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第22話「風燈祭の夜—空の下で合わせる」


 朝いちの空塔監視局。

 塔前広場の脇にそびえる白い監視塔の玄関で、カラが胸を張った。


「はーい! 空通る許可ください! 黒雷バチバチのカラでーす!」


「“バチバチ”は今この場では言わないのよ」

 モフが扇をぱちんと閉じて、小声で釘を刺す。


「ご主人、カラが緊張で翼ばたばたしてる」

 ミィが尻尾でまことをつつく。


 受付に現れたのは空塔監視局の局長マーロ。

 短く刈った髪に風紋の外套。

 九階の地図を片手にこちらを値踏みしながら、頷いた。


「九階・天空回廊へ向かうパーティ、《未来読む盾》だな。いくつか注意事項がある」


「今は祭の期間で上空の風路は混んでいる。昨夜も“黒雷ヘイム”の目撃情報があった。見かけても追うな。以上」


「了解だ」


 朱印の押された九階の仮通行許可証をマーロから受け取った。



 商人ギルドの祭の窓口。担当のセルマが、書類一式を机に置く。


「夕方から『風燈祭かざあかりさい』です。空中回廊に風燈(紙ランタン)を張る設営補助をお願いします。無事故で終えれば、仮通行許可証の本承認に私からも後押しを入れます」


「わかった。受ける」

「受けまーす!風、読めます!食べ——じゃなくて、働けます!」


「カラ、後半いらないからね」

 モフは肩をすくめた。



 鍛冶屋ではなく、今日は“風具師”に向かった。

《オルファ風具店》は、薄帆と綱が天井一杯に張られた高所装備専門の店だった。

 女主人オルファが、俺たちを見るなり指を鳴らす。


「空渡りならハーネス、全員分が必須ね。それと“風読笛”——短い笛で合図を共通化した方がいいわ。落下時対策で“緊急落下傘”をおすすめするわ」


「……これ、どう付けるの?」

 カラはハーネスのベルトに四苦八苦、翼も絡めて一人で“縛り鶏”になった。


「ご主人、カラに結びながら教えてあげて」

「はい止まって。足→腰→胸の順」


「うん……これで空飛べる?」

「無理だ。安全のための紐だ」



 気象寺。

 回廊の風鈴がふらりと鳴り、気象予報僧・廉風れんぷうが風路図を広げる。


「乱気流の発生には法則がある。上下の風が切り替わる“無音”が前触れだ。風の音が無くなった時、乱気流が発生する」


 紙袋をひとつ渡される。袋の内側で砂がさらさら震えた。

「《風破砂》。風が強まるほど振動が大きくなる。振動を感じる場所に入れておけ」


「ありがとう」

黒雷ヘイムを見ても、——近づくなよ」


 リィナが「はい」と礼をする。

 カラは「へいむ!」と大きな声で復唱し、モフに扇で軽く叩かれた。


     ◇


 昼から設営。

 風橋の上で、紙燈と蓄雷灯を一定間隔で吊っていく。


「結ぶのはミィ頼む」

「了解! ご主人、ここからここまで、一気に結ぶね!」


 フォールミュート・パッドの効果で乾いた板の上でも音を消し、ミィはするすると渡る。

 リィナは疲労が溜まる前に白光で癒やす。

 カラは抑魔バンドに手を当て、“撫でる”ようにゆっくり羽ばたく。


「カラ、いい風」

「えへへ! バチバチ撃たない! はばたく! お腹はすいた!」


「バカなこと毎回言わないで」

 モフのツッコミが心地よく通る。


 順調——に見えたが、夕刻、露店の親父が自前の蓄雷灯を“勝手に増設”していた。


「その配線は——」

 言い切るより早く、藍色のスパークが走った。紙燈の列に沿って、ぱちぱちと連鎖の火花。


「まずい!」


「ご主人、右側の列に逃がす?」

「右だ。ミィ、電線を分断!」

「にゃっ!」


 俺は反射でスパークの力を側壁のアースへ“返す”。

 ミィは電線を“切断”。

 火花の連鎖が止まる。

 モフが即座にまだ残る火を結界で覆って延焼を防ぐ。


「酸素、削る!風切り!」

 カラが翼を一閃、燃えている紙燈の上で空気の供給を奪う。

 火は小さくなり、リィナが火傷した親父の手に白光を落とした。


「……助かった……」

 祭礼担当のセルマが青ざめ顔で走ってきて、深々と頭を下げる。

「仮通行許可証は承認します。物資割引券も——本当にありがとう」


 カラは胸を反らし、ぐっと親指を立てた。

「バチバチ撃たないで勝った!偉い!」


「うん、今日はすごく偉い」

 俺も親指を立てる。


     ◇


 日が落ち、風燈が一斉に灯る。藍と金の揺れる川が、空の回廊に伸びた。屋台の匂いは甘く、楽器が低く鳴る。


「見てご主人!空舟焼き!」

「五本まで」

「五本!?優しい!」


「“まで”を喜ぶの珍しいわね」

 モフが呆れつつも頬が緩む。


 ほうじ茶の氷がカラン、と鳴り、リィナの白袖に橙の灯が映る。

 カラはどんぶりに“風蜜かりんと”を山ほど盛られ、満面の笑み。


「どこに入ってるんですか、それ」

「翼に!多分!」


「理屈はともかく、その顔は正義だな」

 俺は肩の力を抜く。


 人混みの向こうで、紅槍隊が軽く杯を掲げた。

 レオンが目で“やったな”と告げ、エリアがグラスを上げ、プリムが安堵の笑みで会釈する。

 派手さと速さで切り抜ける彼ら。

 盾で守る俺たち。

 方法は違えど、今日の街は同じだ。


     ◇


 祭の終盤、空塔監視局の臨時詰め所で、通行許可証(本認可)と救助協定票を受け取る。

 マーロが短く言う。


「お前たちの行動は良かった。——空では無音は前触れ、だ」


「肝に銘じます」

 俺は許可証を収め、風破砂の袋を握った。

 指先が、微かに震える。

 夜風が強まってきたのだ。


「明朝だね、ご主人」

 ミィの尻尾が小さく跳ねる。


「結界の初動、さらに短くするわ」

 モフは扇の骨を一度だけ鳴らした。


「回復は細く長く。焦らず、途切れず」

 リィナの声は落ち着いている。


「雷!かわす!薬! ——あと、ごはん!」

「最後はいらないからな」

「はい!ごはん! ……じゃなくて、雷!かわす!薬!」


 抑魔バンドの銅網が、笑い声に合わせてほんの少しだけ温かくなった。


 受けない。流す。必要なら、返す。

 そして、繋ぐ——撃たないで守った一日が、明日の空を軽くする。


 風燈の列が遠くまで続き、夜の風が、その先を指し示していた。

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