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第2話:八咫烏の秘密

 卒業式を終えたその足で、僕はボストンバックを肩にかけ、電車に揺られていた。向かうは、第二首都ルネツ(旧京都)の山間にある更生施設だ。


 罪人ーー。その言葉が、まるで首にぶら下げられた錆びたタグのように重く感じられた。どんな理由であれ、人を傷つけた事実に変わりはない。そう、自分に言い聞かせるように。


 ここか


 たどり着いた施設は、想像とはまるで違っていた。低く構えた無機質なコンクリートの外観はむしろ軍の基地に見える。

 

 入り口の警備員に案内され、無言のまま地下二階へと降りていく。エレベーターが沈むような感覚とともに扉が開く。「ここから先は一人で進んでくれ」小さな端末を一つ手渡され、警備員は背を向けた。


 静寂が降りる。廊下は奇妙なほど静かで、不気味なほど整っていた。端末に表示される矢印に従い、僕は歩を進める。やがて重厚な鉄の扉が前方に現れた。無言で端末をかざすと、機械音とともに扉が開く。


 中には円卓と、黒いスーツのような軍服を纏った三人の人物がいた。彼らが纏うオーラに、全神経が総毛立つ。二色以上のオーラを持つ人間が、舞ちゃん以外にもいたんだ。


 「ようこそ、四つ星蓮君。さあこちらへ」


 声をかけたのは、落ち着いた口調の男だった。全身が人形めいたロボットの装甲で覆われ、その上から軍服を着ている。僕はぎこちなく椅子に腰を下ろした。目の前には湯気の立つ茶と、見慣れない菓子が並んでいる。


 「そのお菓子が気になるのかね?」

 「はい」


 聞けば「八ツ橋」というらしい。食べて良いとのことで、僕はゆっくりと口にした。ここは更生施設のはずなのに、なぜもてなされる? 目の前の男たちは軍人のようだし、それに悪いオーラを一切感じない。一体、何がどうなっているんだ。


 僕の考えを見透かすように、男たちが口を開いた。彼らは、ルミネス国の特別任務隊(通称:特務)「八咫烏」に所属しているという。役割は、秘密軍事組織・諜報機関、要するに特殊作戦執行部だ。特別任務隊には「八咫烏」と「白狐」の二つの組織があり、この三人は「八咫烏」の幹部、剣星(けんせい)と呼ばれる舵取り役だという。


 真ん中にいるのは、オネエ系の体格の良い男、剣星の六、諸星城明(もろぼしじょうめい)。オーラは紫と黄。右に座っているのは、正義感の強い格好の良い男、剣星の五、赤星凌駕(せきぼしりょうが)。オーラは赤と青で、まるで映画のスーパーヒーローみたいだ。そして左に座っている全身ロボットの男は、剣星の四、影星九重(かげぼしここのえ)。驚くことに、彼の肉体は脳だけ、それ以外はロボット。さらに戦闘用のアーマースーツを着用している。黒い軍服で全身は見えないが、不気味な顔とガチガチとした手に恐怖を感じた。オーラは水色と灰色だ。


 彼らの迫力と真剣な眼差しに、足も気持ちも震える。この状況から逃れられないことはすぐに理解した。もともと逃げる気はないが、凄まじいオーラに耐えるだけでしんどい。


 それでも僕には聞きたいことがあった。「僕は更生施設にきたのではないのか」という疑問に、影星が低い機械じみた声で答える。


 ドッチボールのトラブルは、表向きは更生施設行きという処分だったが、本当の目的は、この特務の八咫烏に今日から所属させるためだという。僕が江崎に手を出した理由は問題視されていないらしい。そして、所属拒否はできない。その理由が、僕が全く知らなかった歴史と祖先に関係していた。


 現在から二千七百年前、別の文明があった。文明レベルは今とそう変わらない。当時、第三次世界大戦が勃発し、世界は混乱に満ちていた。さらに星降り事件が発生。天から水色の隕石三つが地球に衝突した。一つはルミネス国(旧日本)、あとはラテネ国(旧カナダ)、デルタ国(旧ドイツ)だ。当時、この三カ国は戦争反対だったが、それでも他国から攻撃を受けていた。


 隕石は水色に光る美しいクリスタルで、その中には剣が眠っていた。クリスタルは地球上には存在しない物質で、人間の意識に反応し、想像したことを現実にする力があった。人類はこれを魔法と呼び、クリスタルは天星クリスタルと名付けられた。クリスタルは消耗品だ。


 一方、剣は天星剣と呼ばれ、武器ではなく生き物だった。意識を持つが自ら動くことはできず、二色以上のオーラを持つ者と契約することで存在できる。契約した者を天星者という。二色以上のオーラ、天星剣が嫌う者が触れと、エネルギーで焼かれて命を落とす。


