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第3話「狐火の幻、もふもふの尾」

塔の麓、城下の外縁。石畳から砂地に切り替わるあたりは、冒険者たちが小競り合いをする場所でもある。俺とミィは、宿で一泊してから翌日、簡単な試し狩りに出かけていた。


「隊長、いや、ご主人。今日はどこ行く?」

「まだ“ご主人”で押すのか」

「うん! にゃふふ、気に入ってるんだもん」


猫獣人のミィはご機嫌だ。昨日の狼退治で“盾戦術”を体感してから、すっかり俺に懐いている。だが仲間はもう一人必要だ。盾と斬撃だけでは、群れや遠距離魔法に対応できない。


そこへ、不意に風が逆立ち、目の端に光が揺れた。


「火……?」


次の瞬間、俺たちの目の前に青白い狐火がふわりと舞い、砂地に円を描いた。淡い光は陽炎のように揺らぎ、その向こうに、一人の少女が立っていた。


金色の髪を肩で切りそろえ、頭には三角の狐耳。背後には、もふもふとした尻尾が三本、風に流されながらも律動を刻んで揺れている。その姿は柔らかで、けれど瞳には冷ややかな光が宿っていた。


「……あれが、噂の《盾》?」


狐獣人の少女は俺を見つめ、唇の端をわずかに上げた。


「盾なんて無駄。殴られる前に燃やせばいいのに。……でも、市場で狼を倒したって噂、確かめに来た」


ツンとした声音。自信と皮肉が混じる。


ミィが尻尾を膨らませて前に出る。

「なにさ、ケモ耳仲間だからって調子乗んないでよ。ご主人がいたから勝てたの!」


「ご主人?」狐少女は目を細めた。「……へぇ、もう懐かせてるのね」


俺は二人の間に手を出し、空気を切った。


「落ち着け。君は……幻術使いだな?」

「そうよ。狐火も、結界も扱える。幻を重ねれば敵からは認知できなくなる。……でも仲間を守る盾なんて発想、馬鹿みたい」


言葉に棘があるが、尻尾が小さく揺れている。あのもふもふの動きは、彼女の心情を隠せない。興味を持ちつつ、認めたくない。そんな揺らぎだ。


俺は木盾を立て、半歩踏み出した。


「じゃあ、試してみよう。俺が盾で隙を作る。君は幻を当てろ。ミィは背面狙いだ」


狐少女は眉を上げ、すぐに鼻で笑った。

「勝手に仕切るわね。……あんた、名前は?」


「俺か? ……《まこと》だ」


「まこと、ね……ふん」


わずかに口元が緩んだのを、俺は見逃さなかった。

彼女は扇を指先で弾き、挑発するように言い放つ。


「いいわ。見せてもらうわよ、まこと」



小さな丘陵の向こうから、牙猪の群れが現れた。五体。突進力が脅威だが、パターンは単純だ。俺は盾を構え、合図を飛ばす。


「右三、突進。狐、視界三秒」


狐少女は扇をひらりと開き、低く呟く。狐火が走り、猪の視界に幻の人影を映した。猪は軌道を誤り、俺の盾の正面へと突っ込む。角度十五度。受け流し、足を払う。


「ミィ、背面!」

「任せて!」


ミィの短刃が背中に突き立ち、猪は地を転がる。残りの四体も幻に惑わされ、俺と狐、猫の三角陣に引きずり込まれていく。


やがて群れはすべて地に伏した。



静寂の中、狐少女は目を瞬かせていた。

「……本当に、守りきったのね。盾で角度をつけて、わたしの幻に導いた。ほんと完勝だった」


彼女の尻尾が、ふわりと揺れた。炎のように見えるのに、もふもふの柔らかさが想像できて、思わず手を伸ばしたくなる。


「まだ信じられないけど……面白いわ。あんたの戦い方。……まこと」


ツンとした声音で名前を呼ばれ、俺は思わず苦笑する。

「なら、仲間になれ。俺は塔を越えるつもりだ。四十階を超えて、その先へ」


狐少女は一拍置き、視線を逸らす。

「別に、あんたのためじゃない。ただ……幻術が一番輝ける場を探してただけよ」


ツンとした言葉。しかし尻尾は左右に揺れ、根元がわずかに赤く染まっていた。

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