アンセイン・マリオネットのメンバーについて ドミノ君の語り
とある緑豊かな限界集落の中心に、異様な建造物が鎮座している。
それは、サーカスのテントだ。
一面の緑を裂くように、赤を基調とした派手で煌びやかな幕屋が立っている。
人影ひとつないこの土地にサーカスがあるなど、どう考えても不自然だってみんなは思うだろう?でも、これが俺のマイホームなんだ。
そんなテントの奥。
異界魔獣ギガビートは、あの巨体を隅で丸め、猫のように眠っている。
この世界の奴がビートを見たら怖がるけど、結構可愛い奴なんだぜ?
俺は木箱に腰かけ、ぼんやりと天井を見上げていた。
いつも「希望のない目をしている」とか散々な事を言われるが、別にそんなつもりはない。
ただ少し気怠くて、面倒くさいだけだ。
案外、俺はまともな部類の男であると自称している。
――あの人が来た。俺らのボスだ。
「ドミノ君」
出た。みんなに好かれてる、おちゃらけた上司みたいな楽しげな声。
この人はいつだって愉快そうに現れる。
アーテマさんが、いつの間にか俺の隣に立っていた。
「最近ですねぇ。この辺りから少し離れた空に――妙な物体が飛んでいるのですよ。目障りで仕方ありませんったらありませーん」
「……はぁ」
「人間界では“UFO”と呼ばれているらしいですが」
仮面の表情が、いつの間にか変わっている。思案するような顔だ。
「彼らの言う“宇宙人”というニュアンスとは違う気配を感じるのです。かなり邪悪な……あまり面白味を感じない存在ですね」
「へぇ……」
正直、興味はない。できれば関わりたくない。
「というわけで……じゃじゃん!
嫌な予感しかしない。この前置きの後は、必ず面倒事だ。
「ドミノ君!あれを撃破してきてください。ささっと」
えー……さすがに唐突すぎるだろ。
俺は即答した。
「嫌ですよ」
無茶ぶりにも程がある。
「駄々をこねてはいけません!」
「いやいや、”他にも”撃破できる適任な奴らいるじゃないですか。」
「しかもそんな簡単に撃破できるもんなんですか? あれって超高度文明の叡智の塊みたいなもんでしょう?」
俺は両手を広げ、勘弁してくれと示す。そして続ける。
「ポルジオルやメノノス、フリルに任せればいいじゃないですか。レイス姉なんて遊んでばっかですし。幽明なんて一番下っ端でしょ? あいつにやらせましょうよ」
「レイスさんは遊んで“ばかり”ではありませんよ。あと幽明さんには既に動いてもらっています」
「いや、ばっかでしょ。幽明はまぁ……確かに貢献してますけど……」
「レイスさんは遊んでしかいませんから、ばっかじゃないですよ……皆さんを管理する私も、なかなか大変なのですよ。トホホ」
その通りだ。わかってるなアーテマさん。
あの連中をまとめるのは、ほぼ不可能に近い。
アーテマさんが小さくため息をつく。
俺はふと思い出し、問いかけた。
「前にあの女二人が来たときも、わざと他の連中を別の場所へ行かせたでしょ? 俺とビートだけ残して。ずるいっすよ、アーテマさん」
その話を聞いた瞬間、仮面に電球のような光が浮かび、そのまま恍惚とした表情へ変わる。忙しい人だ。
「……物語こそが重要なのです」
「は?」
「よく考えてみてください。もし彼らがあの場に居合わせていたら、どうなりましたか? 物語は面白くなりましたか?」
「物語……?」
正直、よく意味が分からない。
「まあ……想像はできますけど。あの女達は確実に終わってましたね……」
俺は肩をすくめ、一応残念な顔をする。
だって、あいつらは二重に狂っているからな。
思考と、強さの両面でだ。人は異形に出くわすと恐怖で逃げるが、異形があいつらに出くわすと飛んで逃げるレベルだ……
レイス姉は思考は多少まともだが、力が壊滅的だ。あんな隕石みたいな力何処から来てんだろ?戦いの練習で何度失神させられたことか。
バランスの取れたやつが本当にいない。
