第21話 燃え上がる嫉妬
もちろん、最も驚いたのは高橋奈津美のお兄さんの存在そのものではなく、あのようなチンピラ風の男が数千万円もする翡翠ブレスレットの競りに参加していることだった!
信じられない光景に、高橋七海は喉を鳴らしながら、確かめるように高橋玲子の方を見た。
「お母さん、聞こえた?」
高橋玲子は娘が何を指しているか理解し、軽く頷いた。
「ええ、聞こえたわ」
母親の冷静な反応に、高橋七海はさらに問いかけた。
「それじゃあ...高橋奈津美のお兄さんが数千万円のブレスレットを競ってることに、少しも驚かないの?」
高橋玲子の目に軽蔑の色が浮かんだ。
「驚くことなどないわ。考えてみなさい、あのような家柄で数千万円もの品を落札できるわけがないでしょう。ただの見栄っ張りよ。上流階級の真似をして、自分も通ぶっているだけ。すぐにでも、二、三回競ったふりをして止めるに決まっているわ」
高橋七海はよく考えてみると、確かにその通りだと思った。
そして高橋七海は高橋玲子を褒めちぎった。
「さすがお母さん!経験が豊富で、すぐに本質を見抜けるんだね。私なんか、表面だけ見てびっくりしちゃったよ」
高橋玲子は褒められて心地よくなり、高橋七海を慈しむような眼差しで見た。
「大丈夫よ、今わからなくても。これから私についてしっかり学びなさい。教えるべきことは全部教えてあげるから」
高橋七海は甘い笑みを浮かべた。「わかった、お母さん」
その頃、前方の席では――
高橋奈津美はお兄ちゃんがどんどん価格を吊り上げていくのを見て、頭を抱えていた。
「兄ちゃん、だから言ったでしょ。私はアクセサリーつけるの好きじゃないから、競りに参加しないでって」
さっき、兄から「展示台のあの氷種浮き花ブレスレット、どう思う?」と聞かれた時、彼女は「まあ、きれいだね」と軽く返事をしただけだった。すると兄は何も言わずに即座に競りに参加し、「このブレスレットを落として妹にプレゼントする」と言い出したのだった。
今までずっと止めようとしているが、兄ちゃんは聞く耳を持たず、このブレスレットを落札するまでは引かないという姿勢だった。
「このブレスレットは、色味も地も申し分ない。コレクションとしての価値も高いんだ。仮に身につけなくても、飾って眺めるだけでも十分楽しめるだろう?箱に入れて時々取り出して見るだけでも、目を楽しませてくれるさ。必ずしも着用するためだけに落札するわけじゃないんだから」
高橋奈津美:「……」
兄ちゃんの言い分には一理あり、反論の余地がなかった。
彼女が黙っているのを見て、柴田崇はさらに続けた。
「それに、お前が家に戻ってからまだまともなプレゼントも贈っていない。このブレスレットは、兄としての俺からの『おかえり』の贈り物だと思ってくれ」
高橋奈津美はまた首を横に振った。「でも、高すぎるよ」
自分自身でかなりの収入があるとはいえ、兄にそんな大金を使わせるのは忍びなかった。
「何を言ってるんだ」
柴田崇は高橋奈津美が気を遣っているのを感じ、肩を軽く叩いてなだめた。
「考えてみろ。お前が家にいなかった長い間、いくらお前のために使いたくても使えなかったんだ。やっと帰ってきてくれたんだから、ようやくお前にお金を使う機会が巡ってきたというわけさ。これを断られたら、兄として寂しいな」
ここまで言われては、高橋奈津美もそれ以上反対できなかった。
「わかった。でも、価格が高騰しすぎて本来の価値に見合わなくなったら、諦めるからね」
柴田崇は異議なく、にっこりと頷いた。
「ああ、心配するな。俺も分寸はわかっている」
二人が話している間に、ブレスレットの価格はすでに4千万円まで跳ね上がっていた
柴田崇は再び札を上げ、勢いよく値をつけた。
「五千万!」
その声には、山河を揺るがすような迫力があった。
これまで競りに参加していた名家の令嬢たちは顔を見合わせ、黙って札を下ろした。
司会者がタイミングを見計らって宣言する。
「五千万円、一度!
五千万円、二度!
五千万円、三度!
よし、柴田様がこのガラス種浮き花翡翠ブレスレットを落札されました! 拍手でお祝いしましょう!」
周囲からパラパラと拍手が起こったが、2秒ほどで止んだ。
別にショーでもないのだから、形式的な拍手で十分だ。
その間、スタッフがブレスレットを箱に収めて運んできた。
柴田崇は箱を受け取ると、中からブレスレットを取り出した。
「奈津美ちゃん、手を出してごらん」
高橋奈津美は一瞬きょとんとしたが、優しく断った。
「いいよ、兄ちゃん。一旦しまっておいて、帰ってから着けるから」
このオークションには大物ばかりが集まっているが、それにしても数千万円のブレスレットをその場で着けるのはあまりにも目立ちすぎる。
とはいえ、これほど完璧な極上翡翠ブレスレットは市場に滅多に出回らない珍品で、実際の価値は兄ちゃんが落札した五千万円をはるかに超えている。本当に競り合えば、1億~2億円まで値が跳ね上がってもおかしくない品だ。
先ほど競りに参加していた名家の令嬢たちも、明らかにこの品を気に入っていた様子だった。しかし兄ちゃんが三度目の値をつけた時、彼女たちは一斉に手を引いた。これは明らかに、柴田家の二公子である兄にわざと譲ったのだ。
こうした行動の背景には、柴田家との関係を重視する思惑がある。たかがブレスレット一つで柴田家の二公子に顔を立てられるなら、それに越したことはないからだ。
高橋奈津美はこの種の駆け引きに詳しいわけではない。しかし過去に数多くのオークションに参加した経験から、こうした事情は自然と理解できた。
そんなことを考えていると、突然手首にひんやりとした感触が。
思わず下を見ると、いつの間にか兄がブレスレットを彼女の手首にはめていた。
「兄ちゃん...」高橋奈津美の声にはあきれ半分のため息が混じっていた。
柴田崇はそんな妹の表情にはお構いなしに、満足げにブレスレットを眺めていた。
「最初に見た時から、これはお前にぴったりだと思ったんだ。やっぱり俺の目に狂いはなかったな。このブレスレットはお前のためにあるようなものだ」
高橋奈津美は目立ちすぎると思い、つけるのを躊躇っていたが、既にはめられたものを外すのもわざとらしい。結局、拒む言葉は飲み込み、こう言った。
「ありがとう、兄ちゃん」
この一幕は、後方の席に座る高橋家の三人組にも筒抜けだった。
三人は口をぽかんと開けたまま、信じられないという表情を浮かべていた。
どういうことだ?
彼らの知る限り、高橋奈津美の実家は貧しいはずでは?
なのに、どうして五千万円ものブレスレットを落札できるだけでなく、ためらいもせずあっさり高橋奈津美に与える余裕があるのか