 天星剣と天星クリスタルを手に入れた三カ国は狂いはじめた。天星者や魔法を扱えられる兵士は圧倒的な力で敵兵を殲滅し軍事バランスを崩壊させた。特に日本は、この二つの力に加え、核兵器を製造していたため、多くの国から敵対視される。しかし、物資供給も止められ、国民の60%が餓死、戦死者も20%を超える最悪の状況で、抑止力としての核は必要不可欠だった。


 そして、天星者同士の衝突、核の発射により文明は崩壊。数千年の空白の時が生まれた。生き残った人類は、カプセルに入って地下で長期睡眠状態となり、時を経て目覚め、今の文明を築いた。だが、先に目覚めた者たちが世界の支配体制を築き、まだ眠っている人々の記憶を消して自分たちの国を創り上げた。しかし、その支配体制も千二百年経った今では崩壊し、新たな権力者たちが今の世界を支配している。


 僕はにわかには信じられなかった。だが、三人のオーラが嘘を言っていないことを示していた。では、なぜ彼らがこの歴史を知っているのか。


 「アカシックレコードだよ、蓮ちゃんも知ってるんじゃないの?」


  れ、蓮ちゃん!? 

 そう言ったのは諸星だった。


 いやいや、それよりも、アカシックレコード

「諸星さん、アカシックレコードってなんですか?」


 諸星は目を細めて微笑み、話し始めた。


 「そうね、アカシックレコードは宇宙の図書館。過去の出来事や未来のことまで、すべて記録として残っているの」


 その言葉に、僕は以前見た夢を思い出した。日の丸を掲げた巨大戦艦が、戦闘機の群れに一方的に攻撃されて沈没していく光景。夢のことを説明すると、それは日本の国旗で、戦艦は戦艦大和だと分かった。そして、それは事実、過去に存在したものだった。


 やはり、あの五感は夢ではなかった。なぜ無意識にアカシックレコードにアクセスできたのかは分からないという。


 「でも、アカシックレコードを信じてもいいのでしょうか?」


 「それなら心配ない。アカシックレコード以外にも確かな情報がある」

 赤星がそういった。


 証拠?


 「いずれ会うことになると思うが、剣星の一、大黒天星(だいこくてんぼし)八弔(やちょう)という男がかつての文明の歴史を先祖代々伝えている。その詳細は八咫烏本部に保管してある」


 かつての文明を知っているということは、大黒天星さんの祖先は、目覚めが早かったのか.......今はまだ考えなくていい、大黒天星さんにあった時に聞いてみよう


 「では、事実なんですね」


 「ああ、そうだ」


 まだ疑問が残る。僕の祖先についてだ。


 「過去の歴史は分かりました。では、僕の祖先について、なぜ八咫烏と関係があるのでしょうか?」


 今度は影星が答える。「四つ星蓮、君は、かつての日本の天星者の子孫なのだよ。つまり、我々と同じ星家なんだ」


 僕が日本の天星者の子孫!? なぜ分かるんだ、それに星家ってなんだ

 「子孫ですか.......でも、星家ってなんですか?」


 「星家とは、天星者になった者の証として、苗字に星を刻んだんだ。血は繋がっていなくても家族のような深い繋がりがある。実際こうやって集まっているわけだしね。それに、四つ星という苗字は現在君一人だけだから、探すのはとても簡単だったよ」


 なるほど、そういうことか。星家の子孫として、これから八咫烏で任務に就くことは分かった。でも、僕はまだ十二歳。大人についていけるのか?そもそも、こんな組織に子供がいていいのか?いや、僕が星家の子孫だら.....。なぜこのタイミングなんだろう。その疑問を口にした。


 このタイミング理由は、世界情勢の悪化だった。もうすぐ戦争が始まるらしい。すでに中東で紛争は起きているし、ルミネスもフェルラン(旧モンゴル、旧中国)と仲が悪い。同盟国であるアルスティファナ(旧アメリカ)も世界に対して政治政策は滅茶苦茶だ。

 

 さらに、ルミネス国内は不法移民の問題で治安が悪化している。グローバル化が進むにつれて移民政策は加速し、文化や宗教の違いによるトラブルが深刻化していた。国民による移民反対デモも多発し、国内は危機的状況にある。

