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冥 シスイ について


我は、広大な世界の王だった。




だが、覚えていない。


どうやら人というものに生まれ変わるらしい。




頑張ったつもりだが、業の赴くままに――


もう一度、生き抜く必要があるようだ。




今度こそ達成する。


何を、だったか?




時が来た。


始まる。




時期が来れば、我が力もまた、


業の赴くままに発動するだろう。




そうして異界の王は、


人の女性として、新たな命を受けた。






——そして時が経ち、現代。




ぶらぶらと平日の昼間に街を歩いて受ける太陽の光は、心地良い


人間は本来そんくらいで満足できる生き物じゃないかと思う


世の中、色々欲しがったり悩んだり、複雑に生き過ぎてる様に感じる




私(めいシスイ)は、廃マンションの階段を上っていた。エレベーターは止まったまま、踊り場の窓は割れ、風が粉っぽい匂いを運ぶ。誰も住んでいないはずの建物は、


社会の喧騒からほど遠く、私を非現実感へ誘う




真っ黒なセーラー服。


そこに、真っ白な髪が落ちる。ボブの髪が風に揺れる


肌も白い。その髪と肌が相まって幽霊みたいに薄く見えるせいで、街では浮いてしまう。けれど気にしない。


この容姿で昔から散々からかわれたり、妬まれてきたんだから


どうせ誰も、他人をまともに見ない。他人の心なんて見てない、全てうわべで決めつける。




私はスマホを片手に、親指だけで画面を滑らせた。


ニュース。炎上。広告。承認欲求、どうでも良いニュース。誰かの悪意と、誰かの善意が、区別のつかない形で流れてくる。現代の情報は、もう何が何だかわからなくて嫌悪感が湧く




「……うんざり」




思わず口にだしてしまった。


しかし、自分の声は廃マンションの空間に吸い込まれ消えていく




高校三年生。


籍だけはある。けれど学校には行っていない。


進学も就職も、真剣に考えていない。考えたところで、答えが出ない。


どれを選んでも、自分の欲しい物は手に入らない気がする。


しかし、この混沌とした現代で普通に今まで育ててくれた両親の事を考えれば


真面目に考えないといけない焦りも湧く。


今の時代、普通に生きれるのはすごい事だからだ




私は踊り場の窓辺に立ち、下を覗いた。


団地が見える。公園が見える。昼の子どもたちの声。遠くの車の音と、近所の犬の吠える声と、風の音。




スマホの通知が鳴った。




【依頼:異形霊媒】


【新規案件:至急】


【場所:△△団地 公園】


【時間:恐らく今日辺り夕方ごろ】


【内容:異形が出る/子どもが近づいてる/すごく怖い】


【報酬:¥20,000】




「やっぱここの依頼来たな。予感が当たった。先回りして張っててよかった」


「.........すごく怖い.ってのは...........嫌だな。でも二万か」




こういう依頼のメッセージは自作のウェブサイトに送られてくる


私が、こういう依頼(異形霊媒)を受ける様になったのは


ある出来事がきっかけで、その時には超常的な能力を持つ女性の探偵さんに助けて貰ってからだ。


その時に”能力”が現れて、”それ”結構使えたのと、自分の求める物がそこにある気がして、なんとなくウェブサイトを作って


そこまで広くない範囲でこの特殊な仕事を請け負っている。


今時、無知でもサイトが作れるから便利だ




怖いが行くしかない


勿論、お金がいる。現代の女の子にはお金が沢山いるんだ


しかし、それだけでは無い。


それが自分の“趣味”なのか“使命”なのか、私はまだ区別していない。




階段を下りながら、スマホでメッセージの詳細を開く。依頼者情報は匿名。短いメッセージが追記されていた。




【公園に“子どもが十人いる”みたいなやつが見える】


【ゲームのゴーレムみたい】


【動きが変】


【お願い、怖すぎる。どうにかして】




私は画面を閉じ、ポケットに入れた。


廃マンションの外に出ると、空が夕方に傾き始めていた。白い光が金色に変わる時間。街の影が伸びて、物の輪郭が少しだけ曖昧になる。




「オウマガドキか......」




「今日は一段と不気味に感じる日だ」




 ——時期が来れば、我が力もまた...........




ふと、そんな言葉が胸の奥を掠める時がある。


誰の言葉だったか分からない。


でも、いつもこうだ。


今思い返せば、あの時の事だったかもしれない


もしくはもっと........





