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ジュブナイルにさようなら



ヒノとシスイは、最高の一日を送っていた。




裏山近くの、誰もいない小さな公園でベンチに並んで座る。




前回の、呪いの館の依頼完了報告を、富豪の天才天文学者の依頼人にメールで連絡した。


ざっくりと内容を書いて、返信されたメールは、最初のメールの文とは別人の様に柔和なり、報酬百五十万円にボーナスでプラス五十万円加算してくれた。




計、二百万円が私の銀行口座に振り込まれた。




それと、例の魔の円環の書物も報酬の一部として譲渡するので、返却は必要無いと言ってくれた。




それどころか、何か困ったことがあれば相談してくれ、我々に代々伝わる呪いを君達は解いてくれたのだから……と言ってくれるなど、偉く感動して私達を気に入ったみたいだった。




もし、よければ知り合いの富豪の依頼を、また今度にでも紹介したいとも言っていた。




そうして振り込まれた莫大な報酬を、きっちり半分にしてヒノと分け合う。それでも私のネット銀行の残高は、とうとう百五十万円を超えた。




ヒノも同じくらいあるはずだ。




画面の数字は現実味が無いが、けれど確かに、私たちは探偵として依頼をこなし、対価を得た。その証拠なのだ。




前回の出来事を思い出せば、素直に浮かれていいお金ではない。




それでも……


今だけは忘れたい――


二人で、このお金を使って、今だけは普通に笑っていたい……





「将来のために貯金とかしよっかなー私」


妙に現実的な言葉をヒノに言ってみた。




「えぇーそれなんかつまんなーい。将来は将来稼げばいいじゃん!それよりさ、ゲーム買おうよ!二人で出来るやつ」




「いいね。そん時、私ん家おいでよ」




「ホント!シスイからそんな事言ってくれるなんて意外!超嬉しいかも。だってシスイって他人絶対部屋に入れたくないタイプじゃん?」




「え?もう他人じゃなくなーい?」




「もう!!ダーリン!!大好き!!怒るよ!?」




「だから、なんでいっつも行きつく先の感情が怒りなんだよ (笑)」




「ふふ」


ヒノは指を角の様にし、ガウーと歯を剝きだして笑う。




「他、何買う。ヒノ?」




「化粧品とか?」




「あっりー、めちゃ欲しいやつあるんだ実は。でも、値段高くってさー、あれがあれば、私、1.1倍は可愛くなれるかも?」


私は人差し指と親指を銃の様にして、唇に当てた後、ヒノに、ばーんとする。




「それやばいね!?十個買えば2倍じゃん?」


銃撃を喰らったように胸を抑え私に手を伸ばすヒノ。




「いや、ただの厚化粧魔人じゃん!もはや美に執着するタイプの異形だよ」




「ははは」


ヒノが口を抑え大爆笑する。異形ジョークが案外好きらしい。




その時は、こんな今がずっと続くような気がしていた。






――その時だった。






「すみませーん! そこの美少女おっふたかたっ!」






間の抜けつつ、しかしよく通る綺麗な声。




目を音の方にやる。






――そこには、お尻を突き出して待った!とするような奇怪なポーズをとる女の子が、現れていた。






黒髪のロングポニーテールで日差しを受けて艶がやや紫に反射し、きらんと光る。




背は私やヒノより少し高い。一瞬大学生くらいにも見えた。




しかし顔立ちや瞳がまだ幼い。よくみれば高校一年生くらいにも見える。




バストやヒップは、制服が少しきつそうなくらいに女性らしくありながらも、細身で長身なので、雑誌のモデルの様にスタイルが良い。




顔立ちは眉が少し太くて濃く、目鼻立ちがしっかりしてる。


大きな瞳と高くて小さい鼻。とてもバランスが良い。




肌の色が白いのが、それらのパーツをより際立たせている。




瑠璃色の瞳が太陽できらんと煌めくと、一瞬、異国とのハーフを思わせなくもない。




手と首に絆創膏がいくつか。膝にも二つ貼ってある。




不注意で天真爛漫な性格にも感じられる。




なのに目の奥は、不自然な程、澄んで落ち着いている。何かを知ったような目。





完成されたアンバランスとでも言おうか……そんな女の子だ。






「……なんですか」


私が訝しげに尋ねる。





「いやはや!お二人のその超かわいい御尊顔をですねー、


 この私めに一枚、一枚だけ撮らせていただきたいのです! 後生ですから!後生ですからー! てへっ」





喋り方から絡み方までちょっと変わった子だ。見た目とのアンバランスがさらに増す。


例えると、ものすごく完成度の高い人形劇のキャラクターと話しているみたいに演技っぽい話し方だ。





「えーどうする!? シスイ。やっぱ私たちの可愛さって隠せてないみたーい。こんまるぅ」





困ってなさそうだ全然。ヒノは全く警戒してない。


私が警戒し過ぎなのか?……悪意を感じるのではない。もっと違う別の感じがつきまとう……




「無理。ダメ」


私は総合的に判断した結論を即答する。




ヒノを守るためなら、私は多少冷たくもなるのだ。




しかし少女は引き下がらない、おとぎ話のずるい狼みたいに、口角を上げてにぃっと笑った。





「じゃあ、これはやっぱマスコミとかに知らせた方が良い気がしてきましたねー!美少女を撮れない反動が私にスキャンダルをぶちまけろと責めるのです!ででーす!!!」





どういう事だ?それと一々言葉の温度が高い子だな。少しアーテマみたいな雰囲気の女の子だ。




彼女は舌をペロっと出し、顔の横に一眼レフを掲げ、データ保存されている写真を私達に見せてくる。





――そこには……





月夜を背景に盛大に羽を大きく広げたヒノの姿。人に見られてはいけない姿があった。




……明らかに盗撮だ。




「あ?」


ヒノは、目をクリっと広げて手を口にやり、やってしまったという顔をする。





空気が一瞬で変わる。彼女の雰囲気に持ってかれた。






「ちょっと盗撮じゃないですか……」


私の声は低い。




ヒノは、と言えば。


「……構図は悪くないわね、映える角度だわ……欲を言えばもっと月夜を背景に」





「素人はこれだから嫌ですねー、そんな背景はあからさますぎますよ?ほのかな月夜の反射があなたをより怪しく美しくさせるんじゃーあーりませんかー?ね?」




「あら、そうね。言われてみれば、そうかも」




関心している場合か……




「ネットに流したりはしませんよ。まあ、流してもいいのかなー? って感じもしますけど。あなた達の返答によってはね。」






嫌味のない、軽い脅し。




手で銭マークを作り、イッシッシと笑うのは、ちょっとお粗末過ぎて笑える。




ヒノはその脅しに、羽がわずかに揺れる。世間に知られるのは、今の幸せを壊されそうで怖いのだろう……




私は少し真剣に威圧する為、一歩前に出た。




砂の音がザァと鳴り、彼女に、にじり寄る。




彼女は怯まない。どころか、鼻を膨らませ仁王立ちしている。この子は呆れる程に強情なのか、もしくは恐怖を知らない阿呆なのだろう。





「もっと過激なのもありますよ!!」






私達は警戒して身構える。この子なかなか手強いと。





「私思うんです、チューは人目のつかない所でするべきです。 ははは (笑)