八咫烏は保守派として、これに対抗するために星家の早期集結と団結を急がなくてはならなかった。


 こんな僕が役に立てるのだろうか。不安を口にすると、三人は腰に掛けた剣を見せた。


 まさか......これは天星剣だ


 予想通り、彼らは鞘から天星剣を抜いて見せてくれた。


 触れてはいけない。気に入らない人物は一瞬で消されるからだ。だが、とても美しい。


 影星の天星剣は「氷結の天星剣」。水色で透き通り、夜空のように輝いている。諸星は「明灯の天星剣」。温かみのある紅葉色で、刃も光っている。赤星は「煌めきの天星剣」。赤と青の二色で輝いていた。


 なるほど、相手が暴力で攻撃してくるなら、それ以上の力で対抗するというのか。戦争は嫌だが、何もしなければやられる。星家として逃れることのできない使命があるんだ。


 三人は、僕に天星者になることを強く願っていた。僕の祖先が所持していたのは「虹の天星剣」。現在、南鳥島にあるが、問題があるという。そこには百三十年前にルミネス国が開発した、人工知能搭載のドラゴン型ロボットが住み着いている。百二十年前の第7次世界大戦の亡霊だ。ルミネス軍の作戦統合本部が撃破を試みたが、ことごとく返り討ちにされた。分析によれば、ドラゴンは天星クリスタルを装備しており、口から魔法を放つため、通常兵器では太刀打ちできないのだという。


 今後、このドラゴンを攻略し、僕を虹の天星者にしたいのだそうだ。まずは数年間の訓練を受け、その後は国内の治安維持任務に就く予定だという。


 僕はこの状況を受け入れた。だが、最後に家族のことが気になった。聞くと、中村家は養子である僕の面倒をもう見てられないとのことで、すでに養子解消の手続きが済んでいた。僕は四つ星蓮として、これから一人で生きていくことになった。


 三人は溜息をつき、僕を励ましてくれた。


 僕が江崎に対してあのような対応をとってしまったことが養子解消の理由だろう。だけど、それ以上に中村家にぞんざいに扱われていたのは確かだ。本当の家族って、どんな感じなんだろう。その疑問は解決できなかった。


 八咫烏所属の一日は、驚くことに家を与えられることで終わった。ルネツ基地から車で十五分の、森林に囲まれた和風の古民家。今日からそこで生活することになった。


 軍服に着替え、基地を出ると、黒いセダンが停まっていた。車の前に立っていたのは、同じ八咫烏の隊員だった。


 「四つ星様、本日から護衛をさせていただきます、菜雲(なぐも)と申します。これからよろしくお願いいたします」


 身長百八十センチ、威圧感のある体躯に無駄な動きはない。諸星や赤星に似た、厚い筋肉が軍服の下に潜んでいる

。黒髪は短く整えられ、風が吹いても乱れない。彼の存在は、言葉よりも沈黙で語っていた。護る者としての覚悟が、全身から滲み出ている。鋭い切れ長の目は常に周囲を警戒し、修羅場をくぐってきた過去を物語っていた。



その頃


 ルネツ基地の廊下は、いつもより少し静かだった。その静寂の中、影星、諸星、赤星の三人は、蓮についての話し合いを終え、言葉にできない重い空気を引きずっていた。


 「よかったんですか?四つ星に、私たちの目的を伝えなくて」


 赤星の問いかけは、廊下に反響する。その声には、不安と後悔がにじんでいた。


 「日本復活のことか?」


 影星の低い声が返る。その声は、落ち着いているように聞こえるが、どこか迷いを帯びていた。


 「そうだ、それです」


 赤星は強くうなずく。


 「別に、言わなくても、蓮ちゃんは気づいているんじゃない?」


 諸星の言葉は、いつもと同じ軽やかさだったが、その瞳の奥には、すべてを見通すような深い光が宿っていた。


 「虹のオーラですか.....。やはり、あの特徴的な思案には、私たちが本当に言いたいことまで、すべて読み取られているということですか。恐ろしい......」


 赤星の震える声に、影星はゆっくりと首を横に振る。


 「赤星、四つ星はまだ子供だ。虹のオーラといえども、すべてを読み解く力はまだない。それに、私たちは八咫烏として、その先の未来を語ったところで、この子はまだ理解できないと思ってしまった。言葉を選びすぎたのかもしれない」


 彼らの心には、八咫烏という存在の重さと、まだ幼い蓮にすべてを背負わせることへの葛藤があった。


 「時間ね...二人とも、急いで本部に戻るわよ。今度の星家ノ環(ほしけのわ)の打ち合わせに。その時に、蓮ちゃんに日本復活のことについても説明しましょう」


 諸星がそう言うと、三人は重い足取りで歩き出す。彼らが向かう先は、ただの建物ではない。それは、彼らの過去

現在、そして未来が交錯する場所。八咫烏本部。


 彼らがまだ知ることのない、運命の歯車が静かに回り始めていた。

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