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第33話  高橋奈津美の婚約者が奈津美を迎えに来たの

 しかし考えてみれば、彼女たちは柴田崇を長年追いかけているが、妹がいるなんて聞いたことがない。

ファンたちは顔を見合わせ、互いの目に困惑の色を浮かべた。

「柴田崇に妹なんていたっけ?」

「私だって知らないわ!今まで妹の話なんて一度も聞いたことないし、従妹とかじゃない?」

「あああ──従妹でもいいわ!さっき嘲笑わなければ、仲良くなって一緒に入れたかもしれないのに!」

ファンたちは一様に後悔の表情を浮かべた。

「本当……聞かないで、後悔でいっぱいよ……」

高橋奈津美はファンたちの心中を知らない。

今や彼女はスタッフに案内され、阿部遥と共に柴田崇の楽屋前に立っていた。

阿部遥は終始ぼんやりとした状態だった。

楽屋のドアを見て、ようやく現実感が湧いてきた。

ゴクリと唾を飲み込み、高橋奈津美を見た。

「奈津美、奈津美は……本当に柴田崇の妹なの?」

高橋奈津美は軽く頷いた。「ええ、実の妹よ」

「ひっ──」

阿部遥は息を呑んだ。

「私が夢見てると思ったのも無理ないわよね……だって……こんなことありえないと思っちゃう……」

「気にしないわ」高橋奈津美は阿部遥の言葉を気にしていなかった。

阿部遥がまた話そうとした時、「カチャッ」とドアが開く音がした。

ポニーテールの整った顔立ちの男性が楽屋から顔を出した。

高橋奈津美を見つけると、鋭い顔の輪郭が一気に柔らかくなり、ファンが「最も魅惑的」と評する目も優しさに満ちた。

「奈津美ちゃん、どうしてコンサートに来るのに連絡くれなかったんだ?VIP席を用意できるのに」

高橋奈津美は内心でたまらない恥ずかしさを感じた。

兄がこのコンサートの主催者だなんて知らなかったのだ。

どうして事前に連絡できようか……

こんなことになるなら、もっと兄の職業を詳しく聞いておくべきだった。

だが今更言っても仕方ない。

結局、高橋奈津美はただ微笑んだ。

「今回はいいわ。次回また」

柴田崇は妹の気持ちを見抜いていたが、あえて突っ込まなかった。

妹に笑いかけ、阿部遥に目を移した。

「君の友達か?」

高橋奈津美が頷いた。

「ええ、阿部遥よ。崇兄ちゃんのファンなの」

まさか妹の友人が自分のファンだとは。柴田崇は面白そうに眉を上げた。

「阿部さん、こんにちは」

「わ、わ、推し……こ、こんにちは」

阿部遥は初めて推しと直接話し、緊張でろれつが回らない。

良い印象を残したかったが、結局吃りながらしか話せなかった。

柴田崇は彼女の緊張を見て、優しく微笑んだ。

「奈津美ちゃんの友達なら、つまり俺の友達も同然だ。お兄ちゃんと思ってくれて構わない。緊張しなくていい」

「は、はいっ!」

阿部遥は幸せすぎて倒れそうだった。

長年追いかけてきた推しと直接話せる日が来るなんて……

信じられないほど幸せで、泡が出そうだった。

柴田崇は視線を戻し、何か思いついたように高橋奈津美を見た。

「奈津美ちゃん、この子が俺のファンだって?」

高橋奈津美が頷くと、柴田崇は少し考え、マネージャーに手を振った。

「俺の写真集と限定アルバム、好きなだけ選ばせてあげて」

マネージャーはすぐに応じた。「かしこまりました」

そして阿部遥に「こちらへ」と案内した。

限定アルバムと写真集?

阿部遥は目を見開き、信じられないという表情で親友を見た。

まさか……自分が手にできるなんて?

高橋奈津美は彼女の気持ちを察し、軽く腕を押した。

「崇兄ちゃんがくれたんだから、受け取りなさい」

許可を得た阿部遥は嬉々としてマネージャーについて行き、念願の品々を手にした。

全てを抱え込むと、阿部遥は甘えたように親友の腕にすがりついた。

「奈津美、私前世で銀河系を救ったに違いないわ!奈津美のような親友がいて……奈津美がいなかったら、推しの写真集もアルバムも手に入らなかったもの。ううっ──さっきの変な発言、全部忘れてね」

阿部遥は、高橋奈津美を「妄想症」呼ばわりし、脳外科に連れて行こうとした自分の言葉を思い出し、過去の自分を殴りたくなった。

親友はただ控えめなだけで、自分こそが世間知らずだったのだ。

高橋奈津美は阿部遥の困惑を見て、優しく腕を叩いた。

「気にしないって言ったでしょう?私も全然気にしてないわ」

するとまた阿部遥に抱きつかれた。

「ううっ──奈津美、あなたは世界一の親友よ。唯一無二の!」

高橋奈津美は静かに微笑み、返事はしなかった。

彼女は元々無口な性格だ。

だが、こんな騒がしい友人がいても悪くないと思った。

柴田崇は二人のやり取りを見て、時計に目をやると突然顔をしかめた。

「しまった!次のレッドカーペットに急がなきゃ。準備しなくては」

高橋奈津美は気遣った。「じゃあ兄ちゃんはお忙しいでしょうから、私たちは先に」

「ダメだ。外は記者だらけだ。二人で帰るのも危ない」

柴田崇は歩き回り、どうするか考えていた。

高橋奈津美が「大丈夫」と言おうとした時、柴田崇は突然電話を取り出した。

「浩、今南華街で打ち合わせだったよね?」

電話の向こうから、中村浩の低く響く声が返ってきた。

「ああ」

「良かった」柴田崇は妹を託せる相手を見つけ、ほっとした。

「終わってるなら、二人を迎えに来てくれないか?」

「ちょうど終わったところだ」

中村浩はこうした役回りが好きではなかったが、友人の頼みは断れなかった。

「場所を送ってくれ。今向かう」

十数分後――

道端で待つ高橋奈津美と阿部遥の前に、限定版マイバッハがゆっくりと停車した。

窓が下りると、神々をも嫉妬させるほどの美貌の男性の顔が現れた。

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