 公園でなんて……絶対ダメだ。そんな人達、破廉恥過ぎる! いやー、現代の若者     の性は乱れてますねぇ!」





そういいながら、彼女が見せた次の写真は、私とヒノが白昼堂々に公園のベンチでお互いに見惚れながらヒノが私にまたがり、キスしている写真だった。





彼女は腰に手を当てて尻を突き出し、妙なポーズで勝ち誇ったように高笑いした。




「かーかっかっか!!!参ったか己、悪党共め!」




誰が悪党だ。少し多感な行為ではあったが。いや、かなり多感だ……反省しよう。




その言葉を聞いた瞬間、私とヒノの顔が同時に真っ赤になる。





ぎくっ!!!という音が二人の背骨から本当に鳴った。





「ちょっとあんた、プライバシーの権利知らないの??しかも卑怯よ!隠れてこそこそ弱みを握るなんて!カメラが鳴くわよ!」




「そ、そうだ!!カメラが鳴くよ!こらっ盗撮魔!」




「カメラは笑ってますよーん!撮られるほうが悪いんだもーん。へへーんってね」


頭の後ろで手を組み石を蹴っ飛ばし笑う。まるでその美人で知的そうな見た目にそぐわず、無神経な悪ガキの様だ。




……こいつ。なんと憎たらしい。だが、妙に憎めない面白さを秘めている。




 




ヒノが睨む。


「それに、私の羽も見たんでしょ? 明らかに人間じゃないって分かるでしょ?怖くないの?そんなふうに脅して大丈夫だと思ってるの?」




もっともだ。この子の物怖じの無さは異常だ。




彼女はきょとんと首を傾げる。





「怖くありませんよ? だって可愛いじゃないですか、あなた!アイドルよりずっと美少女だ!だからもっと撮りたいんですよ。羽も神秘的で、むしろ羨ましいくらいですよ」





「私もそんな綺麗で大きい羽があれば、きっとすごく楽しいんだろうなーって……思っちゃいます。勿論私なら、空を飛ぶときはさすがにパンツが見えないようにインナーを履きますが。えっちくさいのでマイナス三点」





「そ、そう!?綺麗??……えっちくさいかぁ……って、もう!!!いいじゃない!誰にも見られてないんだから!」





見られてるじゃないか……





ヒノは戸惑いながらも、褒め言葉にまんざらでもなさそうだ。内心では相当嬉しいに違いない。





それらの言葉を聞き、ヒノの喜ぶ表情を見た瞬間、私の警戒心もすっと消えた。


ヒノの味方は、私の味方だ。





ヒノを褒められるのは、自分を褒められるよりずっと嬉しい。





「私もそう思うよ。君、けっこう分かってるね。名前は?」






「宇空木 響! ウツロギ・ヒビキちゃんでーす! しーくよろよろっす!」




腕を波のようにくねらせ、全力の変顔。




……美少女なのに台無しだ。こんな福笑いみたいな変顔初めて見た……




変な子だ。もはや異形と言われても何ら驚きはしない。





――でも。





私とヒノは、ほぼ同時に思った。





――どこか、私たちに近い。





私とヒノは顔を見合わせ、思わず笑みをこぼす。




「なによそれ、響ちゃんだっけ? ……いや、私達のほうが年上なんだから、響でいいわね。あんた、変わりすぎ。ふふ ホントバカ」





「よく言われまーす! それにしても百合カップル……あぁ羨ましいなー!!!


 私も美少女の彼女ほっしっ! それか中性の無垢な美少年。


 ヒノ、シスイ、ヒノ、シスイ、ヒノシスイヒノシスイ……ちゅっちゅぶちゅぶち ゅ、みたいな恋愛がしたーい!」





「ちょっと!!!」


私は響の暴走を止めるため腕を抑える。しなやかで女性らしい腕だ。





「私たちはそんなあからさまじゃなーい!」


ヒノは呆れながら肩をすくめつつ、結局は笑ってしまう。





私とヒノは顔を見合わせ、静かに頷いた――


「……一枚だけならいいよ」




「オッケーではとっりまーす。マングース!」




――そして、突然のカメラの構え。




――その瞬間。





彼女の目つきが変わった。




お調子者の色が消え、研ぎ澄まされた集中。


まるで職人。




まるで、一ミリの誤差も許さないさじ加減でカメラを持つ腕を固定し


静かに撮影のボタンを押す。




今あった目の前の空気が黒い箱によって、完全に彼女に切り取られた……




撮られた写真を見せてもらう。




光が柔らかい。


風の動きまで写っている。




ヒノの横顔は凛として、


私はほんの少しだけ、安心して笑っている。


光のコントラストがその他愛無い風景を絵画に押し上げる。






「……上手い」


ヒノが呟く。


「すごく綺麗。あなた、すごいね」




ヒノはもう気に入っている。そんな感じが仕草から簡単に読み取れた。






そのまま響は自然に私達との会話のレールを敷く――




「一応、再確認するとお二人さんは恋人なのですよね?」





「まあ、そうだね」


私が答える。




「じゃーあ、高校何年生です?ちなみに私は一年生のヒヨッ子ヒヨ太郎です」


彼女は私達にマイクを向ける様な素振りをする。




「三年生だよ、あんまり行ってないけど」


またも私は答える。やっぱり年下かービンゴ、顔が幼いんだよね。スタイルはまぁまぁだけど。




「私もそれぐらいかなぁ?」


ヒノがよく分かんなーいと言う感じで答える。




「ご趣味は?」


響はお見合いの男性役みたいに緊張して口をすぼめる真似をする。




「私は、最近はヒノとよく一緒にいるかな?趣味とはまた違うかもだけど。異形霊媒の依頼受けるか、アニメ見てるか、寝てる」


何だか分からないがこの子、人の心に入るのが上手いな。全部喋ってしまうじゃないか。




「私もー、シスイといる事かな?今はそれが一番楽しい」


ヒノは私を見て、無邪気に笑う。




「ほう、妬けますねー!この恋、純愛とみたり!」


今度は侍の居合の、ものまねだ。良く疲れないな、逆に感心する。


そして、どの表情も無駄にクオリティ高い。ヒノなんかずっとそれだけで笑っている。




「私もアニメ好きですよ、やっぱり異世界転生とか好きですね。」


彼女は後ろに振り向きバッグのキャラぐるみを見せるためにお尻をポンっと突き出す。




本人は気づいてないだろうが、スラっと伸びた色白の足の上を青いスカートがひらりと舞うんもんだから、妙に色っぽくて、ヒノと私は見てよい物か?と少し目線を外すくらいだ。





