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第4話 では、婚約は解消しましょう

 中村浩はまさにそのつもりだったので、即座に承諾した。

「じゃあ、婚約は解消しよう」

彼の答えに、柴田崇は特に驚かなかった。

「中村の意見には賛成だけど、妹と中村の婚約は両家の長老が決めたことだ。私に言われても困るし、何よりまだ妹本人の意思を確認してないだろう…」

そう言いかけて、柴田崇は言葉を切り、ふと顔を上げて高橋奈津美の方を向いた。

傍らの中村浩もそれに倣い、漆黒の瞳を高橋奈津美へと転じる。

その時の高橋奈津美は、オレンジ味のロリポップを口に入れたばかりだった。二人の視線を感じ、彼女はくちびるからロリポップを取り出すと、きらめく星のような大きな目をぱちくりさせながら尋ねた。

「どうした?」

柴田崇は彼女を見つめ、少し興味深そうな声で尋ねた。

「浩さんが、婚約を解消したいと言ってるんだ。お前はどう思う?」

「婚約解消? 別に、どっちでもいいよ」

高橋奈津美は淡々とした口調で答え、そう言い終わると、またロリポップを口に戻し、美味しそうに舐め始めた。まるでその件を全く気に留めていないかのような態度だった。

中村浩は高橋奈津美の無関心さを見て取った。それどころか、彼女にとってロリポップへの興味は、婚約解消のことよりもずっと大きいようだ……

そのことに気づくと、中村浩は細い目をさらに細め、瞳の奥に微妙な不満の色を浮かべた。

しかし、この不快感がどこから来るのか、彼自身も理解できなかった。

中村浩は表情一つ変えず、この漠然とした感情を押し隠すと、視線を対面に座る柴田崇に向けた。

「私を助けたあの女の子を、もう一度この辺りで探してくれないか」

「はいはい、探します探します」

柴田崇はそう答えてから、突然何かに気づいたように頭を叩き、高橋奈津美の方へ振り返った。

「そういえば奈津美ちゃんよ、お前さっきこの辺りにいたよな? 何か変わった女の子を見かけなかったか?」

高橋奈津美は長いまつげをぱちくりさせ、ロリポップを咥える動作を一瞬止めた。そして、顔色一つ変えず平然と嘘をついた。

「いないよ」

その言葉を聞き、中村浩は高橋奈津美を見つめる深い瞳に、思わず探るような色を浮かべた。

考えてみれば、自分を助けたあの少女の声はとても若く、20歳に満たない印象だった。目の前の高橋奈津美と状況が少し重なる部分もある。

しかし、彼を助けた人物が高橋奈津美である可能性は低い。

なぜなら以前から、彼は周囲から高橋奈津美に関する噂を数多く耳にしていたからだ。

詳しく調べたわけではないが、それによって知ったのは――

柴田家の外で育った令嬢は無学無能で、成績は驚くほど悪く、全ての科目で零点を取るほどだとか……

おそらく、彼女にはこの世に並ぶ者のない美貌以外、取り柄などないのだろう。

一方、自分を助けたあの少女は、銀針で正確に麻穴を突き、彼の身動きを封じつつ、難なく弾丸を取り出すことができた。

ここまで高度な医術は、学もなく能もない高橋奈津美ごときに扱える代物ではない。

中村浩は再び視線をそらせ、クッションにもたれかかって目を閉じた。

「少し休む」

30分後、柴田崇は中村浩を無事に中村家まで送り届けると、高橋奈津美を連れて柴田家へと戻った。

ヘリコプターはゆっくりと高度を下げ、見渡す限りの広大なヘリポートに着陸した。

高橋奈津美は柴田崇に続いて機体を降りると、間もなくして延長仕様の限定シルバーベントレーが静かに彼らの前に停車する。

車に乗り込んだ二人を乗せ、銀色のベントレーは果てしなく広がる芝生の庭園を抜け、重厚な池泉回遊式庭園を過ぎると、最終的に豪華絢爛な山荘の正面ゲートへと到着した。

山荘の両脇には広大な乗馬場が広がっており、手入れの行き届いた芝生の上を馬たちが楽しげに駆け回っている。その規模たるや、一見して計り知れないほどだ。

