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第57話 威圧的な兄貴

驚きが冷めやらぬ中、柴田家の人々は次々と我に返った。

ちらちらと高橋奈津美を見ながら、小声で噂し合っている。

「見たか? あの動画で、高橋奈津美がたった数本の銀針で彼女の兄の出血を止めたんだぞ。まるでドラマみたいだった」

「でも以前は、高橋奈津美はどうしようもないダメ人間で、何の取り柄もないと噂されてたじゃないか。あんな高度な医療技術を持ってるなんて……まぐれ当たりだったんじゃないのか?」

「まぐれだとしても、ここまで出来るはずがないだろ? それに普通の人で、銀針を常に持ち歩いてるやつがいるか? 俺たちは高橋奈津美の実力をかなり見誤ってたんじゃないか……」

「はっ! 本当にすごい実力があるなら、とっくに自慢してるはずだ。今まで隠してるわけがない。まぐれに決まってる!」

それぞれが思いを巡らせる中、高橋奈津美を見る目線には以前のような軽蔑は減り、代わりに複雑な輝きが混じっていた。

柴田武はスマートフォンをしまい、高橋奈津美に手招きした。

「奈津美、こっちへ来い」

他の人たちとは違い、柴田武の高橋奈津美に対する声のトーンは明らかに柔らかくなっており、高橋奈津美は心が温かくなるのを感じた。

彼女は口角を上げながら歩み寄り、改めて柴田武に挨拶した。

「お兄ちゃん」

柴田武がうなずくと、今度は柴田夏子と柴田正美を見やり、再び目を険しくした。

「さっきまで、私が妹をかばっているとでも言いたげだったようだが……証拠を出した今、妹に謝罪する気はないのか?」

柴田正美はまさか事態がこんな展開になるとは思っていなかった。唇を軽く噛み、顔色は見るからに悪い。スカートの裾を握りしめた手からは、彼女の堪え難い心情が伝わってくる。

柴田夏子も顔を曇らせていたが、元来口に出さずにはいられない性格なので、この場でも遠慮なく本音を吐いた。

「武兄ちゃん……私たちだって兄さんのためを思ってのことです!それに高橋奈津美が兄さんを救ったなんて、事前に知る由もなかったじゃありませんか。今さら彼女に謝れだなんて、あまりにも理不尽です」

柴田武は首を傾げ、柴田夏子を刃物のような鋭い眼差しで見下ろした。

「どうやら、謝る気はないらしいな?」

柴田夏子に謝る気など毛頭ない。だが柴田武の放つ威圧感はあまりにも強烈で、喉まで出かかった言葉さえ絞り出せない。

幸い柴田武の恐ろしい視線は柴田夏子から離れ、柴田正美へと移った。

「お前はどうだ?謝るつもりはないのか?」

柴田正美は唇を強く噛みしめ、胸中に鬱憤を溜め込んだ。高橋奈津美になんて謝りたくない。しかし柴田武がこの家の経済を牛耳っている存在だと理解していた。祖父がどんなに自分を寵愛していようと、所詮自分は外部の人間だ。今は柴田武に逆らうわけにはいかない。

ゆっくりと高橋奈津美の前に進み出ると、柴田正美は頭を垂れ、憤りの表情を隠しながら小声で詫びた。

「高橋奈津美……ご、ごめんなさい」

高橋奈津美は柴田正美の表情をすべて見逃さず、軽く顎を上げた。

「受け入れない」

予想外の言葉に柴田正美は愕然として顔を上げた。柴田夏子がすぐさま飛び出し、柴田正美をかばうようにして言った。

「何で受け入れないんだ!?正美姉ちゃんが謝ってやるだけでもありがたいと思え!お前なんかに拒否権があるとでも?!」

高橋奈津美は唇端を引きつらせ、冷たい笑みを浮かべた。

「なぜ謝られたら受け入れなければいけない?それなら人を殺しても、軽く謝れば済むというのか?」

「あ、あなたは――」

柴田夏子は言葉に詰まり、青ざめた顔でようやく一言絞り出した。

「そんなこじつけ、通用しないわ!」

次の瞬間、「パン!」と乾いた音が響いた。柴田武の冷徹な声が続く。

「我が実の妹を『何者だ』と罵るとは……お前にそんな資格があると?」

柴田武はまだ体調が万全でなく、立ち上がった体もふらついていたが、その威圧感は衰えていなかった。たった一つの視線で周囲を圧倒する。

柴田夏子は反論しようとしたが、柴田武の冷たい眼差しと対峙した途端、怒りを押し殺すしかなかった。ただ頬を押さえて嗚咽を漏らすのみ。

柴田家の者たちはこの様子を見て、蟻の這い出る音も立てず、頭も上げられない。本家の兄妹はどちらも手強い存在だ。今後高橋奈津美をいじめるには、柴田武の怒りに耐えられるかどうか、よく考えなければなるまい。

柴田和美は娘が殴られたのを見て、柴田武に向かって叫んだ。

「武君!高橋奈津美が実の妹だからかばうのはわかるが、夏子だってあなたの従妹よ!言葉で諭せないのか?暴力に訴えるなんて……私たち年長者を眼中にないのか!」

「言葉で諭そうとしたが、聞く耳持たなかったな」

柴田武は柴田和美を冷ややかに見た。

「それに、母親である貴方が制止しないなら、この兄が代わりに躾けるまでだ」

柴田和美は柴田武の言葉に顔を歪め、腰に手を当てて冷然と言い返した。

「夏子の言い分は正しいわ。彼女たちに非はない。高橋奈津美があなたを救ったなんて知らなかったのだから、なぜ謝罪を強要するの?」

柴田武は柴田和美の強気な態度に、さらに表情を険しくした。口を開こうとしたその時、柴田崇の声が先に響いた。

「確かに奈津美ちゃんが兄貴を救ったことは知らなかっただろう。だが理由もなくここに押しかけ、奈津美ちゃんを罵倒し、『何者だ』などと言ったことに非はないと?しかもこの状況を招いたのは他ならぬ貴女だ。夏子は幼い頃から貴女に甘やかされ、欲しいものは何でも与えられてきた。だからこそわがまま放題の性格になった。外で問題を起こしては家族に尻拭いをさせ、家の中でも威張り散らす……我が柴田家の教育とはこの程度か?外に知れれば笑いものだ」

柴田武もゆっくりと目を上げ、柴田和美を鋭く睨みつけた。

「和美おばちゃん、これが柴田家の教育なのか?」

柴田和美の顔色はますます険しくなった。流れが悪いと見た柴田正美は涙を浮かべながら柴田武に訴えた。

「兄さん……本当に私たちが悪かったのです。もう怒らないでください。もし兄さんの体調が悪化したら、私たちは罪人になってしまいます……」

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