「あ、ああそだね。私もそのアニメ見たよ。人とは少し違う価値観で現実世界で散々だった主人公が、別の世界では皆に好かれて沢山の仲間ができるやつでしょ?」




言ってて思った、あっそうか。彼女は恐らくその主人公に自己投影してるんだ。




「そうです、それそれ!!いいですよねー自分を認めてくれる恋人や沢山の仲間と楽しい世界で幸せに暮らすって……」




響は心底憧れるように、空を見つめる……少しもの悲しい、幼気な瞳だ。





「そうね!アニメはよくわからないけど、それはきっとすごく幸せだと思うわ」


ヒノはふんふんと、頷く。





「この世界は、その人にどんな才能あっても、どんな頑張っても、いい人でも、そこじゃなくて見た目や地位ばかりで評価されるもんね」





「まっさに!その通り、あなた達とはいいお茶が飲めそうだ!」


そう言って、水筒を取り出し、私達に一杯ずつお茶を入れてくれた。茶葉が香ばしくて保冷が効いてて、すごく美味しい。





「これ、美味しいわね!ありがと響」





「うん、いけるよ。コンビニより全然美味しいじゃん。ありがとう響」






「響……ですか」






「いえ、何でもありません!このお茶、私が沸かしてるんですよ?もうずっと沸かしてるので得意になりました。もはや茶の達人です。略して、ちゃったつ」





響は一瞬、宙を見て戸惑う様な素振りを見せたが、なんとか切り替えた感じだった。


それは自分の名前を呼んでくれる人がこの世にいるんだ……という様な表情だった。


まるで自分の名前を忘れていたかの様にも見えた。





「ちゃったつって、何よ ふふ」


ヒノのツボは相変わらず浅い。





「ちゃったつってなんか軽いよね、達人というより便利屋みたいだ」


私はなるべく、響が先程の表情に戻らぬように話の路線をそのまま切り替えた。






そういう他愛無い話をしばらく続けた。




気の合う女子同士の話は湯水の如く流れて時間が過ぎ去るのだ……




異形って何?とか、どんな異形と戦ってきた?だとか。




幽霊とUFOどっちもいる?とかの質問もしてきた。


この手の話が好みらしい、瑠璃色の目を見開きふんふんと前髪が揺れるくらい頷いて私達の話に聞き入る姿は、小動物みたいで可愛かった。




それ以外に響は、やけに街の情報などに詳しく、都心のどこどこ駅の近くの漫画喫茶で異形らしきものを見た噂があるとか。




美味しい飲食店が集まる区域を教えてくれたり、デートする時におすすめな近場の景色が良いスポットを教えてくれた。




他には、化粧には少し疎いらしく、その見た目が十分に生かしきれていないと思うので、彼女の唇に合う色のリップや、肌を際立たせるファンデも私達は教えてあげた。





彼女は案外普通の一面もあり、雰囲気や思想は結構偏りがあるが、髪の毛のインナー染めに興味がある事など、ごく一般的な年相応の女子高生の側面も見せた。




好きな男の子は中性っぽい少年の感じの様な人がいいらしい。


カップリングがどうのこうのと言う話をした時、ヒノがプリンか何か?と勘違いしていた所が、今だに私の笑いの神経をこそっと撫でて、唇が笑いの衝動を抑えきれず震えてしまう。





「ヒノさん、シスイさん。よかったら連絡先、交換しません?私、きっと役に立てますよ?」




彼女はそう言いつつも、役に立とうとしている雰囲気では無く、私達ともっと喋りたいという雰囲気が漏れ出ていた。




「いいよー!SNSでいいよね?アカウント名教える。DMで連絡してねー」


ヒノは即答だった。




「はーい!あっ!これですか!?この王冠に羽のアカですね?ぽちっとなと」




「私のアカはこれ」




「おーう!これは……鎌ですか!もしかして……もしかすると……厨二病ってやつですか?魔族の力とか受け継いじゃったりしてませんか!?」


速攻、馬鹿にされた気がするが……許そう、年下だし。この子のあっけらかんとしたジョークに一ミリも悪意は感じられないのだから。





――しかも、その通りだよ響。私は魔族の力を継承している。





「あ、そう言えば二人共知ってます?最近この裏山で結構UFO現れるらしいですよ?”UFO、撮れたら最高ですよね?”」





「そうなんだ、全然知らなかったよ。でもさ、この山って不気味じゃん?なんかいい事の様に思えないんだよね……」


私は一回この近くで異形と戦闘している。この山自体がああいう異形の根城であれば絶対に入りたくは無い。





「へーーー UFOか……、私も経験上あんまり好きじゃないかな。ああいう機体に乗る異形を沢山見てきたけど、ちょっと思うところあるのよね……ただのざっくりとした宇宙人ってのは思い込みだよ?攫われて、全く違う世界を見せられるかもしれないし……」