幽明は後方支援役で冷静、頭も切れるが、あまり表に出ないし。しかも妙に俺に冷たい。
自分で言うのもなんだが、俺はかなりまともな方だ。この悪魔の右腕と尻尾以外は……
「ほう……ドミノ君は彼女らが確実に負けたと?」
「逆にどうすれば勝てるんですか。幽明以外のあの四人、一人一人が“未知の領域”みたいな強さなのに」
連中はアーテマさんと一緒にいる理由の一つが、アーテマさんの転移術で、あちこち渡り歩けるからだろう。
メリットで集まっているだけで、誰が上下なんてのはない。
多分、全員ほぼ同格の化物なんだろう。
なんて危ない集まりだ……
……いや、アーテマさんだけは、それでも底が見えない。
そもそも一個の存在なのかすら怪しい――
もし、幽明でも、一か月猶予があれば、前の女達といい勝負はすると思うがな。
この世界のただの一般人と考えれば、十分やばいやつだ。
もしかしたら、俺でも薄気味悪い作戦にやられる可能性もある。
勿論、右腕無しの話だが……
「てか俺ですら、レイス姉に昔ワンパンでのされましたからね。最近は分かりませんけど。あいつは馬鹿力にも程がある。もはや怪獣ですよ」
「怪獣は言い過ぎです。後でどうなっても知りませんよ? まあ、レイスさんをうちのサーカスに招くのも苦労しましたしね。私の仮面を一つ、叩き割られましたし」
やっぱあの暴力女はやばい。
結構前の話だろ? その時点でアーテマさんに一発入れてるんだから、十分に化物だ。
そんなやつに毎回、冗談半分で殴られたり、練習台にされたりしてる俺は本当に不憫だと思う。
「ポルジオルさんとメノノスさんが喧嘩した時、止められる人材は貴重なのですよ」
アーテマさんの仮面に、うっすら汗のエフェクトが浮かぶ。
いちいちそこまで演出してくれてるのは、少し申し訳ない気もする。
「そうっすね。フリルが暴れた時も、相当面倒でしたよ。あの三人がかりで止めるの苦労してましたし。俺も手伝いましたけど。幽明は知らんぷりでしたし」
「フリルさんは……まあ、ある意味本当に怖い子ですよ。私が“怖い”と言う時点で察しはつくでしょう?」
そうなのか。
絶対的な様な、覆す術が無い様な存在みたいなこの人が、一瞬でも恐怖を覚える相手。
フリルは間違いなく“超やばい”類だろう。
……というか俺は“君”なのに、あんな子供みたいな女に“さん”付けしてる時点でおかしい。
「おっと、話が逸れましたね、ドミノ君」
その瞬間。
空気が、変わる。
仮面が能面のように変わり、じっと静止する。
「私がドミノ君を選ぶのは、あなたでなければ意味がないと感じるからです」
「は?」
「わたくしの“縁の直感”が、ひしひしと鳴り、この仮面を軋ませるのです」
「なんすかそれ……」
正直、意味不明だ。
この人の話は、時々ホントに理解しにくい。
「とにかく」
ぱん、と手を叩く。
「近日中にUFOは再び現れます。幽明さんの情報ですから確実です。通信網も七割ほど掌握したそうですよ彼女。
ですのでドミノ君、しっかり見張って、時が来たらGOしてください」
「でないと――」
嫌な間だ。
「ドミノ君とギガビートのおやつは抜きです!!! ついでに給料三か月減額!!!」
「えーーー!? それズルいでしょアーテマさん! 拒否権ないじゃないですか!」
ギガビートがこちらを見る。
子犬のような目だ。おやつだけは守ってと、と訴えている。
あーくそ。
なんで俺がUFOなんて不気味な連中と戦わなきゃならねぇんだよ……
アーテマがくるりと回る。
「あ、それと」
「もしかして気が変わりました?」
俺は期待した。
「あなたが気に入っていた、あの女の子二人。
UFOに少し興味を示しているようですよ?」
「……は?」
「それと、新しく友達になった子も一人。
なかなか熱心に追っているようですね」
仮面が、にやりと傾く。
「もしかしたら、またパンツを見られるかもしれませんよ?
