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第50話  まさかの実兄

 鍼を打ち終えてから――

1秒。

2秒。

5秒。

わずか5秒で、青年の出血は奇跡的に止まった。

周囲の人々は目を見張り、やがて盛大な拍手を送った。

「お嬢さん、その腕前はただものじゃない!」

「名医の生まれ変わりと言っても過言じゃない!本当に素晴らしい!」

「瞬きする間に出血を止めるなんて…こんな奇跡は初めて見た。今日はいい勉強になった」

高橋奈津美は周囲の賛辞に微動だにせず、淡々と尋ねた。

「救急車を呼んだのは何時ですか?」

すぐに誰かが答えた。

「10分前です」

高橋奈津美は救急センターからの距離を計算した。

「ならもうすぐ到着しますね」

銀針で止血はしたが、青年の傷は重く、専門的な治療が必要だ。さもなければ命は危うい。

とはいえ、最初よりははるかに状態は安定している。

救急車が到着するまで持ちこたえ、病院に運ばれれば問題ないだろう。

そう考えていると、「ピーポーピーポー」というサイレンの音が近づいてきた。

「救急車が来た!やっとだ!」

「あの名医のおかげで止血できたから、この青年も助かるだろう」

「どうか無事でいてほしい」

医師と看護師が担架を運んでくる中、高橋奈津美はまだ気がかりだった。

自分の車で救急センターまで同行することにした。

止血は済んでいるが、鍼を打ったのは自分だ。治療中に何かあっても困る。

15分後、青年は手術室に運び込まれ、高橋奈津美は外で待った。

手術は成功し、青年は無事に危機を脱した。高橋奈津美もほっと一息ついた。

ところが帰ろうとすると、看護師から「青年が意識を取り戻し、止血してくれた方に是非お礼を言いたいと」と伝えられた。

高橋奈津美は少しの時間ならと、看護師に案内され青年の病室へ向かった。

病室では、青年が病院のガウンを着て椅子に寄りかかっていた。看護師が小声で伝える。

「すいません、お探しの方をお連れしました」

青年はパッと目を開き、こちらを見た。

その目は無限の銀河を宿しているようで、驚くほど優しい眼差しだった。

声もまた心地よく響いた。

「お嬢さん、あなたが私の命の恩人ですか?」

泉のせせらぎのような穏やかな声。

高橋奈津美は唇を軽く噛み、平静に答えた。

「恩人と言うほどではありません。たまたま通りかかり、止血の手当てをしただけです」

青年は高橋奈津美の謙虚な態度に、ますます好感を抱いた。

「でも助けてもらった以上、何かお礼をしたい。小切手を渡すので、金額はあなたが決めてください。私からの感謝の印です」

高橋奈津美は即座に首を振った。

「いいえ、本当に些細なことです。お礼は結構です」

青年は自分の行動が失礼だったと気づき、慌てて説明した。

「すみません、侮辱するつもりはなかったんです。本当に感謝したいのですが、初対面であなたの好みもわからず…」

「わかっています」高橋奈津美は青年の誠意ある眼差しをしっかり受け止めた。

「ですが、本当に必要ないのです」

青年がさらに言おうとした時、テーブルの上の電話が鳴った。

見ると、すぐに受話器を取った。

「まだ帰ってこないのか?奈津美ちゃんはもうすぐ家に着くぞ!早く会いたくないのか?」

青年は眉間を押さえ、ため息混じりに答えた。

「帰りたくても帰れない。途中で交通事故に遭い、今は病院で療養中だ…」

電話の向こうの声は突然高くなった。

「何?交通事故に遭っただって?どこの病院だ、今すぐ向かう」

「第一病院だ」青年は病院名を伝えた。

「わかった、今すぐ行くぞ」電話の相手は慌ただしくそう言うと、通話を切った。

高橋奈津美は彼の通話が終わるのを待ち、時計を確認した。時間も遅くなってきたので、ベッドの青年に告げた。

「あのう、無事そうなので私は帰ります。家族が食事を待っていますから。傷口を濡らさないよう、ゆっくり休んでください」

青年は温かい笑みを浮かべた。

「家族がすぐ来ますので、もう少し待ってくれませんか?直接お礼を言わせたいのですが」

「結構です」高橋奈津美はまたも首を振った。「家族に夕食までに帰ると約束しましたので。お礼はまたの機会で」

実際、高橋奈津美は感謝など求めていなかった。

今何より急ぎなのは、武兄ちゃんに会うことだ。

初対面の大切な瞬間を逃したくなかった。

青年はそれ以上強くは留めなかった。

「では、家族との食事を邪魔しないよう帰ってください。ただ、連絡先だけでも教えてもらえませんか?後日改めてお礼がしたいので」

高橋奈津美は連絡先を教えても問題ないと考え、頷いた。

「わかりました」

番号を教えると、高橋奈津美は病室を後にした。

彼女が去ってすぐ、ポニーテールの男性が慌ただしく病室に駆け込んだ。

それは他ならぬ、高橋奈津美の二番目の兄・柴田崇だった。

柴田崇は病床で顔色の悪い兄・柴田武を見て、心配そうに尋ねた。

「武兄ちゃん、普段から慎重なあなたがどうして事故に?一体何があったんだ?」

柴田武は淡々と答えた。

「タイヤが滑った上、対向車がカーブで追い越しをかけてきて、避けきれなかった」

「それは……」

柴田崇は兄の不運に言葉を失い、しばらく黙っていた。

やがて再び口を開いた。

「今の体調は?先生の診断は?全身を強打したんだ、後遺症とか大丈夫なのか?」

柴田武は軽く首を振った。

「大したことない。幸い、事故直後に先生の心得のあるお嬢さんが止血してくれたおかげだ。さもなければ、お前とこうして話すこともできなかっただろう」

「先生であるお嬢さんが助けてくれた?」

柴田崇は一瞬驚き、すぐに質問した。

「名前は?教えてくれれば、探してきちんとお礼をさせてもらう」


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