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第20話  彼女への腕輪

 「本当にそんなに美人なのか?」

柴田崇は半分本気、半分冗談めかした調子で笑いながら言った。

「じゃあ、俺が追いかけて、中村の義姉にしてみようか?」

自分を義姉に? なんてとんでもない話だ!

兄のとんでもない発言に雷に打たれたような高橋奈津美は、ますます口元が引きつった。

2秒間の無言の後、ようやく声を取り戻して言った。

「会える機会があれば、それから言ってよ!」

しかし柴田崇は妙に自信たっぷりだった。

「いつかは会えるさ、急がなくていい。会ったら追いかけるから」

高橋奈津美はもう返す言葉もなかった。

まあいい。

別に議論するほどのことでもない。

兄ちゃんが楽しければそれでいい。

傍らで、普段は冷徹な「冷面閻魔」と呼ばれる中村浩が珍しく茶化しに加わり、柴田崇にからかった。

「美男計を使うつもりか?奈津美名医をそっちのけで柴田家のものにしようってわけだな」

柴田崇は眉を上げた。「見抜かれたか?」

「その犠牲、並大抵じゃないな」

中村浩は唇を緩め、親友の前ではすっかりくつろいだ様子だった

「いやいや」

柴田崇は人差し指を振りながら、中村浩の言葉を訂正した。

「確かに家族の利益のために自分を犠牲にする面もあるけど、この僕だって相当なイケメンでモテモテなんだ。それに奈津美名医だって負けてないだろう?若くて美人で、しかもあの驚異的な医療技術。もし二人が結ばれたら、まさに天が用意した最高のカップルだ。奈津美名医のような優秀な女性にふさわしいのは、僕のような優秀な男性だけなんだからな」

高橋奈津美:「……」

さすがに、

崇兄ちゃんの妄想力は並大抵じゃないわ……

中村浩は軽く首を振り、何か言おうとしたが、時計に目をやると時間に気づき、柴田崇に促した。

「オークションが始まる時間だ。急ごう」

柴田崇はその言葉でようやく真面目な表情に戻り、

「そうだな!今日は絶対に奈津美名医の診療権を落札してみせる!

柴田崇はゆっくりとした足取りで兄ちゃんの後ろをついていった。

中村浩は最後尾を歩いていた。

ふと何かを思い出したように、彼は振り返って視線を向けた。

ついさっきまであそこにいた奥井翔の姿が、いつの間にか消えていた。

それを見て、中村浩の目がかすかに動いた。

何も感じさせずに視線を戻しながら、心の中で思った。

さすがは奈津美名医の側近だ。

本人と同じように姿が見え隠れし、捉えどころがない。

数分後、三人は前後してオークション会場に到着した。

席に着くやいなや、司会者がオークションの開始を宣言し、最初の出品物を披露した。

「ご覧の通り、本日最初の出品物はガラス種の浮き花入り翡翠ブレスレットです。ただいまより展示台を起動し、皆様に全方位からご覧いただけるようにいたします」

展示台がゆっくりと回転し始めると、そのガラス種浮き花翡翠ブレスレットの全貌が会場の視線を集めた。

照明の反射を受けて、翡翠の中に浮かぶ模様は様々な形を見せ――

まるで山水画のように調和の取れた風景を描き出し、格別の趣と縁起の良さを感じさせた。

1分後、展示が終了すると、司会者がタイミングよく口を開いた。

「こちらのガラス種浮き花翡翠ブレスレットの展示は以上です。まもなく競売を開始しますので、ご準備ください」

「3」

「2」

「1」

「競売開始!開始価格は1千万円!」

競売が始まると、早くも多くの名家の令嬢たちが競りに参加した。後方の席に座る高橋七海は、競売用の札を上げる令嬢たちを見つめ、展示台上の透き通るような翡翠ブレスレットを眺めて、羨望の眼差しを浮かべた。

高橋七海だけでなく、高橋玲子もこのブレスレットを見つめ、目を輝かせて強い興味を示していた。

「本当に美しいブレスレットね。人生で一度でもこんなものを身につけられたら、もう悔いはないわ」

高橋七海はそれを聞くと、慌てて母親の腕を抱きしめて孝行心を示した。

「お母さん、心配しないで。私に能力ができたら、必ず10個も20個も買ってあげるから。世界一幸せなお母さんにしてあげる」

実現可能性はほとんどない発言だったが、高橋玲子はそれを聞いて、目尻を下げて喜んだ。

「うちの七海は本当に親孝行ね。お母さんの自慢の娘よ」

高橋七海は微笑んだが、ふと自分がつけている翡翠のブレスレットに目が止まり、瞳がかすかに曇った。

このブレスレットは、両親が200万円をはたいて買ってくれたものだった。高橋家の経済状況は悪くないとはいえ、200万円も出すのは両親にとっては大変な出費だったに違いない。母親自身がつけているブレスレットはたった十数万円のものだ。これまでの空白を埋め合わせるためでなければ、こんな大金は出せなかっただろう。

当初このブレスレットを手にした時、彼女は有頂天になり、昔の友人たちに見せびらかして回りたいほどだった。自分がいかに裕福な家にいるかを誇示したかったのだ。

しかし今、展示台のガラス種浮き花翡翠ブレスレットを見て、初めて本当の極上品とは何かを知った。自分のブレスレットはそれなりに良い色だと思っていたが、展示台のものと比べると、その十分の一も及ばない。

高橋七海の思いは今、高橋玲子と全く同じだった

「こんなブレスレットを競り落として身につけられたら、人生に悔いなしね」

でも、叶わぬ夢だわ。

だってうちが200万円出すので精一杯なのに、展示台のあの極上品は開始価格で1000万円だもの…

実力がなければ、眺めるだけが関の山。

そう思うと、高橋七海は必死に寂しげな表情を抑え、気持ちを落ち着かせようとした。

その時、なぜか突然、高橋奈津美の姿が頭に浮かんだ。

高橋奈津美が高橋家から追い出された時の惨めな様子、そして貧しい実家のことを思い出すと、少しだけ気が楽になった。

あの紫金カードをどうやって手に入れたのかはわからないけど、

おそらく盗んだか、運良く拾ったんだろう。

でも、高橋奈津美の実家が貧乏で、お兄さんはチンピラだって事実は変わらない。

そんな家じゃ、200万円のブレスレットどころか、数万円のものだって買えないはず。

あんなケチな家庭が、高橋奈津美にアルバイトもさせず、ましてや数万円も出すなんてありえないわ。

そう考えると、高橋七海の心は一気に平衡を取り戻した。

腕の翡翠ブレスレットも、急に愛おしく思えてきた。

ちょうどその時、耳に覚えのある声が聞こえてきた

「2000万円」

この声は……

高橋奈津美のお兄さんの声?

つい先ほど聞いたばかりなので、高橋七海には強く耳に残っていた。

彼女は慌てて頭を上げ、首を伸ばして前方を見ようとした。

距離が遠く、はっきりとは見えないが、

必死に身を乗り出せば、高く結んだポニーテールが視界に入ってくる。

あんな変な格好でポニーテールにしている人物といえば、高橋奈津美のお兄さん以外に考えられなかった

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