好きなんでしょうパンツ?」
またそれか。最近この絡みがホントうざい。
「はぁ!? 気に入ってないし、パンツなんて好きじゃないですって!」
「あら、そうですか?」
正直に言おう。
誰も聞いていないはずだ。
確かに、あいつらは可愛いかった。
特に赤髪の方は、あざとくて優しい感じが周りの女共には無い感じでちょっとタイプだ。しかも無防備で……って、だめだだめだ俺。
俺はこの右腕を愛してくれる奴しか好きにならないって決めてるんだ。
そして一応言うとパンツも……その……常識の範囲内で嫌いではない。
……てかこの人、心読めないよな?
「読めませんよ?」
アーテマがやけに早口の小声で何か呟いた。
「え? なんか言いました?」
「いえ、何も」
くすくす笑う仮面に変わる。
そして、ふっと真顔の能面になる。切り替え早いな。
「……頼みましたよ」
声が低く落ちる。マジなやつだ。
「私はあなたに期待しています」
慈愛に満ちた仮面にヒュッと変わる。
その顔やめろ。
その顔されたら断れねぇじゃねぇか……仮面だけど。
しょうがねぇ、いつもお世話になってるからな……昔から。
「……はぁ。分かりましたよ」
その俺の一言に満足げに一礼し、アーテマさんはさっと消えた。
――その次の瞬間。
――ガシッ。
「いっっっ!?」
首に衝撃。意識が飛びかける。
気配ゼロでこんな真似するのはレイス姉しかいない。
「だーれが馬鹿力ですってぇ?」
さらに背後から腕が回る。ヘッドロック。
苦しい。胸当たってんだよやめろキモイな。あっマジで息が――
「しかも“怪獣”? いい度胸ねぇ、ドミノ」
終わった。全部聞かれてた。
隣に幽明までいるじゃねぇか。普段いないくせにこういう時だけいるなよ。
ちょっと解説して野郎。どうせ今の俺は動けない。
レイス姉は、薄水色の長いストレートヘアだ。
陽を浴びると、弟の俺でも一瞬見惚れるほどに輝くくらいだ。
服装は飛行服に近未来的なデザインを足したもの。んで、動きやすさ重視。
どの世界でも違和感なく溶け込む見た目らしい。
各世界の闘技場やカジノを渡り歩き、時にはアーテマさんや幽明に金を借りている姿も見た事ある遊び人だ。
武器は持たない。
いや、持っている。
この女の素手と、魔術を乗せた格闘術。
あれは、百の軍勢に匹敵する、最悪の凶器だ。
こんな奴の弟の苦労わかるだろ?
