第2話:せつめいできないこと
ヒナは、いつものように目を覚ました。
窓の外から、朝の光が差し込んでいた。
ヒナは、両手を大きく広げた。
いつもと同じ朝。
でも、何かが違う気がした。
ヒナは、首をかしげた。
「…なんだろう」
でも、何が違うのか、わからなかった。
ヒナは、おかあさんと一緒に朝ごはんを食べた。
おかあさんが作った、木の実のスープ。
いつもの味。
でも、ヒナは、スプーンを持ったまま、じっと考えていた。
「ヒナ、どうしたの? 食べないの?」
おかあさんが、やさしく聞いた。
「…ううん。食べる」
ヒナは、スープを口に運んだ。
温かくて、おいしかった。
でも、胸の奥が、少しだけ、ざわざわしていた。
ヒナは、いつもの道を歩いて学校へ向かった。
大きな木の下を通って、小さな橋を渡って、草原を抜けて。
いつもと同じ道。
でも、ヒナは、何度も後ろを振り返った。
(何か…、忘れ物したかな…)
ヒナは、かばんの中を確認した。
教科書、筆箱、お弁当。
全部、ある。
(じゃあ、何が…)
ヒナは、また歩き始めた。
でも、胸のざわざわは、消えなかった。
教室に着いた。
友達のミミが、手を振った。
「ヒナちゃん、おはよう!」
「おはよう…」
ヒナは、自分の席に座った。
窓の外を見ると、空が広がっていた。
青い空。
白い雲。
いつもと同じ。
でも、ヒナの胸の中は、ざわざわしていた。
(何が違うんだろう…)
ヒナは、自分の手を見た。
いつもと同じ手。
机も、椅子も、教室も、全部いつもと同じ。
なのに、何かが違う。
授業が始まった。
先生が、黒板に字を書いている。
ヒナは、ノートを開いた。
でも、先生の話が、うまく頭に入ってこなかった。
(何だろう、この感じ…)
ヒナの胸の中で、ざわざわが、少しずつ大きくなっていた。
隣のミミが、ヒナを見て、小声で聞いた。
「ヒナちゃん、大丈夫?」
「…うん」
ヒナは、小さく頷いた。
でも、大丈夫じゃない気がした。
休み時間になった。
みんなは、外に遊びに行った。
でも、ヒナは、教室の窓の近くに座っていた。
空を見上げた。
雲が、ゆっくりと流れていた。
(何か…、起きるのかな…)
ヒナは、そう思った。
でも、何が起きるのか、わからなかった。
雨が降る?
風が吹く?
それとも、何か悪いことが起きる?
ヒナは、自分の胸に手を当てた。
心臓が、いつもより少しだけ、早く打っていた。
ヒナは、教室に残っていた先生のところへ行った。
「先生…」
先生は、プリントを整理しながら、ヒナを見た。
「どうしたの、ヒナちゃん?」
ヒナは、口を開いた。
(何て言えばいいんだろう…)
「あの…。なんか…」
ヒナは、言葉が出てこなかった。
先生の顔を見た。
先生は、やさしい顔をしていた。
でも、先生に、何て言えばいいのか、わからなかった。
(何が違うのか、わからないのに…。
どうやって説明すればいいの…)
ヒナは、黙ってしまった。
「ヒナちゃん?」
先生が、心配そうに聞いた。
「…なんでもないです」
ヒナは、小さく首を横に振った。
「そう? 何かあったら、言ってね」
「はい…」
ヒナは、自分の席に戻った。
お昼の時間になった。
ヒナは、お弁当を開いた。
おかあさんが作った、木の実のサンドイッチ。
いつものお弁当。
でも、ヒナは、あまり食べる気がしなかった。
ミミが、隣で楽しそうに話していた。
「ね、ね、ヒナちゃん。今度の遠足、楽しみだよね!」
「…うん」
ヒナは、小さく答えた。
遠足。
そういえば、来週、遠足がある。
でも、ヒナは、楽しみな気持ちにならなかった。
(遠足…。
ちゃんと行けるかな…。
何か、起きないかな…)
ヒナは、サンドイッチを一口食べた。
おいしかった。
でも、喉を通るのが、少し苦しかった。
帰りの会の時間。
先生が、みんなに言った。
「明日も、みんな元気に来てくださいね」
ヒナは、先生の言葉を聞いて、胸がざわざわした。
(明日…。
明日も、この感じが続くのかな…)
ヒナは、かばんを背負った。
教室を出る前に、もう一度、窓の外を見た。
空は、まだ青かった。
雲も、ゆっくり流れていた。
何も変わっていない。
なのに、ヒナの胸の中だけが、ざわざわしていた。
ヒナは、一人で帰り道を歩いていた。
いつもの道。
でも、ヒナは、何度も立ち止まった。
(何か…、見落としてるのかな…)
ヒナは、周りを見渡した。
大きな木。
小さな橋。
草原。
全部、いつもと同じ。
でも、ヒナの胸の中は、ざわざわしていた。
ヒナは、小さく息を吐いた。
そして、また歩き出した。
家に帰ると、おかあさんが出迎えてくれた。
「おかえり、ヒナ。学校どうだった?」
ヒナは、かばんを置いて、おかあさんの顔を見た。
おかあさんの顔は、大きくて、やさしかった。
ヒナは、言おうと思った。
(今日、ずっと、なんか変な感じだった。
何が違うのか、わからないけど。
何か、起きそうな気がする)
でも、ヒナの口は、動かなかった。
おかあさんは、きっと言うだろう。
「大丈夫よ、何も起きないわ」
「気にしすぎよ」
「疲れてるんじゃない?」
おかあさんは、やさしい。
でも、おかあさんには、わからない。
この、胸の奥のざわざわが、どれだけ気持ち悪いか。
ヒナは、小さく答えた。
「…ふつう」
おかあさんは、にっこり笑った。
「そう。それならよかった」
夜になった。
ヒナは、ベッドの中で、天井を見ていた。
窓の外から、月の光が差し込んでいた。
静かな夜。
でも、ヒナの胸の中は、まだ、ざわざわしていた。
(何が違ったんだろう…。
何も起きなかった…。
でも、何かが違った…)
ヒナは、目を閉じた。
でも、すぐには眠れなかった。
胸の奥で、ざわざわが、まだ続いていた。
ヒナは、毛布をぎゅっと握った。
(明日も、この感じが続くのかな…)
ヒナは、そう思いながら、ゆっくりと眠りについた。
次の日の朝。
ヒナは、また目を覚ました。
窓の外から、朝の光が差し込んでいた。
ヒナは、ゆっくりと起き上がった。
胸の中を、確かめた。
ざわざわは、まだあった。
でも、昨日よりは、少しだけ小さくなっている気がした。
ヒナは、窓の外を見た。
空は、青かった。
雲が、ゆっくりと流れていた。
何も変わっていない。
ヒナは、小さく息を吐いた。
そして、朝の支度を始めた。
(わからないけど…。
でも、わたしは感じてる…。
それでいいのかな…)
ヒナは、鏡の前に立った。
いつもと同じ顔。
でも、目だけが、少しだけ違う気がした。
ヒナは、かばんを背負って、家を出た。
【第2話 おわり】




