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第6話:星降る島の黒い剣

 星家ノ環での出来事から、わずか一週間。静寂を破るかのように、その日、夜明け前の午前五時に世界は揺れた。突如、太陽系の遥か彼方から二つの流星が秒速三百キロという猛烈な速度で地球へと向かい、大気圏に突入する直前不自然な挙動で急減速。地球の重力に絡め取られるように、二つの天体は地上へと引き寄せられた。


 一つは、広大なフェルラン国(かつてのモンゴル、中国を包含する国家)の領土へ。


 もう一つは、太平洋の真ん中、ルミネス国の排他的経済水域に浮かぶ、面積わずか約三万平方メートルの小島、A11島へと。


 この未曾有の事態に、フェルラン国とルミネス国は即座に動き出した。しかし、その動きは徹底した秘密主義に覆われた。ニュースはおろか、公的な情報の一切を表に出さず、水面下で極秘の調査が開始されたのだ。


 ルミネス国政府はこのA11島の調査を、機密を扱う作戦統合本部に任命。しかし、本部のトップは、その裏で、国の闇を担う極秘部隊、特別任務隊の八咫烏に真の任務を委ねた。


 緊急招集された剣星会議により、この任務の全権指揮官に任命されたのは、四つ星蓮。


 彼は隊員三十九名を率い、夜明けの闇の中、調査へと旅立った。(彼の護衛の菜雲は別の重大な任務のため、今回はそこにいなかった。)


 蓮たちを乗せた軍用輸送機は、東の空が白み始める頃、A11島の付近に隠された特別任務隊の秘密基地、A5島へ着陸。そこから、隠密行動のために特別任務隊が所有する、漆黒の小型空母に乗り換え、A11島へと舳先を向けた。


 航行中、空母のレーダーが同盟国であるアルスティファナ(旧アメリカ合衆国)の偵察機を探知。蓮は即座に空母から特別任務隊専用の黒いステルス戦闘機五機を緊急発進させた。領空侵犯の兆候に対する、警告と牽制の措置である。


 五機の漆黒の影に遭遇した偵察機は、それ以上深入りすることなく引き返し、蓮たちは、A11島へと上陸を果たした。


 手つかずの島は、熱帯のジャングルのように荒れ果て、一歩進むにも困難を極める。しかし、空を覆い隠すほどの木々の隙間から、彼らが目指すべき場所は一目瞭然だった。隕石の衝突により巻き上がった砂煙が、巨大な柱となって立ち昇っている。蓮たちは、その不吉な目印と、ウイルス検知器を片手に、慎重な歩みを進めた。


 そして、ついに辿り着いた、その場所。


 「ーーなんだ、これは.....」


 喉から、乾いた息が漏れた。


 そこに広がっていたのは、地面を深く抉った巨大なクレーター。その底には、赤色の粒子がまるでラメのようにキラキラと輝く、巨大な何かが、一切の形を崩すことなく鎮座していた。それが隕石であることは間違いなかったが、そのあまりにも人智を超えた光景は、常識を遥かに逸脱していた。


 ウイルス反応、異常なし。ひとまず、大丈夫そうだな...