そんで、幽明 灯。
こいつはまだ新人だ。
アンセイン・マリオネットに入って一年半ほど。
見た目は普通でありながら全然普通じゃない。
何処にでもいそうな女で、何処にもいない女。
服は、あの二人と似た制服だが、色味は青寄りだな。青は好きだ。
髪も黒に見えるけど、よく見ると深い群青なんだ。爽やかで静かな女って感じ。
だが異質なのは瞳だ。
クリアな銀色。ダイヤモンドに曇りを閉じ込めたみたいだ。
幽界の異形や魔法や特殊なルールを容易に捉え解決に導く、稀有な眼。
その上に眼鏡をかけているせいで、光を受けると余計に異質な雰囲気が漂っている。
以前来た白い女は、アーテマさん曰く“異形モンスター型の霊媒”。
だが幽明は違う。
幽界――俺たちでも視認が難しい“別層”に対する霊媒に特化している。
そもそも、こいつが仲間になった経緯も普通じゃない。
ちょっと前、俺たちは日本の別の土地に異世界から転移して根城にしていた。
そこへ現れたのが幽明だ。
「あなた達を祓います」
そう言って、一切怯えず物騒な札を振り回してきた。
その胆力が気に入られ、気づけば皆が仲良く話しかけていた。
話してみれば、日本各地を巡って幽界系霊媒をしていたらしい。
ネットにも精通し情報網もかなり深くて、異様に頭が切れ、ハッキングもできる。
資金調達とか金を生み出すのも上手い。
幽界特有の呪詛浄化も得意。
要するに、めちゃくちゃ役に立つ。
俺以外の全員が絶賛し、
「何かあれば守るから仲間に入ってくれ」と口説いたらしい。
フリルは「可愛いから」とか言ってたが。
今ではこの世界での生活費、住居、情報、各種権利まで流してくれている。
もちろん俺たちは対価として、幽明の受けた依頼を代行することもあるが。
ここまで言えば分かるだろう。
普通じゃない。
……実は結構可愛いと思う瞬間もある。
静かな所、汚い感情とかが混じってない気品、顔も色白で控えめなパーツに例の瞳なんだからかなり美人だ。
だが性格の癖が強すぎる……見透かしてる感が少し怖い。
俺の周りは怖い女が多い……
おっと、説明しすぎたな。
幽明が「見るな」と言いたげな目をしている――
「ぼーっとすんな!姉として再教育が必要かしら?どう思う灯ちゃん?」
姉と言ってもレイス姉とは血は繋がっていない。
俺がアーテマさんに拾われた時には既にアンセインにいた、というだけだ。
あと幽明に聞くな。
俺に対して残酷な選択しかしない。
嫌われてんのかな?……単に男嫌いか?
「もっと絞めた方がいい。反省するまで」
「だよねー、了解!」
「いでででででで!!
わかった!離せ!マジで痛い!化物!!
てか幽明ふざけんな!」
一ミリも動けない。
怪獣呼ばわりは過小評価だったかもしれない。
「し・か・も?」
耳元で囁くな。変な感じがするだろ!
この怪獣、俺が最近女に興味が出てきてしまったの、わかって楽しんでやがる。
「いきなり女の子のパンツ見ようとしたんだってぇ?信じらんなーい。不潔な男、お姉ちゃんコワスギー」
幽明が冷ややかに言う。
「……私達の事もそういう目で見てたのか……正直、引く。ドミノ、きも」
アーテマさん余計なことを!!!もう!!!
「叩き直すしかないわねぇ〜。可愛い弟が女の敵になる前に♡」
叩き直すって何だよ。
お前の方が怖いわ。
「叩き直して、レイスさん。形が変わる程に」
「あほか!幽明!霊媒する前に自分を祓え!」
「なーにしてんの?」
ひょこ、と現れるフリル。
フリルは薄緑の艶やかな髪をハーフアップにまとめ、赤いリボンで結んでいる。
服装は水色でフリルだらけのワンピース。
この世界の“アリス”という物語を気に入って、ずっとこの服を着ている。
瞳は紫でアメシストのように澄み、虹彩はハート型。
能力は召喚魔法。
気づけば空間から奇妙な生物や喋る物体が現れたりしている時がある。
無機物に仮初めの意思を持たせることもできるらしい。言語も話させれるとか……
そしてそれらは、フリルがピンチになると変形する。
……異形ですら見る事を拒む、おぞましい姿に。
それの行きつく先の最終形態を見た事は無いが
アーテマさんは、立ち入ってはいけない領域と言っていた……
「フリルちゃん近寄っちゃダメよ?
