第51話 まさか!兄ちゃんが入院!?
柴田武はその言葉に、眉をひそめた。
「それは……聞き忘れてしまった」
柴田崇は呆れたようにため息をついた。
「じゃあ、感謝は後回しだな」
「ああ」柴田武は淡く頷いた。「連絡先は教えてもらった。退院してから改めて対応しよう」
柴田崇はそれを聞いて安心し、話題を変えた。
「先生はあと何日入院が必要だと言っていた?」
「回復次第だ」柴田武はさっき先生に言われたことを思い出しながら答えた。「早くて3、4日、長くて1週間だろう」
「そんなに?」柴田崇は舌打ちし、少し残念そうに言った。「じゃあ、奈津美ちゃんにすぐ会えないな」
そう言ってふと思いついたように、目を輝かせた。
「でも武兄ちゃんが帰れなくても、奈津美ちゃんをここに呼べばいいじゃないか!ちょうど怪我の見舞いも兼ねて」
そう言うと、さっそく携帯を取り出し、高橋奈津美に電話をかけようとした。
しかし、番号を押す前に柴田武に止められた。
「やめておけ。奈津美ちゃんに怪我のことは知らせないでくれ。ただの軽傷で、数日もすれば治る。大げさにしたら、奈津美ちゃんに余計な心配をかけるだけだ」
柴田崇はよく考えてみると、確かにその通りだった。
「そうだな。じゃあ電話はやめておく。武兄ちゃんが退院してから会えばいい」
柴田武は柴田崇がうっかり口を滑らせないよう、再度念を押した。
「いいか、絶対に奈津美ちゃんに怪我のことは言うな。余計な心配をさせてしまう」
「わかってるよ」柴田崇は胸を叩いて約束した。「武兄ちゃんの秘密は絶対に守るから」
十数分後。
柴田武は薬の作用で眠りについた。
柴田崇は隙を見て高橋奈津美に電話をかけた。
「奈津美ちゃん、さっき武兄ちゃんから連絡があった。会社で急な問題が発生して、自分で対応しなければならなくなったらしい。すぐには会えなくなったが、処理が終わったら改めて会うそうだ」
高橋奈津美はもうすぐ柴田家に到着するところだった。少しがっかりしたが、特に何も言わなかった。
「わかったわ。後で会えばいいの。武兄ちゃんには仕事の合間にちゃんと休むように伝えてね。無理をしないで」
柴田崇は笑った。
「ああ、伝えておく。お前の心遣いがあれば、きっと仕事もはかどって早く帰ってくるだろう」
落ち込んでいた高橋奈津美も、兄の言葉に思わず笑みを浮かべた。
「うん、武兄ちゃんが帰ってくるのを待ってる」
翌朝。
高橋奈津美は身支度を整え、朝食を食べに階下へ降りた。
階段を下りた途端、騒がしい声が耳に入った。
目を凝らすと、柴田夏子と柴田正美が長男家のリビングに来ていた。
柴田家は広大な邸宅で、複数の別棟から成り立っている。
高橋奈津美たち長男は第一別棟、柴田夏子たち次男は第二別棟、三男は第三別棟…という具合に住み分けていた。
普段、高橋奈津美はほとんど外出せず、柴田夏子や柴田正美とは互いに干渉しない関係だった。
今日わざわざ訪ねてきた理由が気になった。
考えていると、柴田夏子の甲高い声が響いた。
「あら!誰かと思えば。野良娘がようやく起きてきたのね!やっぱり柴田家で育ってないから冷血で無神経なのよ。大事なことが起きてるのに、のんきに寝てたなんて、彼女以外にいないわ!」
柴田正美は目を赤く腫らし、憔悴した様子で柴田夏子の袖を引いた。
「いい加減にしなよ、夏子。そんな言い方はひどいわ」
「ひどい?ひどいのは彼女の方よ!」柴田夏子はますます興奮した。
「正美姉ちゃんは優しすぎるの。こんな時でも彼女をかばうなんて。他の人だったら、とっくに罵倒してるわ!」
高橋奈津美はしばらく聞き流していたが、要点がまったく伝わってこないので、食事を始めることにした。
柴田夏子は高橋奈津美の冷静な態度にますます腹を立て、彼女が平然と朝食を食べ始めたのを見て怒りが爆発した。
「高橋奈津美!私たちがこんなに話してるのに、少しも反応がないなんて!あなたには良心がないの?犬にでも食われたのかしら?平気で朝食なんて食べて…!」
高橋奈津美:「……」
確かにたくさん話していたが、肝心なことが一言も出てこなかった。何を言いたいのかさっぱりわからない。
結局無視して、小籠包に箸を伸ばした。
次の小籠包を取ろうとした時、突然柴田夏子がお皿を引き寄せ、耳元で叫んだ。
「高橋奈津美!武兄ちゃんが交通事故で入院して、起き上がれないのよ!正美姉ちゃんは心配で一晩中眠れなかったわ!それなのにあなたは何の心配もせず、のんきに朝食?食べられるなんて信じられない!あなたは本当に冷血で恩知らずね。二哥があなたを連れ戻すんじゃなかった!」
長々と言われて、ようやく高橋奈津美は要点を理解した。
「何ですって?」
椅子から飛び上がり、柴田夏子を鋭く見つめた。
「武兄ちゃんが入院したって?」
これは本当に知らなかった。
昨日兄からは「会社の用事で帰れない」と言われていた。どうして突然事故に?
まだ会ったことのない武兄ちゃんだが、血のつながりを感じ、胸が苦しくなった。頭の中が混乱する。
柴田夏子は高橋奈津美の様子を見て、冷笑を浮かべた。
「武兄ちゃんの事故は家中知ってるわ。知らないふりなんて、誰に向けての演技?その作り物の心配そうな顔、見てると吐き気がするわ!」




