30セカンド・レボリューション 進化する異形
やられた。
完全に嵌められた。恐らく魔族の追っ手の仕業だ。
今、私は真っ昼間の山の中で、薄暗いトンネルに、一人閉じ込められている。
トンネルの入り口にヒノがいる。
何か叫んでいるが、全く聞こえない。
依頼先に車で向かってる途中、山で怪鳥に襲撃されトンネルに誘導されたらしい。
幸い運転中に攻撃は受けなかったが、逃げている内に、暗く不気味なトンネルに誘導されてしまったのだ。
このトンネル内部は結界か何かで隔離されている。
色々試したが、隔離している、”そいつ”を倒すまで出られないらしい。
現在、私の目の前に敵が一体いる。
そいつは腕が八本もある巨大な野人の様だが、全身は金色。顔は鏡面だ。
まるで動くトロフィーみたいだ。
そいつが三本の腕で、かかって来いと挑発してきてる。
しかし、こいつは30秒前は違う姿をしていた。
その時は、大アリクイに羽がある様な奴だった。
30秒で進化したのだ。全く別の形態に……
正確には、1秒から29秒まで、30秒目は違う形態になる。
羽の大アリクイの前は、ちっこい石像に手足があるだけだった。
武器を投げてくるから、念動で高速回転させた異形の鎌”ゼスパ”で潰したら、
そいつは潰した瞬間に次の形態に進化した。その間10秒ぐらいだ。
つまり、倒すと、進化が早まる。
魔視で核を見たが、こいつらには核が存在しない……
一体なんだ?特異な奴か?それとも外部から召喚でもしているのか?
山で襲撃してきた怪鳥。巨大な蟹みたいな甲殻類の鳥は、攻撃もせず
誘導だけして飛んで行ったし。
魔術ってタイプじゃない。
あぁ時間だ――
そろそろ、戦わないと。トロフィー野人が詰め寄って来てる。
ただし、倒すと、より強力な異形に形態変化し進化する。
考えろ私――
考えろ私――
私は奴の目の前に稲妻を一発大きく落とす。
近づくなよと言う威嚇の意味を込めて。
スマホサイズの銀の塊に圧縮した異形の鎌ゼスパは、最初のちっこい石像との戦闘で既に展開済みだ。
私の頭上を、瘴気属性を纏わして超高速回転してホバリングしてる。
その形は禍々しい触れてはいけない円。
やつは、ボクシングみたいに揺れ出した。
全くウザイ。気が散る。
でも、できれば、こんなウザくてもあまり傷つけたくない。
それは敵であれなんであれ。
しかし、命が懸かっているから仕方ないかもしれない
私はゼスパでトンネルの破壊を再度試みる。
壁に、何をも切り裂く闇の円を接触。
行け!!
ズズズズズズズズ!!!!!
駄目だ……トンネルに薄い膜みたいなのが張ってある。
クソッ
次の瞬間――
きたな――
八本の腕がピストンみたく運動して、交互に全て全力ストレートを打ち込んで来る。
――ッ!!!
私は、奴の腕全てに対面方向から強力な稲妻を空間から出現し発射する。ほぼビームに近い。
グウウウゥ……
こちらの威力が勝った。
連打ピストンを繰り出して、間合いを詰めてきた奴の腕が、真っ黒こげになり、体全体が大きく跪く。
しかし……
そろそろ30秒だ――
ほら、変形しだした。
次はなんだ?
奴の体は見る見るうちに、全く別の種族になる。
なるほど……次はお前か……
七メートルぐらいの巨大な蝶だ。しかし、本体部分はエイリアンの様な爬虫類に近い見た目の人型だ。
肌の質感が妙に人らしくて嫌な感じだ。
手には、煌びやかに装飾された宝槍。
完全に誕生した、新しい敵。29秒後にはいなくなる敵。
そいつは、光る鱗粉をまき散らして、トンネルの奥へと消えていく。
何故かあっちはかなり暗い。出口の光が何故無い?
10秒経過。
実際を言うと、私は戦いに関して、見ようとすれば大体、未来視やスローモーション
を扱える。
精神が不安定な時は失敗するが……
だから、体感的に、今はそんなに早くはない。
普通の感覚の存在がここに入ると、とてつもなく難易度が高いかもしれない。
20秒目――
あいつどこへ――
おっと――
やば――
未来が見えた。
あいつ、油断さして、後数秒であの槍投げてくるじゃん……
ずる。
案の上、時速700kmぐらいで、宝槍が私の顔めがけて飛んで来る。
ズビュ―――ン!!!!!!