私は公園へ向かった。




△△団地の公園は、夕方の匂いがした。


土と鉄と、古いブランコの油の匂い。


遊具は色褪せ、滑り台の表面はざらついている。いつも同じ顔をしている。時間が止まった場所。


他の公園とは違う、忘れられて誰にも相手されない場所。




私は公園の中央を見る。




そこに“子ども”がいた。十人。


しかし、おかしなのは十人が一つなのだ。


おかしいな 


でも、そうとしか言えない。子供十人が集まった大きな何かだ......気味が悪い


ゴーレムって表現もあながち間違いじゃない





そして——


十人が、同じ方向を見る


冥 シスイを捉えてにやりと笑う。




「……来る」




私は小さく言った。誰に向けた言葉か分からない。




やつの黒目のない多くの目。空洞みたいな目。




私は息を吸って、吐いた。




視界が、わずかに歪む。


目の奥が熱を持つ。


頭の内側に、細い針を刺されたみたいな痛みが走る。




次の瞬間。


“動き”が見えた。




相手が次にどう来るか。


癖。足の向き。肩の沈み。重心の移動。


——行動パターン。


相手の未来がシュミレーションとして何パターンか見える




ただし、完璧じゃない。


相手が速すぎたり精神が乱れると、情報が増えすぎて追いつかない。




歪なゴーレムがのしのしと近寄ってくる。予知通りだ




私の脳内に、次の数手が流れた。




私は一歩、下がる


周辺を見渡して使えそうな物が無いか探す。




異形はさらに動く。十人の顔がニタニタ笑いながら、お前もこの中にいれてやると言わんばかりに




公園の端、工事用の柵が立てかけてある。


その脇に、一本の鉄パイプを見つけた。


錆びていて、汚い。


”でも十分だ”




私は駆け足で向かい、鉄パイプを拾う。


重い。冷たい。





幸い、今回の異形は動きが遅いから助かる




私は今度は“異形に目を凝らす”。


別のものを見る。




——核。




どの異形にも、芯がある。


魔力核とかエネルギーの塊とか、言い方はどうでもいい。


とにかく、そこを壊せば終わる場所。


言うは簡単だが、相手の動きが早かったり、硬い外殻で覆われてたり、そもそも核が硬かったり、核を見えないように自分に魔術の様な物を施してたら厄介だ


そうなれば、今の私には逃げるしかない




私の視界の奥で、異形の胸のあたりが、微かに“濃く”見えた。


光ではない。色でもない。


密度。


そこだけ、重さが違う。




「……あそこ」




呟いた瞬間、頭痛が強くなった。


目を細め、呼吸を整える。


見過ぎると吐く。


自分の限界は知っている。




そして私は精神を鉄パイプに集中させた


「……浮かべ」




言葉は小さい。


誰にも届かないくらい小さい。


けれど、鉄パイプが、ふわりと浮いた。




自分のやっていることを“念力”だと思っている。


何故そうできるか、理由は知らない。


知ろうともしなかった。


できるなら、それでいい。


あの出来事があった後に突然できるようになった、それしか分からないから




ただ、今日は少し違う。


鉄パイプの表面に、黒い膜みたいなものが纏う


熱でも光でもない。


それが何か、分からない。なんだか魔法みたいだ


いつもの超能力とは違う




異形が、迫る。


もう目前まで来て、よく見ると全部の顔がよだれを垂らしている




「上手そうなやつふひひひひひひ、いっただきまーーーす」


異形が叫ぶ




——今。




私は視線をパイプから奴の核に変え指先をわずかに動かした。




鉄パイプが、一直線に飛んだ。


風が切れる音。


音が遅れて聞こえるほど速い。


時速二百キロ。


直線だけなら、それくらい出る。




異形は避ける動きをした。


でも、パターン視で読まれている。


避ける角度ごと、先に置かれている。




鉄パイプが、異形の胸の中心を貫いた。




——カン、と乾いた音。


金属が石を叩いたみたいな音。


そして、遅れて、ぐしゃりと“柔らかい”音。




異形の十人が、同時に崩れた。


関節がほどけ、形が溶け、影が先に落ちる。


しかしまだ形を保ち、近寄ろうとする




「おおおおおまままままえええええ!!!!!ゆるるるるるるさないいいいいい!!!!!」


異形は絶叫して近づく




核を外した——わけじゃない。


私には分かる。


少しズレた。


厚い“何か”に弾かれた。


それでも、核の周辺を壊した。崩れを作った。




未来の読みが甘かった。完全に相手が崩れる姿を予測して実行するべきだった




「……もう一回」




頭がくらつく。


目の奥が焼ける。


でも、今なら見える。次の衝撃で奴が消える未来




鉄パイプは、空中で待機させてたが


もう一度、奴を貫く為に加速させる


鉄パイプは大回りして速度を高める。


先程より、沢山の黒い波動を強く纏いながら





二撃目。




今度は.........




ビュンッズドン!!!!!




完全に貫いた


音が消えた。


一瞬、世界が無音になったみたいに静まる。


異形の十人の顔が、同時に“空っぽ”になる。


そして、砂のように崩れ落ちた。


異形は絶叫する暇も無かったようだ




残ったのは、土の上に広がる黒い染みと、焦げた匂い。


鉄パイプは地面に落ち、表面が妙に黒く変色していた。




私は息を吐く。


視界が揺れる。


頭痛が遅れて押し寄せ、胃がきしむ。


——見過ぎた。




足が止まる。




私はスマホを取り出し依頼完了のメールを送る




【依頼完了しました。後日確認できましたら、お振込の方、よろしくお願い致します】




ポケットにスマホを戻す。


振り返りもせず、歩き出す。




夕方の風が、白い髪の先を揺らした。


私は空を見上げた。


夕焼けが濃い。


金色の光が、世界を静かに塗り替えていく。




胸の奥で、また言葉が動く。




——時期が来れば、我が力もまた。


——業の赴くままに。




まだ分からない。


けれど、何かが始まってしまってることを感じる




真っ黒なセーラー服の少女は、街へ戻っていった。


幽霊みたいに儚い姿のまま、誰にも知られず、当たり前みたいに。

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