本当に好きです――



どうか、あなたが幸せでありますように――




-----------------------------------------------






どうかな……赤面してしまう程、恥ずかしいでしょ?





この作者は、これが出版される時、恥ずかしく無かったのかな?





でもさ、こんなに透明な好きを、心に浮かべる人ってすごいとも思うんだよね。





私だって、ヒノと……その……いちゃついてる時だとかは、これにも負けない気持ちにはなるけどね?




と、対抗意識を燃やしたくなる程、単純に美しい詩だと思う。




探偵さん。買ってよかったよ、この詩集。




ありがとう――




私は、その本をパタンと閉じ、気持ちを切り替える。




深すぎるので、たくさん読むと気持ちが引きずられそうだからだ。




何事も程々に。






その時――





「お・ま・た・せ」





屋上の鉄製の扉が、錆びのせいで悲鳴の様な音を鳴らし開いた。





そこから、ヒノがケンケンパーの様な足取りで、近づいて来る。





「あっ、何もってんのー!!」





「これ詩集だよ。最近買ったんだ」





「そっちじゃなくて、そのポケットの」





チョコ菓子の方か、相変わらず大好きだな食べ物。





でも、ごめんヒノ。もう全部食べた。





「これはチョコ菓子だったモノだよ?」




「だったって何?」




「もう空っぽってことー」




「うわあーシスイのケチ、全部食べたー!!」




ケチなのか?




「そんな事言っていーのー?ヒノ」




「な、なによ?もっとすごいの隠してる訳?」




「いんやー ふふふ」




「なんなのよー いじわるー!」




「いやーただ、パンケーキ連れてってあげようかなーと思ってただけー。でも、ケチだから無理かもな―」




「大丈夫。シスイはケチじゃないわ。私が保証する」




なんだそれ。





「じゃあいつものやつちょーだいヒノ」




「はーい。だいすきちゅっちゅ」


ヒノは私をハグして、左右の頬を交互に当てた。




「ありがとちゅっちゅ」


私も同じ通りに返す。




「じゃっ行きますか?」




「行こ、行っこー」




「響も誘おっかヒノ?で、パンケーキ食べた後、私ん家で、怪談話しよ。電気消して」




「いいね!!!大賛成」




「いぇーい、今日楽しいねヒノ」




「毎日楽しいよ、シーちゃん」




「そうだね。霧島さん」




「だからそれ誰? ふふふ」




私とヒノは他愛の無い会話で大笑いをする。




幸せだ……本当に。




私には難しい詩も、物語も書けないし、言葉すらも上手く紡げないが……




この毎日の感動は、誰にも否定なんてできない、私だけの人生だ。




そこに負い目は感じない。




あ、そうか。




さっきの詩は、きっと今みたいな気持ちを描いた作品達なんだ……




……




私は空を見上げる。





今しか見れないこの空を、胸に閉じ込めた。





きっといつか思い出したくなるだろうから。





「おーい!シスイ置いてくよー!パンケーキは空には無いんだからねー!」

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