念動で軌道を反らしつつ、さらには宝槍の操作を乗っ取った。
ゼスパは相変わらず頭上にある。
今からは、前に持ってきて盾代わりにした方が良さそうだな。
稲妻と宝槍だけで、攻撃は今の所十分だろ。
プリズムの魔法はまだ使う必要は無い。
というか、そろそろあいつはそろそろ進化するな。
その時、馬鹿でかい足音が聞こえる
ゴゴゴゴドゴンドゴンドゴン!!!!!!
次の奴が見えた。
えー……デカすぎない。
そいつは、ティラノサウルスの様なシルエットで、全身が銀色のドリルだった。
体長は縦横15メートル強はあるな。
動き方は直線では無く、辺り構わず突っ込んでぶち抜こうとしてる。
こいつ、きっと電撃効かないよね。
私の攻撃耐性まで進化で身に着けてきてる。
どこまで強くなるんだよ。
でも、待てよ。
こいつが無制限に強いなら、追っ手みたいな役目の立場にいないだろう。
もっと頂点にいるはず。
きっと弱点があるな……
そうこう言ってる間に、きやがった。
生命というより物質の塊だな。
トラック程の大きさの超合金ドリルが、時速300km以上で突っ込んで来る。
ゼスパ使う?稲妻?プリズム?
選択間違えたら終わるかも……
私は選んだ。
念動だ。
超熟練でないと物質しか操作できない。
生命操作するなら、空間の仕組みも熟知するぐらいのレベルが必要だ。
私には無理。
でも……
後、1メートルで私は木っ端微塵になる。
きっと、ヒノが叫んでるな。
見なくても分かる。
でもさ――
お前ただの鉛だろ?――
今の私からすると、スローモーションが作用してお前止まって見えるんだよ。
じゃあな。
私はそいつを念動操作して、汗一つかかず、一番最奥までぶっ飛ばした。
結構、飛ばしたのに音しないな……
空間どうなってんの?
次まで、あと十秒。
さてと、考えろ。
奴等には核は無い。
明確なルールがある。
空間を変形させてる。
つまり、この場の中を幻術かホログラム召喚みたいに操ってるやつがいる。
しかし、私の魔視で見る、私や奴等、それに空間のエネルギーの流れはホンモノだ。
感じる感覚もホンモノ。
仮にトンネル内の全てが幻術で、何処かで精神攻撃を受けてるんなら、
何故、直接攻撃しない?
それは恐らく、出来ない状況なんだろう。
例えば隣に、ヒノが居た場合、普通の異形ならきっと敵わないし。
しかし、これは恐らく幻術じゃないと思うんだよな。
やはり感覚のリアル差が現実で間違い無いと言ってる。
――
っと、考えている内に次がくるな。
今度はなんだ。
おぉこれは……
バカでかいウミヘビじゃないか。
いつかの絵本で見たよ。
てか、船までおまけつき。
船を締め上げてる巨大なウミヘビだ。
もはやデカすぎて、
一部しかわからない。
そいつの目と口が私の真横にあり、そいつの胴が絡みついている船の先端が少し確認できるぐらいだ。
私の背丈以上ある目がぎろりと私を睨む……
次の瞬間――
バッッック!!!
大口が雷光に匹敵する速度で私を飲み込もうとしてきた。
数秒判断遅れていたら、終わりだったな。
でも、未来視で見えてたよ。
何パターンか見た、お前が終わる未来しか見えなかったけど……
だから私は、事前に奴の頭上に先程の宝槍を忍ばせてた。
それで奴の口を、爪楊枝みたいにぶっ刺したんだ。
ごめんな。食べようとするからだ。
ギョオオオオオオオオ!!!!!
大ウミヘビが大絶叫する。
ゼスパで攻撃したら、即効倒せてたけど、進化早まるし。
ちょっと気づいてきたことあるから考えたかったんだ。
私は周りをゼスパに旋回させ、暴れ出す奴と1mmも物質的接触をしない様にした。
奴が近寄れば粉々だ。
そして、思いっきり暴れて大ウミヘビは再度口を開ける。
残り5秒。
あ、この巨体で火を噴くつもりだな?
