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第55話 彼女を追い出す者などいない

「あ、あんたは――」

柴田了は高橋奈津美を指さし、指先まで震えるほど激怒していた。

元々は高橋奈津美に逃げ道を与えるつもりだったのに、彼女がここまでつけあがるとは。せっかくの苦心が水の泡だ。

もっとも、これは高橋奈津美のためではなく、長男の面子を保つための配慮だった。

高橋奈津美がこうも反抗的な態度を取ると、かえって対応に困ってしまう。

だからこそ、普段以上に腹が立つのだ!

柴田正美は柴田了の激怒ぶりを見て、慌てて背中をさすった。

「おじい様、まず落ち着いてください。そんなに興奮したら体に障ります」

柴田夏子も高橋奈津美を非難した。

「武兄ちゃんの見舞いに行かないだけでなく、おじい様まで入院させようっていうの?」

柴田夏子も勢いに乗って言った。

「柴田家にお前の居場所はない。厄介者はさっさと出て行きなさい」

騒ぎを聞きつけた柴田家の他の者たちも同調した。

「崇がお前を連れ帰った時から、お前がまともじゃないのはわかってた。今になって本性を現したな?さっさと出て行け、警備員に引きずり出させる前に」

「野良娘は柴田家から出て行け!」

「出て行け!」

柴田家の人数は多い。

一同が怒鳴ると、耳をつんざくほどの音量で、高橋奈津美を追い出すまでやめない勢いだった。

一方、彼らに対峙する高橋奈津美はたった一人。頼れるものは何もない。

それでも、彼女の表情は微動だにせず、毅然とした態度を崩さなかった。

「もう一度言う。間違ったことはしていない。誰にも謝るつもりはない」

この言葉に、柴田家の人々はさらに激しい罵声を浴びせた。

皆が高橋奈津美を指さし、まるで極悪人のように糾弾する。

しかし、高橋奈津美は最初から何も悪いことをしていないのだ。

柴田家の人々がこぞって自分を追い出そうとする様子に、高橋奈津美はかすかに笑みを浮かべた。

彼らが知らないのは、実は高橋奈津美もここに留まりたいわけではないということだ。毎日罵られるのが楽しいわけがない。

もし崇兄ちゃんたちが真心から自分を気遣ってくれていなければ、とっくにいなくなっていただろう…

柴田家の人々は高橋奈津美を追い出す一心で、ますます言葉が荒くなっていった。

高橋奈津美の表情はさらに冷え込み、彼らを見る視線は人を凍りつかせるようだった。

両者が対峙する緊張感が高まる中、末娘・柴田愛の息子である滝男がこっそり裏口から抜け出した。

皆が高橋奈津美を追い出すことに夢中で、滝男の行動に気づく者はいない。

裏庭に駆け込んだ滝男は腕時計型端末を操作し、柴田崇に電話をかけた。

電話の向こうから、柴田崇の笑い声が聞こえた。

「滝男、今日は宿題ないのかい?どうして電話してきたの?」

しかし滝男の声は焦りに満ちていた。

「崇兄さん!高橋奈津美お姉ちゃんが、高橋奈津美お姉ちゃんが大変なことに!」

普段、母親からお兄たちに余計なことを話すなと厳しく言われていた。

だが、高橋奈津美が家族みんなに責められているのを見て、我慢できなかった。それに崇の兄さんはいつもおもちゃや限定版の模型を買ってくれる優しい人だ。母親にバレてお尻を叩かれるリスクを冒しても、兄さんに知らせようと思った。

病院で柴田武の付き添いをしていた柴田崇は、椅子から飛び上がるように立ち上がった。

「奈津美ちゃんが?何があったんだ?」

滝男は頭の中で言葉を整理し、事の顛末をすべて話した。

普段は温和な柴田崇の表情が一気に険しくなった。

「何ということを!私たちがいない間に、奈津美ちゃんをそんな目に合わせるとは!すぐに戻って、奈津美ちゃんを守ってやる!」

柴田崇が戻ってくると聞いて、滝男はほっとした。

「兄さん、急いで。おじい様が怒って、高橋奈津美お姉ちゃんを追い出してしまうかもしれないから」

「わかった。すぐに向かう。教えてくれてありがとう、滝男」

柴田崇は低い声でそう言うと、電話を切った。

柴田武に伝えようとしたが、先に質問された。

「今滝男の話で聞いたが、奈津美ちゃんに何かあったのか?」

柴田崇は冷たい表情で、柴田正美たち三人が高橋奈津美を責め、柴田了が謝罪を強要し、拒否すれば家から追い出すと脅したことを説明した。

「そんなことが?」柴田武の顔も曇り、威圧的なオーラを放った。「すぐに戻ろう。奈津美ちゃんを守りに行くんだ」

柴田崇は答えようとしたが、柴田武のギプスを見て心配になった。

「武兄ちゃん、その状態で大丈夫か?俺一人で戻ればいい。俺だけでも奈津美ちゃんは守れる」

しかし柴田武は首を振った。

「海外にいるならともかく、もう戻ってきた以上、俺も行く。奈津美ちゃんに、俺たちが彼女の強力な後ろ盾だと知らせるんだ!」

柴田崇はまだ柴田武の傷を気にしていた。

「でも――」

柴田武は言葉を遮り、威厳ある声で言った。

「しかしない。俺の傷より、奈津美ちゃんが一人でいじめられる方が問題だ」

柴田崇はそれ以上反論せず、うなずいた。

「わかった。看護師から車椅子を借りて、一緒に帰ろう」

柴田家では、どれだけ家族が騒いでも、高橋奈津美は微動だにしなかった。

やがて、家族も声がかすれ、静かになっていった。

そこへ柴田了の威厳ある声が再び響いた。

「高橋奈津美、もう一度聞く。それでも謝らないのか?」

高橋奈津美は顎を上げ、屈しない眼差しで答えた。

「間違ったことはしていない。なぜ謝る必要がある?」

「よかろう!」

柴田了の顔は怒りで青ざめていた。

「過ちを認めず、居直るような態度なら、荷物をまとめて柴田家から出て行け!この家には礼儀知らずの者など要らん!」

柴田武は見ていて、思わず笑みがこぼれた。

(ついに…)

(おじい様も高橋奈津美の無礼さに我慢ならなくなった!これで柴田家のお嬢様は私だけ。すべての寵愛は私のものだ!)

柴田夏子は得意満面で、隠そうともしなかった。

柴田和美は嘲笑うような表情を浮かべている。

他の柴田家の人々も、高橋奈津美を軽蔑の眼差しで見つめ、居づらくさせて自ら出て行かせようとしていた。

その時、玄関から轟くような冷徹な声が響いた。

「誰が奈津美ちゃんを追い出すと言った!?」

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