第3話:灯火の先、見知らぬ影
あれから三年、蓮は15歳になった。訓練を重ね、細身ながら筋肉をつけ、その佇まいはすでに一人の軍人としての風格を漂わせる。夕焼けが空を赤く染める頃、蓮は縁側で故郷を想っていた。
もう、十五歳か......
同級生たちは今頃、高校受験で勉強が忙しい時期だろう。ふと、幼馴染である舞の顔が脳裏に浮かぶ。「舞ちゃん元気にしてるかな」。遠い目で空を見つめる蓮に、護衛の菜雲が声をかける。
「四つ星様、どうかされましたか?」
「菜雲か.....少し、昔を思い出していて」
菜雲は何も言わずに、蓮の隣に腰を下ろす。視線の先にあるのは、燃えるような夕焼け。
「恋人ですか?」
「いや、幼馴染のことさ」
舞のことを語る蓮に、菜雲は意外な提案をした。「会ってみてはいかがですか?」今日は故郷の祭りの日。毎年、舞が楽しみにしていた祭りだ。きっと今夜なら会えるかもしれない。蓮はただ、舞が幸せに暮らしているのか、その目で確かめたかった。話す必要はない。ただその安心が欲しかった。
意を決し、蓮は故郷の祭りへ向かう。
一人で行きたかったが、護衛の菜雲は譲らない。人混みに紛れても、離れた場所から見守るという条件で、なんとか納得させた。
ツバキ(旧和歌山)の街は、祭りの熱気に包まれていた。屋台の提灯が夜空を淡く照らし、焼きそばの香ばしい匂いが漂う。金魚すくいの水音が、遠い記憶を呼び覚ます。まるで時が戻ったかのような懐かしさに、胸がじんわりと温かくなる。
人混みをかき分け、蓮は丘の上を目指した。そこは花火が一番綺麗に見える場所だ。あの場所なら、きっと.....
その頃、菜雲は人混みに紛れて蓮を見失っていた。一瞬の油断が命取りとなるこの世界で、自分の実力不足を痛感し、焦りが募る。
丘の上も、人で賑わってきた。古びた柵に寄りかかり、蓮は静かに目を閉じる。人々の喧騒の向こうに、舞がいるような気がした。
その時、一人の女性が視界に入った。見違えるほど美しく成長した舞だ。まるで芸能人のように華やかで、その隣には、蓮と同じくらいの年齢の男性がいた。手をつないでいる。
「そうか、幸せなんだな.......」
江崎にいじめられていた頃の舞を思い出し、時折抱いていた不安が、安堵へと変わる。その瞬間、夜空に大輪の花火が打ち上がった。
色とりどりの光が夜空を彩り、人々の感嘆の声が響く。蓮は花火に見とれていると、背後から甲高い笑い声が聞こえた。
「いやー、美しいですね。まるで、あなたのようなオーラだ。ホーッホッホッホ...!」
振り返ると、黒いスーツに身を包んだ怪しい男が立っていた。紫色のネクタイ、七三に分けられた黒髪。小さな目は常に笑っているようで、底知れない不気味さを感じさせる。男のオーラは、赤みがかった紫色。それは危険な存在であることを物語っていた。
「すみませんねー、急に声をかけてしまって。あなたの美しいオーラに魅了されたもので、つい」
男の言葉を信じられるはずがない。
蓮が要件を問いだすと、男は手のひらの上で遊ぶように話し始めた。
「私は情報屋と武器商人をやっておりましてね。あなたと、これから良い関係を築けたらと思いましてね」
男の耳にはAR技術で名刺を表示するデバイスがついていた。高倉知幸と名乗るその男は、蓮のことを知っているようだった。
「誰から聞いたんですか?」
「それは言えません。ですが、敵ではありませんよ」
その時、菜雲が必死の形相で駆け寄ってきた。
「四つ星様!」
菜雲の声を聞き、高倉は「お仲間が来たようですので、私はこれで」と言い残し、人混みの中へ消えていった。
丘を下る途中、蓮と菜雲は舞たちとすれ違う。その時、舞がふと振り返った。
「蓮くん?」
「どうしたんだ、舞?」
隣にいる彼氏に聞かれ、舞は「なんでもない」と答えたが、その視線は、遠ざかる蓮に釘付けだった。
あの虹色のオーラ、整った容姿。間違いなく蓮くんだ。だけど隣にいるのは誰?
蓮は更生施設に行ったのではなかったのか?なぜここに?舞の心には、新たな疑問が生まれていた。
電車に揺られ、蓮は窓の外の景色を眺めていた。舞が幸せそうで、心から安堵する。これで本格的に自分の任務に集中できる。その時、蓮の心に、強い覚悟が芽生えた。
菜雲がトイレで席を立つ。蓮が席を移動しようと通路を進むと、向こうから見慣れない男が歩いてきた。すれ違った瞬間、男の放つオーラに蓮は足をとめた。
静かに研ぎ澄まされた知性、そして周囲を飲み込むような存在。そのオーラは、氷のような青、そして、薄らと黒と黄が混じり合っていた。
「四つ星蓮」
男が静かに告げたその名に、蓮は立ち止まる。
「あまり勝手なことをされては困る」
男は蓮が先ほど、高倉と接触したことを知っていた。その男の腰には、剣が下げられていた。その姿から、蓮は男が剣星の一人であることを確信する。
「自己紹介が遅れた。私は八咫烏、剣星の三、室星隼人だ。今日はお前に任務を伝えにきた」
室星は、第二首都ルネツの街で若者たちが姿を消している事件を語った。敵国のエージェントが、夜中にトンネルの下でポップコーン屋に扮しているという。
「今回お前に与えられた任務は、この人物を捕えること。我々はこの任務を、深夜のポップコーン屋と呼ぶ。頼んだぞ」
そう言い残し、室星は静かに去っていった。
同じ頃、高倉は電話をかけていた。
「あの虹のオーラには驚きました。ですが、あれは努力で手に入れたものではなく、祖先から受け継いだものだ。あなたが気に留めるほどの人物ではないかもしれませんよ。ホーッホッホッホ」
電話の向こうの人物は、静かに答える。
「そうか。だがいつか、この目で見る時が来るだろう。その時までには、成長しているはずだ」