「全く違う世界かー……」


響は両手を広げ、長いまつげを閉じ、深呼吸するようにして一息つき、口角を少し上げ幸せを浴びているみたいなポーズをとる。


黙ってこんなポーズをとっていると、少し神秘的な感じさえする美しい乙女なのだ。




しかし私とヒノは不安だった。ヒノの明らかな警告を湾曲して理解し、響はまるで憧れの物の様に恍惚に浸って夢想していた




そういう話をしていると、嗅ぎつけたように不穏な雨雲がやって来て、小雨が降り出した。




なので、私達は今日は一旦お開きにすることにした――。




「じゃっ!わたしっち帰りますんで!絶対連絡返してくださいね?バイバーイでーす!」




ヒノと私は手を振り、響の後姿を見送る。


ヒノが声をあげる。


「ばいばーい」




私も伸びたような口調で続く。


「じゃーねー」







ヒノが言った。


「なんか、騒がしい子だったね。面白いけど」




私は返す。


「そだね、悪い子では無さそうっぽいね。訳ありではあるとおもうけど」


「だね、思った」





同意見だったみたいだ。





私は本音を言ってみる


「あと、面白いし……妙に色っぽい」





「間違いないね。浮気しないでね?」


ヒノは私の頬を軽くツネって笑う。笑顔が少し怖い。しかしこの束縛が堪らないと思ってしまった私は、もうダメだ。





私達も、彼女と別れた後すぐに解散した。





ヒノが去り際に、ゲーム買ってシスイの家行く約束忘れないでねー!と言った。


そのまま駆け足で小雨を振り切り、冷たい雨と戯れる様にきゃーと一人声をあげて、ヒノは去って行く。







――それを見送った後、私も家に帰って、すぐシャワーを浴び、濡れた体を洗い流して着替えた。。






たっぷり、話し込んだ満足感に満たされながら、自室でごろごろ転がってアニメを見ていた。




一つのアニメを一気見しながら、SNSをスクロールしていると、もう夜七時辺りになり、ご飯できたよ!と母さんに呼ばれる。





テーブルには母さん自慢のカレーライスと鳥のささ身の和風サラダが用意されていて、香辛料が食欲を刺激し、食べる前から幸福感を押し上げた。





父さんも丁度仕事から帰って来て、今日はカレーか?と子供の様に喜んでお風呂の前に食卓に着いた。





私の、この真っ白な見た目や、少し複雑な思想に反して、両親はごく普通な二人。





特に何も言わず、ただ行く末を見守ってくれる優しい両親だ。この両親で本当に良かったと感謝する事は度々あり、二人との食事や日常が私を現実に繋ぎ止める実感を強制的に持たせてくれるのだ。





私達は家族三人でたわいない会話をしながら、ご飯を食べる。





こうしていると異形と戦ったりするのはまるで別人の自分みたいだ。





父さんが、ゴールデンタイムのバラエティ番組を見飽きて、チャンネルを変えるとテレビで地元がニュースに映っていた。





ニュース速報――





未確認飛行物体、複数目撃。


○○裏山上空。




映像は粗い。


けれど、確かに円盤状の巨大な影。




最近このニュースが多い、頻繁に現れているのかな?


どおりで街が少し不穏な感じで何かを警戒している気がする。


あと、最近この辺りだけ妙に天気が悪い。





響が言っていた。


「UFO、撮れたら最高ですよね」


が頭に浮かぶ。





響の屈託のない笑顔や奇怪なふざけただけのポーズも続けて蘇る。


そこには笑いしかないはずなのに、何故か嫌な予感がする。






しかし、その時はさほど気にはしないでいた……






――食後に、三人でグループチャットで軽い雑談をした。




例えば。






「今、何してるんですか?お二人さん?」





「寝ながら、都市伝説の動画見てた」





「私はヴァイオリン弾いてた」


ヒノは急に意外な一面を見せる





「え!?ヒノ、ヴァイオリン弾けるの?」


私は慌てて突っ込む。いきなり、お嬢様みたいじゃないか!?





「お!!そんな感じしてましたよ!」


してたのか!感鋭いな。





「うん、月光とか、エリーゼのためにとか、美しき青きドナウとか好きだよ。たまに空で引いてる。星や月が綺麗な夜に」





「……ヒノすごっ!印象変わる!」


いや、本当にお嬢様なんじゃないか?


今、人間界でお金が無かったりするだけで。


思えば立ち振る舞いの気品や、見た目の洗練された感じ、博識な所、それにこのヴァイオリンだ……名門お嬢様学校に通う、クラスでも随一の完成された生徒と羽が無く紹介されたら、高確率で信じてしまう。





「月光いいですよね、怪しい感じが」


お前は怪しいの好きだなと突っ込んでしまう。





「そっかな?あれは儚く無いかな?」


クラシックに疎いからついていけない、動画で聴いて話合わせるか?





「まっそれは置いといて、今度写真撮りに行くのついてきてくださいよ?」





「いつも見ている景色も、お二人さんが映ると全く世界が違う様に撮れると思いますんで。デートにも良い場所ばっかですよ?私無駄にブラブラしてませんから、綺麗な世界をずっと探し続けているんですよ」





「いいね、いこうよ。楽しそう」


綺麗な世界か……今が綺麗では無いともとれるな。





「いいわね!私もそういう場所もっと知りたい!私も結構、そういう景色探してぶらつくよ?」





確かに、行きつけの素晴らしい場所を、実は私もいくつか持ってる。廃マンションのニュータウンの夜景を眺める場所とかがそうだ。


物思いに浸れる静かな場所が好きだ。





「お!まじですか!?決まりですね!では、また連絡しますよ。響ちゃん今日はちょっと、おねむですし、やらないといけない事、結構あるんで」


やらなければいけない事?もう夜十時なのに……?





「りょうかーい、あたしも寝るー おやすみんみーん」


ヒノは寝ると決めたら一瞬だ、恐らく五分以内には寝ているだろう。




「じゃっおやすみ」


私も寝るとするか……





――そして、新たな出会いの一日が終わった。






それから時々、響も入れて三人で出掛けるようにもなった。





響と出掛ける時は大抵、彼女の写真を撮る旅に付き合って、車で三人でドライヴもかねて向かう。


両親も友達とドライヴをするって言うと喜んで車を貸してくれる。気をつけなさいよと言う言葉を必ず添えて。





ヒノと二人でいるときは、少しイチャつきが多かったけど、響を含めた時は私達は自重している。





それはそれで、友達としてのヒノといるみたいで新鮮だった。





私達二人の時も十分に幸せだったけど、それとはまた別の、大勢の明るさの様な新しい楽しみを響は私達に与えてくれる。





良く考えれば、こんな一つのグループみたいに仲良く過ごす事なんて人生であまり無かったな。





世間では普通のことなんだろうが、結構楽しいことなんだなと、今更私は知った。





ある時は私のススメで、三人で夜の廃マンションに車で行った。





本来、風化しているし不良の溜まり場になっているので、絶対にこんな時間に女の子が行ってはいけない場所なんだが、私とヒノがいれば不良どころか、軍隊が来ようとも私達は無事生き延びれると思うから大丈夫だ。