 蓮は背後に控える五人の隊員に待機を指示し、一人、急角度のクレーターを慎重に降りていく。その赤い天体へと向かって。


 その時だった。


 『なにか、低い声のようなもの』


 それは鼓膜を震わせる音ではなく、頭蓋を通り越して脳に直接響く、意識そのものへの介入。


 激しい頭痛が蓮を襲う。しかし、彼の体はそれを無視するかのように立ち止まらない。まるで、見えない強力な磁場に引き寄せられるように、赤い結晶体へと歩を進めていく。


 「これが.......」


 間近で見上げるそれは、高さ十五メートルを超える、巨大な塔のようだった。


 恐る恐る、その結晶体に手を置く。


 透明度が高く、透き通った赤いクリスタルは、向こう側の景色まで歪んで見えるほど。そして、その奥に、一つの物体を見つけた。


 剣。


 それは、八咫烏の最高幹部である剣星たちが持つ、伝説の天星剣の形状と全く同じもの。その横には、ぴったりと寄り添うように鞘があった。


 「黒い...... 天星剣.....」


 疑視するうちに、その剣から漆黒のオーラのようなものが立ち昇り始める。その黒い影は、まるで、意思を持っているかのように僕めがけて飛来した。同時に、赤い巨大なクリスタル全体に、甲高い音と共に亀裂が走り、結晶体は四つに裂け、音を立てて崩れ去った。


 『そこの変わり者.....こっちに来い』


 再び、脳に直接響く声。この剣が、話しているというのか?以前、剣星たちが天星剣は武器ではなく、生き物に近いと語っていたことを、思い出した。


 蓮はためらうことなく、その剣に触れた。


 瞬間、剣からさらに巨大な漆黒の渦が広がり、蓮の身体を飲み込み始める。待機させていた隊員たちが、叫び声を上げながら駆け寄ってくるが、その姿も徐々に闇に飲まれ、視界から消えた。


 漆黒の渦に閉じ込められた蓮の右手ーー天星剣の柄を握るその腕に、柄から伸びた影が蛇のように巻きつき、絡みつく。そして、剣の意識が、蓮の意識へと流れ込んできた。


 『お前は...面白い。実に....面白いぞ.....うはははははは。気に入った....』


 僕は、なぜか抗うことができなかった。いや、抗う意思が湧かなかった。


 心の奥に、常にある種の力を求めていた自分がいることを自覚していた。誰の役にも立てず、ただ足を引っ張ってきた己の存在を変えたい。剣星たちのような、絶対的な実力が欲しい。


 その強烈な渇望が、僕を突き動かした。僕はこの得体の知れない天星剣との契約を結ぶことを選んだ。


 剣は、自らに名を告げた。


 「漆黒の天星剣」と。


 漆黒の渦が収まった後、蓮は無事を隊員たちに伝え、その漆黒の天星剣を鞘に収めた。彼の顔には、以前はなかった、どこか全てを達観したような影が落ちていた。


 帰投後、八咫烏本部へ向かった蓮は、剣星たちに調査結果を報告した。


 写真や映像の状況証拠から、剣星たちが導き出した結論は、かつての時代にあった星降り事件の再来。クリスタルの中から天星剣が見つかったという事実は、その赤い結晶体が、人間の意思に反応する究極の物質、天星クリスタルである可能性を裏付けた。


 天星クリスタルは、触れて意識を伝えることで、魔法を放つことができる天星剣に匹敵、あるいは凌駕する、最高の兵器となり得る。剣星たちはすぐに、第二調査隊を編成し、残された天星クリスタルの回収を命令した。


 だが、それ以上に、彼らが頭を悩ませたのは、蓮が漆黒の天星者となってしまったという事実だった。


 本来、八咫烏の未来を託す蓮には、南鳥島に隠された、調和と希望を象徴とする虹の天星剣を所持させる予定だった。


 予想外の結果に、動揺を隠せない剣星たちだったが、蓮の祖先の功績と、何より天星剣に選ばれたという動かしがたい現実により、彼は正式に八咫烏の幹部、剣星へと昇格した。


 剣星の第一条件は、天星剣を所持していること。そして、情報分析能力、指揮能力。


 正直なところ、天星剣の所持以外は、蓮の既存の能力からは程遠い。だが、漆黒の天星剣に選ばれたという運命、そして一部の剣星からの強い後押しもあり、彼は剣星の十として、組織に認められた。


 新たな力と、重すぎる役職を手に入れた連。彼の未来は、漆黒の天星剣によって、光と闇、どちらの道へ導かれるのだろうか。


 世界を巡る運命の歯車は、いま、加速し始めた。

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