夢の中で 宇宙の棺と冥 シスイ
私は――今、夢の中にいる。
そんな気がする……
真っ暗な空間。
彼方には無数の星が瞬いている。
その宇宙空間に、ぽつりと棺が漂っていた。
音もなく、ゆっくりと開く。
すべてが、やわらかい光に包まれた映像のようだ。
まるで、実体験の様な感覚もある。
中から現れたのは、
半身を機械で構成された女性のような存在。
……綺麗な人だな。
白磁よりもなお白い肌。
揺れる真紅の髪。
その身を巡る金色の粒子の波動。
両腕と両脚を広げ、均整の取れた円を描く姿は、
まるで ウィトルウィウス的人体図 のよう。
機械の体を宿した女神様みたいだ。
遅れて、宝剣が星棺から浮かび上がる。
柄に刻まれた、見知らぬ文様。
脈打つ“深紅の線”。
それは、私たちの知る、いかなる文明にも属さない。
文明という概念そのものが、まだ幼かった時代よりも前。
名もなき叡智が、何かを凝縮し、
この棺へ封じ、宇宙へ流した――
感覚が、胸の奥に浮かぶ。
……可哀そうに。
……きっと、孤独だったのだろう。
守るためか――
裁くためか――
あるいは――その両方か?
その女神には、二つの顔が見える……
ひとつは、どこまでも慈しみに満ちた静かな微笑。
もうひとつは、怒りと混乱を孕んだ未知災。
それは個人ではなく、
現象のように恐れられた存在だったのだろう。
……本当に可哀そうに。
その女神が、語りはじめる。
なぜ、私に?
そう思いながらも、私はただ聞いている。
彼女は素知らぬふりで続けた。
――我は、広大な世界の王だった。
無比の力。
超常の能力。
禁忌の魔法すら自在に扱う魔導。
名は、リリス・パンクライヴだ。
太古の世界の女王。
類まれなる血統と、異質な個の才を持つ者。
究極の平和を目指し、
争いを制圧し、
秩序を再構築し続けた。
守った。
壊した……
守るために、壊した……
その回数は、もはや数えきれぬ――
やがて我は、自らを作り変えた。
文明の叡智を束ね、肉体に埋め込んだ。
不老不死の肉体。
叡智を宿した半身。
文明を凝縮した星棺。
そして果てなき宇宙へ放たれた。
究極の平和と安らぎを追求するために。
……だが、辿り着かなかった。
声が、かすかに揺れる。
どれだけ救っても、
争いは形を変えて芽吹いた。
争いが消えた世界でさえ、
我の指の隙間から愛しい者が零れ落ちていった。
映像が崩れる。
血。
灰。
別れ。
悲しみ。
孤独。
崩れ落ちる文明。
それでも、我は続けた。
気が遠くなるほど。
本当に、全力で。
だが――
達成することなく、終わった。
あらゆる力を手に入れたはずなのに、
我の前には何も残らなかった。
不安も、悲しみも、
何一つ解けぬまま。
リリスが、静かに目を閉じる。
我の命は、間もなく尽きる。
今度こそ達成する。
……何を、だったか?
ああ、次こそは、もっと上手くやる。
未来の我に託そう――
我は未来の我の一部であり、
未来の我は、我の一部。
同じであり、違う存在――
膨大な因を繋いできたのだ。
未来の我なら、きっと気づくだろう。
業の赴くままに進み、
何かを拾い上げるはずだ。
――どうか、見つけてくれ。
正しい因を――
正しい道を――
――――答えを。
それが、我の悲願だ……
しかし――気をつけよ。
我の命は尽きるが、
終わりを知らぬまま残されたものがある。
我の欠片を読み込んだ“器”。
不死の肉体と無比の力を持ち、
今も宇宙を彷徨い続けている。
救うでもなく、壊すでもなく、
ただ混乱だけを広げながら。
やがて、お前を探すだろう。
声が、すぐ傍まで近づく。
我を超えてくれ――
あれを、終わらせてやってくれ。
今度は、何も壊さずに――
答えに辿り着いてくれ。
頼んだぞ、私よ……
必要な因は、
自らの内を探せば必ず見つかる。
世界が白く染まる。
―――
目が覚める。
胸の奥が、焼けるように熱い。
今の夢は……ただの夢ではない。
“まだ達成していない何かがある”。
“終わらせなければならないものがある”。
廃れた黄金の瞳の奥で、
深紅の残光が静かに揺れた。
物語は、シスイの内側から動き出す――
やがて世界を巻き込みながら……