「おお!この景色!絶景ですな!響ちゃんベストアルバムに追加したいです!」


響はそういうと、誰もいない真っ暗な屋上を駆け回り、対面に見えるニュータウンの光を、常に持ち歩く一眼レフのレンズに反射させて、水を得た魚の様に喜び飛び跳ねる。





ポニーテールを振り乱し、長い手足をくねらせ、大きい瞳をぱかぱかと開け閉めする。






「だろー?この眺め好きなんだー、光に溺れるみたいで」





「シスイって結構ロマンチストなんだよねー、たまにキザ過ぎる言葉耳元で囁いてくるしー」


ヒノは両手で顔を抑えて、いや~んと言う感じで頬を赤らめる、冷たい風がルビー色の前髪をふわりと揺らす。





「ちょっ!ヒノ」


私は、そんな事は人に言っちゃ駄目でしょ!!と言わんばかりにヒノの両腕を抑え、顔を覗く。


しかしヒノは、いや~ん、いや~んと目を閉じて首の向きを交互に変えて私の静止を振り切り、自分の世界に浸っている。





「それはえっちですねー、ちょっと再現してださい。ヒノさん」


響は興味津々の様に鼻を膨らませる。





「いいわよ、おいで」


そういうと、私の静止も聞かず、ヒノは響の耳元でこしょこしょと囁く。





「こ!!!これは!!!!!えっち過ぎます!!!シスイさん、あなたの雰囲気から想像できないワードが……あっ!!ちょっと私、変な気分になっちゃって来た。あはーん」


響はオーマイガーと言わんばかりに、腰を突き出し、長くて細い胴を反らし、少し大きい胸を強調しながら、片手で口を押さえてとろんとした表情をする。






「もう!!!ヒノ!!!何、言ったの!?嫌なんだけど!ホント!怒るよ」


私は少し怒ってヒノの肩を揺さぶる。しかしヒノは両耳を抑えて、きゃーこわいーと言って話を聞かない。私は、この二人にコンビを組まれたら結構タジタジになってやられてしまうから悔しい。