お兄ちゃんパンツ見たくてしょうがない病気らしいから。治療中なの」
レイス姉が大袈裟に演技っぽく言う。
「きゃー!ドミノにぃにパンツ見られるー!」
フリルは楽しそうに背を向け走る。
「おい!!フリル!!皆に変なこと言うなよ!!!」
遅かった……
「みんなー!!!聞いてー!!!」
ほらな。
「やめろおおお!!めんどくせぇ!!」
「ちなみに誰にも言わないから教えて?
パンツ何色だった?どんな子?」
レイスが口を尖らせて、手を合わせてねだってくる。
「言ったら腕離すか?いてて ホント痛い」
「あー離す離す。お姉ちゃん約束守るタイプでしょ?」
……確かに守る。俺がこいつの弟になってから、誕生日プレゼントの欲しい物を毎年絶対くれてた。最近は悪いから、もうあんまお願いしなくなったが。
ちょっとレイス姉はつまらなさそうにしたりする。
「ホントだな?」
「あなたに誓って」
たまに言うが、意味あるのかそれ。
「……薄いピンク。髪は赤で。可愛いかった……優しい感じで。真っ赤な羽もあった」
一瞬。
レイス姉の顔が、神妙な顔になる。何に反応したんだ?
しかし、次の瞬間、口角が裂けるほど上がった。
「あー確信犯!逮捕!
マジで見てたの結構引く刑、も追加!」
再びヘッドロック。
胸が当たる。絶対わざとだ。俺が変な感じになったら。
お姉ちゃんに欲情したのー?とか言って一生いじられる。
ああー首が苦しい。本気で落ちる。
視界が霞んだ頃。
目の前に二つの影。
ポルジオルとメノノス。
フリルはポルジオルの肩車で笑っている。
みんなフリルを溺愛して甘やかせ過ぎだ。
俺も、そうなんだが――
メノノスは、いわゆるダークヒーローっぽい風貌をしている。
漆黒の革製の上下着にブーツ。まるで黒竜の皮から仕立てたかのような、禍々しさと威厳を帯びたマントを羽織っている。
身長は二メートル近く、体格もかなりがっしり。
愛用の武器は、渋く色褪せた黒の大剣。あれだけは絶対に誰にも触らせない。冗談でもだ。そこは全員が本気で理解している。
茶髪に焦げ茶の瞳。全身黒づくめなのに、妙に絵になる男だ。
顔立ちは、美青年がそのまま十年ほど年を重ねたような印象。おっさんというには若く、不意に“孤高の勇者の青年”みたいな顔をする。
それも当然だ。この人は、別の世界で勇者だった。
とはいえ、魔王を倒すとか世界を救うとか、仲間と絆を育むとか、そういう王道は一切なし。
ただ淡々と、様々な世界のダンジョンや神殿を攻略し続けてきたらしい。
愛や絆や協力は、能力の底上げとしては最高のバフだ。それを一切使わず突破し続けるとか、正直ほとんど病気だろ。笑える。
きっとメノノスに屈服した異形やダンジョン、彼に救われた存在たちは、得体の知れない“謎の勇者”としてその地に伝説を語り継いでるはずだ。
まっ!かっこいい人だぜ。
その対極にいるのがポルジオルだ。
鮮やかな金髪に、全身の色素が薄い。だが瞳だけは真紅。
戦闘でハイになったときの目は、正直近くで見ると俺でも背筋が冷える。弱い異形なら、あの視線だけで無意識に従属しそうだ。
服装はまさにサーカス団。
赤い蝶ネクタイ、古代文様の入った赤いジャケット、黒いズボン。丸いつばのついた背の高いハットも被っている。
メノノスもポルジオルもハンサムだが、雰囲気は真逆だ。
静と動。どちらも癖はあるが、まあ悪い兄貴達ではない。
ポルジオルはいわゆる“吸血鬼”。
ただし、この世界のフィクションとはだいぶ違う。
別の世界で不老不死の肉体と卓越した魔術を受け継いだかなり名のある一族の出身。
太陽は平気。血以外も普通に食べる。むしろポテトスナックとかハンバーガーがみたいなのが異様に好きだ。
その名家の御曹司らしいが、一部からは腫れ物扱いされているらしい。
理由は単純だ。異質な才能が妬みを買い、さらに本人の品性がいろいろと自由すぎる。
このアンセイン・マリオネットで、一番ピエロに近いのは間違いなくこの人だ。
変わった遊びが好きで常に暇潰しを考えている、奇術じみた攻撃も得意でこれは順当な戦い方をする奴にはかなりやりずらい。
戦術の引き出しがかなり多いので、この人をどのタイプで絞るのはなかなか難しい。
ある意味、究極的に能力が卓越したなんでもできる存在なんだろう……
すべてを手に入れすぎて退屈しているように見える時がある。
こっちは少ない給料と最悪な右腕で毎日ひいひい言ってるのに。
二人はそんな感じだ。な?こいつらが全員集まってんのはやっぱ変だと思わないか?
