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第60話 えっ?彼女だけの特別待遇!?

 一瞬、柴田家一同の視線が高橋奈津美に集中した。

中でも最も鋭い視線は、柴田正美から放たれていた。

嫉妬に歪んだその目は、高橋奈津美を貫かんばかりの勢いだ。

四方から注がれる視線を感じながらも、高橋奈津美は表情を崩さなかった。

しかし箸を握る手には、わずかに力が込められていた。

そっと中村浩の方へ顔を向け、美しい眉を寄せて問う。

「どうして私に料理を取ってくれたの?」

中村浩は唇端を上げ、かすかな優しさをたたえた表情で答えた。

「気が引けるなら、お返しに私にも取ってくれればいい」

高橋奈津美は一瞬考え込んだ。

(彼が取ってくれたから、私も取る……義理でいいのね)

「ん」

軽く頷くと、適当に魚料理を中村浩の皿に載せた。

その様子を見た柴田崇は目を丸くした。

「確か浩、魚嫌いだったよな?」

程よく響いた声に、食卓の一同が耳をそばだてる。

柴田家の者たちは嘲笑の眼差しで高橋奈津美を見た。

(浩くんは中村家のおじいさんの意向で、仕方なく義理を返しただけ)

(なのにこの女、機転を利かせるどころか逆に地雷を踏んだ)

(さあ、浩君の怒りが爆発するまで待つだけだ)

高橋奈津美も柴田崇の言葉を聞いていた。

魚は何気なく選んだもので、中村浩の好みなど知る由もない。

だが自分が取った以上、無理強いするわけにはいかない。

「食べられないなら、私に返して。別のを取るから」

中村浩の笑みが深くなる。

「食べられないなど、誰が言った?」

そう言うと、高橋奈津美が取った魚を難なく口に運んだ。

柴田家一同は目を見開き、信じられないという表情を浮かべた。

(まさか…あの魚嫌いの君少が…?)

(高橋奈津美の取ったものを平然と食べるだなんて…!)

食卓は水を打ったような静けさに包まれた。

柴田正美の顔からは血の気が引き、箸を持つ手が震えていた。

他の者は口を挟めなかったが、柴田崇は中村浩と親しい間柄だったため、眉を上げてからかった。

「浩、確か魚嫌いだったはずだよな?食卓に魚が出ると箸もつけなかったくせに、うちの奈津美ちゃんが取ったら平気で食べるなんて……何か特別な理由でも?」

「ああ」

中村浩は柴田崇に答えながら、視線は高橋奈津美から離さない。

「急に好きになった」

その言葉に、一瞬場が静まり返った。

柴田崇は不穏な空気を察し、二人を見比べた。

(この"好き"は魚のことか、それとも――)

だが周囲の目がある今、質問は控えた。

中村浩が視線を向けると、柴田崇は慌てて首を振った。

「なんでもない」

柴田正美はこのやり取りを食い入るように見つめ、箸を握る指先が白くなるほど力を込めていた。

(何年も想いを寄せてきたのに……浩兄さんが誰かに特別な態度を取るなんて)

(高橋奈津美だけが例外だなんて!)

魚を食べ終えた中村浩は、スーツの内ポケットから映画チケットを取り出し、高橋奈津美に差し出した。

「???」

高橋奈津美の頭には疑問符が浮かぶ。

「祖父がくれた。一緒に見に行けとのことだ」

柴田正美は感情が爆発しそうになり、顔が歪んだ。

(映画……私ですらまだ浩兄さんと行ったことがないのに)

高橋奈津美はチケットを見て首を横に振った。

「映画は気が進まない」

柴田正美の唇が不自然に引きつった。

(浩君を拒むなんて……罰が当たればいい)

柴田夏子も嘲笑の声を抑えた。

「身の程知らずにも程があるわ。浩さんが本気でデートしたいわけないのに」

柴田正美は柴田夏子の袖を引いた。

「そんなこと言わないで」

――だが口元は緩んだままだった。

柴田家一同は高橋奈津美が中村浩に恥をかかされる瞬間を待ちわびた。

しかし中村浩の次の言葉に、全員が目を見開いた。

「では、何が好きだ?」

その穏やかな口調に、一同は顔を見合わせた。

(君老爺の指示ならここまでしないはず……)

(だとすれば、これは――)

柴田正美は脇で拳を握りしめ、爪が掌に食い込んだ。

「浩お兄さん……!」

震える声は、完全に周囲の雑音に消されていた。

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