――すると、響が言った


「ニュータウンの景色本当に綺麗ですね、シスイさん。ありがとうございます。ちゃんと写真撮らせてもらいますからね……」


急に、少し真面目なテンションで言う物だから、ヒノも私も静まり返る。




響は光の海に一眼レフを向けて、一枚パシャリと撮る。


そのシャッター音は、今のこの楽しみにピリオド打つように、


伽藍とした屋上に響き渡る。





私達は、そのまま静かになり、皆思い思いに、街の作り出す淡い夜の煌めきの反射を瞳に移し愛しい記憶を作成したのだった。






そこでその日は終わる……






――とある別の日。





響が海へ行きたいと言い出したので、私は両親の車を出して二人を海まで乗せて行った。




広く伸びた青い空へ続く招待状の様に、直線的に伸びる海岸線を疾走している時、車内で響が言う。





「シスイさん窓開けていいですか?」


ヒノと響は後部座席に座っている。





「いいよー」


響が窓を開けると、潮の香りと生暖かい風が車内にもわっと漂う。






――そして……





「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」






響が窓の外に向かって、口を精一杯開けて叫び出す。




瑠璃色の瞳は少し潤んでおり、それが陽ざしの粒子でほのかに光る。




口角をあげ少し満足そうに笑った後、濃い眉と目を見開き、私とヒノを交互に見る。




すると、ヒノは少し微笑んだ後に同じく叫び出す。






「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」






ヤッホーの様な手つきをし、潮風にルビー色の髪を惜しげもなく揺らす。淡いローズマリーの瞳の残像が見えた気がするくらい、その時の彼女の眼は生命力を感じさせた。






「なんか映画みたいだね」


私は叫ぶ二人をバックミラーで見つつ呟く。





「一回こういうのやってみたかったんですよね……」


響が言った。





ヒノが問いかける


「満足したかしら?」


響の姉の様に、見守りながら問いかけたその言葉から察するに、ヒノもこの子の危うさに勘づいているのだろう……






「えぇ……最高ですよ。ホントに……幸せ過ぎるぐらいです」





少し寂しそうな声のトーンでその言葉は終わる。






ヒノとバックミラー越しに目が合った時、ヒノは大丈夫という様に私に微笑んだ。





――海に到着した。





私とヒノが初めてデートした時に行った海だ。時間も同じぐらいで、


空は相変わらず、オレンジと紫と深い群青のグラデーションが綺麗でとても広い。






私達は車を停めた後、三人で砂浜を歩く。






「ここヒノと初めてデートした時、着た場所なんだー」





「おぉ!なんと!!それはそれは!目の前で惚気の始まりの地を見せつけられているという事ですね!?」





なるほど、なるほど、という様に、ふざけてメモを取る仕草をする響。





「二人の初キッスの場所でもありそうですね!!ああ!羨ましい!」


ビンゴ!意外と鋭いんだよな、響は。





「そんな羨ましいの?」


ヒノが聞く。





「ですとも!」





そういった後、響は海を見てひとりでぶつぶつ言って走り出した。


そういう変な所がかわいい子だ。





ヒノがこっそり私に耳打ちする。


「ねぇシスイ?彼女に二人でチューしてあげない?勿論ほっぺにだけど」


「え……なんで!えーうーん……」





私は恥ずかしいのと、ヒノが私以外の誰かにキスするのが正直嫌だった。





「いいじゃーん きっとあの子と私達の一生の思い出になるよ?あの子もう私達の妹みたいなもんじゃーん!ね!お願い!?」


「まあそうだけど……」





「あの子すごく喜ぶと思うよ?」


「うん……まあ」





「お・ね・が・い!ね?今度なんでもするから?」





でた、これだ。これをされたら私に拒否権が無い。その言葉に背筋と頭に興奮が走り、言う事をなんでも聞いてしまう。





「うん、まぁ……」


「それなら……いいよ、一回だけね?」





「ふふ、なんでもして欲しかったんだー??シスイかわいっ!」




「ちょっ!」





「決まり!」


「ねえ響ぃ!!!!」





「はーい!なんですかぁー?」





「今から私達がすること写真撮って?」





「勿論です!どう取りますか?」





「三人で内カメラみたいに顔のアップで、背景は海」





「承りました!!」


私達は位置に着く。





私達の背後は例の自然が作り出した幻想的なグラデーションと、海の夕焼けを受けて放つ煌めきだ。





「はい、とりまーす!せーの」





――その瞬間私達は響を挟むように頬にキスした。





響は衝撃の様な顔で、口を開けて、目を見開き顔を真っ赤にする。





「ちょっと!!!!!!なんですとーーー!!!!!」





「どーう?うれしー?」


ヒノが満足そうに手を後ろに組んで、ちょっと年上のあざといお姉ちゃんみたく感想を響に聞く。





「えーまー……それはそれは嬉しいですとも……」


案外静かだ。相当くらったらしい。


そういった後、赤面して喋らなっちゃったぐらいだ。






響は、恥ずかしがっている素振りを見せまいと、砂浜の砂を蹴り上げる。





砂が宙に舞い太陽に反射して、金の様に煌めいて飛び散る。





「うおぉぉりゃー!!!くらえー」






「血迷ったわね響!シスイ抑えて!前から気になっていたこいつの体を隅々まで調べてあげるわ お姉ちゃん達に逆らうからよ!!うふふ」





「あいあいさー 私も気になっていました」


私も雑魚兵の様にヒノの言いなりになり、響を取り抑える。





「やめて下さーい!!!きゃっ!どこ触ってるんですか!?誰にも触られた事ないのにー!えーん!降参です降参です!勘弁して―」


彼女の大人びた体を取り押さえるのは案外難しく、私とヒノは結構てこずった。





私達の黄色い声が海に響き渡り突き刺さる。


いつまでもそうして笑っていろよという様に、海は音を飲み込み、さざ波を返してくれる。





きっといつの日か、この瞬間がとても愛おしくなる日が来るのだろう。


三人全員がそう思った……






その日の話はそれで終わりだ。本当にいい日だった……







――また別のある日。





デパートも行った。そこでは雑貨屋で化粧品を見たり、家電屋でゲーム機を見たりしたりした。家電屋でのオタク談義はヒノが退屈がるから程ほどにして。


化粧品ショップに関しては、ヒノは私達がもう行こうよと言いたくなる程、へばりついていた。





ヒノはフードコートにあったクレープ屋で、イチゴバナナクレープを買った。ホイップを二倍にし、チョコをトッピングしていた。




それを歩きながら食べて、んーーー堪らんと言う顔で、くるりんと横回転する。





「ヒノさんって無邪気ですよねー」




「うん、結構自由なんだよね。あれ見てると安心する」




「あーなんとなく分かります。当たり前の事を、斜に構えず、当たり前に楽しめるってのは才能ですよね」




「ほんとそれなんだ、よくわかってるじゃないか響」


私は響の肩を組み、顔を覗き込んだ。じーっと見つめてみる。





響はいつものひょうきんな感じでは無く、ドキッとしたように顔を赤らめて目を背けた。





恐らく今の私は、あざとかったかもしれない。





真っ白な髪を傾け、廃れた黄金の瞳で見つめるのは、響にとっては刺激が強かったのだ。





ヒノには言ってないが、響は私を一瞬そういう目で見る事がある。彼女から聞いた好みを察するに自分で言うのもなんだけれど私の事が結構タイプだと思う――





「ちょっとお二人さん仲良さそうね?浮気はダメよ?まーぜて」


ヒノはそう言って近づいて来る、鼻の頭にたっぷりホイップをつけて。





「いや、そんなんじゃっ……って!シャッターチャーンス!!!」


一瞬焦った素振りを見せる響だったがすぐさま切り替えパシャリと一枚。





「ちょっと!何よ!?」





「お嬢様、鼻にホイップがついておりますよ?」


私が執事の様に教えると。





「うーーーん…もう。こんなの撮らないで」


と恥ずかしそうに顔を赤らめ眉を下げる。長いまつげをツンと張り、可愛く撮ってよねと言わんばかりに。





「許してください。これも夢の一歩なんです!」


響は誇らしそうに言う





「夢?」


ヒノが問いかける





「はい!最高の一枚を撮りたいんです、世界が変わるような」





「ほー、世界が変わる?」


ヒノが聞く。





「はい。見た人が、新しい世界に思いを馳せて生きる気力をもてるような一枚」





「素敵な夢だな、響」


素直に私は感心する。





「ありがとうございます。シスイさん」


彼女は一眼レフを構えるポーズをして心底嬉しそうに笑う





――その時、腕に目がいった。




一抹の不安が蘇る。


人はこんなにもずっと連続で怪我するものか……?





いや、しない。答えは分かっている――


ヒノとそのことについて話し合ったこともある。




きっと家庭か学校で何かしらの問題を抱えている。





少し様子を伺うように聞いた時があるが、彼女に家族の話や学校の話を尋ねると、いつも少しだけ間がある。




そして決まって……





「まあ、いろいろです――」





そう言って、急に無感情になり、はぐらかす。




私とヒノは、すでに気づいていた。


でも、決定的な何かがないまま、踏み込めなかった。


踏み込んでいいのかもわからなかった。


私の考えでは、そういうのが一切ない世界を私達に求めているのだから


あまり、その話はして欲しくないのだろうと考えている。






――そのまた別の日、私とヒノは初めて喧嘩をした。





それは、三人で公園で暇潰しにダンスしていた時で、


私達は、響のおすすめの曲をかけて、綺麗な市街地の、だだっ広い公園で踊っていた時だった。





響はポニーテールをゆさゆさと揺らしテンポよく跳ねる。





瑠璃色の瞳を野性的に輝かせながら、相変わらずスタイルの良い、胸、くぶれ、ヒップをくねらせ楽しそうに踊っていた。





この子がもし何も抱えている物などなければ、きっと学校でも憧れの的になるぐらいの人気者なのだろうなーと私はぼんやり考える。





――そんな時だった。





「え!!!ねぇちゃんめっちゃかわいいじゃん!!!???」


下品そうな男三人組が近寄って来る。身なりは汚いし、いやらしい目つきで響をじろじろと舐める様に見だす。私や女性全般が嫌いなタイプだ。





「え……あの…その……大丈夫です……」




響はうつむいて怯えながら縮こまる。普段はおちゃらけたキャラだがその破片が一ミリも見えなくなる程に恐縮している。





「うざいよ、消えろ」


私はその下品な不良集団に吐き捨てた。





「ちょっとシスイ……」


ヒノは言い過ぎだよ、事を荒立てちゃダメ!という風に私を止めるが……





「どっかいきなさいよバカゴリラ」


いや、それもまぁまぁじゃないかと内心突っ込んだが、ヒノの中では最大の温情なんだろう。





「おい!!!!なんだこらぁぁぁ!!!クソガキがぁ!!!調子乗ってんじゃねーぞ!!?遊んでやろうかぁー!??」


怒鳴りと、さらなる下品な視線が度を越えてくる。





その声に、響は固まって動けなくなり、大きくて無垢な瞳から声も出さず延々と大きな粒の涙をポロポロ流している。





――相当、怒鳴られるのが怖いのだろう……






次の瞬間にはもう、魔力が体が溢れ狂う程に私は激怒していたが、私を見つめ静止するヒノを見てじっと堪えた。





「警察呼びますよ?」


私は冷静に下衆三人衆に言う





「あぁ???呼べやこら!!!その前に遊んだるわ フヒヒヒ」


こいつらはまるで理性の無い、とんちんかんだなと冷静に考え、自分を落ち着かせる。





しかし男の一人が響の腕を掴む――





「つか、このねぇちゃんまじタイプなんだけど???お前ら二人はいいわ、生意気できんもいから 消えろブタ フヒヒヒ」





――ああ、こいつら一線超えたわ。





異形ですら冷酷に命狙ってくるけど、自分を守る為だったり、品性や独自のルールがある。


しかしこいつらには、なんもない弱者から、ただ欲望のままに奪うだけだ。




その点で考えれば、異形だとかどうかは本当に関係ない。そいつの行為が大事だ。




私は次の瞬間には三人の足を計六本、骨折させていた。腕も迷ったがさすがに躊躇した。




公園に転がってる石ころを念動でいくつか軽く動かし、ただ乱れ打ちにしただけなのだが……




「うおおおおおお!!!!!!痛てぇ!!!!!なんだこれ!!!何しやがったクソアマ!!!ブス!!」


負け犬が狂ったように叫ぶ、自らの力の無さをまだ理解しない哀れさすらあると感じた。




私は無視して響に声をかけた。こいつらをほっとけば他の罪の無い女の子が怖い目に合う気もしたので理解不能な恐怖を植え付けようともしたが、響の手前、それは辞めといた……




