第24話 高橋奈津美のハチャメチャ大作戦
中村浩は司会者の視線を受け、一瞬呆然とした。何とも言えない不吉な予感が胸をよぎる。最初に永井和男に投げかけられた質問を聞いた時、彼は内心ほっとしていた。
というのも、今回の診療権を落とすため、彼は陰で十分な準備を重ねてきたのだ。奈津美名医がこれまでに出す質問の多くが医学関連だと知り、この期間ずっと医学書や医療資料を読み漁ってきた。全ては奈津美名医の質問に答えられるようにするためだった。
だが――
なぜ司会者は突然そんな奇妙な目で自分を見るのだ?
この瞬間、常に全てを計算尽くしている中村浩でさえ、内心不安を覚えずにはいられなかった。
隣の柴田崇もその異変に気づき、肘で中村浩を軽く突いて小声で尋ねた。
「浩、なんだか司会者の中村を見る目が変じゃないか?」
中村浩は首を振った。「私も感じた。だが理由はまだわからない」
「まさか奈津美名医が中村に変な質問をするつもりなのか?」柴田崇はそう言いながら、自分自身のことも心配し始めた。「ところで、奈津美名医が俺にどんな質問をするのかも気になるな。答えられなくて柴田家の顔を潰すんじゃないかと心配だ」
中村浩は薄い唇を軽く噛んだ。
「今更心配しても仕方ない。気楽に構えるしかない」
柴田崇の表情は明らかに落ち込んだ。
「そうだな…でもやっぱり奈津美名医の診療権を落としたい。祖父の足は年々悪化している…奈津美名医に診てもらえたらどんなに良いか」
横に座る高橋奈津美はその言葉を聞き、思わず柴田崇を見やった。以前祖父と激しく口論した兄ではあったが、実はこんなにも孝行心に厚い人物だったのだ。彼が恐れていたのは賭けに負けることではなく、奈津美名医の診療権を逃し、祖父を治療できないことだった…。
高橋奈津美は膝の上で指先を軽く叩き、目に思索の色を浮かべた。
客席では、それぞれが異なる表情を浮かべていた。
程なくして、司会者の声が再び会場に響き渡った。
「奈津美名医の二つ目の質問は、中村様へのものです」
中村浩は自分が次に質問されると予想し、ゆっくりと席から立ち上がった。
司会者は再びスマホの画面を確認し、内心の違和感を抑えながら、深く息を吸ってから中村浩を見上げた。
「中村様、奈津美名医からの質問は……『もし中村様がEDになった場合、たまたま好きな女性に出会ったら、告白しますか?』です」
中村浩の瞳が一瞬縮まり、体側に垂らした指が自然と握り締められた。
「まじか!」
柴田崇は目を丸くして、
驚きと疑いの入り混じった視線で中村浩を見た。
「中村さん、どうして奈津美名医は中村がEDになりかけたことを知ってるんだ?」
中村浩の驚きは柴田崇に劣らなかった。
実際は柴田崇の言うほど大げさな話ではないし、ED云々には多少の冗談も含まれていたが、彼はこの質問で、先日自分を救ってくれたあの少女のことを思い出した。
噂によれば、奈津美名医はとても若い。
さっき高橋奈津美も「奈津美名医は若くて美しい」と言っていた。
もしかすると――
あの時危険にさらされた自分を助けてくれた人物は、噂の奈津美名医だったのか?
もし治療してくれたのが奈津美名医なら、すべてが説明がつく。
周りに医療器具が何もない状況で、大腿部の弾丸を摘出できるほどの高度な医療技術を持っているのは、奈津美名医以外にはいないからだ。
中村浩がそう考え込んでいる間、司会者は返答がないのを見て注意を促した。
「中村様、回答時間は3秒です。これ以上お待ちできません」
中村浩は我に返り、心の動揺を抑えて淡々と答えた。
「私はEDになることなどありえない」
高橋奈津美は中村浩がそう答えることを予想していたかのように、軽く笑った。
すぐにうつむいて、正解を編集し始めた。
もちろんこの答えもでっち上げで、中村浩を通さないためのものだ。
横で柴田崇は、またもやスマホに没頭する高橋奈津美を見て、疑念を深めた。
「奈津美ちゃん?まだ女友達とメッセージしてるのか?」
ちょうど編集を終えた高橋奈津美は、不意の声に少し手を止めた。
視線の隅で、兄がスマホ画面を覗き込もうとしているのに気づくと、素早くスワイプして送信し、さりげなく画面をロックした。
「ええ、どうかした?」
柴田崇はますます不審に思った。
「ただの女友達とのおしゃべりなら、なんで画面を消すんだ?」
兄のしつこい追求に、高橋奈津美はこめかみが疼くのを感じた。
しかしすぐに、それらしい言い訳を思いついた。
「ん……だって、これは女の子同士の秘密の話だから……人には見せられないの」
そう言われれば、柴田崇も納得できた。
確かに女性同士には、他人には知られたくない秘密がたくさんあるものだ。
ついこの前、ネットで流行ったネタがあった。
親友同士で、もし一方が急死したら、死ぬ前にまずやることはチャット履歴を消すこと……
当時それを聞いた時、柴田崇は面白くもあり、滑稽でもあると思った。
しかし今、妹の様子を見ると、まさにその通りだと言える。
「そういうことか。じゃあ安心してメッセージを送りな。もうこっちは見ないから」
柴田崇は視線を逸らし、同時に心の疑念も薄らいでいった。
高橋奈津美はほっと胸を撫で下ろした。
二人が話している間、司会者は中村浩の回答結果を発表した。
「残念ながら中村様、ご答案は不合格です。お座りください」
中村浩はゆっくりと座り、俯いて思索に耽った。目には複雑な色が浮かんでいる。
回答が通らないのは、ある意味予想通りだった。
あんな奇妙な質問をしてきた時点で、奈津美名医は最初から彼を通す気などなかったのだろう。
しかし今、彼が最も気になっているのは、答案が通らなかったことではない。
あの日自分を救った少女が、本当に奈津美名医なのかどうか――
中村浩は以前から奈津美名医に強い興味を抱いていた。
この可能性に気づいた今、会いたいという思いは頂点に達した。
もし直接会ってこの質問をぶつけられればいいのだが、奈津美名医の行方は常に不確かで、風のように現れては消える。簡単に会える相手ではない。
そんなことを考えている時、中村浩はふと顔を上げ、高橋奈津美の視線とばったり合った。
二人の視線が交差すると、中村浩は細い目をさらに細め、その漆黒の深淵のような瞳は、底知れぬ闇のように、ちょっとでも油断すれば引き込まれ、強く囚われてしまいそうな危険な魅力を放っていた。