少し離れた場所にはいくつかの噴水が設けられており、これもまた山荘の見所の一つとなっている。

降り注ぐ陽光を受け、噴き上げる水柱はきらめく水滴を散らし、まるで無数の真珠を撒き散らしたかのような美しい光景を作り出していた。

高橋奈津美は周りの景色を眺めながら、透き通った瞳に驚嘆と複雑な感情を浮かべた。

「私の記憶が確かなら、養父母からは『あなたの実家は山奥に住んでいて、生活は苦しい』と聞かされていたけど…」

確かに、崇兄ちゃんがヘリコプターで迎えに来た時点で、実家が普通ではないことは察していた。

だが、眼前に広がる光景は、彼女の想像をはるかに超えていた。

柴田崇は高橋奈津美の肩を抱くようにして、前へと進ませた。

「俺たち確かに山に住んでるだろ? ここが山じゃないってでも言うのか?」

高橋奈津美は思わず頬を痙攣させた。

確かに、その指摘には反論の余地がなかった…

ふと視線を上げると、遠くの山肌には真っ赤なサクランボがたわわに実っている。彼女は興味深そうに尋ねた。

「あそこにたくさんサクランボがなってるけど、誰かが果樹園として借りてるの?」

柴田崇は彼女の視線の先を見やった。

「いや、あれは俺たちが自家用に植えてるんだ。無農薬で、完全なオーガニックさ。安心して食べられるよ」

高橋奈津美は次にリンゴが植わっている山の方へ目を移した。

「あそこのリンゴも?これも自家栽培?」

柴田崇がうなずく。「ああ」

高橋奈津美はさらに別の場所を指さした。

「じゃあ、あっちは?」

「それも俺たちのもの」

高橋奈津美は言葉を失った。どうやらこの山全体が、彼らの所有地らしい。

話しながら、高橋奈津美は柴田崇に連れられて荘園の中へと入っていく。

荘園外の風景だけで十分衝撃を受けたと思っていたが、内部はさらに別世界が広がっていた。

中へ進むと、目の前に現れたのは美しいガラスの回廊だった。

ガラスの向こう側では、数多くの珍しい魚や高価な珊瑚の造形が飼育・展示されており、その美しさは現実離れしているほどだった。

水族館のようなガラス回廊を抜けると、今度は数え切れないほどの有名絵画が集められた空間が広がっている。

まるで美術館に迷い込んだかのようで、一点一点が唯一無二の、極めて高い収集価値を持つ芸術品ばかりだった。

ここまで見て、高橋奈津美は自分の実家についてさらに理解を深めた。

そして崇兄ちゃんの方を見て、確認するように尋ねた。

「崇兄ちゃん、私たちの家って、もしかして東京四大財閥の一つ、『柴田家』なの?」

前に崇兄ちゃんが自己紹介で「柴田」という姓を名乗った時、彼女はただ珍しい名字だと思い、四大財閥の柴田家と結びつけて考えなかった。

しかし、ヘリコプターや山荘に入ってから目にした光景を通して、

彼女は自分の実家が四大財閥の柴田家である可能性に気付いたのだった。

柴田崇は笑みを浮かべた。「そうだよ、どうした?驚いたか?」

予測はしていたものの、柴田崇から直接そう認められた時、高橋奈津美の瞳にはさざ波のような動揺が広がった。

2秒後、ようやく彼女はその湧き上がる感情を抑え込んだ。

「ちょっとだけね……」

「ははは──」

柴田崇は彼女の可愛らしい反応に笑い出した。

「せっかく話題に出したから、家の事情を話しておくよ。両親は数年前、海外で商談中に飛行機事故に遭い、他界した。俺の他に、お前には三人の兄がいる」

「それから、俺たちは長男だ。長男の他に、叔父が二人と叔母が一人いる。祖父も健在だ。今日は他の兄たちは仕事で不在だが、祖父たちはいる。ただ祖父は……」

ここまでは普通に話していたが、祖父の話題になると明らかに表情が曇った。

高橋奈津美はその変化に気づき、思わず尋ねた。

「おじいちゃんはどうかしたの?」

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