「大丈夫、響?さあ、行こう」





響は喋らず頷くだけだった……その手の震えは尋常では無く、変わってやりたいぐらい痛ましかった。





私達は、公園の駐車場に停めていた車に急いで乗り込んで発信する。そのままあてもなく国道を進む。





――車内の沈黙を切り裂くようにヒノが低い声で喋る。





「シスイさっきのやりすぎよ……」





「じゃあ、あのままほっとくの?」




「そんなわけないでしょ?考えたら分かるじゃない」





「響は腕を持たれた時点でトラウマだよ、それなりの罰は受けるべきだ」





「確かにそうね、でも反撃も度合があるわ……基本原則として憎しみは憎しみしか生まない。過度な反撃は新たな反撃を生みかねない。あなたが力を持つ者で、相手より天と地の差で優位なら、それなりに考えて力を使うべきよ」




「わかってるよ!でも、現実は考え通りにいかない事だってあるんだ。何もしないまま、みすみす大切な人を守れず、下衆共に踏みつけられて泣き寝入りなんてしたくない!!!」





「でも……それでも……考えないといけないわ。それが力を持つ者の宿命よ……」





――沈黙。





その間に、響が入る――




「ちょっと……お二人さん……私の事なんかで喧嘩しないでくださいよ。怖いのなんてもう慣れっこなんですよ」





「そんな事より、あなた達二人の美しい世界が壊れるのが、一番見たくないんですよ……」





「二人の世界……私、好きなんですよね……すごく綺麗ですよ?……色々忘れさせてくれるし……ずっと傍で見ていたい……あ……恥ずかし……えへへ」






泣きそうな顔で、無理に笑う……





私とヒノはその表情に痛烈な胸の奥の締め付けを感じる。





――それ以降は沈黙で解散した。





もやもやしたが、寝る前に一言ごめんとヒノに送った。





ヒノからは写真が一枚――





あざとい顔でちゅっとしている写真だ。




彼女らしい返信だなと考える。




言葉で返すのがヒノも難しかったんだろう……




そしてヒノの言った言葉を反芻して考えながら眠りに入った。





それが初めての私とヒノの喧嘩だった。






――――





そんなこんなで、三人で出掛けるのは少し気まずくはなったが、


響が私達に話があると言うから、久々に響と最初合った公園で待ち合わせをした……





……





「ねぇ、シスイさん、ヒノさん。私も依頼に連れて行ってくれませんか?」


急なその言葉に、私とヒノは同時に黙り、視線を落とした。




何故いきなり、こんな事を言い出したのだろう?怖がりの彼女がさらなる恐怖に飛び込む様な物だ。




恐らく、前の件で彼女の中で何かが変わってしまったらしい。私達と密接に繋がる事がこの世界から一番守られると考えたのかもしれない……




私の答えは決まっている。拒否したい。




足手まといになるからではない。




――巻き込みたくないからだ。




彼女は私たちと同い年に見えるが、実際は二歳下。


たった二歳。けれど、今の年齢での二歳差は決して小さくない。




彼女は、この前までまだ中学生だった子だ。




どんな問題を抱えていようと、彼女には、これからいくらでも未来を作れる可能性がある。




だからこそ、その可能性を急に出会った私達で危険に晒すことはできない。




私に関しては、自分で覚悟の末に命懸けでやってるし、ヒノもそうだ。


生きようと挑むか、逃げ込むでは意味が全く違う。




「ごめん……響。それはできない」




「ごめんね。本当に危ないの。私たちでさえ、毎回命懸けになる。そんな場所にあなたを連れてはいけないのよ……わかって」




響の表情が歪む――


裏切られた子どものような、仲間ではなかったのか?と問いかける顔。




「なんでですか!!!」




「私だって、二人と一緒に命を賭けられますよ!!! あなた達と一緒じゃない世界にいるくらいなら、危険でもそっちのほうがずっといい!!!」




瑠璃の瞳が涙で溢れる――




恐らく前は見えてないだろう、それほどまでに悲しみが目を覆う。




まるで、心を守っていた堤防が崩れたみたいに。頬にも大粒の涙を垂れ流し続ける響。





響は感情を剥き出しにして私達を睨む――





「響……今がどんなに辛くても、それはいつか過去になる。君には変えられる可能性が無数にある。だから、その未来を奪う選択を、私達は絶対に出来ない。今まで通り友達のままじゃダメなの?」