ちょっとまずい、この密閉空間なら蒸し焼きになる。
のこり三秒……
一秒で終わらせる気か……
……
……
じゃあ私は0.1秒で終わらせるだけだ。
私は奴に突き刺さった宝槍をそのまま体内に光に匹敵するスピードで向かわせ、最大限、物質巨大化操作をした。
一瞬で奴は破裂し、その代わり巨大な棒が出現した。
……結構強かったな。
で、また進化してる。しかも目の前で。
息つく暇ないじゃん。
このままいけば負けるかも。
私はヒノを見る。
大泣きしてるじゃん。
帰らないと――
ここで、思った。
幻術でないなら、やはり物理法則に乗っ取らないと理屈が合わない。
さっきのウミヘビみたいなのを出力すると、膨大なエネルギーを使うから、いつか枯渇するはず。
もしくは相当な代償を払っている。
恐らく両方。
自分の身すべてを捧げる様な代償……
枯渇待ちでもいいが、恐らく判断をミスすれば一瞬で私の負けになる。
だから、代償を払っている奴を探すしかない。
そいつの本体は、捧げる代償がもう無い程、かなり貧弱なはず。
今戦っている、敵は本体では無い。何かの召喚魔術。召喚幻術。それが結論。
核の無い生命なんていないから。
生命特有のエネルギーの流れが存在しないのなら、それは物質であり意思をもって動けないし。
という所で、そろそろ、次の奴が出現だ。
私は宝槍を元のサイズに戻し、ゼスパを前方に展開し、明るい側の入り口、ヒノのいる方を背面とする。
そして――
目の前に現れたのは、異界の剣士。異界の侍。
だが今までとは雰囲気が違う――
5メートル程の大きさで、神器と言われても頷ける、その体長程の美しい刀を持っている。
甲冑は侍っぽいが宇宙服みたいな近未来のデザイン。
その中身は、幽霊の様に空白で、中に可視化されたデータが漂ってる。
まるで、かつて実在した最高峰の剣士を再現したAIの様だ。
雰囲気で分かる。
こいつ、多分馬鹿にならない程強い――
その時……
なんと、そいつが喋った。
「我は何故ここにおる?」
「知らないよ」
「許せ娘。止められん」
「謝るくらいなら、攻撃しないで」
「待てよ……娘……お主、未知災か?」
「は?」
「一閃、頼み申す。リリス殿」
「はぁ?……」
「ギウン……ターガ……キンズ……リリス……ディア……ジップロ」
(かの偉大なる戦士の頂きの方。リリス陛下に敬礼しよう)
あと十五秒。
話長いよ……
――!!!!!
今の一瞬で光の速さの居合が十発入った。
全てゼスパが弾いてくれたが。雷付与してなかったら、きっと通過して斬られてた……
そう考えてる間も、超猛撃でゼスパと正面から打ち合ってる。
金属の破裂する音が、この上なく激しく五月蠅い。それに火花が熱い。
残り十秒。防げるか?
いや、次にこれ以上が出てきたら、負ける。
どうする。
とりあえず。
私は奴の背後に一瞬で宝槍を持ってきて、後ろから奴を貫通させようとする。
あれ飛ばない……
え?
槍は十等分程に、いつの間にか分割されてる。
居合だ。全く見えなかった。
バラバラの宝槍は地面に落ちる。
残り、8秒。
奴は首を振る
残り7秒。
これで終わりだ……
……
……
このゲーム私の勝ちだ。
侍は次の瞬間には地中に落ちていた。
念動でその空間の地面を圧縮したのだ。
上級のやつなら、難なくかわすからこいつもそうだろうと思ったが。
私には奴の油断が見えた。
こいつは刀での戦いに夢中になっていて、頭上の様々な場所に、小型の隕石を私が展開してる事を気付かなかった。
これは、前回の異形からコピーした魔術だ。
私は、それを奴がいる落とし穴へ、コンマ一秒で落とした。
私は剣士じゃないんだ。刀で競う必要なんて無い。
ゲームセット――
プラス。
私は、ずっと確認していた。このトンネル内のエネルギーを。
すると、物凄く奥の地面に虫のサイズの何かが居て、核が動いてた。
それで理解したし。最善な攻撃を思いついた……
侍は、次の形態に進化する。
もはや見た事無い造形だ――恐ろしい。
さすがに、これは勝てなさそうだ。
でも――
もう、戦う必要は無さそうだ。
「全部消し飛べ!!!!!」
そう言って、自分以外トンネル一杯を包む稲妻の光の柱を出現させた。
最奥まで全て、私の光の海で埋め尽くす。
……
……
何処かで、何かが終わる音がした。
……
静寂。
……
そして――
「シスイーーー!!!!」
ヒノが入って来た。
私は無事ここから出られるみたいだ――
当分、時間に追われるのは懲り懲りだ。
疲れた。
「ヒノ撫でて」
「頑張ったね、よしよし」
「へへ」