そろそろ真面目に意識が飛びそうだ、だれかレイス姉を止めてくれー……
メノノスが心配そうに俺を見る。
「おいおいレイス、ドミノ泡吹きかけてるぞ?その辺にしてやれ」
「まったく、うちの男どもは貧弱なんだから。やんなっちゃう」
ようやく、怪獣が繰り出す、隕石ヘッドロックが解けた。
助かった……。
メノノスはやれやれと肩をすくめる。こういうところは常識人なんだよな。
戦闘狂な所を除けば……
ポルジオルが両手を広げる。
「ああ泣けるぜ!兄貴は感動だ!とうとう弟が女に興味を持ったとは!」
「だから違うって!戦っただけだ!」
「しかしだな」
話聞け。
ポルジオルは真っ赤な瞳を澄まし真顔になる。
「いきなりパンツを見るのは兄貴分として反対だ。秒で嫌われるぞ」
「そうだそうだー!」
レイス、幽明、フリルが便乗する。
「お前らぁぁぁ!!」
メノノスがため息をつき、腕を組む。
「落ち着け、ドミノ」
落ち着いてる。竜巻みたいな連中が勝手に暴れて、俺の平穏を乱してるだけなんだ。
「もし惚れたなら、最後まで守り抜け。それが男だ」
「パンツを見たなら尚更な」
「だから惚れてねーって!」
なんか変だろ。
パンツ見たら尚更ってどういう理屈だよ。
レイス姉が即座に突っ込む。
「パンツ見たら尚更なの?惚れて守り抜くのは当たり前として、パンツ見たら男はレベルアップでもするの?」
「男って不潔……」
幽明が俺達男から距離を取る。
「だれかーフリルを守ってー、惚れすぎ注意ー!」
フリルはいつも話が一周ずれている。
「……違うのか?」
メノノスが本気で悩んだ顔をする。
「知らねーよ!あんたが言い出したんだろ!」
ポルジオルが肩をすくめる。
「弟よ、パンツではなく心を見ろ。それが愛だ」
……妙に深い。
だから“パンツいきなり見たら秒で嫌われる”って言ったのか。
それは愛の真逆だ。
愛って何だっけ。
「……ああ、ポルジオル。ちょっとしっくりきた。ありがとう」
メノノスとレイス姉が悔しそうな顔をする。
フリルが笑う。幽明はスマホを触ってる。
「ドミノにぃは、好きな人ちゃんと守るタイプだよ。フリルわかるよ?」
「まぁ……いつか好きな人ができたらな」
四人は、その幸せを願う様に満足げに笑った。
幽明だけは無表情でスマホを見ている。
好きな人、か。
人間は難しいだろうな。この右腕がある限り。
異形でも……たぶん難しい。
でも今は、結構幸せだ。
なんてことは、こいつらにもアーテマさんにも絶対言わない。
俺たちアンセイン・マリオネットは、こんな具合だ。
異常そうで、わりと普通。
煌びやかなテントの中に、俺たちとアーテマさんの人形の笑い声が響く。
……って、UFOの件忘れてた。
偵察行くか。




