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第45話 思わず抱きしめた瞬間

 この奈津美名医の姿形は、どうしてこんなにも…こんなにも…

中村正治の脳裏に、真実がかすかに閃いたかのようだった。

しかしその感覚は一瞬で消え去ってしまった。

「はぁ…」

中村正治は深くため息をついた。

(まあいい)

(思い出せないなら無理に考えても仕方ない)

(考えすぎると頭が痛くなるだけだ)

高橋奈津美は中村浩が紙と筆を持ってくるのを待ち、彼に従って薬局へ向かった。

薬局に着くと、中村浩はタイミングよく紙と筆を差し出した。

「奈津美名医、あちらに机と椅子がございます。座ってお書きください」

「ええ」

高橋奈津美は淡々と受け答え、紙と筆を受け取ると近くの椅子に座り、処方箋を書き始めた。

中村浩は祖父の治療にどのような薬が必要なのか知りたかったため、机の横に立ち、奈津美名医が筆を運ぶのを見守った。

しかし、ふと視線を落とした瞬間、彼の瞳は急に縮まり、波紋のような驚きが広がった。

奈津美名医の左手首の内側に、薄茶色の傷痕があるのを見つけたからだ。

傷はすでに薄くなっていたが、かつて負った傷の輪郭がかすかに残っていた。

ただ、単に傷があるだけなら、中村浩はここまで驚かなかっただろう。

彼を震撼させたのは、その傷の位置が、二日前に高橋奈津美が泥棒を捕まえた時に負った傷と全く同じだったことだ。

あの時、高橋奈津美の傷を自ら手当てしたため、彼は鮮明に覚えていた。

それが今…奈津美名医の腕に同じ傷があるとは!

さらに、自分も祖父も奈津美名医に見覚えを感じたことを合わせ考えると…

中村浩の瞳は深みを増し、高橋奈津美を見つめる目に特別な輝きが宿った。その視線は驚くほど鋭く光っていた。

高橋奈津美はすぐに自分に向けられた強い視線に気づき、無意識に顔を上げた。

すると、男の熱を帯びた深い瞳とまっすぐに視線が合った。

なぜか、彼に見つめられると高橋奈津美は妙に落ち着かない気分になった。

気持ちを落ち着かせ、さりげなく手で顔を触り、マスクの存在を確認してほっと一息ついた。

そして手を下ろすと、冷静に問いかけた。

「中村浩さん、どうしてそんなに見つめるのです?私の顔に何かついていますか?」

中村浩の唇が一瞬上がったが、すぐに元に戻った。

「いえ、ただ純粋に、奈津美名医のマスクの下の顔がどんなものか気になっただけです」

以前の奈津美名医に対する尊敬や遠慮とは打って変わり、彼の口調と発言はどこか大胆になっていた。

その変化に気づいた高橋奈津美は、淡い眉をひそめながら処方箋を書き続け、冷ややかに言った。

「私の素顔に興味を持つ人は多いですが、面と向かってそう言う人は中村浩さんが初めてです。失礼だとは思いませんか?」

中村浩は眉を上げ、かすかに笑みを浮かべた。

「ほう?私は初めてですか。それならなおさら光栄です」

高橋奈津美は思わず中村浩を一瞥した。

(なぜか…中村浩が急に厚かましくなったような?)

(気のせいか?)

理由がわからず、高橋奈津美は考えるのをやめ、中村浩の言葉にも返事をせず、処方箋の執筆に集中した。

彼女が没頭している間、気づかないうちに黒い小さな影が彼女の手の甲を這い始めていた。

中村浩はそれに気づき、警告しようとした瞬間、鋭い叫び声が響いた。

「ゴキブリ!!」

次の瞬間、彼は反応する間もなく、温もりある柔らかな身体が胸に飛び込んできた。

同時に、極めて懐かしい薬草の香りが鼻腔を満たした。

この香りは特別で、心地よく…

そして、あまりにも記憶に深く刻まれたものだった。

中村浩はその薬草の香りが鼻腔に広がるのを静かに感じ取り、ゆっくりと口元を緩めて満足げな笑みを浮かべた。そして、恐怖で自分の胸に必死にしがみつく少女を見て、その笑みはさらに深くなった。長い腕を伸ばして優しく彼女を抱き寄せ、背中を撫でるように軽く叩いた。

「私がいる。怖がることはない」

高橋奈津美は男の低く響く声を聞き、濃厚な男性の香りに包まれたその胸に、思わず息をのんだ。

そして、胸の中で鼓動が乱れ始めた。

「ドクン、ドクン――」

ますます大きく、激しくなる心音。まるで太鼓を打つようで、まったく制御できない。

高橋奈津美はしばらくの間、男の腕から離れることを忘れ、そのまま抱かれていた。

二人が静かに寄り添う空間には、どこか甘い空気が流れていた。

ドアの外。

中村正治は手を背中に回し、薬局に向かいながら心の中で考えていた。

(こんなに時間が経つのに、奈津美名医と浩がまだ薬局から出てこないとは…何か問題でもあったのか?)

(この老いぼれに手伝えることがあるか、見に行かねば)

そう考えているうちに、すでに薬局の前に立っていた。

ドアは完全に閉まっておらず、軽く押すと開いた。

しかし、ドアが半分開いた時、目の前に広がった光景に、彼は目を見開き、口をぽかんと開けた。

(これは…)

(我が家の浩が奈津美名医と抱き合っているだと!?)

(この離れがたい様子は、久しぶりに再会した愛し合う鳥のようじゃないか!)

この光景を見て、中村正治はかつて中村浩が柴田家の娘との婚約を断った時の、言葉を濁すような態度を思い出した。

(あの時はわからなかったが、今ならわかる。この子はすでに心に決める相手がいたのだ!)

(道理で、柴田家のあの美しい娘をあんなにはっきり断ったわけだ)

(ああ…)

(早く知っていれば、わしは無理に高橋奈津美の娘と孫を結びつけようとはしなかったものを)

今、孫と高橋奈津美の娘にはまだ婚約があるというのに、奈津美名医とこんなことに…

中村浩と高橋奈津美の関係がどうであれ、中村家と柴田家には昔からの付き合いがある。このまま放っておけば、孫と奈津美名医の関係が知れ渡り、両家の関係にひびが入るかもしれない。何とか穏便にこの件を収める方法を考えねば!

中村正治は考えるほどに、眉のしわを深くした。

しかし結局、中の二人を邪魔することはせず、そっとドアを閉め、静かにその場を離れた。

中村正治が去ってしばらくして、薬局で抱き合っていた二人も離れた。

高橋奈津美はその場に立ち、ついさっきの出来事を思い返しながら、絶世の美しさを誇る小さな顔に、桃のような赤みが差した。木の枝にぶら下がった桃の実のように、摘み取りたくなるほど魅力的だった。

しかし、その美しい表情はすべてマスクに隠され、中村浩の目に触れることはなかった。

気持ちを落ち着かせ、高橋奈津美は中村浩を見上げ、すでに幾分冷静になった声で言った。

「失礼しました…私は小さい頃から、ゴキブリのような黒い虫が大の苦手で…まさか手の上を這うとは思わず、驚いて飛びついてしまい…本当に申し訳ありません」

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