ヒノが続ける。




「あなたはいい子よ。異形の私から見ても、本当にすごく。きっといつか、あなたの好きなアニメみたいに沢山の人に愛されて、笑って生きる日が来るよ必ず……」





響は何も言わない。





賢い子だから、私達の言いたい事は、本当は理解しているはずだ。




けれど、感情がそれを受け入れられなかったんだろう。





「ああ……そういうことですか。結局私は、仲間じゃないんですね……」




「足手まといって言えばいいじゃないですか!!! 救いのある世界だけ見せて、突き放すなんて!!!」





「違う!響」




「違うわ!響。聞いて!目を見なさい!」





響は一瞬、私達の声に躊躇するように息を止める――




そして、叫んだ――






「もういい……大っ嫌いだ!!!」






――そして響きは走り出す。


――振り返らずに走り出す。





決別するように。二度と戻らないと決めた背中を見せながら。





「響!!!」




「待って!!!」





彼女は足が速く、そのまま住宅街へと一瞬で消えて行ってしまった。






――あれから、連絡はつかない。





思えば、お互い住所も何もあまり知らない。SNSでしかやり取りが出来ない。




ただ時間だけが淡々と進む。




私とヒノは、響のいなかった頃の二人に、胸に痛みを抱えながら徐々に戻って行く。





二人に戻っただけなはずなのに。





なぜか、今はひどく寂しい……





どうすればよかったのか。


ヒノと何度も話し合ったが、答えは出ない。




メッセージに既読もつかない。


私たちに関わったせいで、何かに巻き込まれていないか心配もしてきた。





――そんな時だった……





テレビのニュースが流れた。また私の地元、あの裏山だ……




――昨日、UFOが出現。人のようなものが飛んでいたという目撃情報。


――数名が行方不明。





あの言葉が脳裏に蘇る……


「UFO撮れたら最高ですよね?」





私は嫌な予感がし、すぐさまヒノに連絡し車で裏山へ向かった。




裏山に着くと車を停車させ、ヒノに響の匂いを辿ってもらう。




ヒノの嗅覚はかなり鋭い。気配の察知と言う方が近いが。





「恐らく、かなり上の方ね。彼女の気配が少しだけする。」




「ホント!?じゃあ頂上にいるかもしれない。さっさと見つけて呼び戻そう。


響は賢いからきっと話せば分かってくれるはずだよ」




「そう……ね」


なんだか腑に落ちない顔だ。妙な不穏をヒノは感じ取っている。




「この山は幸い高くないし、道路は整備されているよ。確か、頂上に開けた公園があるから、もう一度車に乗って行こう」





「うん、行きましょ。急いだ方がいいかも……」





私達は急いで頂上へ向かう。グネグネとややこしい道だったが、ものの二十分で


頂上の公園の駐車場に到着した。





車から降りる私達。ヒノは嗅覚と気配察知の感覚を研ぎ澄ます。





「こっちね」





彼女に黙ってついていく――


公園では無く林の中に、変に木々がなぎ倒されている場所があった……





そこには……





――響の何があっても離しはしないであろう、一眼レフが落ちていた。





土に横たわる確かに見覚えのある彼女のカメラ。少し傷がついてる。





――でもそこに響はいない。





風だけが吹き、木々が揺れる。




ヒノが唇を噛む。





――私も何も言えずにカメラをただ拾う。






「……」





「……帰ろっか?データ見てみよう、私ん家で」





「うん」





「もう匂いしないんでしょ」





「うん」


ヒノは泣きそうになりながら、うんと続ける。





――シスイの家。




私達は帰宅するなり、電気もつけずにパソコンに向かう。




いや、なんとなくつけたくなかった……




真っ暗な部屋で、メモリーカードをパソコンに挿入する。




画面に写真のデータフォルダ一覧が映る。




……




一番最後の写真を見る――





そこには……





巨大で人間が作ったような物では明らかに違うと一目で分かる円盤の様な物体。





それを異様に近いアングル撮っている写真だ。





内部らしき構造も映っている。真っ暗でよく見ずらいが。





ズームして見てみる。





その中に不穏な影がある……





よく見ると、歪な形の何かがいる……





人型のようで、全く違う。





そもそも全然違う形のもいる。





その姿達は物凄く不気味だった……





一般的なUFOの写真とは全く違い、不穏さが桁違いの、暗黒の写真の様だ――





――まるで闇の入り口を撮ったような写真……





実際に目で見ると、より一層不気味だったのかもしれない。






私達は息が浅くなる……






そして、それらのファイルが入ったフォルダーとは別のフォルダーが一つ






――タイトルは「私の世界」





クリックする……





写真ファイルが一枚。





――煌めく空と海を背景に、私とヒノが響を挟み、頬にキスをしている写真だ。





満面の笑み。響の拍子抜けでありながら嬉しそうな顔……





………………




……………………




沈黙……





――その時。





ヒノと私、同時にメールを受信した。どうやら予約送信らしい……





差出人のアカウントは響だ……





開いてみる……





--------------------





拝啓、可憐な美少女のお二方。





二人に出会えて、本当に楽しかったです。





実は私は、家では少し辛い状況が続いていて、学校にもほとんど行けていませんでした。





恥ずかしながら、どこにも居場所がなかったです。





あんな風に、ふざけてたのにこんなの笑っちゃいますね……





正直言うと最初に出会った時、写真なんかどうでもよくって、仲良さそうな二人が羨ましかったんです。





ただ、仲間に入れて欲しかった。





二人が受け入れてくれるなんて夢にも思ってなかったよ?





受け入れてくれて、本当にありがとう。





二人といる時間は、私の世界を素晴らしく変えてくれてました。





お姉ちゃんみたいで、友達みたいで。すごく愛しかったです。





本当にありがとう。





できれば、ずっと傍にいたかった。





二人の幸せな写真を、世界を、撮り続けたかった……





でも、こんな私が最高の一枚を撮れたんだから結構満足してます。





私は違う道を選んだけれど、もし次に会う時があれば、





新しい私で、今度は二人の世界に彩りを与えれるようでありたいです。





その日まで、待っていて下さい。





私の全ての愛を大好きな二人へ。





そして……





――ジュヴナイルにさようなら。





宇空木 響





---------------------------------




……





静寂。





パソコンのファンの音だけが暗い部屋に響く。






ヒノは見たことも無いほど涙を流し、モニターの光を瞳に反射させ固まっている。




そして、ヒノが固まりながら口だけ動かす。




「あの子……すごく怖かったんだろね……」





泣いてはいけないとおもいつつ、私は奥歯を噛んで声を押し殺すが、頬から流れる涙が止まってくれない。




「……私達に助けを求めていたのかもしれないね」





それ以降、二人は喋らない、痛みを二人で分かち合う様にただ肩を寄せ合う。


そして、目から頬に涙を流し続ける。





それはまるで、彼女達三人の思い出を数える様にぽたぽたと落ちていった……






私はヒノに問いかける


「出会わないほうがよかったのかな……?」





ヒノはモニターより奥を見つめ呟く


「分からない。でも、出会ってしまった縁だったんだから、どうにもできないよ」





ヒノの声が震える。


「でも、あんな子がどうして……こんな事に……」






「もし縁で不条理が起こるなら、私達が出来るのは、小さな選択を変え、因を変え、救いの縁に進むしか無いかもね……」




私は冷たく言った。不条理な世界に少し疲れたように、己に言い聞かすように……





――三人の時間には、もう戻れない。





それでも……





――私たちは生きなければならない。




――前に進まなければならない。




――あの一枚の写真が、私達にそう言っている気がする……





---------------------------------------------------




暗がりの部屋で、一人の女の子が目を覚ました……





体が痛い……私に何があったんだろう……





何もわからない……





しかし、そこには強い意思が合った。





あの世界にもう一度触れたいと言う意思……生命力……意地……





彼女は暗闇に手を伸ばしす。這いあがろうとする。





――こんな所で負けてなるものかと、





私が追い付くまで待っていてと――





……





いつか、二人が困った時に言いたい言葉があるんだと――





その言葉を吐くまでは、世界になんか負けてやらないと――





その言葉は……





――ジュブナイルからこんにちわ





……




盛大に、おどけて言って笑かそう。




……




――生きるんだ。絶対に――

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